ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
今更通常版クローズドラゴンを購入しました。
やはり音声が良い……。
「入れ」
扉が小突かれて発生した軽快な音を合図に、室内にいた老人がしわがれた声でそう口にする。
パタパタと騒がしい小動物のような足音が聞こえ、難波重三郎は重そうな挙動で回転椅子を操作し後ろを振り返った。
「こんにちは会長!あたしに何かご用ですか?」
難波高校の制服に身を包んだ活気のある少女——葛城ユイ。
スカイウォールの惨劇以降も尚日本全土に勢力を広げている大企業、難波重工の会長に対して一介の生徒の身でありながらこのように軽薄な振る舞いができるのは彼女くらいのものだろう。
「よく来たなユイ。スクールアイドルとしての活躍はよく聞いている。あの小さかった子が……立派になったものだ」
「えへ〜やめてくださいよ会長〜」
緩みきった表情ではにかむユイ。……が、その無機質な笑顔を硬直させたまま続けて重三郎へ尋ねる。
「……で、本題は何でしょう?」
幼い頃に両親を失った彼女は難波重工の傘下にある施設で育てられ、並外れた頭脳を評価されたことで現在は企業に一役買うほどの人員となっているのだ。
「近頃、誰かさんのおかげで世間も物騒になってきただろ?……そろそろ新兵器についても考えてもらいたいと思ってな」
「たはー!ずいぶんと急ですね!いくらあたしがすごくて最高で天才って言っても限度はありますよー?」
ユイの大袈裟なジェスチャーに対して特に反応を見せない重三郎。長い付き合いなだけあって彼女の扱い方はわかっているのだろう。
「……まあ、できなくはないですが」
「お前ならそう言ってくれると思ったよ」
「ただし一つ条件があります」
「…………言ってみなさい」
ふふ、と視線を逸らしたユイが怪しく笑う。
「その兵器を使う人材、あたしに決めさせてください」
「構わないが……それは"施設"の人間か?」
「いいえ、でもウチの生徒ではあります。ご心配は無用です、実力はあたしが保証しちゃいますので」
胸を張ってそう語るユイの瞳に影が差す。
不思議なものでも見るような顔を浮かべる重三郎に、彼女は静かな声音でその人物の名を伝えた。
「…………万丈リュウヤっていう子なんですけど」
「お行儀悪いよユイちゃん。…………勝手に決めて大丈夫だったの?」
部室内に設置されてあるソファーでゼリー飲料を咥えながら寝そべるユイに向けて、ミカの不安げな疑問が投げかけられる。
「平気だよ。万丈くん優しいし、お国のためって言えばきっと働いてくれるって」
「そんな簡単にいくのかな…………仮に戦争が始まったとして、ユイちゃんはその後どうするつもりなの?」
難波重工が自分達の兵器をアピールするために戦争を引き起こしたいと考えている政府に加担している、ということは聞いた。しかしユイがここまで積極的な理由がミカにはわからなかった。
「戦争なんか起こしたら……その……スクールアイドルだってできなくなっちゃうよ……?」
「なーにを言ってるのかなみーちゃんは。
ソファーから跳ね起きたユイは心底胡散臭く口元をつり上げると、拳を自分の胸に当てて唱えた。
「全ては難波重工のために……ってね」
◉◉◉
「これとこれで…………」
足の踏み場もない地下室でセーラー服の少女が何やらボトルの群と向かい合っている。
緑色のパネルに二本のフルボトルを差し込む千歌だったが、特にこれといった変化は起きない。
「あれ?光らない…………」
「勝手に触んじゃないよ」
「わっ!?」
彼女の背後から手を伸ばしたキリオがテーブルの上にあったパネルを取り上げる。
「なにするのー!?」
「こっちのセリフだ。俺の研究室に無断で入るのはやめろっていつも言ってるだろ」
「仕方ないでしょ!まさか自分の家の地下が……実は仮面ライダーの秘密基地だったなんて、気にならないわけないじゃん!」
キラキラした瞳が迫り思わず仰け反る。
千歌がビルドの正体を知ったあの日から、彼女はよくキリオの研究室へ足を運ぶようになった。以前までは「埃っぽいからやだ」と近寄りもしなかったくせに。
「ま、俺のすごくて最高で天才な発明に興味が湧くのは当然と言えるか……」
「あっ!もしかしてこれで変身するの!?」
「………………」
キリオの話に微塵も耳を貸す気がない千歌は傍にあったビルドドライバーへと歩み寄る。
「もしかして……私でも変身できちゃったり……?」
「無理だな」
千歌の手からドライバーを取り上げ、パネルと共にフルボトルの隣へ置きつつキリオは説明口調で語り始めた。
「……特別授業だ。ネビュラガスのことは知ってるな?」
「え?確か……スカイウォールから出てるガスのことだっけ?」
「そうだ」
ホワイトボードに文字を走り書きしていくキリオ。
ビルドのことを知られてしまった以上、千歌には中途半端な知識で放っておくよりも内情をある程度把握してもらったほうがいい。
……彼女自身の安全のためにも。
「人体にそれを注入すると当人の“ハザードレベル”に応じて変化が起きるんだ」
「ハザードレベル……?」
ハザードレベル————それはネビュラガスに対する耐久力とも例えられる。
ガスを注入して間もなく死に至るケースが“ハザードレベル1”。スマッシュに変化する場合は“ハザードレベル2”。
大方の一般人ならばこのレベルがほとんどだが、ごく稀に“2”を超える人間が存在する。
「そいつらはガスを身体に取り入れてもヒトの姿を保っていられる。……そして“ハザードレベル3”を超える者は——」
「……仮面ライダーになれるってこと……?」
突然真剣な眼差しでこちらを見据えてきた千歌と視線が交わる。
「それってつまり……キリオくんも、身体にガスを入れてるってこと?」
彼女がやけに仮面ライダーについて尋ねてくる本当の理由に気づいたキリオは、バツが悪そうに顔を逸らした。
「……俺が心配ってか?」
「……ネビュラガスは解明されてない部分も多いから危険って……授業で言ってたよね?」
「そういや言ったかもな……よく覚えてないけど」
キリオは緊張感のない様子でそばにあったポットで湯を沸かしつつ、適当に手に取ったボトルで何気なく“実験”を始めていく。
「安心しろって。俺は身体にガスなんか入れてない」
「え?……どういうこと?」
「さあ?俺にもよくわからんが……最初からハザードレベル3を超えた逸材ってことじゃないか?」
自慢気に語るキリオがコーヒーを注ぎながらさらりと口にする。
そう、少なくともキリオは自分の身体にネビュラガスを注入した覚えはない。
スマッシュが現れ、それに対抗すべく開発したライダーシステム————ビルドは最低でも“3”以上は必要だということは最初からわかっていた。
しかし物は試しに……と、人体実験を行う前に一度ドライバーを使用してみたのだ。するとどういうわけか変身できてしまった。
「……話は終わりだ。お前が気にかけるべきは俺じゃない、スクールアイドルだ。わかったらとっとと回れ右して練習にでも行ってこい」
「…………」
言葉に詰まった千歌は何も言えないまま背を向け、静かに旅館へ繋がっている階段へと足を進める。
「————信じてるから」
「……ん?」
去り際に聞こえた声が反響して耳に残る。
その意味を理解することができなかったキリオは、首を傾けては気を紛らわすようにコーヒーを口に含んだ。
「……!まっっず!!」
◉◉◉
北都——函館聖泉高等学院。北海道で最古の歴史を持つ由緒正しい学校だ。
近年ではスクールアイドルである“Saint Snow”が力をつけており、その人気は西都の“Bernage”や東都の“Aqours”に匹敵するという。
「……クソッ!みんな好き勝手言いやがって!」
パソコンを前にした一人の少年——猿渡タクミが不愉快そうにそう吐き捨てた。
「落ち着いて猿渡くん」
「聖良さん……!?」
冷静な雰囲気で彼を遮ったのはSaint Snow————そのメンバーの一人鹿角聖良だ。
「私達がやることは変わらないわ。……これからも、ファンの方々の心の支えになるようなライブをする。ただそれだけよ」
「……だってよ……二人は関係ないってのに……」
「ネットの評価なんて気にするだけ無駄よ。いいから落ち着きなさい、タクミ」
隣で頬杖を突く少女——鹿角理亞に制されたタクミは渋々椅子に腰を下ろした。
西都で起きたスマッシュの襲撃事件が起きてから……異常なまでに北都へのバッシングが行なわれている。それも何者かが印象操作をしていると明白なほど。
それだけならまだ良かったものの、よりによってSaint Snowにまでも矛先が回りつつあったのだ。
「……胸糞悪い」
じっとしていられなくなったタクミは部室を飛び出し、あてもなく歩き続けた。
聖良と理亞……あの二人だって平気そうに振舞ってはいるが気にしていないわけがない。
————なにがいけない?どうしてこんなことになった?
スクールアイドルのおかげで保たれてきた平穏が崩れつつあることはタクミだけじゃなく日本中の人間が気づいている。
スマッシュとかいう怪物を操り、この国を混乱に陥れようとする黒幕が存在するはずなんだ。
「可哀想に……世間は勝手な奴で溢れてるよなあ」
「……あ?」
不意に顔を上げたタクミは、唐突に現れたその“赤”に目を見開いた。
胸と顔にあるコブラのマークが不気味な印象を刻みつける怪物。
「なんだお前……?」
「オレはブラッドスターク。……迷える子羊に足掻くための“力”を与える者さ」
「なんだと……?」
ひょろひょろとふざけた足取りでこちらへと近づいてくるスターク。隙だらけなはずなのに全方向に鋭い威圧感を放っている奴からは形容し難い恐怖を感じさせられる。
「近々、西都か東都の軍が北都へ侵攻してくる。スマッシュを操る悪を粛清するという“正義”の名の下にな」
「はあっ……!?何言ってんだお前……!北都がスマッシュをけしかけてるなんて完全な言いがかりだろうが!!」
「真偽は関係ないさ。武力で圧制できればその後はどうとでもなる。……だがまあ、北都の首相も黙っているわけじゃあないらしくてな、やられる前にやるって方針らしい」
スタークはタクミの真横までやってくると、その濁った赤色の手で彼の肩を掴み、耳元で怪しく囁いた。
「北都を率いる“新兵器”…………その候補者を募集し始めた。オレはそのスカウトマンってところだな」
「…………はっ……胡散くせえ。他を当たりな」
「————鹿角聖良に鹿角理亞」
去ろうとしたタクミの足がスタークの一言で瞬時に止まる。
「Saint Snowにありもしない悪評を垂れ流しているのが……西都や東都の人間だとしたら?お前はそれでも指を咥えてただ見てるだけのつもりか?」
「……おい、待てよ……どういうことだ?」
「詳しいことは、敵さんに直接聞くといい。————じゃあな」
「なっ……!おい待てッッ!!」
霧に包まれ見えなくなっていくスタークの姿を追いタクミは手を伸ばす。
空を掴んだ彼は、その握り拳を手元に引き寄せ————歯を強く軋ませた。
「……
早くも戦争編に突入しそうな感じが……。
そしてどこにでも現れるスタークは通常運転ですね。
タイトルにあるサイエンティストはキリオとユイを指しているわけですが……なぜこの二人なのかというのが鍵ですね。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。