ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
「お、おお……!」
「ここでライブを……?」
西都の襲撃から一週間ほどが経過したある日。
Saint Aqours Snowの11人は、キリオ達に連れてこられたある施設を前にして感嘆の声を上げた。
「よくこんな場所が用意できたね」
「ちょっとしたコネを使っただけだ」
驚いた様子で尋ねてきた鞠莉に、キリオは胸を張ってビルドフォンを見せびらかす。
“ここ”に訪れる前、塔野首相と少しばかり取引をさせてもらった。
キリオやリュウヤが自ら責める必要がない、あくまで“防衛”という形で戦うための…………西都の連中をおびき寄せる作戦。
「それにしても制服のままライブかあ……なんか物足りないかも」
「この際しょうがないよ」
ちょっぴり不満げな曜を千歌がなだめる。
西都が本格的に動き出した以上、もう悠長に準備を施している時間はなかった。早く行動するに越したことはない。
「月ちゃんも協力ありがとね」
「これくらいおやすい御用だよ」
にこやかに自前のデジカメを構える月。
話によれば月は沼津にある静真高等学校という高校の生徒会長らしい。
今回の作戦は、そんな彼女の協力が必要不可欠だった。
「それでは……最後にもう一度ポジションと振り付けの確認をしておきましょう」
聖良の一声で皆が「はーい」と返事をしながらぞろぞろと位置についていく。
キリオは彼女達からリュウヤへと目を移し、互いの意思を確認し合うように同時に頷いた。
「お前も一緒に来てもらうぞ」
「はっ……本気で殺そうとしてた奴にかける言葉とは思えねえな」
「俺はより勝率が高くなる手段を選ぶだけだ」
横で腕を組みながら悪態をつくタクミに、キリオは至って冷静な調子で返した。
……タクミが単にルビィを人質に利用しようとして連れ去ったわけではないことは彼女から聞いた。しかしだからといって彼を完全に許したわけではない。
これまでタクミが振るってきた猛威は……間違いなく彼自身の意思で行ったことなのだから。
「わかってるさ。今は北都も西都の奴らに占領されて……どうせ俺も他に行く場所なんてないんだ。理亞や聖良さんやルビィちゃん…………みんなを守るためだったら、いくらでも戦ってやる」
そう言って装着しているスクラッシュドライバーに触れる。
「……俺の罪は、戦うことでしか償えないから」
誰にも聞き取れないくらい小さく、タクミはそうこぼした。
「————行くぞ」
◉◉◉
並べられた長机に何人もの難波重工の職員達が腰を下ろしている一室。
「千歌ちゃん達、本気でライブするつもりみたいだね」
パソコンの画面を見下ろしながら低い声でそう呟くユイ。
彼女の背後には蝋人形の如き静寂な佇まいで待機しているミカが立っている。
「……ま、いいや。会場の特定なんてライブが始まってからやればいいんだし。ね、ローグ?」
「…………」
「え、無視……?へこむわぁ……」
1人で肩を落とすユイを尻目に、ミカはじっと床を見つめて平静を装いながらも……正体不明の不安感に襲われていた。
(……なにかおかしい)
テーブルに置かれたパソコンに映っているライブ中継の映像。
現在は「今しばらくお待ちください」としか表示されていないその画面へと視線を移し、ミカは顎に手を当てて深く思考を巡らせた。
(ユイちゃんの言う通り……いくら事前情報を隠し通したとしても、ライブが始まってしまえば背後に見える景色からでも場所は特定されてしまうはず……)
AqoursやSaint Snowのメンバーは自分達が狙われていることは当然承知している。東都から出ることはまずありえないだろう。
“東都内にある”という条件を付けた時点で会場となり得る場所はかなり限定されてくる。彼女達だってそれはわかっているはずだ。
そのことに気づいていない……という可能性も捨てきれないが、これまでライブに関しては向こうもかなり慎重に事を進めてきた。ここにきて単純なミスでコケるような姿を見せるとは考えにくい。
(……戦兎キリオ先生——————いったい何をする気なんですか……?)
「あ、始まった。特定班の皆さーん、お仕事ですよお」
画面が切り替わった瞬間にかかったユイの一言で、複数のスタッフ達がせわしなくキーボードを叩き始めた。
ミカも吸い込まれるように画面上に映っているものに目が釘付けになる。
「…………?」
映っているのは……ボロボロになった古い校舎と、寂れた校庭のど真ん中に立つ11人の制服姿の少女。
その内の1人————高海千歌が一歩前に出て、何やら深呼吸をし始める。
どうやらすぐにライブを見せるわけではないらしい。
『この放送を見ている……
暖かい笑みを浮かべながらも、どこか強い闘志のようなものを宿した瞳が光る。
『これからSaint Snowさん達との合同ライブを行いますが…………その前に少しだけ、私達から伝えたいことがあります』
それは東都の電気街にある巨大モニター、
あるいは北都にある人通りの多い交差点付近に取り付けられたビルの大型ディスプレイ、
そして東都と敵対関係である西都でも…………人々が手にする小さな画面のなかで、その少女は真剣な眼差しで訴えてきた。
『戦争が起きて……多くの人が傷つき、深い悲しみが……この国中に広がってきました。ここに立っている私達では想像がつかないくらい悲惨なこともあったかもしれません』
苦しんでいる人達の想いを受け止めるように胸に手を当て、千歌は伏せていた目を再び前に向ける。
『でも、決して希望を見失わないで欲しいんです。今はこうして争いの絶えない毎日が続いていく……かもしれません。けどそういう想像力は全部、プラスのことに向けて欲しい。……本当になんでもいいんです。些細なことでいいんです。……なにか、楽しいと思えるものを、自分の周囲に溢れているのは戦争だけじゃないってことを……思い出して欲しいんです!』
戦争が始まる前…………あんなに楽しかった日々を。
悲しいことと同じくらい、忘れちゃいけないものが確かにそこにはあったのだ。
『私達スクールアイドルは……応援してくれる皆さんからたくさんの勇気をもらっています。だからその分、私達もやれる限りの最高のライブを贈りたいと思っているんです。……今はこうして画面越しでしか話せないかもしれないけど、いつかはきっと————』
左右に並んでいるメンバー達と目配せした後、千歌は前方へ向き直り、
『————きっと戦争も……東都も、北都も、西都も関係ない、おーっきな会場で思いっっっきり歌を届けられると思います!!』
モニター前に集まり、その中継を目の当たりにした人々のなかから徐々に歓声が広がっていく。
今この瞬間、この時だけは…………スカイウォール及び戦争によって国民達を縛り付けていた呪いが解かれたようだった。
『皆さんを楽しませる“何か”になれることを願って————聞いてください、私達の歌を!!』
ーーHop? Stop? Nonstop!ーー
戦争が勃発して以来初めて行われるスクールアイドルのライブ。
軽快なリズムと共にステップを踏み出す11人の少女達は、今まさに争い事が起きている世界の住人とは思えないほどに愉快痛快な歌とダンスを披露し始めた。
「……!ユイさん、特定完了しました!奴らはおそらくこの……沼津にある、既に使われていない小学校に特設会場を設置していると思われます!」
回転椅子から立ち上がった1人の男性職員が急いだ様子でユイのもとへ駆け寄り、抱えていたPCを差し出してそう報告をあげる。
しかし当の本人は今まさにライブが中継されている画面を見つめるばかりで、一向に反応を見せる様子はなかった。
「ユイさ————ん……!?」
職員が再度ユイに呼びかけようとしたその直後、彼の表情が苦悶に歪んだ。
「う……あ……?ああ……!?」
紫色の粒子となって消滅していく職員には目もくれず、ユイは彼の身体に
「ローグ、ローグ」
眉ひとつ動かさないまま背後へ振り向いたユイは、まるで笑っていない瞳を向けながらミカへ言った。
「聞いてたよね?今すぐ現場に向かって————『あいつら全員皆殺しにしろ』」
瞳の奥に怪しげな赤い光が宿る。
ユイが命令を発したその瞬間、少女の声に男性の声音が重なったように聞こえた。
◉◉◉
——————『私達スクールアイドルは……応援してくれる皆さんからたくさんの勇気をもらっています』
あの少女…………高海千歌の声が頭から離れない。
「ミカさん、奴らの居場所は?」
「ここに載ってる小学校。座標を確認しておいてください」
風華と雷斗を従えたミカが早足で廊下を歩きながら1枚の資料を手渡していく。
これから向かうのは元々なにかに再利用される予定だった廃校済みの小学校。重要なのはこの場所が静真高等学校という全く別の教育施設と繋がりが深いということ。
手を回したとすれば……その高校で生徒会長を務めている渡辺月の仕業に違いない。
「雷斗、ネビュラスチームガンを出して。すぐに奇襲攻撃を仕掛ける」
「了解」
出撃の準備をしている2人を尻目に、ミカは思いつめた顔で先ほどの中継映像を思い出していた。
彼女が画面越しに伝えた言葉…………それは戦争で苦しんでいる人々だけに宛てたものじゃない。
同じようにライブが行えずにいた他のスクールアイドル達、そして…………ミカやユイも例外ではなかった。
「そういえば…………新しい衣装のデザイン案、確認してなかったな」
「…………ミカさん?」
「あ……っ……」
首を傾けている風華と目が合い、無意識に漏れていた声に気づいてすぐさま口元を押さえる。
「……大丈夫ですか?」
「問題ありません、すぐに出発しましょう」
自分を気にかけるように不安げな顔をする風華の横を通り過ぎ、出口をくぐり抜ける。
「……雷斗さん」
「はい」
政府官邸から出た3人の身体を、雷斗がネビュラスチームガンを用いて発生させた黒い霧が包んでいく。
数秒後、再び瞼を開けばそこはライブの真っ最中だ。
自分達はそれをめちゃくちゃに壊せばいい。……楽しいライブを、血祭りに変えてやればいい。
カンタンナオシゴトダ。
(なにも考えるな。……考えるな、考えるな、考えるな……)
これも全てユイが望んだこと。彼女が償える機会を与えてくれているのだ。
(……ただ静かに、ユイちゃんから頼まれたことをこなすだけ————)
閉じた瞳の先が明るい。
転移が完了したことを悟り、ミカはゆっくりとその目を開けて、
「ッ!」
ネビュラスチームガンを構え、発砲し——————
「………………え?」
トリガーにかけていた指先が硬直する。
ミカ達3人は目の前に広がっている光景に目を見開き、驚愕の表情を並べた。
「誰も……いない……?」
ぴゅう、と乾いた風が吹き抜ける。
前方に建っている古い校舎も、狭い校庭も、全て資料で確認した通りだ。ライブの中継から見えた景色とも合致している。
にもかかわらず、そこにはAqoursもSaint Snowも、ましてや一般人の姿さえも見えない。
「どういう……ことだ?」
唖然とした様子でそうこぼした雷斗が周囲を見渡すも、やはり誰の人影も確認できなかった。
「まあ…………要はプロジェクションマッピングってやつだ」
不意に背後からかけられた声に、3人の兵士は反射的に振り向いた。
「戦兎……キリオ……!」
雷斗が歯を軋ませ、唸るような声でその人物の名を呼ぶ。
「うお……ほんとに髪切ってる」
「だろ?」
「……氷室」
しかしそこに現れたのはキリオだけではなかった。続くように姿を見せたのはスクラッシュドライバーを巻いた猿渡タクミに…………万丈リュウヤ。
「プロジェクションマッピング……?まさかあの映像に映っていたもの全て————」
「いいや?千歌達は確かに絶賛ライブ中さ。ただし……お前らの知らない、東都政府が運営する地下施設でだけどな」
単純なことだ。
東都政府が保管していた施設を借りて背景に小学校の景色を投影し、そこを会場として全国にライブ配信を行っていた。
中継を観賞している側は今もこの校庭でライブをしているように見えることだろう。
だがその本質は……千歌達が安全にライブを行い、且つミカ達をこの“仕組まれたアリーナ席”へ誘い出すための、陽動作戦。
「小賢しい真似を……してくれますね」
「悪いがこっちはてんっ……さい物理学者でね。小賢しいなんてレベルじゃないぞ?」
「————口の減らない人」
《クロコダイル!》
装着したスクラッシュドライバーにボトルを叩き込み、ミカは鋭い瞳でキリオ達を睨み返した。
「さて、と……ちょうど1曲目が終わった頃かな?」
キリオは腕時計から視線を前に戻すと、上着から取り出したビルドドライバーを装着。続いてラビットタンクスパークリングを掲げた。
「お前達がまんまと引っかかってくれたおかげでライブは大盛況さ。このままアンコールまで付き合ってもらうぞ?」
「あの人達がライブを完遂することはありません。ここを突破した後、東都政府が保有している施設を徹底的に調べ上げて、しらみ潰しに叩けばいい。……そうすれば今度こそ、スクールアイドルという文化は死に体になる……ッ!!」
「……させると思うか?」
キリオの横に立っていたリュウヤが強く踏み出す。
「氷室……これ以上お前を間違わせない……!」
ドラゴンの横顔が描かれたスクラッシュゼリーを取り出した彼が、それを勢いよくドライバーに装填する。
《ドラゴンゼリー!》
《ロボットゼリー!》
同時にタクミも片腕を構えて敵へと狙いを定めた。
戦闘態勢に入った2人を交互に見やり、キリオがふっと口角を上げる。
「変身」
「「潤動」」
《クロコダイルインローグ!!》
《リモートコントロールギア!》
《エンジンランニングギア!》
「「「変身ッ!!」」」
《ラビットタンクスパークリング!!》
《ドラゴンインクローズチャージ!!》
《ロボットイングリス!!》
たちまち姿を変えた6人の戦士が対峙する。
互いに火花を散らすなか、火蓋を切るように静かな一声が飛ばされた。
「————さあ、実験を始めようか」
一気に畳み掛ける展開となりました。
ライブシーンでみんなに何を歌ってもらおうか……と考えた際、月ちゃんが加わっている点とひたすら明るい曲調にしようという方向性が合わさり、Hop? Stop? Nonstop!をチョイスすることに。
なんかもうクライマックス感出ちゃってますが、西都編はもう少し続きます。まだラビラビタンタンも出てきてませんしね。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。