ゼロの奇妙な腹心   作:Neverleave

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ここが今までのうちで一番頑張ったとこだと思う。
ここで感動したら僕のこと褒めて褒めて(´・ω・)


7話

「ふぅ……だいたいこんなもんかな」

 ドッピオは一息入れながら、壊れた教室を見渡した。

 ルイズが錬金に失敗して教室が崩壊し、教師のシュヴルーズも気絶したことから、授業は中止となった。

 そのままルイズには、魔法を使わず教室を片づけることが言い渡され、ドッピオも今までそれを手伝っていたのだ。

 掃除もだいたい終わり、ドッピオはルイズに話しかける。

「終わったよ、ルイズ。行こう」

 だが、ルイズの方は俯いたままで、ドッピオの呼びかけに対して何も反応を示さなかった。あの失敗から、ずっとルイズはこんな感じだ。

(やれやれ……どうしたもんかなァ)

 どうすればいいか、ドッピオはわからない。

 失敗についてはとりあえず触れないでいるが、たぶん本人はだいぶ落ち込んでいるのだろう。

 そっとした方がいいか……と、そんなことをドッピオが考えたとき。

「……なによ……」

 不意に、ルイズがぽつりと声を出した。

 

「……なんであんた、私のこと何も言わないのよ……」

「……」

 少女の問いかけに対して、ドッピオは黙ったままだった。

 ルイズはそんなことも構わず、言葉を続ける。

「あんたもわかったでしょ? 私の二つ名……『ゼロ』のこと。そうよ、私はみんなが使えて当然の魔法すら使えないの。生まれた時から、いくら魔法を使っても必ず失敗して、爆発ばかり起こったわ」

 まるで地獄の底から響くような、冷たい言葉だった。

 クスリ、と。ルイズは冷笑する。

「いつもいつも……みんな失敗する私を見て、笑ったり、馬鹿にする。やーい、魔法の使えない『ゼロ』のルイズ、って……」

 ドッピオは、それを黙って聞き続けていた。

 何も言葉を挟むことなく、ただただ耳を傾ける。

「あんたもどうせ、あいつらと同じでしょ?」

 不意に、そんなことをルイズはドッピオに聞いてきた。

「あんたもどうせ……心の中では私のことを馬鹿にしてるんでしょ? 今まで散々偉そうにしてきたくせに、魔法が使えない主人なんて……お笑い草もいいとこだわ」

 ルイズの声が、震える。

 それとともにルイズ自身もガタガタと体を揺らしていた。キュルケのときのように、しかしあのときとは違う、もっと絶望的な理由で。

 

 そして、少しの間をおいて。それは、爆発した。

「そうでしょ!! どうせそうよ、あんたもあいつらと同じ、魔法が使えない私をあざけって、罵るに決まってるわよ!! 無能なご主人なんかに召喚されて、そいつにはこき使われて、笑わない奴なんかいやしないわ!!」

 心の中から、すべてを呪うように、少女は叫んだ。

 それは、まるでこの壊れた教室のように荒んでいて。見ているととても哀れで……悲しかった。

「どうせ――どうせあたしなんか――」

 

「ねぇ」

 と。

 今まで沈黙を貫いてきたドッピオは、重い口を開いた。

 ルイズは途中で言葉を止め、ドッピオはそのまま言葉を続ける。

 

 

「なんで、君の手って、うっすらと火傷の痕みたいなのがあるの?」

 

 

「……………………は?」

 

 

 ルイズは、思わず淑女らしからぬ間抜けな声をあげる。

 いきなり、自分の使い魔がこんなことを言ってくるとは、彼女も予想していなかったからだ。

「この世界では、魔法で治療してるんだよね……たぶん、水属性の魔法かな? きっとすごいんだろうね、治せない傷なんてほとんどないんじゃない? 『痕も残らない』くらいに、さぁ」

「……だから?」

 と、ルイズはドッピオに聞き返す。するとドッピオはルイズに歩み寄り、目の前で止まった。

 そして。

 ルイズの手を、突然掴み上げた。

「ッ!?」

 いきなりだった。反応すらできず、ルイズは慌てふためいてドッピオの顔を見る。

 その目には、激昂の光が宿っていた。

「なのにさぁ……なんで『痕がある』の?」

 それはルイズに向けられたものではない。もっと別のものに対する、激しい怒りだった。

 

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … …

 

「何度も何度も……ひどい怪我をするくらい……繰り返したんだろ……?」

 不意に、ルイズの腕を握る、ドッピオの手に力がこもる。

 今度は、ルイズがドッピオの話を聞く番だった。

「失敗しても……いつか成功すると信じて……手がボロボロになるくらい繰り返したんだろ……え? ルイズ」

「わ……私、は……」

 ドッピオの眼光を堪えられず、ルイズは目を逸らす。

 だが、ドッピオはルイズの顎を掴むと顔をこちらに向けさせた。

「こっち見ろよルイズ」

 鳶色の目が、使い魔によってじっと見つめられた。

「――ぁ――」

 はたから見れば、ドッピオがルイズを口説いているようだ。そう考えるとルイズは恥ずかしくなった。

 そんなことも構わず、続いてドッピオの目はルイズの手を見やる。

 そこにあったのは、注意深く見なければ見えないほどうっすらとした、あざがあった。

 完全に、文字通り跡形もなく傷を治せるはずなのに、どうして?

 答えは決まっていた。

 何度も何度も、想像すらできぬほど酷い傷を、負ったからだ。

 

「努力したんだろ」

 

 ドッピオは小さく、しかし確信をもってつぶやいた。

「負けじとがんばって、成功させることを……それがいつになるか、わかりもしないのに……ずっと目指してたんだろ? え?」

 ドッピオの口調は、とても優しかった。

 まるで娘を労わる父親のようなそれは、ルイズの胸をきつく締め付けた。

「なのにどうして馬鹿にできるってゆ~んだよッ、何もしねぇで泣き言ほざくマンモーニ(ママっ子)ならともかくよォ~~。オメーは座学だってトップらしいじゃねーか」

 こつん、と。

ドッピオはデコをルイズのデコに当てた。

ルイズの目に、涙がたまっていった。

「で、でも……わ、私……ずっ、と……成功、しな、くて……どれだけ、がんばっ、ても……だって……だって……」

 もはやルイズの声は、涙声になって震えて、とぎれとぎれになっている。

 カタカタと、ルイズの体も震えて止まらなかった。

 

「人の成長は、未熟な過去に打ち勝つことだ」

 

 ドッピオは、そう強く言ってのけた。

「俺の尊敬する人が言っていたことだ。人には誰だって、『未熟』だったときの『過去』がある。オメーなら『魔法が使えない過去』、『それを乗り越えるために努力した過去』だ」

 ゆっくりと。言い聞かせるようにドッピオは言葉を続けた。

「オメーはきっと、他の人と違う方法で努力しなきゃいけねーのに、その方法を知らないってだけだ。『過去』からそれを学ばなきゃいけねー。そして成長するんだ。いつか」

 

「…………せ、成、長?」

 初めてそんな言葉を聞くように、ルイズは聞き返す。

「そーだよッ、方法を知らなきゃいけねー。でもオメーはそれよりもずっと大切なもんを持ってる。すべての人が持つべき、すっげー意味のあるものだ」

「……なに、それ……そんなの、私……」

 再び俯くルイズを、またドッピオは無理やりに顔を持ち上げた。

 

「『成長』するために、努力っつー過程を歩もうとする『意志』だ」

 

 ドクン、と。

 ルイズの心臓が、跳ね上がった。

「人は『結果』だけを求めれば、近道をしたがるんだ。そんなもんを通れば、真実を見失うかもしれない。やる気も次第に失せていく。大事なのは『真実へ向かおうとする意志』だ。それさえあればいつかたどり着くんだよ。そこに向かってるんだからな」

 

 ルイズは、口元を掴まれていない方の手でおさえた。

 おさえずには、いられなかった。

 震えが大きくなる。

 目元がとても熱くなって……心が、大きく動いた。

「オメーはすげえヤツだ。だから自信をもっていいんだよォ~~。使い魔になっちまったんならしょうがねーッ、俺もオメーのために一緒に探してやるから、な? もう自分を卑下すんな」

 それだけ言って、ドッピオは手を離す。

 ルイズは、使い魔の目を見た。

 そこには、嘘の濁りが全くない光があった。

 彼の語る全ては……真実だった。

 

「う、うぅ……」

 視界が、霞んだ。

 声が、おさえられなかった。

 胸がとても苦しくなって、息がうまくできない。

 

 私が、すごい?

 私でも、自信をもっていい?

 私が……成長できる?

 

 今までそんな言葉を、ルイズはかけられたことがなかった。

 何度も何度も失敗しては。皆、ルイズの失敗という『結果』だけを見る。

 こっそりと隠れて、何度も練習したのに、誰もそんなことは見てくれない。

 やってくるのは、罵倒だけ。

 それが、この世界の残酷な真実だと思っていた。

 なのに目の前の使い魔は……あまり自分と年が離れていないであろう、青年は。平民は。

 自分の努力を。見てくれた。

 そして……自分を、認めてくれた。力強い言葉で。声で。

 認めず嘲笑する他のすべてに、怒ってくれた。

「あ……あぁ、ふぁ……あ……」

 声がうまくでない。

 どうしてだろう。こんなにも嬉しいのに。

 未だかつてないくらいに。嬉しいのに。

 感謝の言葉の一つくらい、言ってやりたい。

 ぼやけた視界の中で、ルイズは使い魔を見て。

 ルイズは、口を動かして……そして……

 

「う、わぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ――――――――ん!!」

 

 ――ダメだった。

 出てくるのは泣き声だけで。とても『ありがとう』だなんて。言えやしない。

 目からは涙がいっぱい出ている。きっとグジュグジュな、みっともない顔になってるんだろうなぁ。

 隠したいけど、そんなこともできない。泣くことしか、もうできない。

 

「……………………………………………………」

 ルイズの使い魔は、もう何も言わない。

 主人が泣いても、慰めの言葉も、制止しようとするのも、何もしようとしない。

 ――まるで、好きなだけルイズが泣けるように、見守っているようだった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――ん!! うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」

 

 壊れた教室の中で。

 ルイズは自分を認めてくれる人と出会ったことに歓喜して……泣いた。

 

 ルイズは、ドッピオとの間に確かな友情ができたことを、感じた。

 これは、自分にとって忘れられない日になるんだろう――ルイズは、そんな予感がした。

 落ちてきそうな空の日の、もうすぐ昼食の時間になるときのことだった。

 




次にオメーは……『ドッピオッ! オメーいつからそんな兄貴キャラになったッ!』と言うッ!!
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