本当に本当に
なんて遠い廻り道…………
フーケ編が終わってから、三年近い年月、放置してしまっていたゼロの奇妙な腹心。
新たな章を、これからまた投稿していきたいと思います。ココ・ジャンボ更新注意。
せめてアルビオンまでは書きたい……ッ!!
25話
「……もう朝になったのか」
窓からさしこむ日の光にあてられ、ドッピオは重い瞼をあげて目を覚ます。
藁でしかれた自分の寝床から背を離すと、ドッピオは立ち上がって部屋の隅に置かれたバケツを手に取って部屋を出た。
そのままドッピオは水洗い場にまで行くと、ルイズの衣服を洗濯し、水を汲んでまた部屋へと戻る。
自分の寝床のすぐ隣にある大きなベッドに目をやると、そこには自分の主である少女が心地よさそうに寝息をたてている。
気持ちよく寝ているのを見ると少し気が引くが、ドッピオは少女の肩に手を置くと強めに揺さぶった。
「おいルイズ。もう朝だ、起きなよッ」
大きな声でドッピオはルイズに呼びかける。
しかしルイズは『うぅ~ん……』と唸るだけで起きる気配がない。二、三度身体を揺さぶっても、どうにもダメなようだ。
「…………」
またあれをするしかないのか。
ドッピオは少し陰鬱な気持ちになって頭を抱えるが、ここは仕方がない。
早く起こしてやらないと、朝食に遅れてしまうのだから。
あとでまた説教と怒鳴り声をあげられることを覚悟して、ドッピオは小さく、
「キングクリムゾン」
ガバァッ!! と今までスヤスヤと寝入っていたルイズは弾けるように身体を起こして目を見開いた。
その瞳は恐怖で激しく揺れ動き、いったいどこから何がやってくるのかと目に見えぬ脅威に怯えきっていた。
そして少女は自分のすぐそばに立っていた使い魔を見て一言、
「私のそばに近寄るなァ―――――――――ッ!!」
……トリステイン魔法学院二年、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、起床。
こうしてドッピオとルイズの新しい朝がまた始まったのだった。
*
隣の部屋から聞こえてくる怒号と、何かをなぎ倒すようなやかましい物音。
それらが一気に耳に飛び込んできて、キュルケとタバサは目を覚ました。
「……またやってるのねぇ。よく飽きずに毎朝喧嘩できるものだわ」
「……迷惑」
髪を櫛でとかすために化粧台へと向かうキュルケ。まだ眠気が取れないのか、目元をこするタバサ。半ばあきれ気味に、二人はルイズとドッピオのいる部屋の方向を一瞥してつぶやいた。
ここ数日で隣の騒動に慣れてしまったキュルケとタバサは、もうそれらを特段気にすることなく今日の準備をしていた。今日は虚無の曜日。休みの日なのだから、いらない心配をするよりも、時間を有効活用するに限る。
ちょっと前なら文句の一つも言いにいっていたのだが、それを二、三度繰り返しても二人の朝のやりとりは、うるさい以外には特に何もない。物理的被害が外に及ぶこともないのなら、こちらが気にしないようにしてしまえばそれで終わりなのだ。
『サイレント』の魔法をかけてしまうということも考えたが、毎朝こんな騒動をするのだ。毎晩ずっと魔法をかけなければならないというのもどうもバカらしくてやめた。
それに朝の、どうせ一時だけの騒ぎなのだ。多少は我慢してもいいだろうと思ってこうして放置している。
「今となってはすっかり目覚まし代わりねぇ……これからも続くのかしら?」
「そろそろ、やめてほしい」
これからのことを思うと、思わず苦笑してしまう。願望を口にするタバサだが、おそらくこの騒音はしばらく続くことになるだろう。呟いた本人はうんざりとした表情を浮かべて、読み進めていた魔導書を開いた。
髪を整え終えると、キュルケは櫛を置いて化粧品に手を伸ばす。
(起きないルイズも悪いけど、あのときの起こし方はあたしもちょっとどうかと思ったわねぇ……自分にもしやられたらと思うとゾッとするわ)
以前ルイズの部屋から凄まじい破壊音とともに彼女の悲鳴が響いたときは、いったい何が起こったのかとキュルケも慌てて見に行ったものである。
そうしてみれば、そこにいたのはイラついた表情であの真紅の人の像を出現させたドッピオと、恐怖で目を見開き冷汗を流すルイズの姿。そして、見事なまでに粉砕されたベッドの残骸があった。
それを目にしたときはさすがにキュルケも仰天した。
聞けばその真紅の人間――ドッピオは『スタンド』などと呼んでいたが――は、フーケの作るゴーレムすら粉々にぶち壊すパワーを持っていたらしい。
そんなものを主人であるルイズに使ってしまうとは、よほどのことでもあったのかとキュルケは思ったが……理由が「こいつ起きねぇ」の一言で片づけられたときは茫然としたものである。
相変わらずいつどこでキレるのかわからない人だと、思い返してみてキュルケは嘆息した。
(あんな調子で大丈夫かしら? ルイズもダーリンも短気を起こして何かしなきゃいいけど……)
キュルケがそんな心配をする中でも、お隣の方々はそんな彼女の心遣いを無碍にするかのように騒々しい。
呆れた様にもう一度大きくため息を吐くと、キュルケは最後に口紅を塗って化粧を終わらせる。
身支度をすませ、必要なものと杖を持って立ち上がった。
「さて、と。痴話喧嘩してる二人を止めて、ちょっとダーリンを誘ってみようかしら……♪」
そうしてキュルケが自分の部屋から出ようとした、そのとき。
カタン、と。
「?」
何か小さなものが倒れたような音が、キュルケの背後から聞こえた。
何の物音か気になって振り返ってみると、化粧台近くの床に口紅が落ちているのを見つける。
「あら、倒れちゃったのかしら」
コロコロと自分の方へと転がってくる口紅を拾い上げ、キュルケはそれをまた化粧台の上に置きなおそうとした。
が、そこで彼女は少しおかしなことに気づく。
「……?」
化粧台の上を見てみると、手に持っている口紅がそこに置かれているのだ。
手に持っているものを確認してみると、銘柄から装飾まですべて同じである。
しかし彼女はこれを二本買った覚えはない。一本しかこの口紅は持っていないはずだ。
(前に使っていたものでも捨て忘れてたのかしら?)
そう考えたキュルケは、どちらが使っていたものだったかどうか確認するため、口紅のキャップを二つとも外してみる。
「……なによこれ……」
キュルケは驚きを隠すことができなかった。
別におかしなものなんて一つもない。どちらも同じ口紅で中身は同じ、奇妙なものが中に入っているということもなかった。
片方だけ見ていれば、キュルケはそう思っていただろう。
だが。
「……なんで、完全に同じなの……?」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・・・・・・・・
不気味なほどに、どちらも中身の形が一致していた。
二つともつい最近使われたような痕跡があり、削れている面の角度は完全に同じ。まるで鏡に映っているものを見ているかのようだ。
ここまで一緒だと、逆に恐怖すら感じる。
いったいこれはなんだ?
本当にここにあったものなのか?
「……タバサ。これ、なんだと思う?」
「……口紅?」
「そうなんだけど……おかしいのよ。ほら……」
そう言って、キュルケは二つの口紅をタバサに見せる。最初は首をかしげて二つを見比べていたタバサだったが……彼女も同じ違和感を感じたのだろう。眉をひそめて、先ほどよりも注意深く観察している。
「こんな使い方をいつもしてる?」
「してないわよ。そこまで変な趣向はあたしにはないし、こんな完璧にまねることなんてできないわ」
「……キャップも、見せてもらえる?」
「わかった」
タバサの要望を快諾し、キュルケは口紅のキャップを化粧台から取り上げた。
「……あら?」
すると、取り上げた片方のキャップに、奇妙なものが貼りついているのをキュルケは発見した。
「なにかしらこれ?」
見覚えのないシール。裏側に糊がついているのかしっかりとキャップに張り付いているそれは、赤いキスマークが描かれている。
こんなものがこの口紅にあった覚えなどもちろんキュルケにはない。いったい誰がつけたものなのだろうか?
「……タバサ。これ、何かわかる?」
そう言って、キュルケはシールの貼り付けられたキャップをタバサに見せた。
見覚えのない代物。それでいて、全くそっくりと言っていいこの二点において唯一違うもの。特に魔力のようなものは感じられないが、それがどうにもひっかかる。何かしらのマジックアイテムなのかもしれない。
自分には何も心当たりがないため、博識なタバサならば知っているかとも思ったが……彼女も思い当たるものがないのか、ゆっくりと首を横に振った。
「……これ、見たことある?」
「あったら聞いてないわよ。でも……何か気味が悪いわねぇ……」
誰かのイタズラか。しかし、こんなことが出来るのは、同室のタバサぐらい。しかし彼女はこんなことをするタイプではないし、こんなシールを使うとも思えない。このデザインは彼女の好みとは違う……どちらかと言うと、キュルケ寄りだ。
しかしそうはいっても、気持ち悪いのには変わらない。魔力もないし、マジックアイテムとは違うのだろうと思い、キュルケはそれを剥がすことに決めた。
「んー……しっかりとくっついてるわね……よっ、と」
ペリッ、とキュルケが張り付いたシールを取ったその瞬間だった。
ヒュンッ! とシールのついていた口紅はもう片方の口紅に吸い込まれた。
「え」
キュルケが驚愕の声をあげる暇もなく、次の変化が起こる。
バキッ!! と二つのものが同化した口紅はへし折れ、彼女の手の中で破片が飛び散った。
「いたっ!?」
欠片によって指が切られ、思わず悲鳴をあげるキュルケ。
幸い傷は浅く小さかったが、しかし微小な肉体的損傷の裏腹にその事象が彼女の精神に与えた影響は大きい。
「な、なに!? なんなの一体!? どうしてシールを剥がしたら、こんな……!?」
タバサも驚愕し、その目を大きく見開いている。目の前で起こったのは、魔法のような現象。しかし、キュルケもタバサも、見たことも聞いたこともないような、『異常事態』だった。
どうしてこんなことになったのか、なぜ自分がこんな目にあっているのかわからず憤慨し、一方で未知の現象に恐怖するキュルケ。
わけがわからない、と憤慨して叫びかけたその時。ガタッ、と音を立ててタバサが立ち上がった。
「キュ、ルケ……その手……なに?」
「へ?」
見れば、タバサの顔は血の気がなくなったように真っ青になっている。キュルケの右手を示すタバサだが、指さしているその手は心なしか震えていた。
何事かと、キュルケは右手に視線を移す。
そして――思わず、その手を凝視してしまった。
「……は?」
――ここで言っておくが、彼女の右手は、生まれてから今まで、何の変哲もない右手だった。
言い寄る男たちは、綺麗な手だと褒めてすらくれ。両親からも、彫刻のように美しいと称えられていた。
昨日だって、そうだ。手入れをしている時だって、普通だったはずだ。何も変わらない手だったはずだ。
だが。それは間違いなく『そう』なっていた。
恐る恐る、と。こみ上げてくる恐怖を必死に抑えて、彼女は〝指の本数〟を数え始めた。
「……いち……に……さん……しー……ごー……」
そんなわけない。そんなこと、あるはずがない。
こんな、こんなことが起こるはずがない。ありえない。何かの冗談だ。
どうして……どうして……?
「…………ろ……く…………し、ち……………は……ち…………?」
どうして。
「――――――――――ッ!!??」
ゾクリ、と。背筋が泡立つような、おぞましい感覚が走った。
彼女の手は、まごう事なき奇形となっていた。本来の五本指から、その指と指の間からもう五本の指が生えてきている……しかもその隣り合う指は、長さ、形、爪の状態、しわに至るまで全てが同じ。
一本一本が美しい。手入れがきちんとされた、綺麗な形なのに。それは見るものに、恐怖を与える。
そして。それらの指の根元にあったのは。
――キスマークが付けられた、シール――
「ひっ――!!」
気持ち悪い。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
吐き気がこみ上げてきたが、なんとかそれを必死に堪えるキュルケ。それだけに精一杯になって、事態に理解が追い付かなかった。
なんだ、この状況は。なんだ、この手は。
このシールは何だ。どこからやってきた。なぜこんなにも、たくさん貼りついている?
なぜ、どうして、誰が、いったい何のために。
「タ、バサ……!!」
じわり、とキュルケの目に涙が溜まる。縋りつくような思いで、彼女は親友の名を呼んだ。
その親友の顔は、元々雪のようだった肌が一層白くなっていた。顔や、その手は血の気がなくなったように蒼白になり、全身から汗が吹き出ている。
やがて足から力が抜けたのか。ふら、と小さなその身体が揺れて……尻もちをつく。
――パシャッ。
「……?」
唐突に、水音が響いた。
首をかしげるキュルケだったが、その場に倒れたタバサは、不愉快そうに顔をしかめた。見れば、彼女がへたり込んだその場所に、水たまりが出来ている。じわじわと水が彼女の衣服に浸透し始め、濡れた服特有の貼り付く感触がして気持ち悪かった。
しかし、奇妙だった。ここには零すような水もないし、昨日の夜も今日も、天気は晴れている。雨はしばらく降っていないし、ここに水が溜まるようなことはなかったはず。
おかしい、と二人が感じるよりも早く……さらなる『異常』が、起こった。
――サァァァァァァァ……と。
「「!!??」」
髪。顔。腕、足、手、胸、背。
服の上、肌の上に、細かな水滴がポツポツと落ちてくる。勢いの弱かったそれは、みるみるうちに強まっていき……やがて、豪雨と呼べるほどのものにまで達した。
考えるまでもなく、おかしかった。
ここは、屋内。しかも、窓は締め切っている。それ以前に、外は雨など降っていない。
ハッとして二人が上を見上げると……そこには、この小雨を降らせているのであろう、雨雲が浮遊していた。
黒く厚く、中で雷が発生しているのか、バチバチと大きな音を立てて……それは、そこに浮いていた。
「……なんなの。なんなのよ! いったい何が起きてるの!? こんな、こんなの……!!」
落ち着く暇もなく、立て続けに彼女らに起きる異常現象。
魔法などという言葉でももはや説明できない。現実から、日常からあまりにかけ離れた事態に堪らず、キュルケは叫んだ。
その声も、室内で発生している大雨……そして心なしか吹きすさんでいる風によって、かき消されることとなったが。
「あーもう、この雨のせいで化粧も無茶苦茶よ! いったい誰の仕業よこれ!! もういいわ、とにかく外に出ましょうタバサ!! …………ねぇタバサ、聞いてるの!?」
上下隈なくびしょ濡れになったキュルケは腹立たし気に床を踏みつけ、悲鳴のような大声をあげる。普段の彼女からは考えられないような荒々しい振る舞いだが、それだけ精神が追い詰められている証拠だろう。タバサにこの部屋を出るよう呼びかけるキュルケだったが……声をかけたルームメイトが全く反応を返さない。
苛立ちを隠さず、振り返るキュルケ。そこには、あんぐりと口を開けて、呆然と立ち尽くタバサの姿があった。
「ちょっとタバサ! こんなところにいられないわよ、あなたも本を持って出なさいな! お気に入りの本がビショビショになっても知らないわ……よ……?」
「……! …………!!」
再度呼びかけるキュルケだったが、タバサは彼女の言葉に応える様子がない。その目は恐ろしい何かを見ているかのように釘付けになり、震える手で――キュルケの背後を指さしている。
何か言葉を発しようとしているようだが、その口はただパクパクと開閉を繰り返すのみ。
しかし、キュルケはそれどころではなかった。動揺し、震える友人の様子にも驚いたものの、キュルケの目に留まったのは……そんなものではなかった。
「……タバサ……あんたの、後ろにいるの……だれ?」
か細い、不安に揺れる声で、キュルケはタバサに問う。
その問いかけを耳にしたタバサはギョッとして動きを止める。お互いの背後を指さし、呆然とする二人。
しばらくその状態が続いたが……やがて二人は、示し合わせたかのように、同時に背後へ振り返った。
そして。彼女らは、見つけた。
「……え?」
「……ッ!!」
そこにあったのは、人影。それは地に足をつけることなく、キュルケとタバサのすぐ傍を〝浮遊〟している……二つの人影があった。
豪雨と、雲が作る暗がりのせいで最初はハッキリと見えなかったが……徐々に目が慣れて、輪郭しかわからなかった『それ』の姿かたちが、認識できるようになっていく。
『それ』は、人のような四肢を持っていた。だがその全体像は、奇抜としか表現できないようなデザインが施されている。
キュルケのそばに立っていたそれを見てまず目を奪われるのは、その頭部に生えている――球体が先端についた、細長い棒状の――髪? のような何か。その顔は面が張り付いているかのような、『生き物らしさ』を感じさせない、無機質なものだった。
続いて視線が移るのは、その無数のキスマーク。口紅やキュルケの手に今も貼り付いているそれと同じキスマークが、腕に、首元に、胸元に、描かれている。
頭部や、肩部、手腕は輝く金、他の足や胸、腹部などには紫の色彩。
一方のタバサのそばにいたのは、透き通るような水色の肌をした、赤い双眼の――人らしき、何か。
それはまるで雲のように、霧のようにふわふわとしていて、風が吹けば消えてしまうような儚さを覚える。だが、それでいてありとあらゆるものを叩き潰し、吹き飛ばす嵐を彷彿とさせる、力強さもそこにあった。
突如として少女たちの部屋に現れた、異形の人影。
それを目撃したキュルケは絶叫し、タバサは静かに意識を失った。
*
「ホントにあんたやめなさいよ! 怖かったんだから!」
「いや、だったらその前で起きてくれよォ~ッ、こっちは時間までにきちんとおまえを起こして食堂に連れて行かなきゃならないんだからよッ」
「だからってあんたの『それ』でベッドをぶち壊すことはないでしょ!? 最初やられたときはベッドが爆発したかと思ったわ! それに私の顔すれすれのところだったし!」
「大丈夫だって。スレスレ目がけて殴ったんだから」
「なにが良いっていうのよこのバカ犬!」
「あ、ちょっ、待って! 暴れるなって、暴れたら上手く着せられねぇよッ! それに今日は何もしなかったじゃねーかッ、別に怒ることないだろッ!!」
「うるさいうるさい、あんたなんかこうしてやるわ!」
怒声を張り上げ、ルイズは机の上から馬の鞭を手に取るとドッピオの頭に叩き付けようとした。
しかしその未来をすでに予知していたドッピオはキングクリムゾンの手で見事にそれを白刃取りで受け止め、防御することに成功する。
本気を出せば人体などバターのように手刀で切断できてしまうキングクリムゾンだ。その真紅の手に掴みとられた馬の鞭はルイズがどんなに力をこめてもビクとも動きはしない。
「ふぬっ! ふぬ―――――っ! なによバカ犬! さっさとそいつに命令してその手を放させなさい!」
「放させたらおめー絶対俺を叩くだろうがッ!」
「当たり前でしょ! 大人しく頭を垂れて許しを乞いなさい、この犬ッ!!」
「誰がそんなことやるかよこのバカッ!!」
この喧嘩も毎朝の恒例となってしまった。
なぜルイズがここまで激怒することになったのかといえば、まぁ言ってしまえばドッピオのせいなのである。
フーケの一件から、数日が経って。再び元の平和な学園生活に戻ったドッピオ達は以前と同じ生活を行うこととなった。
ドッピオもルイズの使い魔としてのやるべきことを着実に覚えていったのだが、問題はルイズの寝起きの悪さだった。
どうにも彼女はこちらが起こそうとしても起きてくれない。時間通りに起きなければ朝食に間に合わず、そうなってしまえば朝はもう何も口にすることができないのだ。
それはドッピオも同じこと。普段ならば『起こしてもらっているのに起きないのは自分の責任だ』と放置することもできるのだが、自分までとばっちりを喰らってしまうのはたまらない。
そういうわけで、是が非でもこちらとしてはルイズに起きてもらいたく行動したのだが……いかんせんその手段が悪かった。ムカついたせいもあるが、それでも悪かった。
なにせ、キングクリムゾンでルイズの顔面すぐ横をぶん殴るという暴挙に出てしまったのだから。
効果はてきめん。すぐにルイズは目を覚ましただけでなく、精神的恐怖からこうして名をつぶやくだけでも起きてくれるようになったのである。
が、それと同時にすぐ怒る。そりゃそうだろう、一歩間違えれば生命の危機だ。
いくらキングクリムゾンが精密性に優れているからといってもルイズは聞かず、毎回こうして口論の後にお仕置き、という流れになってしまう。
……短気は損気、とはよく言ったものだとドッピオは内心で頷いた。
「こんの――――――! ちょっとは動きなさいよー!」
「無理だって、キングクリムゾンが掴んでるんだ、どうしようもないってば」
「うるっさいわね! そんなのやってみないとわかんないわよッ! 動けこのっこのっこのこの――――ッ!」
スタンドの中でもパワーにおいて他の追随を許さないキングクリムゾンと真正面から戦ったところで、人間の、それも少女が勝てるわけがないのに……
とはいえこういうことは、まだスタンドのことをよくわかっていない人間には説明してもなかなか理解してもらえないことだが。
ハァーッ、と大きくため息を吐くドッピオ。
毎度毎度こんなことが朝起こっては、どれだけ眠っていても疲れがたまるというものだ。
そうした毎日のやりとりに自分のことながら他人事のように呆れていたドッピオだったが……ふと、彼の耳に、おかしな音が聞こえてきた。
「あれ……雨降ってる?」
「ハァ? 何言ってんの?」
ザァァァァァァァァァ……と、雨音のようなものが、どこからか聞こえてきているのをドッピオは聞いた。
そのつぶやきに、ルイズは戸惑いの声を上げる。外を見れば、空は雲一つない青空が広がっている。狐の嫁入り……ということもあるが、雨が降っている様子はない。
おかしなことを言う使い魔だと一笑するルイズだったが……彼女の耳にも同様の音が聞こえてきたために、思わず眉をひそめた。
「何かしらこの音? 確かに雨音みたいだけど……おかしいわね。どこかで誰かが水の魔法でも使ってるのかしら?」
「やけに激しいなァ。しかもこれ、外じゃなくて……隣の部屋からしてない?」
「ホントね。ってことはキュルケとタバサ? あいつら朝から一体何やってるのよ……」
音の発生源を確認し、呆れたように溜息を吐くルイズ。しかし、ドッピオはまだ納得がいかないような表情を浮かべて、隣室の方向を見つめている。
「キュルケって確か火の魔法が得意なんだろ? それなのに、水?」
「ボヤ騒ぎでも起こしたのかしらね? それにしても、なんだかやりすぎな気もするし……確か、あいつのルームメイトって、タバサ……だったっけ? あの娘の得意魔法って、この前フーケと戦った様子からして、水系統だけど……」
さっきまで喧嘩していたことも忘れて、うーむと唸るルイズとドッピオ。
何が起きているのかはわからないが、朝っぱらからこんな音を立てられては迷惑だし(自分たちが騒いでいる事実は棚上げ)……何より……なんというか、気になるものだ。
「……行ってみる? 何か、気になるし……」
「……ちょっと、見てみましょうか」
そう言って、隣室へと訪問することを決めた、その時。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
布を切り裂くような、黄色い悲鳴が、隣室から響いた。
耳をつんざくような、甲高いこの声に、ルイズとドッピオは聞き覚えがあった。
「この声……キュルケ!?」
「ルイズッ!!」
戸惑うルイズ。ドッピオは主人に呼びかけると、キングクリムゾンを繰り出す。エピタフによる未来予知を駆使し、周囲の安全を確認すると、ドッピオは勢いよく部屋から飛び出た。
辺りを見てみると、キュルケの悲鳴を聞きつけたのか、すでに数名の生徒が戸惑い気味に二人の部屋を眺めている。
扉の前に立ち、再び未来予知によって部屋の中を見るドッピオ。エピタフによって見たその光景には、彼を驚愕させるのに十分なものがあった。
(雨!!?? 屋内なのに……それに、キュルケとタバサのそばに立ってるこれは……ッ!!)
彼女らのそばに立つ、二つの人影。それに、ドッピオは見覚えがあった。
何を隠そう。それは、彼の持つ『キングクリムゾン』と同じ存在なのだから。
「ドッピオ、どうしたの!? 早く中に入らないと――」
「ルイズ、悪い。ちょっとここで待ってろ。中には俺だけ入る。誰もここに入れるな、いいなッ!」
口早にドッピオが宣告したその瞬間。眼前から突然、ドッピオの姿が消えた。何が起きたのかと驚愕するルイズだったが、すぐに時間が〝消し飛んだ〟のだと理解し、慌てて自分も中に入ろうとする。
が、鍵を閉められたのか、ドアは開かない。
「ちょ、ちょっとドッピオ! 開けなさいよ、何がいったいどうなってるのよ!?」
ドンドン、と扉を叩くルイズだったが、向こうから返事はない。
そして足元を見れば、そこにはまるで豪雨でも降ったかのような水たまりがあった。
明らかな異常事態に、ますます危機感を募らせるルイズ。だが、現状で彼女に出来ることは何もない。
アンロックの魔法を使おうかとも思ったが、そんなものをしようものなら、扉が木っ端みじんに爆破されることとなるだろう。下手をすれば、そこにいるタバサやキュルケ、ドッピオを無暗に傷つける結果となってしまう。
「……何なのよ……もう……!」
何もできない自分が腹立たしく、歯噛みするルイズ。今彼女に出来るのは、自分の使い魔がキュルケとタバサを無事に救うことが出来るよう、祈ることだけだった。
拙作の続きを、首を長くしてお待ちくださった皆様……はいらっしゃるのでしょうか?
もうこんな作品、覚えてねーよ!! というかたの方が多いと思います。
感想欄にて、続きを切望してくださった方々。まだ待ってくださっているでしょうか?
もしお待ちいただけていたならば……ありがとう。それしか言葉が見つからない。
さて、キュルケとタバサに発現したスタンドですが……もうここまで書いたらわかりますよね。
キュルケのスタンドはジョジョ六部、エルメェスのスタンド『キッス』。
タバサのスタンドは同じく六部、ウェザーリポートのスタンド『ウェザーリポート』です。
残すはギーシュ、フーケ。彼らのスタンドはいったいなんでしょう?
なお、拙作ではオリジナルスタンドは出さない方針で、原作のスタンドを出したいなと思います。
『同じスタンドは出ないんじゃ……?』と疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますが……どうかそこだけ目をつぶっていただきたい(>_<)
……まぁ、何と申しますか……今後出る登場人物の誰がスタンド使いで、どんな能力を駆使するのか……予想などして、楽しんでいただければ(汗)