ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

32 / 81
3月に入りましたね。
メビライブが完結してからもう1年経つとは……時が流れるのは早いものです。

今回で北都編はラストかな?


第31話 救えドラゴン

「ミカちゃんとユイちゃん…………いったいどこに行っちゃったんだろ」

 

 

無駄に広い生徒寮の中をしらみつぶしに徘徊しながら、桜内梨子は困った様子でそうつぶやく。

 

現在西都にいるAqoursメンバー3人にBernageの2人を加えたライブ…………その企画について相談しようとユイ達を探していた梨子だったが、いくら建物内を歩いても彼女達が見つからない。

 

ユイとミカは普段から一緒にいることが多い。

 

まあその点だけを見れば梨子達もそうだが、Bernageの2人に関しては単に仲がいい友人同士というよりは家族間のそれだ。

 

いつもなら1日に2度3度は必ず彼女達に出くわすのだが…………。

 

(さすがにまだ寝てるってことはないだろうけど……一応部屋の方も確認してみようかな)

 

不気味なくらい静かな廊下を移動する。

 

時折難波高校の白い制服を身につけた生徒とすれ違うが、梨子のことは特に気にも留めない様子で彼女の横を通っていく。

 

 

 

 

「確か……ここだったよね」

 

突き当たりの扉の前で立ち止まり、札に「葛城」の文字があることを確認。ゆっくりとドアノブに手をかける。

 

がち、とロックがかかっている感触が手のひらに走った。

 

「あれ?」

 

思わず首を傾ける。ユイはまだこの部屋の中にいるのだろうか。

 

もうすぐ正午を回る頃だ。そういえばユイは朝起きるのが苦手で、よくミカにモーニングコールをもらうと話してはいたが……。

 

「ユイちゃん、いるの?」

 

小さくノックしつつ扉の内側に向けてそう尋ねる。

 

返事は聞こえない。

 

「もうっ」

 

肩をすくませて短い文句をこぼす。

 

ユイは未だ布団のなかで夢を見ている可能性が高い。

 

「ユイちゃ————」

 

先ほどよりも少しだけ声を張ろうとしたその直後。

 

 

 

 

「…………?」

 

カチリ、と何かが外れるような音が耳に滑り込んできた。

 

「ユイちゃん……?」

 

再びドアノブに触れ、扉を開けようとすると————

 

「あれ?」

 

ロックが解除されたのか、今度はあっさりと開くことができた。

 

「……ユイちゃん?」

 

梨子が薄暗い部屋のなかに向けてそう声をかけるが、それに応える者は誰一人としていなかった。

 

玄関で靴を脱いだ後、フローリングの床へ踏み出す。

 

奥に進むと良質な絨毯が敷き詰められたリビングが広がっており、同時に甘い香りが鼻をくすぐってくる。

 

壁際に設置されている棚にはスクールアイドルに関する雑誌やDVDが並べられており、部屋の主のイメージに反してきちんと整理整頓が成されているのが意外だった。

 

散らかっているとすればテーブル横にあるベッドが少し乱れていることぐらいだろうか。

 

「ユイちゃん、いるんでしょ?」

 

再度そう呼びかけてみるが、やはりユイからの返答はない。

 

彼女が留守だとすれば……先ほど鍵を開けたのは誰なのだろうか?

 

(……私の勘違いで、最初から鍵なんかかかってなかったのかも?)

 

だとすれば早く出た方がいい。勝手に散策するような真似はよくない。

 

 

 

 

 

 

——————こっちだ。

 

 

頭のなかで、はっきりとそう聞こえた。

 

「え?」

 

梨子は反射的に声の聞こえた方向へ顔を向けた。

 

背後に見える玄関…………確かにそこから声がした。

 

 

 

 

——————ここだ。

 

 

自分を呼ぶような、不思議な雰囲気をまとった声色。

 

気がつけば梨子は玄関まで移動し、懸命にその声を発している“何か”を探った。

 

(……あれ、ここって……?)

 

横にあった下駄箱————その一番下段の壁に、不自然な切れ込みがあることに気がつく。

 

「隠し扉……?」

 

軽く切れ込み部分を押し込むと、きい、と軋むような音と共にさらに奥に隠れていた小さなスペースが露わになった。

 

夜空に浮かぶ星のように、真っ暗な小部屋に一筋の黄金が輝いていた。

 

「バングル……かしら……?」

 

隠されてあった物をおもむろに取り出し、観察する。

 

金色に煌めく、電子回路のような変わったレリーフが刻まれている腕輪だ。

 

「どうしてこんなところに……?」

 

改めて下駄箱の隠し扉に視線を向けようとしたその時。

 

「きゃっ!?」

 

眩い光がバングルから発せられ、それはたちまち梨子の左腕手首に巻きついたのだ。

 

「えっ……!?ウソ、なにこれ……!?——————え」

 

急に意識が遠のき、目の前の光景がチカチカと点滅する。

 

 

 

——————すまない。

 

 

頭のなかで主張してくる……しかし不快感はない、弱々しい声。

 

その言葉を耳にした直後、梨子の視界は暗転した。

 

 

◉◉◉

 

 

——————どうして自分は、こんなにも必死に叫んでるんだ。

 

 

万丈リュウヤは走りながらふと疑問がよぎる。思えばあの日…………ユイに誘われてBernageとAqoursの合同ライブを訪れたあの日から、全てが変わったんだ。

 

初めて感じた途方もない怒り。他人のことでこんなにも熱くなれる人間だとはその時まで自分でも知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「目ぇ覚ませ!キリオ!!」

 

「——————」

 

物言わぬ殺戮兵器と化した黒き戦士に向けて立て続けに呼びかけながら、リュウヤは放たれる攻撃の数々を紙一重で回避する。

 

先ほどの一撃————クローズのドラゴニックフィニッシュをまともに受けたにも関わらず、ビルド()は動じることなくこちらへ向かってきた。

 

(意識がねえのに……無理やり戦わされてるのか……!?)

 

今のビルドにキリオの意思はない。たとえ変身者の骨や内臓が弾けたとしても、この暴威の化身は戦闘行為をやめることはないのだろう。

 

変身した人間をもパーツにしてしまう……恐ろしいシステムだ。

 

(ダメだ……下手に殴ればキリオが……!かといってこの状況じゃ手加減もできねえ……っ!!)

 

リュウヤは全ての意識を費やし、ビルドが繰り出す打撃の防御と回避に専念するが…………それも長くは保たない。

 

きっと根本的なスペックに開きがあるんだ。

 

————けど、

 

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

「——————」

 

ビルドの一瞬の隙をつき、低い姿勢をとりつつ渾身の右ストレートを最も厚い胸部装甲めがけて放つ。

 

衝撃を殺しきれずに後方へたじろいだビルドから離れつつ、リュウヤは感じた手応えに心のなかでガッツポーズをした。

 

(まだ()()()()……!スペック差があるんなら、突破口が開くまで粘ってやらぁ……!!)

 

格闘技の試合だって、そうやって強敵達に勝利を収めてきた。

 

ビルドの攻撃は急所をターゲットにしているのがほとんどだ。それさえ見切れてしまえば……!!

 

リュウヤ自身も気づかない間に、彼の身体は現在進行形で急成長していた。

 

————ハザードレベルという力が。

 

 

 

 

《ガタガタゴットンズッタンズタン!ガタガタゴットンズッタンズタン!》

 

《Ready go!!》

 

《ハザードフィニッシュ!!》

 

「いっ……!?」

 

 

仮面の下で笑みを浮かべたその刹那、ベルトのレバーを回転させたビルドが先ほどまでとは比べものにならないスピードでこちらへ肉薄してきた。

 

(はやッ————!?)

 

咄嗟に鳩尾の前で腕を組み、黒い一撃を受け止めようとする。

 

が、想像以上に重い一撃が入り、空気の槍が両腕を貫通して腹部まで到達してくる。

 

「ガッ…………!!」

 

水切りのように何度も地面へ身体をぶつけながら吹き飛ぶリュウヤ。

 

「ぁ……!がはっ……!!」

 

多少痛みに慣れている彼もすぐには立てなかった。

 

ゆっくりと歩み寄ってくるビルドを睨みながら、リュウヤは必死に思考を巡らせて次の一手を考える。

 

 

 

《ゴリラ!》

 

《ダイヤモンド!》

 

《スーパーベストマッチ!!》

 

 

「……ぐっ……!」

 

無言でボトルを入れ替えながら奴が近づいてくる。

 

「こんなところで……死ぬわけにはいかねえんだよ……!!」

 

全身に力を込めて立ち上がり、震える足で上体を支えながらビルドと対峙する。

 

「————」

 

奴が迫る。これ以上戦いが長引くのは危険だ。

 

刺し違えてでも、キリオを助け——————

 

 

 

「えっ……!?」

 

直後、リュウヤは横からの衝撃で突き飛ばされた。

 

誰かが自分を抱え、ビルドから遠ざけたことにほんの少し遅れて気づく。

 

「闇雲に戦うな」

 

「お前……!」

 

黄金色のスーツが視界に飛び込んでくる。

 

北都のライダー、グリスが自分の隣に立っていたのだ。

 

「助けてくれたのか……?」

 

「癪だが今は協力するしかねえみたいだ。…………仲良く心中するよかマシだろ」

 

「…………ああ」

 

ゆらりと方向転換したビルドが再度接近してくる。

 

「奴の腰。……ベルト部分にあるトリガーを狙え」

 

「あ?……よく見りゃなんだあれ。あんなの見たことねえぞ……?」

 

「あれが奴を暴走させている原因だ。外すでも破壊するでもなんでもいい、とにかく奴から手放させろ」

 

「……わかった」

 

グリスとタイミングを合わせて地を蹴る。

 

 

 

 

 

————どうしてこんなに頑張れるんだろう。

 

スカイウォールの惨劇が起こった5年前に天涯孤独の身となり、それからは自分のことを考えるだけでも精一杯だった。

 

だけど今、自分は1人の青年を助けるために命を懸けている。

 

いや、もっと前から…………リュウヤは他人の悔しさを代わりに晴らそうと奮闘していた。

 

(お前の影響……なのかもな)

 

戦兎キリオ————たとえそれが自分のためであるとしても、誰かを守るために戦う彼の姿は純粋にかっこいいと感じたんだ。

 

(なあキリオ…………お前が言う“自分を構成しているもの”に……俺は入っているのか?)

 

高海千歌、渡辺曜、黒澤ルビィ……。東都で出会った3人の少女は、キリオに深い信頼を寄せているようだった。

 

その信頼こそが、彼がこれまで築いてきたもの。創り上げてきた戦果だったんだ。

 

だから————!

 

「今だッ!!」

 

グリスがビルドの注意を惹きつけている間に、リュウヤはその懐へ潜り込んだ。

 

「キリオ……っ!!」

 

————だから、それを崩そうとする奴らが許せない。

 

頑張った奴らを嘲笑し、蔑みながらその努力を踏みにじる奴が許せない……!!

 

だからこそ自分が戦う……!悪意を持った奴らに泣かされた人の代わりに……!!

 

(俺がみんなの無念を晴らす……!!それが、戦う理由なんだッッ!!)

 

ビルドドライバーへ手を伸ばす。

 

「俺、頑張るから……!お前も自分の役目を果たせよ!!キリオオオオオッッ!!!!」

 

リュウヤはしっかりとハザードトリガーの持ち手を握りしめた。

 

《ハザードフィニッシュ!!》

 

しかしその直後、ビルドの放った禍々しい拳がクローズの複眼部分へと炸裂。

 

「が……っ…………!!」

 

視界が消えそうになる。

 

頭蓋に亀裂が走ったかもしれない。とてつもない刺激が痛覚を引っ掻いてくる。

 

けど止まるわけにはいかない。

 

リュウヤは破壊されたマスクから燃え上がるような瞳を覗かせ————

 

「ッッ…………!!オオオオオオオオオッッ!!!!」

 

朦朧とする意識を振り払い、握りしめた物を一気に引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……きゃは」

 

遠くで小さな人影が嗤う。

 

高台で足をぶらぶらと揺らしながら、決死の覚悟で戦う少年達を、まるでコメディアンでも眺めるような目でソレは言った。

 

「おもしろいアドリブだね、()()()()

 

 

 

 

 

 

 




一度は書きたかった面割れ。
ちょうど緊張感溢れるシーンがあったので今回挟んでみました。

さて次回からは西都編……と言いたいところですが、先に片付けておかなければならないことがありますね。
そう、スターク、オメエだよ。オメエの事だよ。

というわけで次回からの1、2話くらいはちょっとだけ重要な回になりそうです。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。