ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
やはり当時リアルタイムでその番組を視聴していたであろう各世代の一般人の呼び声に駆けつけるライダー達のシーンで毎回泣きそうになります。
「ふう……ここまで来るのは少し骨が折れるね」
晴天の空の下で、黒髪が風になびく。
力強い踏み出しで坂道を進んでいる者が1人。
ジャケットを羽織り、きりりとした瞳が少年のような印象を与えるが、その人物が下に着用しているのは白のミニスカート。
少女は奥にある大きな建物へと繋がっているその道を歩き続け、やがて期待のような感情を含んだ眼差しで言った。
「楽しみだなあ、あの子達と会えるなんて」
「浦女で特設ステージを使ったライブ…………か」
西都と東都の間の亀裂が徐々に大きくなっていく日々のなか。
キリオは部室に集まっていたAqoursとSaint Snowの面々から次に行うライブ計画を聞かされていた。
「ええ、今まで企画していたものと比べればささやかなものかもしれませんが……」
「それでも今はこれしかないですよね」
苦しい表情で語るダイヤに落ち着いた佇まいを崩さない聖良がそう同意する。
「彼女達……Bernageの2人がスクールアイドルを崩壊させようとしているのなら、私達はそれに真っ向から戦います」
「スクールアイドルは終わらない。それを示すためのライブをするのですわ」
息を揃えてそう口にするダイヤと聖良に、続けて千歌達も同時に首を縦に振った。
(……やっぱりこうなるか)
それを見たキリオも目を強く閉じて考える。
彼女達が黙って見ているままなわけがないとわかってはいた。そろそろ行動を起こしてくる頃だろうと察してさえいたのだ。
千歌達がそういう気持ちになるのも最もだ。それを否定するつもりは全くない。
だが、
「……西都の連中が睨みを利かしている間は無理だ。奴らはあらゆる手段を使って妨害してくるぞ」
AqoursとSaint Snow————東都と北都を代表するスクールアイドル達。その影響力は絶大だ。
そんなグループのライブを……難波重工と西都政府が放っておくわけがない。
奴らは確実に来る。そしてライブを破壊し、最悪
かつての計画が全てめちゃくちゃにされたように、今回もその悲劇は繰り返されるんだ。
これまではみんなの意思を汲んできたが、今回ばかりはそうもいかない。
「悪いが今の状況では認可できない」
「キリオくん……!?」
当然了承を得られるだろうと思っていたのか、千歌は虚をつかれたように瞳を見開いた。
「そんな、どうして……?」
千歌の隣に座っていた曜が腰を上げて抗議するように尋ねる。
キリオは眼前のテーブルに視線を落としながら、冷たい声音で返答した。
「……最初の合同ライブの時も、全国ライブのために他の国へ向かった時も、何もかもが失敗に終わった」
「それは……」
「あいつらはどこでライブを計画しようが必ず嗅ぎつけてくる。……次は死人が出るかもな」
「そ、そんな……!脅すようなこと言わなくても……」
しゅん、と静まり返ろうとする空間。
それを打ち破るような勢いで、ツインテールの少女が口を開いた。
「ちょっと待ってよ……!」
大声でそう言い放ったのは理亞だった。
彼女は必死な表情でキリオを睨むと、強く席を引いて立ち上がった。
「私達は……スクールアイドルとして戦わなくちゃいけないの!戦わないと意味がないの……!でないと、何のために…………私は
徐々に涙を溜めていく理亞の目と向き合い、キリオは一拍置いて答える。
「ライブを“戦い”なんて表現するな。お前らがするべきは人々を戦争の不安から救うパフォーマンスだろう」
「だから……そういうことを言ってるんじゃなくて……!」
「…………お前も抱えているものはそう単純じゃないだろ」
ふと理亞から彼女の隣に座っていた聖良へと目を移すキリオ。
それに気がついた理亞はぐっと言葉を飲み込んで不安げな瞳で自らの姉へ視線を注いだ。
「……理亞?」
「う…………」
なんのことだかわからない、といった様子の聖良とは逆に、理亞自身は自分の胸に両手を当てて何かを隠すような素振りを見せた。
理亞がハードスマッシュになってしまったことは聖良はまだ知らない。
……大方、もしもライブ中に襲撃された際には自分の力だけで窮地を脱しようとでも考えていたのだろう。そんなことをすれば当然姉にそのことは露見してしまう。
「ともかくこの件は一旦保留だ」
これ以上の議論は必要ないとでも言うように、キリオは白衣を翻して部室から出て行ってしまった。
「お前らしくないな」
「万丈?」
扉を開けて体育館に出たその時、傍の壁に寄りかかっていたリュウヤがそう投げかけてきた。
「聞いてたのか……」
「高海達に甘いお前のことだから、二つ返事で許可すると思ったぜ」
「今までとは状況が違う。敵の攻撃対象がスクールアイドルだとはっきりわかった以上、あいつらをみすみす危険な舞台に立たせるわけにはいかないんだよ」
目を合わせようとしないままそう語るキリオに、リュウヤは違和感を覚えずにはいられなかった。
「お前……怖いんだろ」
「は?」
「自分のことも、あいつらのこともわからなくなってきて怖がってるんだろ?」
こちらを見据えてそう問い質してきたリュウヤに面を食らったような顔を向ける。
彼の静かで真剣な問いに、キリオもまた正直に答えようと口をもごもごと動かした。
「……やるべきことがわからない。一体なにがあいつらのためになるのか……俺にはわからないんだ」
胸元を押さえてそうこぼすキリオ。
千歌達の意思を蔑ろにはしたくない。けれど彼女達がライブをするとなれば、それは常に危険と隣り合わせの状況となってしまう。
自分はどの立場でそばにいてやればいい?
教師としてか、仮面ライダーとしてか、それとも——————
「……なにお前、ホントにいつもそんなこと考えながら行動してんのか?」
呆れたような物言いをするリュウヤにキリオはむっと眉をひそめた。
「なにが言いたい?」
「ずいぶん面倒くさい生き方だなあって」
「面倒くさい……?なにも考えないで生きる方が難しいだろ」
「いや……そういうことじゃなくてだな」
腕を組み、数秒考え込むように頭を悩ませた後、ハッと思いついたようにリュウヤは言った。
「シンプルに自分がやりたいと思ったことをするだけじゃダメなのか?」
「やりたいと思ったこと…………?」
「ああ。“やるべきこと”じゃなくて、“自分がやりたいと思ったこと”をするんだよ。それなら後悔なんてしなくて済むだろ?」
にい、と歯を見せながらそう語るリュウヤを見て、なぜだか心の奥が暖かくなった。
「……子供は気楽でいいよな」
「ああ!?なんだよ人がせっかくアドバイスしてやってるってのに!」
「でもまあ…………お前の言うことも間違ってないのかもしれない」
好き勝手やれる大人だからこそ、自分自身の行いに責任を持ち、尚且つ自由に行動できる。
戦兎キリオとして、やりたいこと——————
「だけどな、現実問題どうしようもないんだ。あいつらがライブをしたいと言っても、俺達が西都に対抗できる力があると断言できる状況じゃない。スタークの出方がわからない以上、むやみな行動は————」
「あのぉー…………」
どこからか飛んできた声が耳朶に触れる。
それがリュウヤの背後から聞こえてきたことに気づき、キリオは咄嗟に彼の後ろを覗き込んだ。
立っていたのは私服姿の少女。外見から判断して千歌達と同世代くらいだろうか。
「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが」
(……なんだこの感じ?)
既視感のようなものが頭によぎる。
黒髪の少女は、薄い愛想笑いを浮かべながら…………2人に向けて尋ねてきた。
「“スクールアイドル部”の部室って…………こっちで合ってますか?」
(なんか——————渡辺に似てる?)
◉◉◉
「紹介するね。こちら私の従姉妹の月ちゃん」
「初めましてヨーロシクー!みんなのことはいつも曜ちゃんから聞いてるよ!」
曜からの紹介を受けると同時に彼女が見せた敬礼ポーズにまたもデジャブを感じる。
渡辺月————曜の従姉妹と聞いてどこか似ているのも納得できた。
すぐに彼女との繋がりを察することができたのは外見というよりも身にまとう雰囲気がそっくりだったからだろう。
「曜ちゃんの……従姉妹ぉ!?」
「ん、あれ?もしかして話通ってない?」
「ご、ごめんね。ここのところバタバタしててすっかり今日のこと頭から抜けてた……」
「あはは、まあしょうがないか。こんな状況だもんね」
一向に話が見えてこないのでこちらから尋ねようとキリオが口を開いた。
「渡辺」
「「はい?」」
「あ、いや…………曜の方。これはどういうことだ?」
「それがね、実は前々から月ちゃんから“Aqoursのみんなと会ってみたい”って頼まれてて、北都との戦争が終わった時に『近いうちに内浦に来てみない?』って誘ってたんだけど…………」
歯切れ悪くそう説明する曜。
つまりあの戦いの直後に月を本日内浦へ来るよう誘ったはいいものの、タイミング悪く西都との争いが激化してしまったと。
「なんだか忙しそうにしてるけど、今日訪ねるのはまずかったかな?」
「ううん、そんなことないよ!曜ちゃんの知り合いだったら大歓迎だよ!ね、キリオくん?」
「ああ……」
本当は事前に一報入れてほしかったところだが、来てしまったものはしょうがない。
「ところで……そちらのお二方は?」
「俺は戦兎キリオ。内浦で教師をやってる者だ。こっちは————」
ふと横に立っていたリュウヤを見て凍りつく。
すっかり忘れていたがこいつは元々西都の人間。顧問であるキリオはともかくリュウヤだけはこの場にいる時点でバリバリ不自然な人物だ。
仮面ライダーですと紹介するわけにもいかない。どう誤魔化したものか。
「こいつは…………俺の従兄弟で、名前は万丈リュウヤ」
「あ?なに言ってんだお前」
「お前はちょっと黙ってろ」
「ああ、なるほどあなたが“キリオくん”ですね!お若いので先生だとは思いませんでした」
リュウヤの口が滑らないように睨みを利かせつつ、即興の設定を伝える。
千歌達も色々と察してくれたようで、苦笑いしながらも「うんうん」と首を振って話を合わせてくれた。
「うん?……あれ!?奥に座っている2人はもしかして……!?」
Saint Snowの方を見て驚愕の表情を浮かべる月。
そんな彼女にいち早く反応したのは聖良だ。
「えっと…………しばらくの間この街に滞在させてもらっています、鹿角聖良と言います」
「鹿角……理亞です」
「え、本物!?北都を代表するスクールアイドルがどうしてここに!?」
「まあ……色々ありまして」
予想以上に食いついてきた月に圧倒されつつも、聖良がその場をしのごうと言葉を濁らせた。
感嘆のため息をついた月が改めて部室にいる面々を見渡し、興奮の冷めきっていない調子で言った。
「本当に驚きだよ。Aqoursのみんなに会いに来たのに……まさか仮面ライダーとSaint Snowさんもいるなんて!」
「え?」
「え?」
「あ?」
月以外の全員が目を点にしてお互いの顔を見合わせる。
「ん、どうかしました?」
「ちょっと……待て、今なんて……?」
「月ちゃん、どうしてキリオくんと万丈くんが仮面ライダーだって知って……?」
曜が皆の疑問を代弁して尋ねてくれる。
彼女の問いを聞いて、月はきょとんとした顔で自分のスマホを取り出してはおもむろにその画面を掲げた。
「どうしてって……ちょっと前に政府が発表してたよ。『東都の新しい防衛システム、仮面ライダー』って……ほら」
彼女が見せてきた画面に大きく書かれている2人の人物の名前。
仮面ライダービルド————戦兎キリオ。
仮面ライダークローズ————万丈リュウヤ。
「はっ……!?はああああああああッ!?!?」
「あ?」
まだ了承していないはずの案件がいつの間にかまかり通っていることに思わず叫ぶ。
相変わらず状況が理解できていないリュウヤを尻目に、キリオは東都政府首相の不敵な笑みを思い出していた。
(あの……野郎…………!!)
月ちゃん登場!!
劇場版公開後から出すタイミングを見計らっておりましたが、ついに今回から参戦となります。
そして最近は割と大人しかった東都首相がやらかしました。
月ちゃんを加えた千歌達が向かう行方はいかに……。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。