ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
もはや言葉は不要かと思いますが……9周年発表会、凄まじかったですね。
「雷斗」
「……ああ」
ネビュラスチームガンから振りまいた霧に身を隠しながら、エンジンブロスとリモコンブロスが後退。
先ほどまで凄まじい戦いを展開していたリュウヤとタクミは、拍子抜けした様子で消えていく2人を眺めていた。
「なんだぁ?あっさり引きやがったぞ……?————うっ……!?」
突如全身に走った電撃に、リュウヤは地に膝をつけて苦しみだした。
「バカッ……!早くゼリー抜け!!」
「ぐ……お……ッ!!」
「しょうがねえな……!」
慌てて駆け出したタクミがリュウヤの腰にあるスクラッシュドライバーからドラゴンスクラッシュゼリーを引き抜く。
変身が解かれ青い顔をして出てきたリュウヤを見下ろし、タクミはそれを投げ返しつつ口を開いた。
「お前、だいぶ無理して使ってただろ」
「べつに……これくらいどうってことねえよ」
ベルトを指して尋ねてきたタクミを一瞥し、リュウヤははっきりしない口調で返そうとする。
「……ま、どう戦うかはお前の自由だが。焦って自滅しちゃ元も子もないぞ」
「…………」
座り込み、俯いた状態でタクミの言葉を意図的に遮断するように黙り込む。
……スクラッシュドライバーが危険なことくらいわかっている。だが以前よりも使いこなせていることは事実なんだ。
キリオの期待に応えるためにも、自分は——————
「お前ら、無事だったか」
薄汚れた上着を羽織ったボロボロの青年が小さく挙手しながらこちらへ近づいてくる。
「なんだお前……あんな口上叩いておきながら傷だらけじゃねえか」
「やかましいな、そういうお前は尻餅ついて何してんだ?」
「……ついてねえし」
リュウヤは立ち上がり、擦り傷が多く見られるキリオの顔を捉えると落ち込むように目を伏せた。
「……ん?」
ビルドフォンから着信音が鳴っていることに気がつき、キリオはすぐに上着のポケットに手を突っ込みそれを取り出すと表示されている名前を確認した。
「塔野首相……」
一瞬応答するか迷った後、通話ボタンをタップして耳元へ持っていく。
『どうやら目的は果たせたようだな』
聞こえてきた男の声に自然と口元が引きつった。
「……ええ」
『一仕事終えた直後で悪いが……たった今西都政府から通達があった』
「通達?」
『ああ、なんでも手っ取り早く決着をつける方法を提案する……とか』
「俺も奴らに言われましたよ、それ」
詳細は後日……とユイは言っていたが、あいつのことだ、またフェイントを仕掛けてくる可能性も否定できない。
正式な知らせが来るまでは警戒を怠らない方がいいだろう。
『我々の方でも目を光らせておこう』
「お願いします」
事務的なやり取りを終え、キリオはビルドフォンを耳から離す。
……何はともあれ、今回はこちらの勝利だ。今は純粋にそのことに喜ぶとしよう。
◉◉◉
「では皆さん、私達Saint Aqours Snowの合同ライブ大成功を祝いまして…………かんぱーい!!」
————かんぱーい!!
部室に集まったAqours、Saint Snow……そして月やキリオ達を加えた15人。
それぞれの役目を終え、盛大な打ち上げがこの部屋で行われようとしていた。
西都の妨害を振り切り、ライブをやり遂げられたんだ。今日くらい羽目を外させてもいいだろう。
「なんかスッキリしたね」
「ほんと、今までのモヤモヤした気分が嘘みたい」
曜が身体を伸ばしながら言ったのを見て、梨子も胸に手を当てて清々しい気持ちを再確認する。
「ヨハネの再臨にリトルデーモン達も歓喜している頃ね……」
「最近は生配信もできてなかったから反響もすごそうずらね」
「なんであんたがそんなこと知ってんのよ!?」
部室内に広がる賑やかな雰囲気がなんだか懐かしい。
皆が思い思いの感情を吐露していく光景を見守りつつ、キリオは部屋の隅で1人紙コップに口をつけていた。
「あ、白髪発見」
「ぶっ……」
唐突に横からかかってきた声に驚き思わず含んでいた麦茶を吹き出しそうになる。
いつの間にか席を立って隣にやってきていた千歌を見下ろし、キリオは口元を拭いつつ苦笑した。
「驚かせるなよ……」
「えへへ……ごめんつい。キリオくん、そろそろ髪染め直した方がいいんじゃない?」
「あー……確かに色落ちしてきたかも」
「え?お前それ染めてたの?」
側でその会話を聞いていたリュウヤが驚いた様子でそう尋ねてきた。
「ああ、元は白なんだ俺の髪」
「地毛が白ってどういうことだよ……。あ、あれか?カルビ……みたいな名前の」
「アルビノって言いたいのか……?いいや、別にそういうわけでもないらしい」
記憶喪失になってから何度か医者に診てもらう機会があったが、驚くべきことに数値だけを見れば色素等の遺伝子情報に関しては通常のそれとは大差ない結果だった。
「私が最初にキリオくんと会った時はまだ小さかったから特に何も感じなかったけど、今思えば不思議だよね。なんで砂浜で倒れてたの?」
「こっちが聞きたいわ」
今でこそこうして普通に過ごしていられるが、当初は本当に不安で押しつぶされそうだったのを覚えている。
キリオの失われた記憶————スカイウォールの惨劇とは必ず何かしらの因果関係があるはずのそれは、相変わらず彼の心にぽっかりと穴を空けたままだ。
……まあ、今は千歌達に付き合っているだけで精一杯だが。
「……ん?」
コップに残っていた麦茶を飲み干した後キリオは微弱な振動を腰に感じ、何気なくビルドフォンをポケットから取り出した。
送られてきたのは塔野首相からのメール文。
「…………」
キリオは息を呑み、危険物でも取り扱うかのように慎重な手つきでそれを開いた。
「……はあ」
部室内が見える窓を避けるように移動し、タクミは薄暗い体育館の壁に寄りかかりながらため息を吐いた。
別にたそがれているわけではない。自分達を危険な目に遭わせた奴が近くにいたら純粋にくつろげないと思って退出しただけだ。
「……さすが東都だぜ、平和ボケした奴らが揃いも揃って…………」
「なにしてるの?」
「うぉぉおおっ!?」
生えてくるように視界に入ってきた少女の顔面に思わず身体をビクつかせて叫んでしまう。
「なっ……なんだ理亞か……」
「なによそれ、失礼な奴」
腕を組んでそっぽを向く理亞だったが、視線だけはこちらを捉えたままだ。
「どうかしたのか?」
「いや……その……」
もじもじと身を縮ませてなにやら口ごもる彼女にタクミが首を傾ける。
「私……タクミにきちんと謝ってなかったから」
消えそうな声でそう伝えた直後、理亞は伏せていた顔を上げてタクミと視線を合わせた。
「あの時……タクミの言葉もちゃんと聞かずに……勝手に疑って、ごめんなさい」
ふと北都での出来事が脳裏をよぎる。
葛城ユイ————スタークの策略でタクミと理亞が引き裂かれてしまったあの瞬間の光景が。
「あ……」
タクミは急に苦しくなった自分の胸を押さえ、絞り出すように返した。
「俺も……」
「……?」
「俺の方こそ……悪かった。理亞や、聖良さんにも迷惑かけて……自分勝手なことばっかりで」
その答えを聞いて理亞も首を振る。
「ううん……それはもういいの。タクミが私達のために戦ってくれてたんだってことは、もう充分伝わったから」
「……」
笑顔を浮かべる彼女を見て、タクミはごまかすように口角を上げる。
————言えない。自分の手が既に汚れてしまっていることは。
人間をこの手で…………殺めてしまっているということは、絶対に……。
「ほら、戻ろ」
手を差し出しながらそう言う理亞に、タクミは一瞬たじろぐ。
「いや、俺は……」
「変なこと気にしなくていいから!」
痺れを切らした彼女に半ば強引に腕を引かれてしまう。
暖かい、優しさを分け与えてくれるような手の感触。
強烈な罪悪感が渦巻く。
迎え入れられた部室のなかで、タクミは胸に残滓する負の念を奥へ追いやりながら、一時の幸福を身に刻むのだった。
◉◉◉
「代表戦……?」
部室内の雰囲気が落ち着いてきた頃、キリオは全員に向けて送られてきたメールの内容について切り出した。
「ああ。東都と西都、双方で3人ずつ戦う者を選んで……最終的に勝ち数の多い国が勝利」
「西都の奴ら……一気に決着をつけるつもりだな」
3対3の団体戦…………こちら側で出せるのはキリオとリュウヤ、そして————
「3人ずつ……」
ふと呟いたルビィが部屋の隅に視線を向ける。
今の今まで極力気配を消していたタクミが苦い表情で顔を上げた。
「猿渡」
「あーもう……わーってるよ。協力しろっていうんだろ?」
「ごめんね猿渡くん……」
もう好きにしてくれとでも言うような様子で両手を挙げるタクミに、ルビィは申し訳なさそうにそうこぼした。
「なっ……なんでルビィちゃんが謝るん……ですか!?」
(なんで敬語……?)
必要な人数は問題なく揃いそうなことを確認すると、キリオは踵を返して部室から出ようとする。
「キリオくんどこ行くの?」
「決まってるだろ、奴らに勝つための新アイテムを開発しに行くんだよ」
ハザードトリガーやスパークリングだけではローグに勝つことは難しい。
もっと何か別の工夫を…………せめてオーバーフロー状態を自在に操れるようになれば————
「……で、なんでお前らまで来るんだよ?」
「なんか面白そうだったし」
開発のため十千万地下にある研究室へと移動したキリオだったが…………なぜかナチュラルに千歌達も付いてきてしまった。
「ここが仮面ライダーの秘密基地ってわけですね!」
「ちょっ……!撮影禁止だここは!」
「えー!?」
ちゃっかり部屋を撮り始めた月からデジカメを取り上げて動画データを迅速に削除する。情報なんてどこから漏洩するかわかったものではない。
「す、すみません」
「ったく…………」
気を取り直して机に向かおうとするキリオだったが、
「………………」
目を閉じ、腕を組んで考え込む姿を見せた彼は一向に手を動かそうとはしない。
「……キリオ?」
「寝てるの?」
その様子を横から眺めていた千歌達が怪訝な目を向けてくる。
「もしかして…………アイデアが浮かんでこないとか?」
「……ぅぅ……」
果南が指摘した途端にキリオの額にうっすらと汗がにじんできた。どうやら図星らしい。
うーん、と唸るばかりでそのまま5分ほどの時間が過ぎていく。
「私達……やっぱり邪魔になっちゃうかもね」
「そ、そうだね……行こっか」
やがて椅子に腰掛けながら悩み続けるキリオに背を向けて皆がその場から離れようとしたその時だ。
「…………」
千歌達がぞろぞろと部屋から出て行くなか、梨子が傍に設置されていた机の前で急に立ち止まった。
バングルが巻かれた左腕を机の上に置いてあった“エンプティボトル”へとかざし————
「————ッ!」
黄金色の輝きを注ぎ込む。
空だったボトルの中に薄い赤色の成分が溜まり、新たなフルボトルとして変化させた。
「…………ぅ」
その直後、意識を失ったかのように彼女は床へ横たわってしまった。
「……ん?————んっ!?」
何かが倒れる音に反応して振り返ったキリオが二度見する。
「さ、桜内!?」
仰向けになって倒れていた梨子のもとへ慌てて駆け寄り、キリオは彼女の上体を起こした。
「おい桜内!大丈夫か!?」
軽く揺すってみるが反応はない。……というか眠っているようだった。
あまりに突然な出来事に驚愕しつつ、キリオは視界に入ってきた卓上のボトルを手に取る。
「これは……」
通常のそれとは違う白い外装で包まれ、赤い成分が内蔵された1本のボトル。
そこに刻まれたレリーフへと目を落とした時、キリオは無意識にそのエレメントの名を口にしていた。
「ラビットボトル……?」
やっと登場したローラビットフルボトル。
次回からは代表戦が始まり、それが終わればついに3章へと突入していきます。
2章ではビルド本編に沿った展開が度々見受けられましたが、3章ではさらにオリジナルの要素や展開が増える予定です。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。