ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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グランドジオウライドウォッチのボリュームに驚きを隠せない作者です。


第48話 スノーにくべる心

「マネージャー希望……?」

 

「そうみたい」

 

ダンスのレッスンを終え、疲労しきった身体を更衣室で落ち着かせていた時だった。

 

思いもよらぬ発言が妹の口から出たことに驚きつつ、聖良はタオルで汗を拭いながら聞き返す。

 

「ええっと……その子は理亞のお友達ですか?」

 

「友達ってわけじゃ……」

 

答えに詰まったように頬を掻いては視線を逸らす理亞を見て、聖良は普段の生活ではあまり見せない小悪魔じみた笑みを浮かべた。

 

「男の子ですか?」

 

「え?そうだけど…………どうしてわかっ————」

 

ハッとするように目を見開いた理亞の顔がりんごのような赤みを帯びる。

 

それを隠すように片手で顔面を覆い、否定の意を込めてもう一方の手のひらを姉に突き出した。

 

「ちょっと姉様……ほんと、やめてよ…………そんなんじゃないからね」

 

「ふふ、私はまだ何も言ってませんけど」

 

「ただのクラスメイトよ、スクールアイドルオタクの」

 

半ば呆れるようにため息をついた後、自らのほっぺたを軽く叩いて気を正す理亞。

 

 

 

「それで、どうしてまた私達のところに?」

 

聖良は改めてそんな問いを投げかけた。

 

マネージャーの仕事は部員のスケジュールや体調管理……その他諸々。いわば雑用だ。

 

話を聞く限り理亞のクラスメイトだという少年はやけに積極的な印象を覚える。が、そうまでしてマネージャーにこだわる理由が理解できなかったのだ。

 

「ああ、それなんだけど……不純も不純。判断は姉様に任せるけど……断ってくれて構わないわ」

 

「不純?」

 

「ええ、『ルビィちゃんに会えるかもしれないから〜』だってさ」

 

腰を当てながら下手くそな声真似を披露する理亞に思わず苦笑する。

 

ルビィちゃん……とはAqoursの黒澤ルビィのことで間違いないだろう。なるほど、確かに不純だ。

 

そのような理由で入部を希望されても当然「はいそうですか」とはいかない。

 

 

 

 

「まあ、本当に私達と共に高みを目指そうとする気があるのなら…………1度や2度突き放したくらいでは、懲りないでしょうけどね」

 

 

◉◉◉

 

 

「ふ————ッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

 

重たい金属音が闘技場のなかを何度も行き来する。

 

互いの拳が互いの装甲を抉ろうとする暴力の鐘。この会場の中心では今まさにそれが荒ぶるように奏でられている。

 

「ハッ……!」

 

ヘルブロスの放つ巨大な歯車が迫る。

 

ギリギリまで引きつけた後、地面を滑りながら上体を低くしてそれを回避。そのまま奴の懐まで潜り込んだ。

 

「もらった————!」

 

起き上がる際に上半身を捻った勢いで威力を底上げした裏拳をお見舞いする。

 

……が、しかし。

 

「…………!」

 

直撃したはずのその攻撃を、ヘルブロスは防御体勢もとらずに胸で受けきってみせた。

 

「ぐっ……!」

 

「…………脆弱ですね」

 

腕を弾かれ、がら空きになった胴体に高速回転した歯車の刃が刻み込まれる。

 

「ぐあああああああ……ッ!!」

 

血飛沫の如く大量の火花が舞い散り、グリスがいたぶられるのを晒すかのように薄暗い闘技場が照らされた。

 

「っ……」

 

天井高くまで弾き飛ばされた彼の身体に追い討ちの一撃が接近する。

 

自分を仕留めようと発射された歯車のオーラを捉え、タクミは空中でボトルを取り出してはそれをツインブレイカーに叩き入れた。

 

「うらあああああああああああああああッッ!!!!」

 

手のひらからヴァリアブルゼリーで形成されたプロペラを伸ばし、回転させることで即席の盾を作り上げる。

 

飛来してきた歯車を受け止め、押し負ける前に体勢を変えて後方へと受け流すことでその場を凌いだ。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

着地し、必死に酸素を吸っては拳を構え直す。

 

————強い。鷲尾風華の身体能力もそうだが……あの歪な姿、単にエンジンブロスとリモコンブロスの合体形態というだけではない。スペックだけならローグにまで迫るだろう。

 

(……少し舐めすぎてたか)

 

リモコンブロス単身ならばあるいは————と考えていたが、隠し玉を出されては対応に遅れるのも必然。このまま防戦を続ければ確実に取り返しのつかないダメージを負ってしまう。

 

……それはダメだ。

 

士気を落とさないためにも、ここは勝たなければいけない。

 

それに、

 

(…………理亞達にこれ以上……苦しい想いをさせないために……!)

 

自分が今ここに立っているのは、悪夢を終わらせるため。この手で戦争に決着をつけるためだ。

 

もう一度“彼女達”が笑顔で歌って、人々に希望を送り届けられるように。

 

 

 

 

 

 

「タクミ……!」

 

「猿渡!」

 

ガラス越しに対戦を見守っていた理亞とリュウヤが血相を変えて彼の名前を呼ぶ。

 

誰が見てもグリスの劣勢は明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイトです」

 

「ああ……?」

 

不意に投げかけられた言葉に顔を上げる。

 

前方で佇んでいるヘルブロス————そのマスクの下から落ち着いた女性の声が届いてきた。

 

「これ以上の戦いは無意味です。再起不能になる前に降参することを推奨します」

 

「なに言ってんだあんた……?————ぐっ……!」

 

言葉の切れ目で発砲されたネビュラスチームガンによる射撃を両腕を交差させて耐える。

 

腕の隙間からヘルブロスを睨みつつ、タクミは彼女が話すのをしばらく黙り込んで傍聴していた。

 

「あなた方は我々を悪魔か何かだと勘違いしているようですが、そのような誤った認識は改めるべきだ。難波重工が作り出す新たな統一国家……それは世界のあらゆる国々をも凌駕する絶対的な存在になることでしょう」

 

タクミは彼女の言葉を聞いて、仮面の下で絶句した。

 

「戦争で悲しみに包まれたこの国を導く……いわば救世主。難波会長は新時代の支配者となるべきお方です」

 

 

 

 

どこからが本気でどこからが冗談なのかわからない。

 

「は————」

 

ああ、笑えてくる。これが難波チルドレン、あの老人に魂を売った人間の末路か。

 

「ふざけるな……救世主?新時代の支配者だ……?」

 

崩れそうになる身体に力を入れ、なんとか踏み留まりながらタクミは言った。

 

「大層な看板掲げて誤魔化そうとすんじゃあねえよ。自分達はそこまで尊い存在だって……何があんたらをそう思わせてるんだ……?」

 

力強く踏み出し、助走をつけて徐々にヘルブロスのもとへと駆ける速度を上げる。

 

「あんたらはこれまで一体なにをしてきた……?人々を笑顔にするために努力してきたのか?そうじゃないだろ……ッ!?」

 

《アタックモード!》

 

ツインブレイカーで奴の腕にあるカッターを抑えこみ、競り合いへと移行。

 

「難波重工が生み出したのは殺人兵器と悲しみだけだ……!幸せだった人達を一瞬にして地獄に叩き落とした極悪人の集まりだろうがッ!!!!」

 

「……っ……」

 

強引に押し切ったグリスがヘルブロスの腕上にツインブレイカーの刃を滑らせ、流れるような動きで頭部を抉った。

 

「……!?ハザードレベルが急に————!」

 

たたらを踏んだヘルブロスの隙を見て腰を低く下ろす。

 

《シングル!》

 

《ツイン!》

 

ツインブレイカーにロボットゼリーとロボットボトルを装填した後、装着された左腕を引くと同時にスクラッシュドライバーのレバーを弾いた。

 

《 《スクラップフィニッシュ!!/ツインブレイク!!》 》

 

「あんたら全員……俺と同じだろうがよッッ!!」

 

「かっ……ふ————!!」

 

ツインブレイカーの刃の細さを利用し、歯車が密集していない装甲の薄い隙間へと全力を注いだ一撃を放った。

 

練り上げられた最大威力をそのまま身に受けたヘルブロスは宙で放り投げられた玩具のように回転した後、凄まじい騒音を立てながら地面へと落下した。

 

「ぐっ……う……!」

 

「オオオオオオオオオッッ!!」

 

膝をつくヘルブロスに向かって一直線に走り出すグリス。

 

自らの腕も壊れそうになるほどにツインブレイカーを振り回す猛攻。

 

風華は防御が追いつかないラッシュを前にして身を縮ませるばかりだ。

 

「愛情!厚情!激情ッ!!」

 

「……!」

 

「喰らいやがれええええええええええッッ!!!!」

 

《スクラップフィニッシュ!!》

 

至近距離から放たれた跳び蹴りがヘルブロスの胸部を直撃し、そのまま地面を抉りながら滑走。

 

吹き飛ばされたヘルブロスからは蓄積されたダメージが溢れ出るように稲妻が走っていた。

 

 

 

「ここまで……やるとは……」

 

今にも倒れそうな風華が子鹿のように震える足を踏ん張り、立ち上がる。

 

形勢逆転。どちらに勝負が転がるか判断がつかなくなったその時、

 

 

 

 

 

 

『なにをしている風華』

 

マイクから流れ出る老人の声に、名前を呼ばれた彼女は小さく肩を震わせた。

 

「会長……」

 

『わかっているんだろうな?お前がこの戦いに敗れれば雷斗がどうなるのか』

 

「……っ」

 

そのやりとりを聞いたタクミが呆然とした様子で立ち尽くす。

 

「は……?————ッ!」

 

駆け出してきたヘルブロスの打撃を受け止めつつ、タクミは戸惑いながら風華に対して問いかけた。

 

「おい……今のはどういう————」

 

「あなたが気にする必要は……ありません……!」

 

距離をとり、再度ヘルブロスの振るった両腕からグリスを巻き込まんとする歯車が射出される。

 

側宙の要領でそれを回避したタクミはすぐさま顔を上げて前方に立っている戦士の顔を睨んだ。

 

「あなたと同じように……私にも負けられない理由があるということです……ッ!!」

 

ネビュラスチームガンによる射撃に耐えながら頭を動かす。

 

(弟を……人質にされているのか……!?)

 

この会場にやってきてから鷲尾雷斗の姿が見られないのは確かだ。

 

今ここで自分が勝てば————1人の人間の命が失われることになる。

 

「………………ッ!!」

 

ツインブレイカーを構えながら地を蹴り、飛来してくる銃弾を避けながらヘルブロスにとどめを刺そうと闘技場内を駆け巡る。

 

 

 

何も考えるな。

 

今までとは背負っているものが違う。ここで負けてしまえば、その責任は“次”に降りかかってしまう。

 

だから確実に…………奴を仕留めなくては——————!!

 

(敵の事情なんて……知ったことかよ……!)

 

徐々に距離を詰めていき、ヘルブロスの死角に潜り込んでは再びスクラッシュドライバーのレバーへと手をかける。

 

このままレバーを押せば間違いなく奴を倒せる。1戦目の勝利は自分達のものになるんだ。

 

「おおおぉぉおおぉおおおおぉぉおおッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————タクミ。

 

 

 

 

 

 

 

 

少女の顔が脳裏によぎる。

 

今にも泣き出しそうな顔。他人が傷つく痛みを、まるで自分のことのように想ってくれる女の子が見える。

 

 

 

 

(また……俺は————)

 

 

 

 

 

 

 

————人を殺すのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい圧力に押し出されるような感覚が全身にほとばしる。

 

ヘルブロスの繰り出した一撃に吹き飛ばされ——————タクミは生身の身体で地面へと放り出された。

 

 

 

 

『仮面ライダーグリス、変身解除!よって勝者……ヘルブロス、鷲尾風華!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

重い沈黙が空間に充満する。

 

「チッ……」

 

しばらく天井を見上げた後、重い腰を上げて立ち上がる。

 

 

 

「どう……して……」

 

何も言わないまま立ち去ろうとしたタクミの背中に、動揺で満ちた声が投げられた。

 

「どうして一瞬……動きを止めたんですか……?」

 

変身を解いた風華が青くなった表情でそう尋ねてくる。

 

タクミは疲れ切った顔を彼女に向け、

 

「なんのことだよ」

 

消えそうな声音でそう返した。

 

今まで冷徹だった風華は安堵と驚愕の入り混じった複雑な表情で、去っていく彼の背中を見つめていた。

 

 




かつて人に手をかけたことに葛藤するタクミが敗北し、1戦目の勝利は西都側のものに……。
さて2戦目はスタークvsクローズチャージという構図になりますが、果たして東都は勝ち星をあげることができるのか。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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