ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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Over Quartzer観に行きました!!!!
いや、すごいですよあの映画。平成に誕生したライダー達の歴史を締めくくるに相応しいお祭り作品に仕上がってると思います。
あのサプライズは本当に誰も予想できない笑

近いうちに2回目観に行く予定です。


第59話 究極のドライバー

「……エボルト」

 

電話を通じて少女の声を演出する怪物に向けて抑えきれない怒りの感情をぶつける。

 

『あれ?もう知ってるんですか?……ああ、火星の王妃から聞いたんですね。——『なら話は早い』』

 

少女の声に低い雑音が混ざる。

 

『お察しの通り、オレは葛城ユイの身体を支配している地球外生命体だ。これから言う要求にお前らが従わなかった場合、オレは迷うことなくこいつを消すことができる』

 

声色を変えたエボルトは単刀直入にそう切り出した。

 

寄生能力を持つエボルトにとっては替えの効くパーツでしかないのだろう。

 

……ユイの命は奴が握っている。要は人質というわけだ。

 

「お前の望みはなんだ?」

 

『ようし、いい子だ。…………24時間以内に指定された場所へ“エボルドライバー”を持ってこい。用意できなかった場合、あるいは指定時刻を過ぎた場合、葛城ユイを殺す』

 

「エボルドライバー……?」

 

『パンドラボックスの力を最大限に引き出すことができるドライバーだ。……お前が保管しているんだろう?』

 

その単語を耳にした途端、頭のど真ん中に針を通されたかのような鋭い痛みが走った。

 

エボルドライバー……その名前に聞き覚えはない。だがそれがどういう代物なのか————キリオにはわかっていた。

 

(まさか……)

 

フルボトルの浄化装置。その稼働を可能にするために大本の部品に組み込まれているとあるパーツが脳裏によぎる。

 

スカイウォールの惨劇直後、キリオが海岸で目覚めた時に抱えていた物…………ビルドドライバーの原型となったアイテム。

 

「どうしてお前が……アレを知っているんだ……!?」

 

荒くなった息を抑えるように胸元に手を当てる。

 

『どうしてもなにも……あのベルトは元々オレの物だったからな』

 

「お前は……っ!……お前も、俺の過去を……知っているって言うのか……!?」

 

『さあて、どうだろうな?——場所はあの塔、パンドラタワーの麓に24時間以内だ、忘れるなよ?』

 

「おい待て————!」

 

『チャオ〜』

 

おちゃらけた挨拶を最後に通話が途切れる。

 

「……キリオ?」

 

ビルドフォンを握った手を力なく下ろし、虚ろな双眸を浮かべているキリオに対して、そばに佇んでいたリュウヤは不安げな眼差しを注ぐ。

 

今にも嘔吐するのではないかと思うほどに顔色の悪くなった彼は、背後を振り返り部屋の奥に設置された浄化装置を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「24時間以内……」

 

「ああ、それを過ぎれば葛城の命はない」

 

翌朝。

 

部室にリュウヤ、タクミ、ミカ……そして千歌達全員が集まったことを確認した後、キリオは片手に収められたアイテムをテーブルの上に置いた。

 

形状の似ているビルドドライバーとは逆の赤、青、金、と派手な色で統一されたアイテム。

 

昨晩浄化装置から取り出し、分解されていたパーツを組み上げ直したエボルドライバーの現物だ。

 

「ていうか……地球外生命体って……」

 

「一気にスケールが大きくなりましたわね……」

 

「驚く気持ちもわかるが、実際に奴は————エボルトは存在する」

 

ユイの置かれている状況、そしてブラッドスタークの正体……昨日ベルナージュの話を聞けずにいたメンバーにも全ての事情を伝えた。

 

「これからこのエボルドライバーを持ってあの塔、パンドラタワーに向かう」

 

「それって……そのエボルトって奴に渡しちゃうってこと!?」

 

善子の疑問は皆が思っていることだった。

 

ベルナージュはエボルトが力を取り戻すことを阻止しろと言っていた。……エボルドライバーを渡すということは、その意思に反するのと同義。

 

だが従わなければ1人の人間の命が失われることになる。

 

「いや、奴に渡すことはない。エボルトが行動を起こす前に政府の軍と連携して奴を拘束する手筈だ」

 

……正直現状の作戦ではどうしても不安が拭いきれないが、他に方法がないのも事実。

 

ユイの身を守るためにも、まずは向こうの要求に従う素振りくらいは見せなくてはならない。

 

「……ねえ梨子ちゃん、何か聞こえてきたりしないの?」

 

ふと千歌が横に座っていた梨子にそう尋ねる。

 

確かに彼女のなかにいる火星の王妃のアドバイスが頂けるのなら頼もしいのだが……。

 

「…………ううん、なにも。ごめんなさい、役に立てなくて……」

 

「そ、そんな!梨子ちゃんが謝る必要なんてないよ!」

 

しばらく目を閉じた後で首を横に振った梨子に慌てて千歌が言葉を添えた。

 

どうやら彼女自身が打ち明けていた通り、ベルナージュに残された力は本来のそれよりも大幅に落ちているのだろう。この先表に出てこれる時間はあと数回か…………もしかすると既に力を使い果たして消滅している可能性だってあるんだ。

 

不確定要素に頼るわけにはいかない。……自分達の力だけで、なんとかしなければ。

 

 

 

「————うっ……!」

 

「え?……キリオくん!?」

 

突然その場でバランスを崩したキリオが膝をつく。

 

……頭が割れるように痛い。脳の奥底が無理やり掘り返されるような……不快感と共に襲ってくる凄まじい痛みだ。

 

「おい、大丈夫なのかよ……?」

 

「……ああ」

 

駆け寄ってきたリュウヤに肩を支えられつつ弱々しい声でそう返す。

 

「やっぱり疲れが溜まってるんじゃねえか……?奴のところには俺が行くから、キリオはここで————」

 

「バカ、昨日の話をもう忘れたか?このタイミングでエボルトとお前を引き合わせるのは危険なんだよ」

 

前髪を掻き上げながら視線を横流しにする。

 

「万丈はここで待機だ。何かあった時のためにこいつらのそばにいてやってくれ」

 

目で千歌達を示しながらリュウヤに用件を振る。

 

……自分の読み通りならば次にエボルトに蝕まれるのは彼だ。のこのこ奴の眼前に差し出すような真似はできない。

 

 

 

「……政府側の準備は整ったみたいだ」

 

ちょうど届いたメールを確認した後、キリオは改めて皆に目配せをする。

 

彼は脇に立っていたタクミ、ミカとそれぞれ顔を見合わせた後————静まり返った部室に、微弱な震えを含んだ声を響かせた。

 

「行くぞ」

 

 

◉◉◉

 

 

「……それにしても濃密な1年だったなあ、もうすぐお前の身体ともおさらばだ。……お前のおかげで、オレは多くの“楽しみ”を得ることができた」

 

塔の麓——更地と化した大地の真ん中でパンドラボックスを椅子代わりにしながら、少女は自らの両手に目を落とす。

 

「スクールアイドルってのも視点を変えてみれば暇つぶしくらいにはなった。ステージ上で計算された動きをするだけで人間どもが予想通りに馬鹿騒ぎして持ち上げてくれる様は……これ以上ないほどに滑稽で、上から見ててとても楽しめたよ」

 

怪物はそう言って笑いをこぼすと、ひらひらりとスカートを翻しながらその場でステップを踏んでみせる。

 

「……だが所詮はそれだけ、風前の灯に過ぎない。憧れや夢、時が経てば自然消滅する一瞬の輝きに意味を見出そうとするなんて……つくづく人間ってのは愚かな生き物だと————そう思わないか?」

 

怪物————エボルトは地に向けていた少女の顔を上げると、前方からやってくる3人の男女に向かってそう問いかけた。

 

歩み寄ってきた人間達の1人である青年は手に持っていた“ドライバー”をエボルトに見えるよう高く掲げると、細めた眼で奴を捉える。

 

「これがお前の求める物か?」

 

「グッジョブ!!さすがです戦兎先生〜!!バッチリ持ってきてくれましたね、あたしの大事な大事なエボルドライバー!!」

 

「エボルト……ッ!!」

 

「おいっ……!」

 

「んん?」

 

今にも飛びかかりそうな形相で奴を睨みつけるミカを隣に立っていたタクミが制止する。

 

それを見たエボルトは悪魔の如き微笑を浮かべ、彼女に対してわざとらしく上目遣いの表情を見せてきた。

 

「あれれ、どうしたのみーちゃん……?なんで怒ってるの?そんな顔しないで、みーちゃんは笑った方が何倍も素敵なんだからさ」

 

「……ッ!お、まえぇ……っ!!」

 

「待て氷室!落ち着けって……!」

 

「ユイちゃんを返せ……!その顔で、その声で……!わたしの前に立つなァ!!」

 

「ハッハハハハハハハ!!怖いねぇ、これまでオレに騙されてたのがそんなにイラついたか?だがお前にも非はあるんだぜミカ。お前がユイを難波に差し出したりしなければ、こいつはオレに取り憑かれることもなかったんだからな」

 

エボルトの言葉にミカは大きく目を見開いた。

 

そして全てを理解する。以前ユイが受けていた人体実験…………彼女が打たれた“血清”とやらの正体が、エボルトそのものだったことを。

 

「ぐ……うぅ……う……!!」

 

「ここで涙……っと、本当に面白いなぁお前は。オレが想像した通りのことばかりしてくれる。これまで見てきた人間達のなかでもトップクラスにお気に入りだぜ、ハハハ!!」

 

「————黙れ」

 

高笑いを断ち切るように青年が言い放つ。

 

「んん……?」

 

「喋るな、笑うな、口を閉じろ。これ以上、お前の声を聞かせるな」

 

まるで笑っていない瞳をエボルトに向け、キリオは静かな怒りを露わにする。

 

「お前の目的はこっちだろう」

 

「……クハハ、そうだったな、からかうためにお前らを呼んだんじゃない。さっさと用を済ませるとするか」

 

ユイの身体を動かし、エボルトは片腕を差し出してはエボルドライバーを投げ渡すよう手招きをして伝えてくる。

 

「…………」

 

キリオは手首のスナップを効かせながら握っていたそれを手放し————奴の頭上めがけて投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

「————ッ!!」

 

刹那、背後に隠していたガンモード状態のドリルクラッシャーを引き抜き、宙を移動していたエボルドライバーを射撃。軌道を逸らす。

 

次に流れるような動きでブレードモードへとチェンジし、同時に高速回転させた刃を地面へと突き立て大量の砂を巻き上げた。

 

「今だ!!」

 

キリオの合図と共にタクミとミカが駆け出し、煙幕を突き破りながらエボルトへと直行。

 

《シングル!》

 

「……!」

 

「そらっ!」

 

「ごめんユイちゃん!」

 

タクミが生身のまま取り出したツインブレイカーにローズフルボトルを装填。瞬時に荊棘を伸ばして拘束した後、ミカが足を払って奴を地に伏せる。

 

たった数秒間の連携。このわずかな時間でエボルトは一時的に自由を奪われることとなった。

 

「……なんのつもりだ?」

 

「おい氷室、口の方を忘れてるぞ」

 

「あ……そうでした」

 

ミカが横たわるエボルトのもとへ歩み寄り、自害されるのを防ぐ意味も込めて猿轡で口元を封じた。

 

「…………いいタイミングだ」

 

全方向から近づいてくる統率された足音に気がつき、キリオは不敵に笑う。

 

いつの間にか周囲を取り囲んでいたガーディアンと兵士達の存在を確認した後、彼は改めて諸悪の根源である怪物を見下ろした。

 

「チェックメイトだ。これからお前は政府の研究所に輸送され……葛城の身体から切り離す方法が判明するまで徹底的に調べ上げられる。当然外界とは遮断された環境で、だ」

 

他の人間に憑依しないよう細心の注意を払って行われる“治療”だ。確実にユイを救うために、どれだけの時間がかかっても完遂してみせる。

 

「では、手筈通りに」

 

「了解」

 

こちらに視線を注いでくる少女の顔から目を逸らしつつ、キリオは一言指示を出した。

 

やってきたガーディアン達にエボルトの身柄を預け、車両へと運ばれていく奴の姿を見つめる。

 

「やったな戦兎先生」

 

「ああ」

 

どこか含みのある言い方で肩に手を置いてくるタクミに返答した後、肩を落としたミカへと視線を移す。

 

「……ユイちゃん、本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

「心配するな、研究には俺も加わる予定だしな。葛城は必ず……俺が戻してみせるさ」

 

胸を撫で下ろすミカを見てキリオも小さく口角を上げた。

 

……さて、あとはエボルドライバーの回収だ。

 

 

 

「…………」

 

転がっていたそれをおもむろに拾い上げる。

 

天体を思わせるデザインを眺めながら、キリオは結局はっきりしないまま話が終わった自らの過去について思考を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

————思い出せ。

 

 

 

「……え?」

 

ピリ、と手のひらに伝わる電撃のような感覚。

 

「ぐっ……ぁ……!」

 

「……?戦兎先生?」

 

「どうかしたのか?」

 

突然頭部を抑えながら苦しみだしたキリオに気づき、去ろうとしていたタクミとミカが慌てて踵を返し舞い戻ってくる。

 

「あ……っ……!ぁぁあああ……!!」

 

「あの、先生?どこか痛いんですか……?」

 

「ちょっとすみません!こっちに担架を!」

 

膝を折ったキリオをミカが介抱しつつ、咄嗟にそばにいた兵士に向けてタクミが救護を呼びかけた。

 

 

 

熱い。目の奥が焼けるように熱い。

 

思考回路がショートしたかのような高熱を帯びているのがわかる。

 

知らないはずの知識が…………滝のように流れてくる。

 

「あ————」

 

瞬間、目の前が漂白された。

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

「うおっ!?」

 

直後、タクミとミカは想定外の事態に驚愕する暇もなく吹き飛ばされてしまった。

 

「あ……!?」

 

キリオから発せられた()()()()が辺り一面を焼き尽くす。

 

「なん……だ……これ……ッ!?」

 

何が起こっているのかはキリオ本人ですら理解することはできなかった。

 

自分の身体から発生している無数の(いかずち)が周囲に衝撃と爆風を撒き散らす光景を、彼はただ呆然と眺めることしかできなかった。

 

「うわああああッ!!」

 

「なんだ!?」

 

不意を突かれた兵士達は散り散りになり、ガーディアン達は軒並み雷撃によって塵同然になるまでに貫かれていった。

 

「……ッ!」

 

その時、キリオは無意識に放り投げてしまったであろうエボルドライバーが数メートル先に転がっているのを視認。

 

神経からズタズタにされるような痛みに耐えながら地面を這い、それを掴み取って——————

 

 

 

 

 

「ざ・ん・ね〜ん」

 

「がっ……!」

 

伸ばした手を何者かに踏みつけられ、キリオの表情に苦悶が宿る。

 

「エボ……ルト……!」

 

「ふぅ……。ちょっぴりビックリはしたけど、この程度の拘束なら数秒もあれば毒で溶かせるんだよね」

 

もはや原型を留めていない荊棘を振り払いながら奴はそう語る。

 

「俺に……何をした……!?」

 

「えぇ?なにもしてませんけど?」

 

周りの惨状を見渡し、エボルトは可笑しくて仕方がないとでも言うように気味の悪い笑みをにじませた。

 

「……ぷふっ!あはっ……あははははははは!!キャハハハハハハッ!!——バッカみてぇ!!」

 

「っ……」

 

「はあーぁ……まさかここまで落ちぶれていたとはな。この星の大気に頭でもやられたのか?……人間がどんなに知恵を絞っても、絶対的な力の前では何もかも無意味になるんだよ」

 

「……!待て————!」

 

エボルドライバーを拾い上げ、まじまじと観察した後————エボルトはそれを自らの腰に装着した。

 

《エボルドライバー!》

 

「ふむ……確かに本物のようだな」

 

奴はブレザーのポケットから見たこともないボトルを2本取り出し、そのキャップ部分を回転させる。

 

「ついに……戻ってきた……ッ!」

 

「そのボトルは……!?」

 

キリオの顔が一層痛みに歪んでいく。

 

エボルトはそれを小慣れた手つきでドライバーに装填し————ゆっくりと両腕を胸の前で交差させた。

 

 

 

 

《コブラ!》

 

《ライダーシステム!》

 

 

 

 

《エボリューション!!》

 

 

エボルトがレバーを回すと同時にスナップライドビルダーに酷似したレーンが展開。奴の身体を取り囲み“スーツ”を形成していく。

 

《Are you ready?》

 

「————変身」

 

扉を開くように交差させた腕を左右へ広げ、現れたスーツを用いて自らの肉体を覆った。

 

 

 

 

 

《コブラ!コブラ!エボルコブラ!!》

 

《フッハハハハハハハハハハ!!》

 

 

 

 

仮面にはコブラの意匠。

 

天球儀や星座盤、宇宙を連想させる装甲に包まれたエボルトは————くぐもった声音で自らの復活を表明した。

 

 

 

 

 

 

「エボル————フェーズ1」

 

 

 

 




さて今作ではついにエボルが登場です。
少し前に今後の展開をまとめてみたのですが、80話いかない辺りで完結できるかな?って感じですね。

ここからは怒涛の展開が続きます。
どうか最後までお付き合いください……。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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