ウチの娘は仮面ライダー   作:ぽかんむ

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特別話 不死身の細菌

 事件から二年の月日が流れる。被害に遭った街の復興も終わり、徐々に忘れ去られていった。

 しかし仮面ライダーの存在は、都市伝説として残る。英雄説や陰謀説やUMA説などが、今なおまことしやかに囁かれていた。

 あのあとアカリとマナは、必死に勉学へ励み二人とも三多鋤高校に進学していた。その後も問題なく進級して三年生になり、日々を生きている。

 入学してから、二人が同じクラスになったことはない。部活は違い、登校時間も異なるため、学校内で話すことはほとんどなくなっていた。

 

 

「おはようございます!」

 

 

 アカリは毎朝、いの一番で朝練に向かう。

 顧問の先生と挨拶を交わし、部室の鍵を預かる。これが彼女の習慣だ。

  アカリがテニス部を選んだのは、軽い気持ちからだった。なんとなく楽しそう。それだけだ。

 そして鬼のような練習量に、何度も打ちのめされた。同期との実力も引き離され、才能なしとの評価を周りから突きつけられた。

 三多鋤高校テニス部は、県大会常連校である。しかしそこまで。毎年、一回戦か二回戦で敗退している。

 昨年、先輩が敗れるところを見て彼女は、来年こそは全国大会に出場したいと、強く願った。彼女は練習を重ね、どんどん実力をつけていき、ついにはエースにまで上り詰めた。

 才能なしとの烙印を押された、あの頃の彼女はもういない。

 部室に入るとまず彼女は、テニスウェアに着替えた。他の部員が来る前に、テニスコートの準備を済ます。ぼちぼちと他の部員もやって来た。

 朝練はまず、ランニングから始まる。校舎を十周するのだ。五月とはいえまだ、外はうすら寒い。だけど走り終わる頃には、全身から汗が吹き出していた。

 それが終わると次は準備体操。それから、ラケットを使う練習に切り替える。

 いつもこのくらいで、時間が訪れる。彼女たちは部室に戻り、制服に着替えた。

 部室の鍵は、一年生が交代で返しに行く。鍵当番を遅刻させるわけにはいかない。そのため、彼女たちは足早に、部室を飛び出した。

 教室に戻る途中、アカリが話しかけられる。それは親友のサクラコだった。

 一年生の時から同じクラスで、休日もよく遊ぶ。実力ではアカリに劣るが、彼女はサクラコのことを、とても大事にしていた。

 

 

「アカリ、話があるから、放課後いい?」

 

「教室に帰ったあとじゃダメなの?」

 

「ダメ。わかった?」

 

「うん」

 

 

 チャイムが鳴り始める。二人は急いで、二階に駆け上がる。そして、教室に突っ込んだ。

 先生はもう、前に立っている。まもなく、チャイムが鳴り終わった。

 二人はドアの前で、手を膝に添えて荒く、呼吸を整える。

 

 

「チャイムが鳴り終わる前に着席していないと遅刻だ」

 

「そんな!」

 

「だけどまあ、お前らの事情は俺も知ってる。次は気をつけろよ」

 

 

 このやり取りは何回目だろうか。二人は頭の中で、そう思った。彼女等が席につく。

 アカリの席は、窓際の前から三番目で、サクラコはその一つ前だ。それを見届けたあと、先生が話し始めた。

 

 

「これから抜き打ちで持ち物検査始めるぞ!」

 

「そんな!」

 

 

 アカリの声に反応して、サクラコが振り向いた。

 

 

「なにかまずいものでも持ってきたの?」

 

「えっ……あっうん。なんというか漫画をね……」

 

 

 アカリはスクールバッグから、黒い袋を取り出した。

 先生は、アカリから見て一番右前の生徒に、詰め寄る。その隙を見計らい、窓に袋を放り投げた。

 袋は木々を抜け、テニスコート横の草むらに落ちる。落下音などは一切、鳴らなかった。

 

 

「あの中に入ってたの?」

 

「まあね」

 

「あとで読ませてね」

 

「うーん……えっ……エロいけど大丈夫?」

 

「バカ!」

 

「苦手か」

 

「次からは朝一番に読ませなさい!」

 

 

 クラスメートがお喋りに更けていると、先生の怒号が沸く。

 その矛先は特に、アカリたちに向けられた。教室に静寂が訪れる。

 先生は一呼吸置くと、再び検査を再開した。

 途中で何人かのバッグから、ゲームやアクセサリー類を発見される。それらはことごとく没収され、生徒は怒鳴られた。

 検査は続く。いよいよ、次はアカリの番だ。

 机に乗るスクールバッグを、先生がくまなく見渡す。中からは、いかがわしい表紙のライトノベルが発見された。

 

 

「これはなんだ?」

 

「小説です。ダメですか?」

 

「官能小説は認めない」

 

 

 どうやら先生は、ラノベに詳しくないようだ。彼女は叱られ、本は没収された。

 

 

「嘘だー」

 

 

 その後授業がすべて終わり、部活の時間になった。アカリは急いで鍵を取りに行き、部室を開ける。

 ところが、なかなか他の部員がやってこない。

 アカリは着替えて、テニスコートに行く。すでに部員は、そこに全員揃っていた。ただし、皆制服姿だ。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 アカリが首を傾げる。すると集団の中から、サクラコが出てきた。彼女は静かに、そして冷たく、思いをぶつける。

 

 

「アカリ、部活辞めてくれない?」

 

「えっ? どうして?」  

 

「あんたの練習がキツすぎるから。もう限界」

 

「だって全国目指すって……」

 

「だけど! 行きたいけど! みんなあんたみたいな天才じゃないの!」

 

「私が……天才? 何言ってるの? そんなことあるわけないよ」

 

「才能ある奴ってほんとムカつく。普通の人はあんなに練習出来ないから」

 

「そんな……納得できないよ!」

 

「別に理解して欲しいとは思ってない。私たちはただ、あんたに辞めて欲しいだけ。邪魔なの」

 

「だって……!」

 

「先生には私が伝えておくから。あんたはさっさと、荷物持って帰りな」

 

 

 そのとき、近くから悲鳴があがった。

 その場の全員が、コートの外に視線をやる。彼女等の目には、逃げ惑う生徒と、追いかける化け物が写った。

 校内に二体のアンデッドが出現したのだ。悲鳴が悲鳴を呼び、辺りがパニック状態となる。

 テニス部のメンバーも、一目散に逃げ出した。最後尾には、アカリの姿もある。

 群衆は走って、左に曲がった。一人アカリだけが、右に向かう。他の部員に気づかれぬよう、そっと。

 アカリはそこで、先程投げた黒い袋を回収した。それの口を開ける。

 中には新製品のマッハドライバーと、シグナルバイク類が入っていた。

 アカリは走りながら、ベルトを腰にあてる。そして、アンデッドの前に躍り出た。

 

 

「変身するのは久しぶりだね。いくよ! 変身!」

 

 

 ドライバーにシグナルマッハを装填する。アーマーがあてがわれ、アカリは仮面ライダーマッハに変身した。

 アンデッドたちが駆け出す。マッハはゼンリンシューターを撃った。弾丸が、敵の頭部に命中する。

 

 

「まずはお前からだ!」

 

 

 一体のアンデッドに、集中的に射撃を浴びせる。もう一体が接近してきた。

 マッハは武器を離し、後ろにばく転する。そのとき銃を蹴り上げ、アンデッドの顎に当てた。

 怯む敵を、マッハのパンチが襲う。敵は吹き飛ばされ、もう一体と衝突した。

 彼女がゼンリンシューターを掴む。一回転しながら武器の後部に、シグナルマッハを差し込んだ。

 

 

「くらえ!」

 

 

 マッハが引き金を引いた。ゼンリンシューターから、無数の光弾が撃ち出される。前方のアンデッドは爆発した。

 

 

「こいつは私が!」

 

 

 校舎の屋上から、仮面ライダービルドが飛び降りる。彼女は、手にしたシンゴウアックスで、もう一体のアンデッドを一刀両断にした。

 

 

「やるじゃん」

 

 

 マナは文学部に所属している。

 活動内容は、小説を書いたり読んだり、共通の趣味を持つ部員と話したりと自由だ。

 アカリからテニス部を誘われたこともあったが、自分には合わないとして断っていた。

 事件が解決したあと、カツラギ家は引っ越した。場所は、カイトの家の隣だ。そして家族ぐるみの生活を送っている。

 二年の月日は、二人の友情をさらに強固なものへと変えていた。

 

 

「マナ、こいつらなんなの?」

 

「わからない。だから調べてみるね」

 

「調べる?」

 

「死体を研究所に持っていく。腐ってしまったら元も子もないから、私は帰るね。アカリは残って生徒の安全を確保してなさい」

 

「うん。危なくなったら言ってよ」

 

 

 そう言うと、ビルドは両肩にアンデッドを抱え、立ち去った。

 それを見送ったあと、マッハが辺りをキョロキョロ見回す。

 誰もいないことを確認し、彼女は変身を解除した。

 

 

「私が仮面ライダーだとバレたくないな……」

 

 

 スマホを持った生徒が一斉に、アカリの下へ駆け寄る。

 

 

「あなたが倒したんですね!」

 

「写真撮りました!」

 

「一部始終を動画に収めてます!」

 

「そんなー!」

 

 

 目まぐるしく変化する状況に、アカリは頭が追い付かない。

 彼女は思考停止で逃げ出した。生徒たちがあとを追う。

 アカリはテニスウェアのまま、荷物も回収せず、学校を飛び出した。

 

 

────────────

 

 

 ビルドが校舎から離れる。

 彼女はアンデッドを地面に下ろし、ビルドフォンを取り出した。それにライオンフルボトルを入れ、マシンビルダーに変形させる。

 彼女はアンデッドを、バイクの後ろに縄でくくりつけた。そしてバイクに跨がり、発進させる。

 幸い、道は空いていた。そのため、彼女は十分足らずで、研究所へ到着する。

 エンジン音が聞こえたからか、中からカツラギが出てきた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「早くこれを調べて!」

 

「死体!? わかった。すぐやる」

 

 

 カツラギとマナが、アンデッドを持ち上げる。

 靴も脱がずに玄関を越え、階段を登り、真っ正面のドアを開けた。

 中はベッドと椅子、机とパソコンだけのさっぱりした部屋だ。

 二人はアンデッドをベッドに乗せる。身体中に電極を取り付け、コードをパソコンと接続させた。

 

 

「どうなの?」

 

「マナ……二年前、インベスやミラーモンスターがいたことを覚えているか?」

 

「うん。アジト内の研究所で作られていたんだよね」

 

「こいつはそいつらと似ている。断定するにはいささか早いが恐らく同種、あそこで作られた可能性が高い」

 

「でもアジトは爆発したじゃない」

 

「その通りだ……だけどこれは、Mを使ったとしか思えない。きっとどこかにあるんだろう」 

 

「M? 天才ゲーマーの?」

 

「お前が何を言っているのかわからないが、Mとはモンスター生成装置の略称だ。monster making machineの頭文字を取って名付けられたんだ」

 

 

 モンスター生成装置とはその名の通り、化け物を生み出す機械のことだ。

 手動で作ることも可能だが一番の利点は、学習しながら自動で作成できることにある。

 モンスターが倒される度、相手の力を分析し、より優れたモンスターを生み出すことが出来るのだ。

 

 

「そういうことね……」

 

 

 ビルドフォンが鳴る。画面には、怪人出現の速報が流されていた。マナはそれに気づくと、すぐに出発する。

 バイクを走らせること五分。マナは現場に着いた。そこは一面瓦礫が占め、死体が随所に横たわっている。

 その惨劇を起こしたのは、二十体のグロンギだ。

 

 

「こいつらの発生源もMなの? どっちにしろ倒さなきゃ。変身!」

 

 

 マナはディケイドに変身した。

 彼女はライドブッカーを剣にし、集団に突っ込む。彼女の刃が、グロンギを切り裂いた。

 しかし同時に、後ろから蹴られる。

 グロンギが彼女を囲む。そして暴力を浴びせた。彼女はカメンライドし、ブレイドジャックフォームに変身する。

 ブレイドが飛び上がる。多くのグロンギは、ただ見上げるだけ。

 しかし三体が、空中におどりでた。

 一体は腕から、鋭い毒針は射出する。それが、ブレイドの胸に刺さった。

 二体目は口に吹き矢のようなものを添え、弾丸を連続で放つ。ブレイドの翼に穴が開き、彼女は制御を失った。

 彼女に三体目が近づく。三体目はトンファーで、ブレイドを叩きつけた。

 地面から、二体のグロンギがジャンプする。彼らが同時に、ブレイドを蹴り上げた。

 トンファー持ちのグロンギは、上空で待ち受けている。ブレイドがどんどん近づいてくる。彼はブレイドを叩き落とそうと企んでいた。

 ブレイドがカードを、ドライバーに装填する。

 ライドブッカーが、稲妻に包まれた。彼女は振り返って、グロンギを切り裂いた。

 致命傷を受け、トンファー持ちグロンギは爆死する。

 ブレイドは次に、龍騎にカメンライドした。アタックライドアドベントで、ドラグレッダーを呼び出す。

 蜂のグロンギが龍騎に、腕から毒針を撃った。

 ドラグレッダーが龍騎を庇う。それから炎を吐き出した。蜂のグロンギが燃え尽きる。

 ドラグレッダーは吹き矢のグロンギを、長い尻尾で叩き落とした。

 地上に頭を強く打ち、吹き矢のグロンギは死ぬ。彼女はドラグレッダーに掴まり、一緒に地上へ戻った。

 

 

「数が多すぎる……」

 

 

 ディケイドはケータッチを使い、コンプリートフォームにパワーアップした。

 何体ものグロンギが、同時に襲いかかる。

 ケータッチを使い、ディケイドは装甲響鬼を呼び出した。二人が剣を薙ぎ払う。五体のグロンギが倒された。

 糸が吐き出される。ディケイドの、右足首に巻き付いた。鎌を持った敵が、飛びかかる。

 振り下ろされる鎌に、ディケイドは斬り裂かれた。油断した敵の腹部に、イクサライザーを突きつける。そしてファイナルライジングブラストを発射した。

 

 

「全員ぶっ潰すまで倒れるわけにはいかない!」

 

 

 光弾は鎌のグロンギを吹っ飛ばす。さらに巻き添えで、二体を余分に仕留めた。

 サイのようなグロンギが、突進を仕掛ける。ディケイドは宙に投げ飛ばされた。

 続いてバイクが突っ込んでくる。はねられたディケイドは、アスファルトに激突した。

 バイクが落ちてくる。ディケイドは足を伸ばし、タイヤを受け止めた。

 

 

「ぐぬぬ……! だぁぁ!」

 

 

 他のグロンギが横から、彼女を踏みつける。彼女は渾身の力を足に込め、バイクを蹴り飛ばした。

 サイのグロンギが、彼女の首を持ち上げた。顔面に何度もパンチを喰らわせたあと、地面に落とす。

 酷いダメージを受け、マナの変身が解除されてしまった。

 カブトムシのグロンギがマナの腰から、ディケイドライバーを奪い取る。マナは懸命に手を伸ばし、返すよう懇願した。

 興味を示したのか、グロンギは注意深く眺める。相変わらず、マナへの踏みつけは変わらなかった。

 やがて飽きたのか、ディケイドライバーが握り潰される。

 

 

「まだだ!」

 

 

 ビルドドライバーを使い、彼女はビルドラビットタンクスパークリングフォームになる。

 辺りの敵を蹴り飛ばした。両腕のトゲで、彼女はグロンギを斬りつける。ハンドルを回して飛び上がり、ライダーキック─スパークリングフィニッシュ─を繰り出した。

 三体の撃破に成功する。だが、着地したところを狙われた。背後から、鋭い爪に引っ掛かれたのだ。

 彼女は振り向き様、ドリルクラッシャーを薙ぎ払う。しかし逃げ足が速く、攻撃は外れた。

 ビルドが武器を、銃に変形させる。そこにロケットフルボトルを挿し込み、ボルテックブレイクを発動した。引き金を引く。

 爪のグロンギが逃げた。光線はどこまでも追尾していき、終には爪のグロンギを殺す。

 生き残っているグロンギは五体。蜘蛛、サイ、バイク、バッタ、そしてカブトムシだ。カブトムシのグロンギは、これまで戦闘に参加していない。

 蜘蛛のグロンギが口から、槍のような糸を吐き出した。

 彼女はそれを、白羽取りする。折り曲げて奪い、逆に突き刺した。

 蜘蛛のグロンギが命を落とす。

 彼女の後ろから、サイのグロンギが突進した。同じ手は効かないと言わんばかりに、彼女はジャンプする。

 空を昇る間、カイゾクハッシャーにエネルギーを充填した。そして上から矢を射る。

 サイのグロンギは撃破された。

 バッタのグロンギが跳び上がってくる。重力に引っ張られながら、両者は肉弾戦を展開させた。

 ビルドのエルボーが決まる。バッタのグロンギは、地に音をたてて墜落した。

 彼女も地上に降り立つ。止めを指すため、ハンドルを回して必殺技を発動させた。彼女がライダーキックを放つ。

 バイク乗りのグロンギが突っ込んできた。両者は勢いよくぶつかり、弾き飛ばされる。グロンギのバイクが破壊された。

 マナは変身が解かれ、地面にうずくまる。一方で、バイク乗りのグロンギは立ち上がった。

 

 

「ここまで……かな……」

 

 

 バイクと化したアクセルが火炎を纏って、バイク乗りのグロンギを突き飛ばした。

 続いて人形に戻り、エンジンブレードで斬り伏せる。攻撃を受けたバッタのグロンギは死亡した。

 アクセルは振り向き、マナを見る。

 

 

「どうして伝えてくれなかったの?」

 

「一人でいけると思った……まさかこんなに強いなんて……」

 

「あとは私に任せて」

 

 

 グロンギの数は、残すところあと一体。カブトムシ型のグロンギを残すのみだ。

 敵のパンチを、後ろにばく転して避ける。間を空けると、アクセルはトライアルメモリを取り出した。

 それを使い、彼女はアクセルトライアルになる。

 敵の目が青く輝いた。彼女はエンジンブレードに、エンジンメモリを装填する。ドライバーからメモリを取り外し、マキシマムドライブを発動させた。

 アクセルは超高速で、エンジンブレードを連続で振るう。グロンギはそれを、何度もかわし続けた。

 

 

「こいつ……見切っているのか。だったら……!」

 

 

 彼女は真後ろに、ハイキックを放つ。それは不発に終わるが、グロンギの動きが一瞬止まった。

 予想外の動きをあえて行い、動揺を誘う作戦だ。

 アクセルが剣を振り払う。グロンギは横に斬り裂かれた。

 制限時間が過ぎ、アクセルの変身が強制解除される。アカリは吹っ飛ばされ、地面を転がる。

 倒しきれたか不安な彼女は、恐る恐る顔を上げた。グロンギは突っ立っている。

 しかし、一歩足を踏み出したとき、負荷に耐えきれず爆死した。

 

 

「危なかった……」

 

 

 お互いの肩を支えあい、二人は帰路についた。体はボロボロのため、何度も転ぶ。

 その都度立ち上がり、また足を進めた。その繰り返しの果てに、ようやく到着する。

 マナの方が、怪我の具合は酷かった。疲労も溜まっていたため、彼女は自室のベッドに、寝かしつけられる。

 アカリは眠い目を擦り、自宅のリビングに辿り着いた。カイトはそこでテレビを見ている。

 彼女は彼に、ここまでの出来事を説明した。カイトもアカリに、カツラギが突き止めた事実を伝える。

 部屋にカツラギが入ってきた。

 すると驚愕の事実を聞かされる。なんでもアンデッドは、進化したバグスターウイルスによって、さらに強化されていたのだ。

 彼は早口で、アカリに質問した。

 

 

「君は化け物をどの仮面ライダーで倒した?」

 

「どの? えぇっと……確かブレイブレベル5のはず」

 

「やはりそうか……バグスターウイルスはウイルスということだけあって、非常に適応力が高い。早く装置の場所を特定しないと大変なことになる……!」

 

「なに? 今回の事件は全部私のせいだって言いたいの?」

 

「誰もそんなことは言っていない! カツラギ君はあくまで事実を述べただけで……」

 

 

 カイトが必死のフォローを入れる。しかし、アカリには届かない。

 彼女の顔は、みるみる青ざめていった。

 

 

「私にはもう、仮面ライダーである資格がない」

 

 

 アカリは悔しそうに呟くと、家から飛び出してしまった。カツラギがあとを追おうとする。

 それをカイトが止め、彼までも出ていった。

 カイトはガシャコンマグナムを召喚する。彼は銃口を上げて、引き金を引いた。銃声が夜の市街地に響く。

 アカリは足を止め、振り向いた。

 

 

「誰もお前の責任なんて言ってない。早く戻ってこい」

 

「たとえ世界中が許しても、私は許せない。どうしてもというのなら、力ずくでお父さんも倒すよ」

 

「ならば私が勝てば戻ってこい。これで条件はフェアだ」

 

 

 二人がゲーマドライバーを、腰にあてる。その中にライダーガシャットを挿し込み、レバーを開いた。

 アカリはブレイブに、カイトは仮面ライダースナイプに変身する。

 スナイプが銃を乱射した。弾丸は一発残らず、ブレイブに当たる。

 彼女はガシャコンソードを召喚すると、Aボタンを押した。刀身が回転し、氷属性を得る。

 弾丸が彼女の右手に当たった。ガシャコンソードは落ち、地面に突き刺さる。剣が地面を氷結させていった。

 二人の間に、氷の道が作り出される。

 

 

「なに!?」

 

「しめた!」

 

 

 スナイプが撃つ。

 ブレイブは体を屈め、それを避けた。

 そのまま氷の道へスライディングする。滑っている間、彼女はキメワザスロットホルダーに、タドルクエストガシャットを挿し入れた。

 全身にエネルギーがみなぎる。

 

 

「くらえ!」

 

 

 ブレイブが右足を高く上げる。変則的なライダーキックだ。

 スナイプは咄嗟に、ジェットコンバットガシャットを左腰から取り出す。

 起動させると、彼の前にコンバットゲーマが現れる。彼女のタドルクリティカルストライクは、それによって防がれた。

 コンバットゲーマが、両腕の機関砲で撃つ。ブレイブは吹き飛ばされた。

 彼はガシャットをドライバーに挿し、レバーアクションを行う。

 ゲーマを見に纏い、スナイプはレベル3─コンバットシューティングゲーマー─へとレベルアップした。

 スナイプは機関砲を撃ちながら、宙に舞う。

 彼女がガシャコンソードを横に払った。幾重もの氷塊が射出される。

 彼はそれを避けると、機関砲で反撃した。

 

 

「空中戦なら……」

 

 

 ブレイブがギャレンジャックフォームになる。

 彼女は強化型ギャレンラウザーを手に、羽を展開させ、空中に躍り出た。お互いの銃撃を、お互いがかわす。

 ギャレンが近づいた。彼女はラウザーを振り回し、スナイプに斬撃を放つ。

 彼は逃れるため上昇した。ギャレンが彼の足を掴む。

 至近距離から、バーニングショットを繰り出した。スナイプは墜落する。後からギャレンも着地した。

 

 

「私を舐めない方がいいよ」

 

「この……!」

 

 

 スナイプが新たなガシャットを取り出す。ギャレンが発砲した。弾丸は彼の手に当たり、ガシャットが弾き飛ばされる。

 彼女はそれをキャッチし、飛び去った。

 彼は変身を解くと、体を引きずって道を引き返す。

 行きは五分とかからなかったが、帰りは到着に二十分を費やした。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 カツラギは、カイトの帰りを玄関で待っていた。一人戻ってきた彼に対して、カツラギはこう声をかける。それから肩を貸し、リビングまで運んだ。

 その間カイトはずっと、自分の無力さを嘆き続ける。

 

 

「アカリちゃんのことは心配だけど、化け物を放っておくわけにもいかない。一刻も早く場所を突き止めて叩かないと」

 

 

 二階からマナは、一部始終を聴いていた。彼女はとある決意を固める。

 

 

────────────

 

 

 アカリはその翼で、とある場所に向かう。二年前激闘を繰り広げたアジト跡である。現在でも辺り一帯は、更地のままだ。

 

 

「自分のミスは自分で取り返さないとね」

 

 

 取り出した戦極ドライバーの、フェイスプレートを外した。ギャレンはそこにゲネシスコアをはめ、腰につける。オレンジとピーチエナジーのロックシードを装填し、カッティングブレードを倒す。

 彼女は仮面ライダー鎧武ジンバーピーチアームズに変身した。

 彼女は耳に集中を集める。ジンバーピーチは聴力が大幅に上昇するため、かすかな気配も逃さない。

 わずかな物音が、彼女の耳に届いた。彼女は発信源を特定するため、右往左往に動き回る。

 すると音がさらに大きくなった。彼女が砂の傾斜を下る。そして左を向いた。

 辺りは一面化け物だらけ。 

 

 

「頭を冷やすにはちょうどいい」

 

 

 メタファクターを腰につけ、エクシードギルスへ変身する。

 彼女は渦中に入り込んだ。怪人が一斉に襲いかかる。ギルスは背中の触手を伸ばした。素早く連打し、突き殺していく。

 

 

「全員ぶち殺す!」

 

 

 ところが数の差は、簡単には覆せない。

 いつの間にか彼女は、敵に囲まれてしまう。ギルスは左足を軸に一回転し、蹴り殺した。手足のトゲで敵を切り刻む。

 やがて敵は、ギルスに背を向けて逃げ出した。

 

 

「敵前逃亡とは情けない」

 

 

 正面には坂がある。怪人たちはそれを滑った。彼女があとを追う。

 彼らが一斉に左を向いた。地層の壁には、大きい穴が開いている。彼女は怪人たちとともに、その中へ飛び込んだ。

 その場所は、元アジトの地下室である。爆薬が仕掛けられていなかったのか、そこだけは残っていた。

 ただし手入れが行き届いていないため、経年劣化は激しい。今にも崩れ落ちそうだ。

 おびただしいほどの化け物で埋め尽くされていた。奥には一つだけ、稼働中の機械が見える。

 カツラギの言っていた装置とはあれに違いないと、彼女は考えた。

 化け物を無視し、装置目掛けてジャンプする。必殺のかかと落とし─エクシードヒールクロウ─を放ち、それを破壊した。

 ホッと息をつく間もなく、ギルスが苦しみ始めた。

 彼女は変身が解除され、徐々に体が異形のものに変わっていく。

 

 

「な……何が起こった……?」

 

「我はゲムデウス。汝の体をいただこう」

 

「はっ!? どういうこと? それにお前はどこだ?」

 

「汝の体内だ」

 

 

 ゲムデウスとは、Mの中に潜でんいたバグスターウィルスである。

 アカリはそれに、体を乗っ取られてしまったのだ。

 まもなく容姿も、人間から化け物─ゲムデウス─に変わった。

 

 

「私の身体に勝手に……」

 

「うるさい。しばらく黙っていろ」

 

 

 辛うじて保っていた意識も、今ここに途切れる。

 

 

────────────

 

 

 翌日の早朝、マナもアジト跡に向かった。カツラギの反対を無視し、自分の体を押してだ。

 しかし、そこは藻抜けの殻。続いて彼女は、地下室に繋がる穴を見つける。

 中に入るとそこには、壊れた装置があるのみだった。

 

 

「恐らくあれが、なんちゃら装置に違いない。でもどういうこと?」

 

 

 時を同じくして、カイトとカツラギには激震が走っていた。

 研究所前に、怪人の大群が押し寄せていたのだ。それらは、アジト跡地下室から侵攻してきたものだ。

 中心にはゲムデウスが見える。右手には宝剣─デウスラッシャー─、左手には宝盾─デウスランパート─を装備していた。

 不幸なことに、マナはすれ違ってしまったのである。

 

 

「アカリちゃんもマナも今はいない……こうなれば僕たちだけで行こう」

 

「「変身!」」

 

 

 カツラギがWドライバーを腰につけた。するとカイトの腰にも、ドライバーが現れる。

 カイトがドライバーにサイクロンメモリを挿した。そのメモリはカツラギの下に移動し、カイトは意識を失う。サイクロンを挿し直したカツラギがジョーカーメモリを入れ、ドライバーを横に展開した。

 周りにオーラが現れ、彼は仮面ライダーWサイクロンジョーカーに変身する。

 大群に向かって、Wが疾走した。素早い連続蹴りで、一体を吹き飛ばす。ジョーカーメモリをマキシマムドライバーに挿し込んだ。

 Wは敵群にライダーキック─ジョーカーエクストリーム─を繰り出す。

 次に彼らは、サイクロンメタルになった。必殺のメタルツイスターを喰らわす。

 その後もWはヒートメタル、ヒートトリガー、ルナトリガー、ルナジョーカーと次々に姿を変えた。

 その度に必殺技─メタルブランディング、トリガーエクスプロージョン、トリガーフルバースト、ジョーカーストレンジ─を放つ。

 

 

「強化されているとはいえ所詮は怪人。動きが単純すぎる」

 

 

 ファングメモリを使い、Wはファングジョーカーにパワーアップした。

 レバーを倒すと、肩にショルダーセイバーが現れる。彼らはそれを外し、敵目掛けて投擲した。怪人たちを傷つけたあと、刃はブーメランのように戻ってくる。

 彼らはレバーを三回倒した。すると右足にマキシマムセイバーが出現する。

 ジャンプしてからキックの体勢を取り、横に高速回転しながら、敵陣に突っ込んだ。

 

 

「ファングストライザー!」

 

 

 その攻撃は軍団を全滅に追いやる。

 予想外の事態に、ゲムデウスが驚いた。

 

 

「やるな、貴様……」

 

「貴様じゃなくて"貴様ら"な」

 

「いつまでも愛娘に戦わせたくはない。大人として責任を果たすだけさ」

 

「我が直々に相手をしてやろう」

 

 

 エクストリームメモリが飛来する。彼らはドライバーにそれを挿し、展開させた。

 Wがサイクロンジョーカーエクストリームに進化する。

 左手のプリズムビッカーから、プリズムソードを引き抜いた。

 両者の剣が打ち合わされる。Wはデウスラッシャーを押さえ込み、左手で殴り飛ばした。

 ゲムデウスが後ずさる。ビッカーシールドにサイクロン、ジョーカー、ルナ、ヒートのメモリを挿し込んだ。

 シールドにエネルギーが充填される。それを解放した光線が放たれた。

 Wの技は、ゲムデウスに直撃する。爆発して、もくもくと煙が立ち込めた。

 

 

「なるほど。これが人間の実力か」

 

 

 煙が晴れる。ゲムデウスは無傷だった。Wが構え直す。

 ゲムデウスの姿が消える。キョロキョロと、辺りを見回すW。ゲムデウスは彼らの背後に、ワープしていた。

 ゲムデウスが剣を振るう。気づくことなく、Wは斬り裂かれた。

 彼らが振り向く。そこにはもう、ゲムデウスはいない。右から、彼らは蹴り飛ばされた。

 滞空中に、ゲムデウスが現れた。恐るべきスピードで、ゲムデウスの連続斬りが放たれる。

 ゲムデウスの踵落としが決まった。Wは叩き落とされ、地面に倒れる。

 

 

「なんなんだ……この力は!」

 

「もうおしまいか? 所詮、人間はその程度か」

 

「まだだ! ダブルエクストリーム!」

 

 

 ベルトを開閉させ、Wがマキシマムドライブを発動した。高くジャンプし、ドロップキックを繰り出す。

 ゲムデウスは斬撃を放った。両者の一撃が、真っ向から衝突する。

 ゲムデウスが勢いよく振り払った。Wは放物線を描いて吹き飛ばされ、地面に背中を強く打ち付ける。

 ドライバーが弾け飛び、彼らの変身は解除された。

 

 

「それが切り札のつもりだったのか?」

 

「なに!?」

 

「次はこちらの番だ。死ね!」

 

 

 横からライダーキックが放たれる。ゲムデウスが吹っ飛ばされた。キックしたライダーが着地する。

 それは、仮面ライダービルドラビットタンクスパークリングフォームだった。

 

 

「お疲れさま。あとは私に任せて」

 

「なぜお前がここに?」

 

「アジトは藻抜けの殻だったの。嫌な予感がして戻ってみたらこの有り様だった……覚悟しなさい!」 

 

 

 ドリルクラッシャーを右手に、ビルドが走る。

 両者は剣を、斜めに振り下ろした。互いの剣が、まじ合わされる。

 ビルドは四コマ忍法刀を召喚した。左手で逆手に持ち、斜めに振り上げる。

 

 

「盾が厄介ね」

 

 

 ところが、ゲムデウスの盾によって、攻撃は防がれた。

 ビルドはジャンプし、膝蹴りを放つ。ゲムデウスの顔面に入った。

 しかし、ゲムデウスはびくともしない。ゲムデウスの盾から、二本の赤い触手が解き放たれた。

 ビルドがそれに突き飛ばされる。

 

 

「なんて強さなの……こうなったらあれを使うしかない。お父さん! この前開発したやつ!」

 

「あれはまだ調整が済んでいない。試験すら行っていないんだぞ!?」

 

「だけど……このままじゃ!」

 

「……父の無能を許せ……」

 

 

 彼は彼女に、新兵器を投げ渡す。ハザードトリガーと、フルフルラビットタンクボトルだ。

 トリガーの蓋を開け、中のスイッチを二回押した。そしてドライバー上部に取り付ける。次にボトルを振り、半分に割った。

 それをドライバーに装填し、ハンドルを回す。

 彼女は、仮面ライダービルドラビットラビットフォームにパワーアップした。

 

 

「実験成功!」

 

 

 ゲムデウスがキックを繰り出す。ビルドは飛び越えて避けると、足を後ろに伸ばした。

 ゲムデウスの背中を、キックが迫る。しかし、振り返ったゲムデウスの盾によって、攻撃は防がれた。

 目にも止まらぬ速さで、ビルドが連続パンチを放つ。

 だが、盾はびくともしない。ゲムデウスが剣で突く。召喚したフルボトルバスターで、ビルドは受け止めた。

 しかし衝撃までは殺しようがない。ビルドは吹っ飛ばされる。

 

 

「さっきの奴等よりはまだ楽しめるか」

 

 

 デウスラッシャーが赤く輝いた。ゲムデウスが剣を横に振る。ビルドに向かって、深紅の衝撃波が飛ばされた。

 ビルドは武器のグリップを曲げる。中にクジラとジェットのフルボトルを入れたあと、トリガーを引いた。

 銃口から、巨大な光弾が発射される。それは衝撃波を押し返し、ゲムデウスに命中した。

 

 

「性能は期待値を驚愕してるね」

 

 

 爆発が起こる。煙に身を隠しつつ、ビルドはゲムデウスに接近した。そして銃口を突きつけ、射撃を与える。

 ゲムデウスは倒れ、地面を転がった。

 

 

「やられっぱなしは気にくわない」

 

 

 ビルドはハンドルを回し、必殺技を発動させる。飛び上がり、ライダーキックの体勢を作った。

 ゲムデウスに触れるか触れないかの位置まで足を伸ばす。

 一瞬間が空いたあと、足を縮める反動でビルドが突っ込んだ。ゲムデウスは投げ飛ばされる。

 

 

「これほどの強さとは……」

 

「これで終わりだ!!」

 

 

 ビルドはドライバーを操作し、仮面ライダービルドタンクタンクフォームに変化した。

 ドライバーからフルフルラビットタンクボトルを取り出し、フルボトルバスターに挿入する。するとビルドの足が、キャタピラと化した。

 その姿はまるで、一つの戦車のようだ。

 ビルドが引き金を引く。光弾が連続でゲムデウスに襲いかかる。

 敵の周りを走りながら、彼女は砲撃を続けた。爆煙がゲムデウスを包もうと、彼女は攻撃の手を緩めない。

 

 

「ムテキの力に敵うものか」

 

「えっ?」

 

 

 煙が晴れる。人影が立っていた。

 その正体は、さらに禍々しい見た目になったゲムデウスだ。腰には、ゲーマドライバーが巻かれている。

 

 

「無傷!?」

 

「我が名はゲムデウスムテキ。その名の通り、どんな攻撃も通じない」

 

 

 ビルドは足を元に戻すと、再び砲撃を始めた。ムテキは平然と、歩みを進める。

 武器を投げ捨てると、ビルドが走った。そしてその勢いで、ストレートパンチを放つ。彼女の拳が、ムテキの胸部に当たった。

 

 

「ものわかりが悪いな。あらゆる攻撃も効かん」

 

 

 目にも止まらぬ早さで、ムテキの乱打が繰り出される。彼女になす術はなく、攻撃を浴び続けた。

 攻撃が止む。効かないとわかりつつも、彼女はパンチした。

 

 

「ゲーマドライバーは人間にしか使えないはずなのにどうしてお前が使える? それにこのガシャットはどこで!?」

 

 

 ムテキがビルドの右拳を握る。彼女の左拳が、ムテキの顔面に当たった。

 しかし動じない。

 

 

「ガシャットは元々、バグスターウイルスの成分が詰まっている。だからバグスターがガシャットを作れても不思議ではないだろ」

 

 

 ムテキの膝蹴りが、彼女の腹部に入る。体から力が抜けるビルド。

 ムテキは彼女を、真上に投げ飛ばした。

 

 

「その理屈はおかしいでしょ……」

 

 

 ビルドはボトルを入れ換え、ローズコプターハザードフォームになる。腕のプロペラを回し、姿勢を安定させた。

 

 

「次にゲーマドライバーをなぜ使えるかだ。我は人間の細胞も持っているからだ。具体的にはお前の仲間のな」

 

 

 ムテキが掌から、紫色のエネルギー波を発射する。ビルドはプロペラを、体の正面に配置した。回転数を上げ、光線を防ぐ。

 ムテキの攻撃が止んだ。ビルドが着地する。

 

 

「仲間!? アカリのこと?」

 

「その通りだ」

 

「なるほどね……アカリは私が救い出す」

 

 

 ビルドがトランスチームガンに、コブラフルボトルを挿し込む。

 蒸血の掛け声と共に、その姿がブラッドスタークのものに変わった。

 

 

「お父さん! カイトさん! 手伝って!」

 

 

 スタークの叫びに応じて、カツラギは仮面ライダージョーカー、カイトは仮面ライダーバロンレモンエナジーアームズに変身した。

 

 

「人数が増えようとなんの意味もない」

 

 

 ジョーカーは接近戦を行い、バロンはソニックアローで遠距離から射る。

 

 

「見極めるんだ……チャンスを!」

 

 

 バロンとジョーカーが、ライダーキックを放つ。爆風が吹き荒れた。

 ところが、二人の攻撃はムテキの両手で、難なく受け止められる。

 ムテキが慢心した一瞬の隙をつき、ブラッドスタークが液状化した。そして接近し、ムテキの体内に侵入する。

 

 

「アカリの中に異物が二人……選ばれるのはお前? それとも……」

 

 

 ムテキが苦しみ、その場でじたばたする。そして段々、アカリの姿に戻っていった。

 ゲムデウスは弾き飛ばされ、アカリの体から離れる。

 直後に、スタークも分離した。ひどく疲労している様子だ。カツラギが彼女に駆け寄る。

 アカリはそれを確認すると、ゲムデウスに対峙した。

 

 

「まさかそんな!」

 

「私の体で随分と勝手なことをしてくれたね。その代償は重いよ」

 

 

 アカリはガシャットを取り出し、ダイヤルを回した。

 以前、カイトから奪ったガシャットギアデュアルβである。

 

 

「変身!」

 

 

 アカリはそれをドライバーに挿し込むと、レバーを開いた。

 板が通過され、アカリは仮面ライダースナイプに変身する。さらに、出現したシミュレーションゲーマを身に纏い、シミュレーションゲーマーレベル50になった。

 スナイプが全身の砲台を、ゲムデウスに向ける。そして砲撃を始めた。数多のエネルギー弾が、ゲムデウスに放たれる。

 ゲムデウスは盾を前に突きだし、弾を防いだ。そのあと剣を高く掲げる。

 スナイプの足下に魔方陣が現れた。直後、彼女を落雷が襲った。

 

 

「紅蓮爆竜剣」

 

 

 ゲムデウスが呟くと、デウスラッシャーが燃え上がった。ゲムデウスが走る。それから剣を横に払い、スナイプを吹っ飛ばした。

 

 

「逃がさん」

 

 

 ゲムデウスは助走をつけて、高く跳び上がる。

 滞空するスナイプに近づこうとした。

 彼女の上を取ると、ゲムデウスは剣を縦に振る。斬撃を受け、彼女は地面に激突した。

 ゲムデウスが剣先を下に向ける。そして勢いよく降下した。スナイプを串刺しにするつもりだ。

 刃が迫る。彼女は左に転がり、ギリギリでかわした。ベルトのレバーを素早く開け閉めし、立ち上がる。

 ゲムデウスの真後ろに移動し、両手の砲口を突きつけた。

 

 

「くたばりな!」

 

 

 放たれるビーム。ゲムデウスは大ダメージを受け、前に突き出される。

 

 

「最初から特大の一撃狙いだったのか……」

 

「単純な火力はトップだからね」

 

 

 スナイプがドライバーを、鎧武のものに換えた。

 カチドキロックシード、極ロックシードを使い、鎧武極アームズに変身する。

 鎧武は影松・真を召喚した。それを両手で持ち、駆けて行く。彼女が突いた。ゲムデウスは盾で、それを防ごうとする。ところが、盾は音をたてて崩れ落ちた。

 ビルドの数々の攻撃が、盾を少しずつ消耗させていたのだ。

 

 

「逆転の狼煙が上がった」

 

 

 ゲムデウスは上げた剣を、勢いよく振り下ろした。

 彼女は頭上に、メロンディフェンダーを呼び出す。斬撃を弾かれ、ゲムデウスの体がよろけた。

 その際僅かに、ゲムデウスは全身の力が抜ける。鎧武が回し蹴りを放つと、デウスラッシャーが吹っ飛ばされた。

 

 

「貴様……! 断じて許さん!」

 

「自分の立場わかってるの? 許さないのは私だよ!」

 

 

 彼女は得物を大橙丸に変えた。ゲムデウスに何度も、斬撃を浴びせる。そしてがら空きの胴へ、剣を横にして斬り抜けた。

 鎧武とゲムデウスは少し間を離れ、背と背を向かって立っている。すぐに、ゲムデウスが膝をついた。

 

 

「お前の野望もここまでだ!」

 

 

 鎧武がドライバーを操作した。すると全身に、力がみなぎる。

 溢れ出すエネルギーが、オーラとして外に漏れた。

 彼女はジャンプし、ライダーキックを繰り出す。足先には、果実のエフェクトが現れた。ゲムデウスを、必殺キックが貫く。

 鎧武が着地した。

 人間への恨みを抱きながら、ゲムデウスが爆発する。

 鎧武は立ち上がると、変身を解除した。

 

 

「ふー……」

 

 

 空は紫色に染まっている。時刻は四時を過ぎたところだ。

 アカリは崩れ落ちた。心配して駆け寄るカイトだが、なんてことはない。彼女はすやすやと、寝息をたてていた。

 アカリとマナはその日、学校を欠席する。

 翌日、マナは傷のために欠席した。一方でアカリは、いつもの時間に家を出る。

 荷物はすべて部室に置きっぱなしだ。それだけならともかく、制服まで忘れてしまっていた。

 そこで彼女は、マナの制服を借りることにする。テニスウェアでの登校は、羞恥心が妨げたのだろう。

 学校に着くと、彼女は顧問の元に向かった。

 

 

「おはようございます!」

 

「おはよう、昨日は体調を崩したのか?」

 

「えぇ、まあ、はい」

 

「お前、仮面ライダーだったんだな」

 

「どうしてそれを!?」

 

「校内その話で持ちきりだぞ」

 

「そうですか……」

 

「秘密にしていたかったんだな。どうしてだ?」

 

「だって秘密の方が格好よくないですか?」

 

「ふふっ……」

 

「ちょっと! 笑わないでくださいよ!」

 

「それより昨日な、サクラコがここに来たぞ。アカリに謝りたいって。何があったんだ?」

 

「はははっ……いや、大したことじゃないです。では」

 

「今日も頑張れよ!」

 

 

 アカリが部室に戻ると、サクラコの姿があった。その表情は、ひどく塞がれている。

 アカリは一瞬戸惑ったが、すぐに声をかけた。

 

 

「ごめんごめん! すぐに鍵を開けるから!」

 

「あの……その……一昨日はごめん……実は私、アカリの才能に嫉妬してたんだ。でも違った。仮面ライダーとしてずっと努力してたんだよね……本当にごめんなさい」

 

「もういいから、時には感情が先行して思わぬ言葉を吐いてしまうこともあるって。さ、仲直りしよっ?」

 

「うん!」

 

 

 鍵が開かれた。これまでのしがらみも消え、部員たちはいっそう練習に励んだ。

 その結果アカリは地域大会に優勝し、県大会への切符を掴む。

 しかし結果はベスト8。彼女は準々決勝で破れてしまった。

 アカリに勝利した少女はそのまま優勝し、全国大会でも三位の成績を残した。

 部員たちは総出で、アカリの試合を見守っていた。悔しくて泣きじゃくるアカリを皆で励まし、焼肉屋に連れていく。

 食べ終わる頃には、すっかり調子を取り戻した。

 大会が終わるとすぐ、部活は引退となる。アカリたちは祝福を受けた。

 そのあと彼女らは、大学受験に頭を悩ませることになる。受験勉強に四苦八苦し、時が流れていった。

 模試の偏差値も徐々に上がっていく。アカリはその度に油断し、マナは励みとした。

 マナは年明け前、推薦で受験を終わらせた。元々成績を取っていたためだ。

 しかし彼女は、アカリの勉強に最後まで付き合う。その甲斐もあってか、アカリはセンター利用入試で、同じ大学に合格した。

 

 

────────────

 

 

 事件収束からまもなく、カイトはカツラギの手も借りつつ、Mを作っていた。過去に一度作った経験があるため、作業は順調に進んでいった。

 これを利用すればシオリの復活が可能ではないかと、カイトは睨んでいる。

 初めて説明されたときアカリは、シオリが自我を取り戻せるのか疑問に思っていた。ゲムデウスを除いて、自我を持つ怪人はこれまでいなかったからだ。

 そこでカイトは、手動で一からプログラミングすることを決意する。

 これがなかなか大変であり、時間を多く費やす結果となった。

 そして半年後、具体的には翌年の二月、カイトは遂に完成させる。

 赤い土管のような機械に、コードが何本も繋がれていた。

 コードはさらに、カイトのパソコンに伸びる。彼は今まさに、最終調整の真っ最中だ。

 シオリの死体は現在、冷凍保存されている。

 カイトの見直しが終わった。すると彼は、地下室の入り口にやって来る。

 そこでは、アカリとマナが待機していた。カイトが地下室を開ける。巨大な冷凍庫があった。

 冷気が漏れ出しているのか、全体的に寒い。

 カイトが冷凍庫のロックを外した。するとすぐに、二人はその中に入る。

 いつでも運べるよう、シオリはリアカーの上に乗せられていた。彼女らがそれを押す。二人は防寒手袋を着用しているが、凍えるような寒さを感じた。

 それが冷凍庫のせいなのか、それとも目の前に死体があるせいなのかはわからない。

 大急ぎで坂を上って一回に上がり、玄関を出る。装置の横には、カツラギが控えていた。

 彼らは三人がかりで、シオリをその中に詰める。

 遅れてきたカイトが、パソコンのエンターキーを押した。装置はガガガガと、けたましく鳴り響く。

 一瞬動きが止まったあと、筒からシオリが吹き飛ばされた。

 

 

「ママァァ!!」

 

 

 アカリはシオリに駆け寄った。抱きつくと涙が溢れる。感触や匂いがどれも、アカリの記憶と変わっていなかったからだ。

 

 

「ア……カ……リ……?」

 

 

 シオリは始め、目の前にいるのが娘と認識できなかった。ところが、面影は似ている。

 

 

「シオリ、君は病気で昏睡状態に陥っていたんだ。だけどもう大丈夫だ」

 

 

 一度死んで甦ったことを告げれば、彼女はパニックになるに違いない。カイトはそう考えたため、あえてぼかして説明した。

  

 

「あなたが治してくれたの? ありがとう。それにアカリも、大きくなったね」

 

 

 カイトのこれまでの努力が、実を結んだ瞬間である。欠けていたピースが揃い、彼らは次の未来に歩き出す。


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