ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
これぞビルドって感じの映画でしたね。自分的には大満足な作品でした。
第14話 三都のソルジャー
「ワンツースリーフォー!ワンツースリーフォー!」
グラウンドの一角でダンスの振り付け練習に励む者が二人。
鹿角聖良は前方の脚立に置いてあるスマートフォンに目線を集中しつつも、時折隣で同じ動きをしている妹へ視線を送っていた。
「一旦ストップ」
やがて目を伏せ、身体を休めた聖良はフォームの確認用に設置してあったスマホを取り上げ、普段の気力が見られない妹——理亞の方を見やる。
「またワンテンポ遅れてるよ、理亞」
「……ごめんなさい」
今日は練習を始めてから————いや、ひと月ほど前からずっとこの調子である。
原因は……考えるまでもないだろう。
「猿渡くんとはまだ連絡つかないの?」
「……うん……」
猿渡タクミ。前回のラブライブが終わった後、自分達Saint Snowのマネージャーをしたいと駆け込んできた少年。
動機は「Aqoursのルビィちゃんとお近づきになれるかもしれないから」という不純極まりないもので、当初はきっぱりと断らせてもらった。
結局はあまりにもしつこく懇願されたことでこちらも折れてしまったわけだが。
もともと理亞のクラスメイトであったからかすぐに打ち解け、時間が経つにつれてタクミが根は真面目な人間だとわかった。
————そんな彼も、一ヶ月ほど前から音信不通。それが原因で理亞も練習に集中できなくなってしまっている。
「……いつもなら私達よりも先に来て、頼んでもいないのに勝手にお弁当用意してたり、勝手に模様替えしたり……勝手に、部室の掃除したり……してるはずなのに」
理亞の言う「いつも」が随分と昔に感じる。
気にせず練習に励めと言いたいところだが、タクミが急に姿を見せなくなったのは確かに変だ。
「……最近広まってる噂と、なにか関係があるのかも」
「理亞」
「姉様だってそう思ってるんでしょ!?タクミの奴……ずっと私達のこと気にかけてくれてた……きっと変な口車に乗せられて……!」
「少し落ち着きなさい!」
捲したてる理亞に向かって聖良の声が被さる。
……近頃、北都は東都と西都に戦争をしかけるつもりだという話が流れている。
そしてその“兵士”を集めるために、相応しい人材をスカウトして回っている者がいるとか。
「確かに、以前から猿渡くんの様子はおかしかった」
北都に対するバッシング、それは北都を代表するスクールアイドルであるSaint Snowにまで飛び火していた。
そのせいでタクミは東都や西都に強い敵意を向けていたことはわかっている。
けど————
「……戦争なんて、そんな……ありえないわよ。だったら私達は……スクールアイドルは何のために……!」
「……姉様……」
「二人して俯いて……なにかあったのか?」
背後からかけられた声に反応し、聖良と理亞は揃って後ろを振り返る。
「タクミ……!?」
「猿渡くん……?」
モッズコートを着込み、身体のあちこちに痛々しい傷を付けた少年がそこにいた。
「いやあ悪いな、ちょっと外せない用事があってさ。サボった分はきっちり働くから、安心してくれ」
「今までどこ行ってたのよ!?」
「うおぉ!?」
物凄い剣幕で迫ってきた理亞の顔に仰け反りつつも、タクミは視線を泳がせながら必死に口を動かした。
「まあ……それはあれだ……自分自身を鍛える旅だったり……」
「わけわかんないこと言ってんじゃないわよ……!」
「イダダダダ!耳引っ張るな!!」
止まっていた時間が動き出すように、理亞の表情に活気が取り戻される。
じゃれ合う猫のような二人を遠目で微笑ましく眺めていた聖良は、ふとタクミの着ているコートのポケットから何かが落ちるのに気がついた。
「これは……なんですか?」
ひょい、と何気なくソレを手に取る。
パッケージの形からしてゼリー飲料のようだが……見たこともない品名だ。
「“ロボットスクラッシュゼリー”…………?」
「…………ッ!」
「きゃっ……!」
不意にこちらへ飛び込んできたタクミは聖良が握っていた物を強引に奪い取ると、すぐさまそれを再びしまいこんで引きつった笑顔を見せてきた。
「すみません聖良さん、これは大事な物なんで」
「はあ……」
どうしても詮索する気にはなれなかった。
何事もなかったかのように帰ってきたタクミと、そのことを純粋に喜ぶ理亞。
聖良はこの光景から、なぜか不穏な空気しか感じ取ることができなかった。
◉◉◉
時は約一ヶ月前に遡る。
「西都の兵器になれ、万丈リュウヤ」
「兵器……?俺が……?」
牢獄から解放されたリュウヤはスタークに言われるがまま、薄暗い演習場のような場所へ連れてこられていた。
「お前のハザードレベル上昇率は他の奴らと比べても異常だ。西都の連中も歓迎してくれることだろう」
「他の奴ら……?さっきから何の話をしてんだよ!?わけわかんねえぞ!!」
「罪を帳消しにしてほしいんだろう?なら、素直に従え」
「だから俺は誰も襲ったりしてねぇんだよ!!」
スタークの挑発じみた言動を聞き、余裕のないリュウヤは奴のパイプ型マフラーを乱暴に掴んでは側にあった壁へ身体を叩きつけた。
「クハっ……!いいぞぉ……今のでまた少し、ハザードレベルが上がったか……!?」
「…………ッ……!」
反射的にドラゴンフルボトルを取り出す。
がむしゃらにそれを振り、成分の力を拳に乗せた後でスタークに向かって立て続けに打撃を放った。
「おいおいそう急かすな。慌てなくても、お前にはすぐに戦いの舞台を用意してやるよ……!」
流暢に喋りながらも正確にリュウヤの攻撃を受け止めていくブラッドスターク。
反撃に出るわけでもなく、回避するつもりもない。ただただ繰り出される攻撃を腕で防御するのみ。
まるでリュウヤの怒りそのものを受け止めているかのようだった。
「くそっ……!」
やがてリュウヤは疲れ切ったように膝に手をつけ、顔を伏せた。
「さて————オレも色々と忙しくてね、お前の相手はこいつらに任せる」
「あ……?」
スタークがその赤い腕を一振りすると、天井に取り付けられていた機器が作動。
リュウヤの目の前に数体のスマッシュが形作られ、一斉にその牙を剥いてきた。
「なっ……!!」
「わからないことがあったらなんでも教えてやるよ。……次に会う時に生きていれば、の話だが」
「テメェ……!待ちやがれッ!!————クソッ!!」
戦闘を強いられるリュウヤに背を向け、スタークはあっさりとその場を立ち去ろうとする。
「オレの期待を裏切らないでくれよ」
表情の見えないマスク。その下で奴は確かに————笑っていた。
西都のとある地域にひっそりと建てられている孤児院、そこが万丈リュウヤの家だ。
「あのー!こんにちはー!!」
小柄な身体から精一杯出された声が施設内に響く。
スリッパの音と共に玄関へやってきた中年の女性は、突然現れた少女にきょとんとした顔を向けつつ彼女へ尋ねた。
「えーと、どちら様でしょうか?」
「初めまして、万丈さん……ですよね?あたし、リュウヤくんのクラスメイトの葛城という者なのですが……」
「あらまぁ!リュウヤの!————立ち話もなんだから、どうぞ上がって」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
愛想笑いを振り撒きつつ、ユイは靴を脱ぎ揃えて孤児院のロビーへと足を踏み入れた。
「こんにちはー!」
「ふふ、こんにちは。元気いいね」
廊下を歩いている最中で通りすがりの子供達が挨拶を交わしてくる。皆この施設で不自由なく暮らせているようだった。
「おねえさんだれー?」
「リュウヤお兄ちゃんのカノジョ?」
「あっ!テレビで見たことあるよ!」
「こらこら、お客さんに失礼しちゃダメでしょ」
「あはは、ぜんぜん大丈夫ですよ〜」
しばらく歩いた先にあった主任室に招かれ、この施設の責任者であろう女性と面と面を向かい合わせた。
「じゃあ……まだ帰ってきてはいないんですね」
「ええ。……クラスメイトの子なら、何か知っているんじゃないかと思っていたのですが……」
「ごめんなさい、あたしも……わからないことばっかりで」
リュウヤが殺人未遂犯として連行されてから一ヶ月以上経つ。
免罪だったという報道もないまま時間は流れ、事件の真相はうやむやになりつつあるのだ。
「……あの子はバカだけど、殺人なんて本当に馬鹿な真似はしないはずだよ。それは……親である私が一番わかってる」
「——————」
「ユイちゃん……だっけ?」
「あ……はい、そうです」
一瞬肩を震わせ、俯いたユイが気を取り直して口を開く。
「あたしも……そう思います。万丈くんはそんなことしないって、あたし信じてます」
施設を出て少し進んだ先に建っている電柱。その陰に身を潜めている者へと歩み寄る。
「おまたせみーちゃん」
「あ……どうだった?」
「うん、大丈夫。情報が漏れた様子はなかったよ」
ゆっくりと歩き出しながらそう口にするユイ。
計画は順調だ。
東都、西都、北都、それぞれ核となる人間の配置は済ませた。あとはシナリオを進めるだけ。
「そろそろみーちゃんにも頑張ってもらわないとね」
「…………」
「ね、みーちゃん?」
「あっ……ぅ…………うん、頑張る……よ……」
消えそうな声で返事をするミカを尻目に、ユイは空を見つめながら自分にしか聞こえない音量でポツリと言った。
「唯一危険分子になる可能性があるとすれば————あの王妃、か」
◉◉◉
政府官邸からの連絡を受けた直後、キリオは即座に浦女を離れ首相のもとへ向かっていた。
スマートフォン型のアイテムである“ビルドフォン”を変形させたバイク、“マシンビルダー”を走らせながらも思考を巡らせる。
(なにがどうなってる…………!?)
北都はどうして東都に攻撃を……?急すぎる。あまりにも。
首相はいったいなにをしていたんだ。こうなるのを防ぐために他の首相達との会議を開いたのではないのか?
「塔野首相ッ!!」
息を切らしながらノックもせずに執務室の中へ飛び込んでいく。
待機していた複数のガーディアンと警備員達が一瞬銃口を向けるが、首相の一声でそれらを下ろした。
「よく来てくれた」
「さっきの電話は……どういうことですか?」
「言った通りさ。北都の連中が、この官邸を目指して侵攻中だ」
表情を崩さないままそう語る首相に眉をひそめつつ、キリオは傍の机に置いてあったパソコンの画面に目を移した。
進行してくる北都軍と東都軍の防衛戦。リアルタイムでの戦況が映し出されている。
「今までなにを……していたんだ!あなたは!!」
思わず一歩踏み出すキリオだったが、瞬時に動き出したガーディアン達によって羽交締めにされてしまった。
「いや、本当にすまない。私としても最善を尽くしたつもりだったのだが……聞く耳持たずでね。君にはこれからすぐに現場へ向かってもらいたい」
「誰が……!!」
「嫌とは、言わせないぞ?」
「…………っ」
ふとパソコンから聞こえてくる音声が耳朶を打つ。
弾丸の飛び交う音や爆発音に紛れ、逃げ惑う人々の悲鳴が映像を通して聞こえてくるのだ。
————放ってはおけない。
「くっ……そ……!!」
「決まりだな」
にやり、と本性を現したように笑った首相を睨みつけ、キリオは身体の自由を奪っていたガーディアンを強引に引き剥がした。
「ああそれと……これは吉報だな。西都の軍が我々に加勢してくれるそうだ」
「西都が……?」
「ああ。————ちょうど着いたみたいだ」
何者かが扉を開き、部屋に足を踏み入れる音。
背後から感じた気配を察知し、キリオは警戒しつつ後ろを振り向いた。
「お前は————」
「……!あんた————」
顔の数カ所にガーゼや湿布が貼られている痛々しい風貌。
青いジャケットを羽織った高校生らしき少年。
「紹介しよう、彼が西都から派遣された兵士、万丈リュウヤくんだ」
なんと西都が東都の味方に……?
ということはスターク達も……?
テレビシリーズとは一味違った戦争編の開幕です。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。