ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
「あの発表はどういうことですか首相?」
慌てて部室から退出したキリオは塔野首相へ抗議しようとビルドフォンを耳にあてがった。
怒気のこもった声を聞いた首相は、静かに笑い飛ばすように何気ない態度で返してくる。
『なんの反応もなかったんで、君達も同意の上だと思っていたのだが……』
「そんなわけないでしょう。俺も万丈も……あんたの良いように使われる気はない」
『では北都との戦いの際に手を貸してくれたのは気まぐれだったと?』
「……あれはこちらの生徒を救出するために仕方なく行ったことです」
そうだ。北都へ攻撃を仕掛けたのはルビィを助けるため。侵略行為が目的じゃない。
防衛システムと称しながら、首相は仮面ライダーを単純な兵器としてしか見ていないに決まっている。
東都政府の管理下に置かれ、ただ他国への攻撃を繰り返すだけの道具になるなんて……そんなのは————
(……千歌が望んだことじゃない)
ビルドフォンを握る手に力が入る。
キリオは自分でも不思議なくらいに嫌悪感を剥き出しにしながら塔野首相の言葉を聞いた。
『君はこの国をひとつにできる力を持っているというのに、ただ“守る”ためだけに仮面ライダーとして戦うと?』
「…………そうです」
電話越しに首相がため息をつくのがわかった。
『————いったいなにが君をそうさせる?強大な力を有していながら、それを有益に使おうとしない理由はなんだ?』
塔野の語気が徐々に強まる。
パンドラボックスの光の影響を受けているであろう人間の1人である彼にとって、力を備えていながら他国への侵略にそれを使わないことは理解し難い愚行なのだろう。
「それは…………」
首相の問いに対して、すぐに返すことはできなかった。
空っぽだった頭の中に一筋の光が差し込む。
キリオはふとリュウヤとのやりとりを思い出し、半ば無意識にそれを口に出していた。
「それは————俺が、そうしたいと思ったからです」
これが最適な答えだと…………なぜだかそう思えた。
『…………いいか戦兎くん、西都は未だに派手な動きは見せていない。仕掛けるなら今がチャンスなんだ。先手を打つことが我が国の“防衛”に繋がるんだよ』
「攻撃は最大の防御なんて理屈、通りませんよ」
ビルドフォンを耳から離し、強制的に通話を終了しようとしたその時だ。
『君は何もかもを先延ばしにしているだけだ。それでは根本的な解決にはならない。……いつかそれを思い知ることになるぞ』
そう最後に言い残して、首相はキリオとの通信を切った。
「そうだとしても俺は…………後悔しない方を選ぶ」
誰もいない体育館に向かってひとり呟いた後、キリオは強い意志の宿った眼差しで振り返り、再び部室へと戻っていった。
「ぼ、ボクの知らないところでそんなことがあったんだね…………」
月が呆けた顔でそうこぼす。
これまで巻き込まれてきた戦争と、その発端となった人物であるBernageの2人。
できるだけの情報を月に話し終えた千歌達は、改めて自分達が歩んできた過酷な日々を思い出しては鳥肌を立たせていた。
「まあ、私達はキリオくんと万丈くんが戦うのを見てることしかできなかったけどね」
「それにしても西都を代表するスクールアイドルが戦争を……か。著名なグループはチェックしてたから割とショックだよ……」
「……私も」
月が肩を落とすのを見て、梨子も力が抜けたように俯いた。
「なによ、リリーったらまだあんな奴らのこと気にかけてんの?お人好しが過ぎるわよ」
呆れた様子でそう指摘する善子に自虐交じりの笑みを返そうとする梨子だったが、すぐに真剣な眼差しを取り戻して再び口を開いた。
「でもあの2人のライブを思い出すと……全部嘘だったとは思えないの。上手く言えないけど……スクールアイドルとしてステージに立っている間は、ユイちゃんもミカちゃんも、純粋にその時間を楽しんでたんじゃないかなって……」
同じくそのような心当たりがあったのか、千歌達は互いの顔を見合わせては期待と不安の混ざった表情を浮かべた。
「ねえ、万丈くんってあの2人と同じ難波高校の人なんだよね?」
「万丈くんはどう思う?」
「お、俺?」
急に皆の視線が集まったことでリュウヤがたじろぐ。
腕を組んで懸命にBernageの2人について覚えていることを思い出そうとするリュウヤだったが、考えれば考えるほど彼の顔は曇っていく。
「……今思えば、ライブの時————」
「なにかあったの?」
「いや、大したことじゃねえんだけど……。あの性悪が葛城の本性だとするなら、ライブの時のあいつは別人みたいだなって…………今思った」
「それは当然じゃないのか?あいつは今まで猫被ってたわけだし」
「違うんだ、そういうことじゃなくて……。くそっ……上手く言えねえな」
キリオの問いを聞いて余計に混乱する様子を見せるリュウヤ。
「氷室はどうだかわかんねえけど、葛城に関しては確かに素性を隠すためだけにスクールアイドルをやってたとは……思えねえんだ」
キリオを除き、その場にいた全員がユイに対してまた別の疑問を抱き始めていた。
同年代だからこそ感じるものがあるのだろうか。
スタークとしての彼女と対峙したせいか、キリオにはどうしても葛城ユイという存在に対して現状以上の理解を深めようとは思えなかった。
「これ以上考えても仕方ないだろ。今重要なのは葛城と氷室が敵で、あいつらは問答無用でお前達を潰しにかかってるってことだ」
「それは……たしかに」
再び淀んだ空気が充満する。
「そうだ!」
誰も喋ろうとしないまま1分ほどの時間が経った後、唐突に何かを思いついたように月が手を打った。
「月ちゃん、どうかした?」
「今の君達はさ、そのスターク?って奴が監視しているせいでライブができないんだよね?」
「う、うん」
にこにこ顔のまま質問を投げかけてくる月にわけもわからず曜が返答する。
「なにか思いついたことでも?」
「まあね」
「本当!?」
聖良、理亞に続いて自信ありげに胸を張る月のもとへ皆が詰め寄った。
「でもそれってさ、ライブ会場さえ秘匿しちゃえば解決することじゃないのかな?」
「ライブ会場を秘匿……?」
「はい!」
首を傾けておうむ返しするキリオに向けてウインクを飛ばす月。
「これまでのやり方だったら告知ひとつで敵に君達の居場所を晒しちゃうからね。ならそれをしなければいいんだよ」
「会場の告知をしないって……それじゃあお客さんは?」
「まあ、当然来れないだろうね」
「じゃあダメじゃねえか!!」
混乱した様子でそう指摘するリュウヤを尻目に、キリオがハッと気がついたように大きく目を見開いた。
月が言わんとしていることがわかったのだ。
「そうだ……その手があったか……!どうして今まで気付かなかったんだ……!!」
「え、なに?」
「もったいぶらずにtell me!」
「そうですわ、もっと皆さんにわかるように言っていただけないと」
こほん、と咳払いした後、月はテーブルの隅に置いてあった黄色のPCを指しながら言った。
「つまるところ初心に帰るんだよ。みんな初めから会場を設営してライブをするわけじゃなかったよね?ラブライブ出場に必要な知名度を上げるために、最初にやったことはなんだったか思い出してみて」
「最初にやったこと————」
千歌が隣に座っていた曜、向かい側の席に腰掛けていた梨子、続いて善子、花丸、ルビィ、と各々に顔を合わせる。
一方で果南、ダイヤ、鞠莉、理亞、聖良の5人は、一足早くにその答えにたどり着くことができた様子だった。
「ああ〜〜〜〜!!!!」
「「ネット配信!」」
舞い降りた妙案に声を上げる千歌達。
そう、月が言いたかったのはそれである。
至って単純な仕組みだ。千歌達11人が誰にも知られることのない極秘の会場でライブを行い、その光景を様々な媒体を通して生放送すればいい。
それなら西都の連中に嗅ぎ付けられることなくライブを完遂することができる。これまでのようなリスクがゼロになるのだ。
「名付けて、“Saint Aqours Snow全国ライブビューイング大作戦”!!」
「まんまじゃねえかよ!」
「でもこれならいけるよ!」
「月ちゃんかしこい!!」
一転して活気を取り戻した部室内を見渡し、キリオが安堵のため息をつく。
(まったく……本当にたくましい奴らだな)
こんなどん底のなかでもしぶとく次の手を打てる。スクールアイドルとして活動を続けていくうちに培われた意地の強さというべきか。
「ねえキリオくん、これならいいでしょ!?ライブできるよね!?」
「わかった、わかったから。近い近い」
興奮気味な調子で踏み出してきた千歌から視線を逸らすと、その先に立っていたリュウヤと目が合った。
「なんかよくわかんねえけど、よかったな」
「ああ」
自然とキリオの口元が緩む。
皆の燻っていた熱意が再び燃え上がるのを強く感じた。
弾くように身を翻した千歌は「よーし!」とテーブルを囲んでいた皆の輪に戻ると、広げた手のひらを中央へ差し出した。
「やろう、みんなで!スクールアイドルは不滅だってことを……ユイちゃんやミカちゃんに見せつけてやろう!」
「ボクもやれる範囲で協力させてもらうよ」
「ここから反撃ですね」
月、聖良から始まり、次々に千歌の手にみんなの手のひらが重ねられていく。
「ほら、2人も!」
「え?お、おう!」
「ああ」
リュウヤとキリオも加え、全員で円陣を組んで改めて気合いを入れ直した。
「今は聖良さんと理亞ちゃんもいることだし————」
思い切り息を吸った千歌が引き締まった表情で声を張る。
「Saint Aqours Snow!!」
————サンシャイン!!
小さな部室内に掛け声がこだまする。
これから始めようとしているのは、全てのスクールアイドルの想いを背負って行う反撃のライブだ。
西都に潜んでいる難波重工の魔の手から————スクールアイドルそのものを救うライブ。
国中の人々の不安をかき消すような歌を届け、再び平和の象徴を築き上げるんだ。
◉◉◉
「…………小賢しいマネしてくれちゃうなあ」
不機嫌な様子でスマートフォンを操作しながらニュース記事に目を通していたユイが不意にそう呟く。
急遽発表されたAqoursとSaint Snowによる合同ライブ。それは客の現地参戦枠がゼロという一風変わったものだった。
最初から最後までインターネット上の配信や、映画館の劇場等を用いたライブビューイングのみ。西都側の妨害を危惧していることは明らかだった。
「……あいつの入れ知恵にしては少し強引な気もするし……別の誰かがあの子達にアドバイスを……?」
回転椅子に腰を下ろし、ぐるぐると回りながら思考を巡らせる。
直後、部屋の扉が開かれ、薄暗い空間に放射線状の光が差し込まれた。
「ユイさん、奴らの動向を探っていた者から報告があがりました」
「おつかれ雷斗さん」
靴音を鳴らしながら近づいてきた雷斗から数枚の資料を受け取った後、ユイはなかなか出て行かない彼の視線の先を見た。
部屋の奥で座り込んでいる人影に————雷斗は恐れるように眉をひそめている。
「どうかしたの雷斗さん?」
「……いえ。では失礼します」
そう言って逃げるように退出していった彼を見送った後、ユイは抑えていたものを吐き出すように笑い声を上げた。
「ぶはっ……!あっはははは!!今の雷斗さんの顔!完全にトラウマになっちゃってるよ!」
腹を抱えながら手元の資料を読んでいく。
書かれていたのは現在東都にいる戦兎キリオと、その仲間達の動きについて。
さすがに向こうの警戒も強いため詳しいことは調べられないが、些細な変化を見つけるぐらいは容易だろう。
「…………ん?誰……?」
数枚の盗撮写真に目を通していくうちに、ユイ自身も初めて見る人物が写っていることに気づいた。
ボーイッシュな雰囲気を持った黒髪の少女。親しげにAqoursやSaint Snowのメンバーと話している様子がうかがえる。
「————こいつか」
鋭い眼光を写真のなかの少女に向けたユイは、ほとんど放り投げるようにそれ以外の資料をテーブルへ置く。
「新しい任務だよ」
席を立ったユイが部屋の奥へと進み、暗がりのなかで座り込んでいた人物に持っていた写真を見せつけた。
「こいつ殺して、一刻も早く」
「…………危険なの?」
「うん、たぶん千歌ちゃん達に今回のライブのアドバイスしたのもこの子。……こういう小細工を考える輩は早い段階で始末しておかないと、後々面倒くさいことになる」
俯いていた顔が上がり、隠れていた表情が露わになる。
「いけるよね?——————ローグ」
あれ、なんかミカさん雰囲気変わりました……?
命を狙われる月ちゃんやタクミの行方など、次々と気になる点が増える展開となってきました。
そろそろビルド、クローズ、ローグ、ブロス姉弟でドンパチしたいですね……。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。