●予定の変更
ミーティングルームは最初、不景気な気配に包まれていた。
テーブルにはとあるミッションの地図と駒が並べられ、ディスプレイには過去に挑んだ者のデータが映し出されている。
今日この日の発表で運命が変わるまでは、非常に難しいミッションでフォースとしての連携やを訓練するつもりだったのだ。
「敵の数もだけどエースの数が尋常じゃない。全員相手にして居られないよ」
そのミッションでは味方がSFSと母艦を含めて最大五に対し、相手は八百機以上でSFSや母艦を含めると千に達しかねない。
更にエースが五人、順エースが十人以上出現する。
事実上の不可能ミッションであり、嘘か誠かチャンピオンシップの上位でドリームチームを組んだら、援軍が敵に成ったという噂まである。
機動戦士ガンダムOOで登場した三軍合同軍事演習とは、そんなシナリオであった。
「可能な限り避けるなら、難しい脱出コースを選ぶしかないな」
「とはいえグラハムとサージェスは必ずどっちかとガッツリ戦う必要があるんだよなぁ……」
グラハムは技量もさることながら、順エースの集団であるオーバーフラッグスを率いてやって来る。
サージェスは最後の最後に単独でしか出てこないが、アグリッサも含めて非常に強く設定されいる。しかも相当に疲れた状態で戦う必要があった。
「それなら連携の訓練も兼ねて……」
「大変大変たいへん! こんな事してる場合じゃないわ!!」
「……? ビッチ先輩、どうしました?」
そんな事を考えて居た時、ビッチ先輩と呼ばれる少女が極めつけの情報を持って現れた。
ログインするなり騒ぎ立て、今にも首根っこに掴みかからんばかりであった。
これまでのガンプラ改造を大きく変更し、人々に間口を広める……。
ようするに不景気な顔して不可能ミッションを考えている場合では、なくなったのである。
「ドロップ品のルールが変わるかもって話あったよね!? あれの続報を教えてもらったの!」
「どこ経由の情報かは置いておいて、どう変わるって話なんですか?」
「もしかしてリアル経由ですか?」
GBNはオンラインなので妙な噂は沢山出回って居る。
さらにリアルでの交友や、国家・地方によってはおいそれと変更でき無いので情報やアンケートが先行する事もあった。
「
「なん……だと」
「うそ……だろ」
それはこれまでの常識を覆し、買ったプラモのパーツを流用せずとも良くなったということだ。
一部だけ入れ換えに始まってジャンクパーツの流用はこれまでもあったが、まさか買わずとも良くなるとは思いもしなかった。
これが本当ならば色んなパーツを試せるだけではなく、場合によってはパーツ取りの為では購入を躊躇われた機体を部分的に揃えることが可能になるのだ!
「それが本当なら嬉しいですけれど、商売的に……大丈夫なんですかね?」
「昔から海賊版や今でも偽データとかもあるし、腕利きのモデラーはパーツを自作してた……。判らなくもない話じゃないよ」
クリスは思わず真面目に問い返し、ミツオは自分の知識を元に何とか整合性を付ける。
海賊版で妥協するくらいならば、無課金に近い形で続けポイントで本物を手に入れる方が良いと考える者は出て来るだろう……と。
「そっ。どうせ自作されちゃうなら、施設限定だけど成形OKにするんだって。ポイントの消費と課金を見ながら、モノによってはちゃんと買う方が良くなるんじゃない?」
ビッチ先輩と呼ばれた少女は、日本から遠く雪深い国に住んで居る。
そういった地方にはいきなり話を持って行かれても困るので、どうやら先行で情報が回って来たらしい。
とはいえ多少早かったというだけの話だ、明日にはネット中に拡がって居る可能性が高いだろう。
「と言う訳でこんな難しいミッションはまた今度にしましょ! 私達もこの御祭りに参加するわよ!」
「ドロップ品を延長する場合と、設計図とかもらえる場合で変わってくるけど……。その両方が考えられるミッションを選ぼうか」
「一番可能性の高いのはストーリーを追い掛けるキャンペーンだが……。あれは長い上に抜けられないしな」
こうして三人は完全に路線変更を行い、パーツ取得祭りに打って出たのであった。
●気の早いサンタクロースたち
案の定、噂は拡がって居た。
良く良く考えれば一か所だけに話を通して居る訳が無く、同じ様に聞きつけた連中も居たのだろう。
それが少数であろうとも、あっと言う間に尾ヒレを付けて広まるモノである。
「まだ実装する訳でも、現行ミッションで落ちると決まってもいないのによくやるよ」
「練習ならどこでも一緒だと踏んだんだろう。それに、お祭り騒ぎになると知って参加を決めた俺達が言える事じゃないがな」
男二人は受け付けカウンターに並ぶ列を見てゲンナリした。
フォ-スから一人ずつの制限が掛って居るのに、アバターがズラリと並んでいる。
「おっまたせー」
「どうでした先輩? これだけ並んでいる以上はロクな結果では無いと思いますが」
順番待ちはいまだ続いているし、この速さで始められる以上は何らかの妥協をしたはずだ。
とはいえ無意味なミッションを選んだとも思えず、興味が尽きることは無い。
「あんま並んでなかったポケ戦ミッションってことにしたわ。あとは他のフォースと予選して、勝った方が先に挑めるって寸法」
「あー。それなら勝ち負け無視して練習はできますし、良いですね」
当然のことながら太陽炉やガンダムフレームなど人気のあるパーツや、上位機体がもらえそうなミッションほど順番待ちが多い。
特に試験機が持ち込まれるシナリオがそうで、ガンダムシードのガンダム襲撃事件などは五機も登場することから大人気である。
そんな中で『ポケットの中の戦争』を扱ったミッションは機体がアレックスやケンプファーであり、装備も地味なパーツであるために人気はそこそこだった。
とはいえ装備品ドロップや機体奪取を扱ったミッションがそう多い訳では無く、今回は複数のフォースが予選込みで順番待ちと成って居いる。
「場合によってはこっちの方が良かったかもな。所詮は噂レベルだし、同じモノを求めて戦うのは愉しそうだ」
「今更そんなこと言わないの。対戦に勝って、ミッションでも練習すれば良いじゃない」
「違いない」
こうして三人は対戦を行うことにした。
場所はコロニー内で互いに友軍無し、不要な装備を省くなどの調整を経た上で一同は新たな戦いに臨む。
『バエル・ザ・ブラックナイト、クリス・マモル。出るぞ』
『ヘビーアームズ
最初に飛び出したクリスの黒騎士バエルは、奇襲を想定して出撃と同時に斜め上に捻りを入れた。
ひねりながら情報を占めると、ミツオのヘビーアームズ改が無限軌道を走らせる。
『アレクサンドラ・イワノフビッチ・ケレンスキー。V2【オディール】、派手に舞い踊るわよ!』
最後に飛び出したのはV2ガンダムの改造機だけが以前に試した時の装備で、V2用のマルチプル・ビームライフルとXガンダム・デバイダーのシールドを構えている。
その出撃と同時に三機のカメラがリンクし、敵の攻撃表示をクリアに映し出していった。
『敵影はゲルググ系が三機で、ドム系が二機。解説の方はよろしく』
『えっとマリーネのシーマ機に、リゲルグ、高機動ゲルググ。ドムはどっちもリックドム・ツヴァイだけど……武装を見るとフュンフ系を意識してるのかな』
予選も抽選なので機体の数が同じとは限らず、五機編成のフォースだ。
ジグザグに突っ込んで来るものの、散開せずにひとまとまりで高速で飛び込んで来た。
『……あちこち改造してるけど、袖付きをイメージしてんのかしら』
『まあ全部、高機動型だと思えばいいよ。散らすつもりだけど……上手く行かなかったら後はよろしく』
散開せずに突っ込んで来るのは、舐めて居るのかそれとも数の利で押し切る気か?
そう思って不機嫌な少女に、相手の意図を察したミツオが宥める。
そして先制攻撃とばかりに、ツインビームガトリングと無数のミサイルで火蓋を切った。
『S・フォーメーションを仕掛けるぞ!』
『『おお!』』
(流石に無策で突っ込んで来る訳じゃないか。まあ出来るだけなんとかするつもりだがな……)
五機の内四機は砲口の向きを合わせると回転する様にライフルやMMP-80で猛烈な射撃を掛けた。
次々にミサイルを叩き落とし、シーマ機と高機動ゲルググがビームコート付きのシールドでビームを受け止める。
『もらった!』
『それはこちらの台詞だ!』
残ったドムが鉈のように太いヒートサーベルでヘビーアームズを狙うのを、バエルが抑え込む様に大太刀を振るう。
すかさずスラスターを吹かしてバックを掛け、もう一度踏み込もうとしたのだが……。
『おっと。熱くなるのは悪い癖だよな。……まずは数を減らす!』
『何!?』
まるで後ろにも目があるような軌道で、走り抜けながらV2と撃ちあって居る高機動ゲルググを狙った。
もちろんガンプラだしモニターがあれば状況が判る筈だが、四機の中でも隙のある機体を狙えたのは偶然とは思え無い。
『まずは一つ!』
『だがしかし! ……っうおおお!?』
『ナイスアシスト! いっけーインコム!』
バエルの剣戟を強引に盾で受け止めるが、そのせいでV2から喰らってしまった。
一応は注意して居たつもりだが、流石に二機からの攻撃に加えてインコムによる第三の角度までは無理だ。
崩れ落ちて死角が出来た所へ、ビームガトリングが間断なく撃ちこまれて行く。
ヘビーアームズが距離を取りながら、攻撃と言うよりは動きを止める為に連射して居た。
『こっちも忘れちゃ困るよ。そうそう、盾を持ってる君はこっちを向くよねぇ』
『次はお前だ!』
三機は爆炎などを含むモニター表示の限界や、死角の隙を上手く突いて攻撃して行く。
途中で判断を挟む為にいつもより攻撃タイミングが襲く防がれてしまうが、最終的に誰かが倒せば良いと言う考えだ。
今度はハモニカ砲も展開され、ミサイルと共に高密度な火力で押し込んで行った。
『良い感じね。三対五だからそれほど判り易くないけど、NPC相手ならもっと行けるんじゃない?』
『まだまだ遅い。それに……狙いたいのは強いPCなんだがなっ!』
『連携重視し始めたにしちゃ上出来だよ。一朝一夕にいかんって、クリスいつも行ってるだろ』
ビームコート付きの盾を拾おうとした迂闊なドムをV2が潰し、大鉈を振るうドムをバエルが食い止める。
データリンクとゼロ・システムでの簡易予想を併用しているとはいえ、通じて居るのはあくまで普通のプレイヤーだからだ。
上位ランカーにはまだまだ足元にも及ばないが、連携の不備を補い始めたばかりなのだから十分な成果と言える。
『おのれ! せめて一機だけでも!』
『こいつ……四刀流だと!?』
『馬鹿目、一機だけと思うなよ! オレはまだ行けるんだからな!』
なんとリゲルグは銃を捨てると腕を切り離し、クローからビームサーベルを生やしながら攻撃して来た。
サーベル四刀流に加えて、体勢を立て直したドムが大鉈を縦横無尽に振るって行く。
『いいぞ、こうでなくてはな!』
『ぬかせ!』
バエルは大鉈を踏み台にジャンプを掛け、スラスターを駆使してキリモミ回転。
強引に四刀流の間合いを抜けながら、その二機では無く……やられたフリをしてチャンスを窺っていたシーマ機の頭を狩りに行った。
『うーん。ガンプラバトル版ゼロ・システムの限界ね。隠し武器は表示されないし、暫く動か無かったら無視しちゃうものね』
『あれはドーベンウルフを参考したのか、袖付きなら……じゃなくて! 援護しないと』
悠長なことを言い始める少女に、ミツオは慌ててフォローを申し出る。
とはいえこうなってしまっては、するべきことは二つに一つだ。
『いいけど……。あれに割って入るか、躊躇なく射撃するかの二択よ?』
『そりゃ僕らの腕じゃ難しいとは思うけど……』
バエルはリゲルグの四刀流とドム相手に、不利ながらも果敢に反撃を行っている。
そればかりではなく、反撃で浮遊する腕の一本を切り落とすほどの冴えを見せて居たのだ。
到底、白兵戦がメインでは無い二人が割って入って、足手まといにならない自信は無かった。
結局、隊長機でもあったリゲルグが落ちた段階で勝負が決まった。
ドムは白兵戦オンリーで有る以上は強かったが、正面から戦えばクリスの方が微妙に上回る。
そしてドムとバエルの自在性がバエルの側に軍配が上がっているので、思ったよりもアッサリと片が付いたのである。
『なあ、今回の勝因ってなんだと思う? もちろん俺らが連携慣れて来たから以外で』
『向こうが技の完成、連携の完成までで満足してたからじゃない? 最後のなんて慣れたらオールレンジ攻撃でしかないもの』
最後の四刀流は一瞬だけは圧倒できるものの、離れてしまえばそう大した攻撃ではない。
そして四機が連携して射撃し、残る一機が白兵戦で仕留めに行くS・フォーメーション。あれは本来、一機の強敵を葬る為の連携技だろう。
造り出し、練習した技をそのまま使えるから使ったに過ぎない。
『やっぱり完成させるだけじゃ駄目みたいだね。僕らも連携の密度も白兵戦のバリエーションやら頑張らないと』
『判ってはいたが、先は長いな』
三人が独自の技を構築しただけではそれほど有効ではなかったように、今回戦った敵フォース側もまだまだ未完成だったということだ。
あくまで同ランクの者たちが戦い、偶然こちらが精度を上げて居たに過ぎない。
強くなるには、更なる上を目指して行くほかないだろう。
と言う訳で今回は放送で見たアレを、最初の主題にしました。
本当は砂漠で八百機相手に逃げ切る話で書いてたのですが、急遽大幅に挿し変えました。
遅くなったので朝に予約投稿。
●ガンプラ成形
ミッションによって設計図を入手し、ポイントを支払えば成形してもらえる。
このルールが実装時した時は設計図は基本的には消えるので、ドロップ品の一種と言える。
(後に詳しいことが放送されたら、そっちが新しいバージョンで、更新されたということにしています)
『S・フォーメーション(未完成版)』
本来は五機が竜巻の様に回転しながら、次々と同じ対象を攻撃、または全包囲へ攻撃する。
しかしながら連携不足なのと、機体の調達が間に合わずに白兵戦機体が混ざって居たので急遽変更されている。
後に装備や機体を調整して、本領を発揮する物と思われる。
『リゲルグ二重袖』
ドーベン・ウルフを参考に、腕を切り離して四刀流ができるようになっている。
本当はオールレンジ攻撃で射撃する数・角度を増やす他、白兵・防御など色々と利用される筈だった。
要するに思いついて改造を成功させた段階で、まだまだ戦闘バリエーションの絞り込みが終わって居ない。
なおクリスら三人と熟練度が大して変わらないのは、最初の抽選で数ではなく同レベルの相手を選んだため。