ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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タイトルにコブラがあるということは、ついに……。


第3話 血走りのコブラ

「いいかお前ら、くれぐれもバスの中ではうるさくしないように」

 

————はーい!!

 

 

 

西都にある会場へ向かうAqoursのメンバー達のためにバスをチャーターした。

 

今や彼女達は日本中で知らない人はいないというほどの有名人集団。

 

日は跨いでしまうが、この情勢下に別の地区で騒ぎを起こしたくはないので公共の交通手段は極力避けるようにした。

 

「さて…………」

 

必要なもの————自分のバッグの中にビルドドライバーと数本のボトルがあることを確認したキリオは、千歌達全員がバスに乗車したことを確認した後で車内に足を踏み入れた。

 

全員乗車したことを運転手に報告するとすぐにエンジンがかかり、長い道のりが始まる。

 

「…………寝るか」

 

到着予定は2日後の朝。会場との間にBernageの二人がホテルを予約しておいてくれたので宿の心配はしなくてもいい。

 

それまではボトルを浄化した時の疲れを癒して——————

 

「はい次、“ら”ね。キリオくんの番」

 

「…………何が?」

 

先ほどの忠告も虚しく何やら背後で騒がしくはしゃいでいるなと思っていれば、唐突に後ろの席に座っていた曜から声がかかった。

 

「なにって、しりとりだよ。もしかして聞いてなかった?」

 

「…………俺は寝るぞ」

 

「えーっ!?付き合い悪いなあ!」

 

「今は頭動かしたくないんだよ」

 

「そんなこと言って…………負けるのが怖いんじゃない?」

 

「あ?」

 

横から聞き捨てならない言葉が飛び出し、閉じていた目を開いては発した本人を見やる。

 

「なんだと津島……?」

 

「ヨハネよ!適当なこと言って逃げるなんて男らしくないわね!」

 

「そうだよキリオくん!」

 

「男を見せてよ!!」

 

善子を皮切りに次々に上がる罵詈雑言。

 

自分達の遊びにキリオを引き込む作戦だと重々承知だったが、言われるままという状況は耐えられなかった。

 

「なめんなよお前ら!!“ラビット”!!」

 

「よしきた!!」

 

さらに騒がしさを増したキリオ達の被害を最も受けている運転手は、苦笑しつつそのハンドルを切るのであった。

 

 

◉◉◉

 

 

「じゃあ30分間トイレ休憩入るから……、11時までにはバスに戻ってくるように」

 

————はーい。

 

 

 

三時間ほど移動した後でサービスエリアにバスを止めてもらい、飲み物等の調達に各々が施設内へと歩き出す。

 

結局あの後は一睡もできなかった。もう二度と千歌達のテンションには乗らないと心に決め、キリオもまたドリンクを購入しようと傍にあった自動販売機に歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、周囲から広がるようにして上がった悲鳴に反応し視線を横へ流した。

 

「……なんだ…………?」

 

駐車場から逃げ出していく一般人の波に逆らって、キリオは数メートル先に立つ奇妙な影を見据える。

 

血のように赤い身体。マスクと胸に描かれたコブラのマークとマフラーの如く首元に巻かれたパイプが特徴的な————

 

「……スマッシュ……か?」

 

「うーん……外れだ。ま、初対面じゃあ仕方がないか」

 

ふらふらと緊張感のない足取りで距離を詰めてくる赤い戦士を前にし、キリオは咄嗟に周りの人目を確認した。

 

(……千歌達は中にいるか)

 

建物の陰に隠れたキリオはすぐさまビルドドライバーを腰に巻きつけ、二つのフルボトルを取り出す。

 

「オレの名は“ブラッドスターク”。…………以後、お見知りおきを」

 

わざとらしい口調でお辞儀を見せた奴に対して警戒心をむき出しにしつつ、探りを入れていく。

 

「内浦にスマッシュを送り込んでいたのはお前か?」

 

「……ハハッ……!今度は正解だ!ご褒美に遊んでやるよォ……!!」

 

「…………!!」

 

反射的にスタークが構えたライフルの射線上から逃れ、放たれた弾丸を回避する。

 

ボトルを何度か上下に振り、立て続けに発射される弾を身体を横に転がせることで避けながらドライバーにそれらを装填。

 

《ラビット!》

 

《タンク!》

 

《ベストマッチ!!》

 

レバーを回し、現れたパイプで奴の攻撃を弾きながら両手を構える。

 

《Are you ready?》

 

「変身ッ!!」

 

 

 

 

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》

 

《イェーイ!》

 

ラビットタンクフォーム————ウサギの跳躍力と戦車の破壊力を兼ね備えた、最も攻守のバランスが取れた基本形態。

 

「ほお…………やはりお前が、仮面ライダーだったか」

 

「……なに?」

 

「お手並み拝見させてもらうぜ」

 

「……っ…………!」

 

放たれた弾丸はキリオの頬を掠め、背後にあった車を貫いていった。

 

しばらくは接近する機会をうかがおうと回避に徹するが————

 

「……くそっ……!」

 

回を増すごとに精密な射撃になっていく。どうやらスタークは敵の分析能力に秀でているらしい。

 

「はあああああッ!!」

 

避けられないのならば防ぐまで。

 

ドライバーから取り出したドリルクラッシャーの刃で遠距離から飛んでくる弾丸を弾き、徐々にスタークとの距離を縮めていく。

 

「だあッ!!」

 

キリオが振り下ろした刃をスタークはライフルと片腕で強引に受け止め、そのまま鍔迫り合いの体勢で硬直。

 

「やるねえ。……だがこれじゃあまだ、及第点はやれないな」

 

「なんだと…………!?」

 

「そら、これはどうだ!?」

 

ドリルクラッシャーの刃を弾き、5メートルほど距離をとったスタークは腰に手を伸ばし————

 

《フルボトル!》

 

1本のボトルを取り出したかと思えばそれをライフルへと差し込んだのだ。

 

「フルボトルだと…………!?」

 

「上手く避けろ」

 

《スチームアタック!!》

 

凄まじい量の蒸気と共に爆発的に放たれた弾丸がビルドとなったキリオを襲う。

 

「こんなもの…………!!」

 

正面から迫ってくる弾を最小限の動きで避けたキリオは、すぐに反撃しようと体勢を立て直した。

 

しかし————

 

「おっと、気をつけろ?」

 

「あ?————なっ…………!?」

 

避けたはずの攻撃が背後でUターンし、猛スピードで再び強襲。

 

「ぐああッ!!」

 

反応しきれずに自らの胴体へ直撃させてしまったキリオは無残に吹き飛び、スタークの足元まで転がる。

 

「おお、大丈夫か?」

 

「……!ぐっ!!」

 

からかうように顔を覗き込ませるスタークに向かってドリルクラッシャーを薙ぎ払うが、読まれていたのか容易に回避されてしまう。

 

「もう遠距離からは撃たせない…………!!」

 

《ゴリラ!》

 

《ダイヤモンド!》

 

《ベストマッチ!!》

 

右手の武器でスタークを牽制しながら左手で1本ずつボトルを取り出し、ドライバーに挿し込む。

 

《Are you ready!?》

 

「ビルドアップ!」

 

ラビットタンクのボディに被さるように茶色と水色のスーツが形成され、キリオの身体を上書きする。

 

《輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!!》

 

《イェーイ!》

 

ゴリラモンド————ゴリラの肥大化した右腕とダイヤモンドの最高質な硬度を併せ持つベストマッチ形態。

 

キリオが現在持つボトルの組み合わせの中で最強の攻撃力を誇るフォームだ。

 

「オラッ……!はあッ!だああああああッッ!!!!」

 

「ぬぅ…………!?」

 

一撃目はスタークが交差させて防御に用いていた両腕を捉え、力で押し勝つことに成功。奴が上半身を仰け反らせたところで二撃目を叩き込む。

 

「……さすがに強烈だな」

 

「……こいつ…………っ」

 

三撃目は軽くいなされ、そこからは徐々にこちらの繰り出す打撃が当たらなくなってしまう。

 

……さっきと同じだ。奴はこっちの動きや癖を見切って、即座に対応している。

 

「ダイヤモンドはお飾りか?」

 

「うるっ……せええええええッッ!!」

 

ならば意識外から。

 

スタークの懐へ潜り込んだキリオは奴の視界の外から凄まじい右ストレートを放った。

 

その軌道はスタークの胴体へ吸い込まれるように描かれ、重い金属音と火花を撒き散らしながら奴は後方へと吹き飛ぶ。

 

「ぬっ……!ぐああ…………っ!!」

 

 

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》

 

弾かれるようにボトルを入れ替えたキリオは再びラビットタンクフォームへと変身を遂げ、横たわるスタークにとどめを刺そうと腰のレバーを回した。

 

「勝利の法則は…………!!」

 

《Ready go!!》

 

「決まった!!」

 

地面から飛び出した数式がスタークの腰を拘束し、身動きの取れない状態となった奴目掛けて片足を突き出す。

 

《ボルテックフィニッシュ!!イェーイ!!》

 

戦車の破壊力を備えた右足の跳び蹴りが奴へと迫る。

 

「うおおおおおおおッッ!!」

 

「ふう…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————そらよッッ!!」

 

周囲に止めてあった車両が浮き上がるほどの衝撃が広がる。

 

スタークを捉えていたはずのキックは————奴の手の中で止まっていた。

 

「なっ……!?」

 

「いいキックだ……!」

 

ギリギリ、と受け止めた足を握りしめたスタークが勢い良く横方向へとキリオの身体を放り投げる。

 

「がはっ…………!!」

 

そのまま受身も取れずに地面を転がったキリオを見下ろし、スタークは片方の手を開閉させながら口にした。

 

「ハザードレベル3.4ってところかな。…………ったく、情けないねえ」

 

「なんだと……!?」

 

くぐもった声でそう言い残した後、肩をすくめながらこちらに背を向けるスターク。

 

「だがまだまだ伸びしろはありそうだ。——じゃあな」

 

「待て……っ!」

 

黒い霧をまとってたちまちに姿を消した奴の影を追って、キリオは遠くへと手を伸ばす。

 

 

 

 

 

「…………ブラッドスターク」

 

奴が内浦にスマッシュを送り込んだ張本人だというのなら、その目的はなんだ?

 

あいつはどうして自分を狙っている?

 

「……くそ、わけわかんねえ」

 

人目がないことを確認したキリオはドライバーからボトルを抜き取り、ビルドの装甲を解除した。

 

 

◉◉◉

 

 

「昼間はびっくりしたよね〜……」

 

「あれがスマッシュってやつ?」

 

「なんかイメージと違いましたわ」

 

ホテルの一室に集まってトランプを楽しみながら数時間前に目撃した出来事を振り返る千歌達。

 

「さっき撮った写真と比べてみても…………あの怪物と戦っていたのが仮面ライダーで間違いないようデス」

 

「なんか苦戦してたみたいだけど……」

 

「どう思うキリオくん?」

 

「なんでお前らは俺の部屋でババ抜きやってんだよ」

 

放っておけばいずれ出て行くだろうと早めにベッドに潜り込んでいたキリオだが、いつまで経っても退室する気配のない彼女達に耐えかねてじっと睨み返した。

 

「七並べにする?」

 

「いやそうじゃなくて」

 

「UNOの方がよかった?」

 

「だからちげーって!!早く出てってくれよ!!こっちは眠すぎて死にそうなんだってばもー!!」

 

「なんだか落ち込んでるみたいだったから元気付けようとしてるのに……」

 

「俺は至って元気だよ。元気ハツラツ」

 

「ほんとに……?」

 

連日のスマッシュの襲撃に続いて今日の戦闘はさすがに身体に響く。

 

顔にも出ていたらしいし…………彼女達には無駄な心配をかけてしまったか。

 

「俺より自分達のコンディションを心配しろよ。ライブは明日なんだぞ」

 

はーい、と各々が揃って返事したのを見て改めて枕へ顔を埋めるキリオ。

 

 

 

 

 

 

 

——————ったく、情けないねえ。

 

 

 

スタークに言われた言葉が頭に残っている。きっとあいつは何かを知っているんだ。

 

この世界がどうしてこんなことになってしまったのか。

 

スカイウォールとは…………パンドラボックスとはなんなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、神経衰弱はどう?」

 

「話聞いてたか?」

 

 




ブラッドスターク初お披露目です。
正体はいったい誰なんだ……()
基本的にビルド本編のイメージを踏襲していますが、中身の都合上元設定にはない言動が飛び出たりすることがあるかもしれません。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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