ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
北都編もクライマックス。
さて、前回ハザードフォームに変身したキリオでしたが……?
————この世に生まれ落ちてきて、最初に出会った少女の顔を覚えている。
「こんなところで寝てたら、風邪ひいちゃいますよ。ほら、起きて起きて」
頰に伝わる砂の感触。
何もわからない。己のことでさえ。
そんな自分に、少女は何をすべきか教えてくれた。
「記憶喪失?」
「らしいのよねえ……どうしようかしら?」
「たぶん外国の方……だよね?髪白いし……」
困ったような表情を浮かべる女性達に囲まれ、頭のなかを探りながらただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
「じゃあ、どこのお家に住んでたか思い出すまで、ウチにいたらいいよ」
「バカ千歌、そういう問題じゃないの」
確かそこで、「千歌というのか、君の名前は」と尋ねた気がする。
その幼い矮躯で大きなアクションを繰り出していたのがとても印象に残っている。
「うん!————あ、そうだ!みかん食べる?」
差し出された鮮やかな色の物体を受け取り、どうすればいいかわからずにそのままかぶりついた。
忘れるわけがないとも。…………みかん、オレンジ、橙色の果実。
————初めて取得した、自分を形作ってくれる
◉◉◉
きんきんとした耳鳴りが頭のなかを何度も反響する。
拳の感覚がなくなってもただひたすら向かってくる敵を殴り続ける。
「————!」
幾度も、幾度も、幾度も幾度も幾度も。
加減する必要なんかない。奴は自分にとって不要な存在なのだから。
だから————
「なぜだ……!?なぜ攻撃が通らねえ…………!!」
狼狽する金色の戦士を捉え、その打撃をいなしながらカウンターを叩き込む。
「がっ……!」
「消えろ」
《ガタガタゴットンズッタンズタン!ガタガタゴットンズッタンズタン!》
《Ready go!!》
《ハザードアタック!!》
禍々しいオーラを足へと宿し、遠心力を活かした回し蹴りをグリスへお見舞いする。
「ぐあああああッッ……!!」
数十メートル先まで吹き飛ばされたグリスを一瞥した後、キリオは腰に巻かれたドライバーに挿入されている物へと視線を落とした。
————“ハザードトリガー”……スタークから渡されたビルドドライバー用の強化アイテム。
一時的なものだろうが、自分のハザードレベルが急激に上昇していくのを実感できる。なるほど、確かにこれならグリスを圧倒できる。
だが油断はできない。今の自分はおそらくネビュラガスを注入されながら戦っているのと同義。スタークの言う“デメリット”とやらがわからない以上、短期決戦を狙うのが賢明だろう。
「がはっ……!ゲホッ!!ゲホ……ッ!!」
「……まだ動けるとはな」
「テメェ……そいつをどこで手に入れた……!?」
「あ……?」
よろよろと立ち上がったグリスがハザードトリガーを指しながら問う。
……逆にどうして奴がコレの存在を知っているのか聞きたいところだが、
「お前が知る必要はない」
「へっ……!イキってんじゃ……ねえぞ……っ!!」
《シングル!》
《ディスチャージボトル!》
《潰れな〜い!》
腕に装着されたツインブレイカーとドライバーへ、合計2本のフルボトルを装填したグリスが再度突撃してくる。
右手からプロペラ状に変形させたヴァリアブルゼリーを噴射し、それを前方に構えながら突進してきた。
ツインブレイカーからは
(…………身体が軽い)
なんだかとても頭が冴えている。今ならなんでもやれる気がする。
《タカ!》
《ガトリング!》
《スーパーベストマッチ!!》
「ビルドアップ」
《アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!!》
《ヤベーイ!!》
ボトルを交換し、装甲を換装しつつ武器であるホークガトリンガーを取り出す。
眼前に迫るプロペラの回転から逃れるために背中からタカの成分を使った翼を形成。真上へと飛翔する。
「そうくると思ったぜ……!」
「……!」
急遽身体を捻ったグリスがそのまま片腕を上空に向かって大きく振り回し、ツインブレイカーから伸びたツタでキリオを拘束した。
「ラァッッ!!」
「…………っ」
キリオが地に叩き付けられ、同時に巨大なクレーターが出来る。
この隙に仕切り直しを図ろうとするグリスだったが…………。
「ぐっ…………!?」
距離を取ろうとした直後に無数の弾丸が全身へと撃ち込まれた。
「遠距離攻撃……!このためにボトルを変え————」
「逃がさない」
地面を後ろへ蹴り上げる。
クレーターのなかにさらに巨大な穴を作りながら、漆黒の戦士がミサイルの如き速度で前へと跳んだ。
《ラビット!》
《タンク!》
《スーパーベストマッチ!!》
再びラビットタンクハザードへとフォームチェンジを遂げた後、左の拳を一気に引く。
詰めだ。このまま空いた右手でベルトのレバーを回せば必殺技が発動し、その直後に左手の拳が奴の頭を吹き飛ばすことだろう。
あの体勢から防御には移ることは不可能。渾身の衝撃はグリスへとフルに伝わり————奴は確実に死ぬ。
(これで……戦争が終わる……っ……!!)
グリスさえいなくなれば北都の軍はあっという間に崩壊する。そうなれば東都の勝利は揺るぎないものになる。
晴れて平和な世界が戻ったことで、また千歌達が笑顔でスクールアイドル活動ができるというわけだ。
(この国の平和を……俺の手で取りもど——————)
刹那、
(あ…………?)
グリスに到達するまで残り数メートル。そんな時のことだ。
キリオの方から、1本のフルボトルが宙へ放り投げ出された。
ホルダーから抜けてしまったものだろうか。これだけ激しくやり合っていたのだからあり得ないことではないが。
まあいい、後で回収すれば…………。
「——————」
そのフルボトルを視界の中心に捉えた瞬間、キリオは自らの足が悲鳴をあげるほどの力を振り絞って、グリスへと向かっていた身体を静止させた。
(
オレンジ色を煌めかせている1本のボトル。
キリオが唯一戦闘に用いたことがない、1人の少女がくれた思い出がこもったボトルだった。
————『キリオくんには…………誰かの命を奪うようなことは、して欲しくない』
「——————ぁ……ぐ……!」
————『みんなの正義のヒーローでいて欲しい……!』
「くっ……!そおおおおおおおオオオオオオオッッ!!!!」
行き場を失った拳を地面に思い切り叩きつける。
凄まじい衝撃波がコンクリートを粉砕し、黒い腕が地中を貫通する。
「うわっ……!?」
キリオが持てる全ての力を注いで放った一撃は、その余波ですらグリスの身体を大きく仰け反らせ、尻餅をつかせるほどの威力を備えていた。
(落ち着け……!なにか違う……!——俺は何をしようとしていた……!?)
ダメだ、人を殺すのはダメだ。そんなことをすれば千歌達が————
だが奴を始末しなければ戦争は…………!!
「いっ……つ……!?」
ズキリ、と太い針で刺されたような痛みが頭部を駆け巡る。
身体が燃えるように熱い。制御が効かな——————
(まずい……長く使いすぎたか……!?早くトリガーを抜かないと————)
突然襲ってきた正体不明の頭痛に底知れぬ恐怖を覚えたキリオは、すぐさまハザードトリガーを外そうと手を伸ばす。
…………しかし、
「——————」
◉◉◉
「……ん」
やけに騒がしい雰囲気を感じ、黒澤ルビィは重い瞼をゆっくりと開けた。
「ルビィ!」
「お姉ちゃん……?」
目が覚めたルビィに最初に気がついたのは姉であるダイヤだった。
強く抱きしめてくる姉の背中に手を回しながら、ルビィは周囲の状況を確認する。
「ルビィちゃん、大丈夫ずら……?」
「痛いところとかない?」
こちらを覗き込みながらそう尋ねてきたのは花丸と果南。
よく見れば今いる場所は政府の官邸でも部室でもなく、体育館の中だった。
避難所に指定されたからなのか、自分達の他にも多くの一般人が流れ込んできている。
「あれ……?どうなってるの……?」
「聖良さん達の学校ですわ」
「まさかルビィが捕虜として捕まってたなんて……」
「東都軍の人達が助けてくれたからよかったけど……危ないところでしたね」
胸をなでおろす聖良達を尻目に、ルビィは落ち着かない様子で視線を泳がせていた。
「もう大丈夫よ、ルビィ」
穏やかな笑顔でそう笑いかけてくる理亞と目を合わせる。
「理亞ちゃん……さっきのは……?」
「しーっ…………私とダイヤ……それにルビィがスマッシュになっちゃったことは内緒ね」
「う、うん……」
頭がぐらぐらする。
数時間前に何があったのか、まだよく整理できていない。
理亞の顔から視線を外すのと同時に、ルビィの脳裏に1人の少年の姿がよぎった。
「そうだ……!タクミくんは……!?」
「……!……あんな奴、もうどうでもいい。ルビィを狙って私達に近づいたりして……!」
「そんな……!違うよ理亞ちゃん!タクミくんはルビィのことを助けようとしてくれたんだよ!」
自分の聞いた話と食い違っていることに気がついたルビィは、すぐに理亞へそれを伝えようとした。
「は……?」
「タクミくんは……北都で私の身体を元に戻す方法を探してて……!政府の人達に引き渡すつもりは、本当はなかったって……!!」
突拍子もないルビィの発言に思わず声を漏らした理亞は、困惑に満ちた顔を見せる。
「ちょっと……意味わかんないんだけど……?なによ……それ……?」
『……ス!グリス!?』
「首相……!?」
ビルドと対峙していたその時官邸からの通信が入り、タクミは半分の意識を前に向けたまま、首相の話に耳を傾ける。
『なにをしているの!?』
「なにって……絶賛ビルドの相手をしてる途中だが」
『なんですって……!?さっさと引導を渡してやりなさい!!もうとっくに前線は破られている……!!東都の軍が目の前まで迫ってるわ!!』
「なっ……!」
知らされた状況を聞いて、タクミの顔から一瞬で血の気が引いた。
…………やられた。このままでは北都軍は完敗だ。
そんなことになったら……!!
「聖良さんと理亞が————」
自分を睨む少女の瞳を思い出す。
自分に残っているのは、もう戦いだけ。そのはずなのに…………。
(守りたいものは……そう簡単には変えられないってわけか)
ぐっと拳を握りなおし、前方に立つ黒い戦士へと構える。
まだ諦めるわけにはいかない。ここで俺が倒れるわけには————
「なんだ……?」
ビルドは赤と青の複眼をこちらに向けるばかりで、動こうとしない。
明らかにさっきと様子が違————
《マックスハザードオン!》
「あぁ…………?」
ビルドドライバーに取り付けられた、ハザードトリガーのスイッチがビルドの手によって押し込まれる。
《ガタガタゴットン!ズッタンズタン!ガタガタゴットン!ズッタンズタン!》
《Ready go!!》
《オーバーフロー!》
「——————」
「…………!?」
防御————そう思った時には、既に自分の首元へ打撃が入っていることに遅れて気がつく。
「つ……っ……!?」
間髪入れずに飛んでくる、驚くほど正確な急所への攻撃の乱舞。
(こいつ…………!!)
「——————」
言葉はいらないとばかりに、掛け声もなしに無言のまま繰り出される拳と蹴り。
人間らしい感情など一切感じ取れない、まるで一種の殺人マシーンに成り果ててしまったかのようだった。
(なるほど……これがハザードトリガーの力か……!!あの蛇野郎ッ!!)
長時間使い続けることにより脳への刺激が限界を超え、一定の時間を過ぎれば理性を失いながらも目の前の相手を殺すことだけを目的とする戦闘兵器が完成する。
奴はこんな物を……自分にも使わせようと————
「がっ……!!」
「————」
鳩尾による一撃が脳天まで響く。
嘔吐しそうになるのをこらえ、必死に敵の動きを捉えようとするが、ビルドはそれすらも許さなかった。
顔面に強烈な蹴りが薙ぎ払われ、脳が揺れる。意識が飛びそうになる。
(ああ、これはダメだ)
死ぬ。直感ではなく体感でそう感じた。
「り……あ……」
「————ろ!」
黒い、とどめの一撃が迫る。
「————めろ!!」
奴は躊躇いもなく、自分の命を奪おうと————
「やめろって言ってんだよ!!キリオォォォオオオオオオッッ!!!!」
遠くから飛んでくる、必死な叫び。
青い戦士は、タクミを殺そうとする黒い戦士に向かって————
《Ready go!!》
《ドラゴニックフィニッシュ!!》
蒼炎をまとった蹴りを放った。
冒頭でキリオの髪が白い、という描写がありましたが、これは十千万で保護されたばかりの頃の話で、現在の彼は黒染めにしています。
ここまで言っちゃうとほぼ真相がわかっちゃいますね……。
みかん、もといオレンジフルボトルがここにきて重要なポジションに。
以前にも一度登場した時に鎧武フォームは出しません的なことを言いましたね。そうです、今回のような感じでストーリーに絡ませていきます。
そしてラストに駆けつけたリュウヤ、そしてキリオとタクミの運命は……!?
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。