ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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なんとか予定通り投稿できました(焦)


第62話 プログラムされた喜劇

「フェーズ2————完了」

 

 

 

ゆらゆらと揺れる炎の茂みに佇むのは蛇から龍の姿へと進化を遂げた怪物。

 

絶えず続いている頭痛の最中、キリオは目の前で起こった出来事が受け入れられないとでも言うかのように…………自分を見下ろす異星からの侵略者に開き切った瞳孔を向けた。

 

「フェーズだと……?お前、その姿は————」

 

「言葉通り、また1歩先へ進んだというわけだ。今まで見せてきた力は本来の2パーセントに過ぎない。……オレはまだまだ進化する」

 

それは遠回しな勝利宣言だった。

 

エボルドライバーを使用したエボルトの力はまさに別次元の領域。以前の姿でも全く手に負えなかったというのに…………奴はまだ強くなるというのか?

 

リュウヤはキリオの腕のなかでぐったりと倒れたまま動く気配もない。

 

遺伝子がどうとか話していたが……いったいどういう————

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……はぁ……っ!キリオくん!!」

 

「……!千歌……!?」

 

リュウヤから視線を外し、キリオは不意に投げかけられた呼びかけへと意識を向ける。

 

病院からここまで駆けつけてきたのか。髪を乱し、肩で息をした千歌が少し離れた建物の壁に寄りかかっているのが見えた。

 

「フッ……」

 

「バカ……!早く逃げろ!!」

 

「え……?」

 

状況の整理がつかない千歌が顔を上げた瞬間、残像の軌道を走らせながらエボルが彼女の背後へと回る。

 

「くぅ……!?」

 

「千歌ッ!!」

 

エボルが放った手刀が千歌の首を捉え、眠るように気を失った彼女を抱えながら奴は再度キリオへと身体を向け直した。

 

「こいつの身柄は預かっておく。返して欲しければ…………今度は残りのパネルとボトルを全て明日中に届けてもらおうか」

 

「なん……だとォ……!」

 

「場所は前と同じタワーの麓だ。……今度は変な策を練ろうなんて考えるなよ?オレの前じゃ、どうせ何もかも台無しになっちまうんだからさ」

 

「ふざけんなッ!!」

 

「チャオ〜」

 

横たわるリュウヤのそばから駆け出し、エボルトに殴りかかったキリオの拳が空を切る。

 

とても追いきれない速度でその場を去った奴の笑い声だけが鬱陶しく耳に滑り込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁあああああああああ…………ッ!!」

 

 

無数の瓦礫が転がった地面へひたすらに拳を叩きつける。

 

コンクリートの硬い感触から手に伝わる痛みよりも、(パーツ)が欠けてしまったことへの悲しみがキリオを深い絶望の底へと追いやった。

 

 

◉◉◉

 

 

翌日の朝。

 

突如としてジャックされた公共の放送機関により内浦の町…………いや、世界中が騒然の渦に巻き込まれることになった。

 

『お初にお目にかかる、オレの名はエボルト。星を喰らい、それを自らのエネルギーへと変える地球外生命体だ』

 

街頭に設置された巨大モニター、テレビ、スマートフォン。

 

あらゆる電波に乗って流れた映像————そこに映っていた異形の姿に誰もが恐怖し、そして息を呑んだ。

 

『この地球に生きるすべての人間に告げる。オレはこの町、内浦にあるパンドラタワーを拠点として……今日から本格的に地球を滅ぼすための活動に移行する。せいぜいわずかな余生を楽しむといい』

 

紳士的な振る舞いとは裏腹に奴の言動はこの上なく不条理で、信じ難い宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ちゃんが攫われたって……。それって……その……本当なの……?」

 

「…………申し訳……ありません。すべて俺の責任です」

 

ボロボロの身なりで深く頭を下げてきた青年に、高海志満は戸惑いに満ちた眼差しを注ぐ。

 

夜が明けるのとほぼ同時にリュウヤを担ぎながら十千万へと戻った彼はひどく憔悴しているようで、絞り出すような声で何度も謝罪の言葉を並べてきた。

 

「ぐ……ぅ……!」

 

「と、とにかく座って!病院から抜け出してきたんでしょう?安静にしなきゃ……」

 

よろめき、青い顔で傍らにあった柱に体重をかけたキリオの背中を支えながら志満は困惑した表情のまま思考を巡らせる。

 

「もしかしてだけど……さっきやってたおかしな放送と関係が……?」

 

「……はい」

 

暗い瞳で虚空を見つめながらキリオが頷く。

 

先日現れたパンドラタワーの騒ぎに加えて今朝のエボルトによる演説。すでに内浦全体がパニックに陥っている状況だ。

 

避難勧告も発令され、この町はもう人が住める土地ではなくなってしまっている。

 

部屋の隅にまとめられた荷物はおそらく千歌の姉である志満と美渡が急いで用意したものだろう。彼女達は今日にでも旅館を出発するつもりだったらしい。

 

「…………」

 

すべて打ち明けるべきなのだろうか。

 

自分のせいでこれまでどれだけ千歌達が危険な目に遭ってきたのか。すべて話して、志満の怒りを一身に受けた方が…………楽になれるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、キリオくん…………あなた、私や美渡に隠してることがあったでしょう?」

 

「……っ」

 

虚ろな表情を浮かべるキリオの横顔に、彼女は囁くような声音でそう尋ねた。

 

誤魔化すことは不可能だ。なぜエボルトが千歌を連れ去ったのか、そして自分が何者であるか…………全部、彼女に明かさなくては。

 

「志満さん、俺は————」

 

「ううん、言わなくてもいいのよ」

 

「……え?」

 

立ち上がり、ゆっくりと台所へ向かいながら志満は口を開く。

 

まるで大した問題でもないとでも言うかのように……落ち着いた様子で彼女は続けた。

 

「あなたが千歌ちゃん達のためにいつも頑張ってくれていることは……私も美渡も十分わかってるから。……ウチに来た頃とは違って、ね」

 

「………………」

 

台所から顔を覗かせる志満と目を合わせ、キリオはそのにこやかな表情を視界の中心に見据えた。

 

ふと5年前の————この旅館に初めて足を踏み入れた時の景色が重なる。まだ幼かった千歌とは違い、美渡や志満……彼女の姉達が自分に対してどこか警戒するような目を向けていたあの時の光景だ。

 

今思えば彼女達が気を張っていたのも当たり前のことだ。見ず知らずの人間が、ある日急に一つ屋根の下で共に暮らすことになるなんて怪しまない者の方が少ないのだから。

 

けど今は…………。

 

「俺には……まだこの町で、やるべきことが残っています」

 

「うん。……あの子のこと、お願いね」

 

キリオは優れない表情のまま強く頷くと、飛び出すように地下室に繋がる階段へと駆け出す。

 

 

 

 

 

 

「志満姉ーーーー!千歌の奴と連絡つかないんだけど————ってあれ?今のキリオ?」

 

誰もいなくなった空間から視線を外し、志満は階段を駆け下りてきた妹へと柔らかい口調で言った。

 

「美渡、すぐにここを出発しましょう」

 

「え?でも千歌がまだ……」

 

「千歌ちゃんは後からキリオくんと一緒に追いつく予定なの」

 

「……?まあそれなら心配ないか。……って、ならもう行っちゃおうよ!あーもーようやく戦争が終わったかと思ったら宇宙人の侵略とか!シャレになんないってー!!」

 

バタバタと騒がしい足音を立てながら居間の荷物を抱えて外へ飛び出していく美渡の背中を見送った後、志満はゆっくりと腰を上げてその後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……っ……はぁ……っ!」

 

自分が所持している全てのフルボトルとパネルを机に搔き集めながらキリオは考えを巡らせる。

 

エボルトの狙いはパンドラタワーの完成。そのために残りのボトルとパネルを要求したんだ。

 

そしてそれが達成されれば、地球は————

 

「…………」

 

長椅子に横たわっていたリュウヤを見下ろす。

 

普段のやかましい雰囲気は見る影もなく、エボルトとの戦いで付いたであろう頬の擦り傷が痛々しい。

 

キリオは苦しそうに歯を食いしばった後、震える手を伸ばしきって瞼を閉じている彼の懐からドラゴンフルボトルを回収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうすればいい?)

 

血の気の引いた顔でゆらゆらと蛇行しながら街道を歩く。

 

これから自分は星を滅せるほどの力を持った化け物のところへ向かう。

 

対抗策は無い。よって千歌を救うには自分が持つボトルとパネルをエボルトに引き渡す他ない。だがそうなればこれまで必死で守ろうとしていた平穏は終焉を迎えてしまう。

 

自分が何者かもわからず、胸にぽっかりと空いた穴を埋めてくれるパーツの正体も思い出せないまま————何もかもが消え去ってしまうんだ。

 

「この町も…………欠けちまうのか」

 

立て続けに真横を走り去っていく車両を見送りながら、キリオがそうこぼす。

 

もう住民の避難は始まっている。パンドラタワーの形成と今朝のエボルトが行った放送が決め手となり、既に半分以上の人々が他所へ出て行ってしまったのだ。

 

元より人が多いわけではなかったが、道を歩いていて出くわす人間が明らかに減っていることが察知できた。

 

 

 

……恐い。

 

エボルトのもとへ向かうのがたまらなく恐い。

 

奴の力は圧倒的だ。勝ち目なんてあるわけがない。

 

……だけど、

 

 

 

 

だけどまだ——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリオくん」

 

前方からの呼びかけに反応し、キリオは俯かせていた顔を上げて目の前に立つ複数の人影を視界の中心に収めた。

 

「……お前ら」

 

「おはヨーソロー!……なんか、また大変なことになっちゃったみたいだね」

 

曜と月……その背後に立つAqoursのみんなに、Saint Snowの2人。そしてミカとタクミが揃ってこちらを見つめている。

 

「なに……やってんだ?」

 

「ちょっ……そんな怖い顔しないでよ」

 

「親御さん達の目を盗んで、この町に残ることにしたんだとよ」

 

そばに佇んでいたタクミが青い表情で眉をひそめる青年に向けて簡潔に説明する。

 

もはや怒りの感情すら上手く湧き上がってこないほど心がひび割れていたが、キリオは余力を振り絞って眼前に現れた少女達に鋭い眼を突きつけた。

 

「今からでも遅くない、逃げろ、すぐに、死にたくなければな」

 

「いいや、遅いよ」

 

「あと数時間もすれば内浦と……その周辺を含めた地域が封鎖されるみたいですわ」

 

「海外からの圧力もかかってるみたい」

 

口々に弁明を始めた彼女達を見て、やがて限界が訪れる。

 

 

 

 

「頼むから逃げてくれよッッ!!!!」

 

ぐしゃぐしゃと髪を乱した後、ひどく取り乱した様子でキリオは皆に咆哮の如き声を張った。

 

「千歌が心配だから残ったって言うんだろ……?この町に残って……それでどうするつもりだったんだ……!?お前らがエボルトと戦えるのか!?千歌を助けられるのか!?」

 

胸の内に留めていた不安を全て吐き出しながらキリオは叫ぶ。

 

「お前らまで失ったら……俺には何も残らない……!また逆戻りなんだよ……!!」

 

自分を……戦兎キリオを構成する大切な要素である彼女達だけは、何が何でも守り通したかった。

 

だが今回はこれまでとはわけが違う。勝利の確率は1%もない負け戦だ。

 

今まで創り上げてきた何もかもを壊すことができる敵が居を構える町に、皆を残すことなんかできない。

 

 

 

「……違いますよ、戦兎先生」

 

「……?」

 

「千歌さんだけじゃない。……みんな、あなたのことだって心配なんです」

 

一歩前に出たミカが胸元を押さえながら口を開く。

 

「先生はわたしに言いました。……お互いの良いと思えるところを尊重し、悪いと思うところを補い合う…………それが仲間だと。だから言わせてもらいます、あなたは間違っている」

 

「………………」

 

光の宿っていない青年の瞳に視線を合わせながら、ミカの隣に並んだ曜が言う。

 

「キリオくんはもっと周りに頼るべきだよ。……せめて、弱音くらいは聞かせて欲しい」

 

「聞かせてどうなる。それで今の状況が変わるのか?」

 

「いいえ。でもあなたの重荷を一緒に背負うことくらいはできるはずです」

 

「徒労だ」

 

「軽くはなります」

 

 

 

 

……強い意志が、一斉に注がれているのがわかった。

 

正しいことはわからない。いつだってわからなかった。

 

ただ、自分の信じた道を進んだだけ。

 

 

 

「私達は……最後までキリオくんと一緒にいるよ」

 

 

瞬間、暗闇からすくい上げられるかのような感覚が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺にはまだ…………こいつらがいる)

 

 

 

 

 

差し出された曜の手のひらへ無意識に自らの手を重ねる。

 

 

 

未完成のままそびえるパンドラタワーが、キリオ達を嘲笑うように見下ろしていた。

 

 




なんだか円満な雰囲気を出し始めたキリオ達ですが本当の絶望はここからだぜ()
さて、今回のサブタイトルにある"喜劇"とは何を表しているのか。
おそらく次回、ついにキリオの正体が明らかになるかと。
代表戦のミカvsキリオと同じくかなり初期から構想していた展開が待ち構えておりますのでどうぞお楽しみに……。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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