ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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もう3日もすれば平成ライダーが終わるという事実に寂しさを感じつつも、ゼロワンの放送が楽しみでなりません。


第66話 救えラビット

「これは見物だなあ」

 

 

パンドラタワー最上階。

 

神殿を思わせる建造物が並び立つその中心で、エボルトはユイの姿のまま大の字に寝そべっては宙に投影されているモニターを興味深そうに見上げていた。

 

そこに映し出されているのは2人の戦士による激しい攻防。

 

荒々しい動きで攻め続ける龍の戦士の攻撃を、兎の面で表情を隠した異形が冷静に対処している様子が確認できた。

 

 

「この戦いが終わった時……()()の運命も決まる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁああああッ!!」

 

迫り来る打撃の軌道を読み、片手を振るってはその衝撃を後ろへ受け流す。

 

強引な手段で変身能力を取り戻したリュウヤの放つ攻撃は、そのどれもがこれまでよりも威力と鋭さを増していることは瞬時に察知できた。

 

(ハザードレベルが上がった……だけじゃない)

 

キリオは次々に繰り出される連撃を正確に防ぎつつも、リュウヤの発揮した想像以上の力に目を剥いた。

 

(こいつは新たにエボルトの遺伝子を模倣————いや、“創造”したっていうのか……!?)

 

それはどう考えてもありえない事実————リュウヤ自身でさえ理解することはできない、理論の理の字もない常識外れな解決方法だった。

 

「ッ!!」

 

グレートクローズの拳を受け止め、龍の複眼へと視線を合わせる。

 

「まったく……俺と戦う相手はどうしてこうも“見えない力”を行使するかね」

 

「ごちゃごちゃうる————せえっ!!」

 

「っ……!」

 

リュウヤがキリオの腕を弾き、がら空きになった胴体へと重い一撃を与える。

 

あまりの衝撃にたたらを踏むキリオだったが、すぐさま迫ってきた追撃を回避しつつ落ち着いた態度で次の手を打った。

 

「うおっ……!?」

 

エボルドライバーから飛び出したドリルクラッシャーを掴み取り、高速回転させた刃をクローズの装甲めがけて振るう。

 

的確に急所を狙ってくるキリオの動きを予測していたのか、寸前のところで直撃を避けたリュウヤは一旦距離をとるとクローズマグマナックルを取り出し腰を低く構えた。

 

「——ッ!!」

 

特攻してきたリュウヤの打撃をドリルクラッシャーで防御しつつ、キリオは彼に向けて冷たく語り出した。

 

「ったく……わからないもんだな。どうしてそこまで必死になれる?」

 

「あぁ……!?」

 

「お前が言う誰かを信じるという気持ち……そんなものを胸に秘めて、これまで自分が報われたことはあったのか?」

 

「ぐあっ……!」

 

回転する刃がクローズの胸部を捉え、仰け反ったところにすかさず追撃を与えていく。

 

「戦兎キリオという虚構の存在を信じ続けた結果がこれだ。裏切りだけが降りかかったこれまでの関係に……価値があると言えるのか?」

 

「……ぁぁああああ!!」

 

身を捻ったリュウヤが爆発的な勢いを乗せてクローズマグマナックルによる右ストレートを放ってくる。

 

ドリルクラッシャーを逆手に構えてそれを真正面から受け止めたキリオは、伝わってきた衝撃を噛み締めながらも静かに囁き続けた。

 

「自身を犠牲にしてまで……俺という全ての元凶を気にかける理由は本当にあるのか?」

 

「————うっせぇ!!」

 

「……!」

 

眼前にあった兎の仮面に強烈な頭突きを残した後、リュウヤは再度後退しつつ声を荒げた。

 

「そんなもん……あるに決まってんだろうが!!」

 

はっきりとした感情を見せないままこちらを見つめているキリオを睨みながら口を開く。

 

これまで言えなかったことを全部吐き出して…………彼の言ったことを否定しなくては。そう感じたリュウヤは呪いのようなキリオの言葉を打ち消すように返した。

 

「すごい……って思ったんだ。お前みたいなヒーローになれたらいいなっ……て、ずっとそう思ってた……!」

 

全ての始まり……あの夜を思い出す。

 

AqoursとBernageの合同ライブで起きたスマッシュによる襲撃————そこへ駆けつけたヒーローの正体を知った時、衝撃を受けた。

 

何もなかった自分に注がれた、生きる上での目標となったのが……仮面ライダー(キリオ)だったのだ。

 

「エボルトの計画なんかじゃない……。俺がこの……仮面ライダーの力を正しいことに使ってこれたのは、お前や高海……みんながかけがえのない仲間でいてくれたからだ」

 

 

 

 

《ボトルバーン!》

 

 

 

掲げたクローズマグマナックルにドラゴンフルボトルを装填し表面部のスイッチを押し込み、エネルギーを圧縮。

 

「キリオ……お前だって同じじゃないのか。……お前はどうして……!仮面ライダーになろうとしたんだよ!?」

 

《ボルケニックナックル!!》

 

大量の蒼炎をまとった拳がキリオへと到達するその直前————()()()()()が宙を舞った。

 

「……ッ!!」

 

流星を思わせる一撃がエボルの装甲に叩き込まれる。

 

吹き飛ばされ、地に転がったキリオはリュウヤの持つナックルに装填されたドラゴンフルボトルが銀色に変化したことに気がつくと、思いがけない事態に遭遇したとでも言うように戸惑う様子を見せた。

 

「…………その域にまで達するとはな」

 

埃を落とすように身体を払いながら立ち上がる。

 

……リュウヤには迷いなんかない。これからキリオがどれだけの非道を繰り返そうとも、彼はそれを否定し“これまでのキリオ”を肯定し続けるに違いない。

 

これまでそう接してきたように、彼にとって自分は地球を滅ぼす地球外生命体なんかじゃなく、共に肩を並べられる仲間だからだ。それはきっとリュウヤだけじゃなく……千歌達だって同じ考えのはずだ。

 

あまりにも愚かで、理解し難い思考。

 

…………だけど、

 

 

 

「そんなお前達だから…………俺は守りたいと思えたんだろうな」

 

「……え?————ぐっ!!」

 

不意を突くようにキリオが駆け出し、再度接近戦へと移る。

 

互いに距離を詰め取っ組み合いになったところで、彼は静かに切り出した。

 

「もう手加減はなしだ、決着をつけるぞ。……お前も本気でこい万丈」

 

「上等だ……!!」

 

 

《ボトルバーン!》

 

《クローズマグマ!》

 

 

キリオの繰り出してきた打撃を避けながら素早くナックルにドラゴンマグマフルボトルを挿れ、ドライバーへ装填。

 

「絶対にお前を……高海達のところへ連れ戻す!!」

 

 

《極熱筋肉!クローズマグマ!!》

 

《アーチャチャチャチャチャチャチャチャチャアチャー!!》

 

 

クローズマグマへと変身を遂げたリュウヤの周囲が熱で歪む。

 

ほとばしるマグマをその身に宿した戦士を捉え、キリオは何も言わないまま彼に拳を振り上げた。

 

 

 

 

「…………」

 

またも兎と龍がぶつかり合う光景を傍らで見守っていた少女が1人。

 

手の中に収めていた1本のボトルを強く握りしめた千歌は、ぞわぞわとせり上がってくる嫌な予感に小さく肩を震わせた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ふるぼとる……?」

 

「そうだ。こいつには俺が摂取したみかんの情報から練り上げたデータを基に、生成した成分が詰まっている。さしずめオレンジフルボトルといったところか」

 

太陽の光を通してほのかな輝きを放つボトルを掲げ、青年はよくわからない解説を饒舌に語る。

 

気のせいだろうか、彼がこのフルボトルという名のおかしな容器を持ち歩くようになってから、随分と緩やかな表情を見せるようになった。

 

大切な……死んだ友人の形見でも見るような儚げな視線を注いだ後、彼は決まって口元を綻ばせる。

 

「えいっ」

 

「あ……!?」

 

ぼうっとした眼でボトルを見つめていた青年の隙を突き、少女は彼の手からそれを奪い取ると全力疾走で海岸を駆け抜けた。

 

「なにをす————」

 

「取り返してみろーっ!!」

 

「おいお前……!待てッ!!」

 

常にこのオレンジ色のボトルを持ち歩いている彼だが、こうして取り上げてみるとひどく動揺するのでとてもからかい甲斐がある。

 

これは自分の生きる理由だという言葉はあながち間違いでもないらしい。

 

自分を捕まえるまでの数秒間、背後で彼も少しだけ笑っていた気がする。

 

その頃の自分は————握りしめたこのボトルの意味なんて、考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ…………これは……」

 

互いに殴りかかる戦士達を尻目に、千歌は手中にあるみかんの意匠が刻まれたボトルに視線を落とす。

 

霧がかっていた記憶が確かなものになっていく。自分は……幼い頃にも同じものを手にしたことがあった。

 

「これまでずっと……持ってたってこと……?————キャア!!」

 

クローズマグマの背にある翼が炎を纏うと共に熱風が巻き起こる。

 

飛翔したリュウヤはキリオへと特攻すると、そのまま彼の身体ごと空高く上昇。海のある方へと移動し始めた。

 

「……!」

 

咄嗟に身を翻してその後を追う。

 

「キリオくんが……このボトルを落としたことに気づいてないわけない……っ」

 

彼は自分の手にオレンジフルボトルがないことを知っている。知った上で平気な顔をしているんだ。

 

記憶を取り戻した自分には必要ないものだから?……いや、きっとそうじゃない。()だ。

 

おそらく彼は——————

 

 

 

「そんなこと……絶対にさせない……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“結末”を決心した時、不思議と恐怖はなかった。

 

機械のようだったあの頃に戻ったかのように、至って冷静で正確な思考で自らの運命に決断を下すことができたんだ。

 

これも全て地球で得た経験のおかげ。……千歌達と過ごした時間の影響なのだろう。

 

そう、記憶を取り戻したあの瞬間から——————終わりの刻を予感していたのだ。

 

 

 

「うぉぉぉおおおおっ!!」

 

向かってくる拳をいなし、カウンターを繰り出す。

 

が、それもすぐに叩き落とされては二撃目がやってくる。

 

「……っ」

 

「ハアッ!!」

 

リュウヤは防御するどころか、こちらの攻撃を受けることも厭わずにひたすら前進し続けてくる。

 

災害じみた勢いを備えた彼は目にも留まらぬ速さで放たれるキリオの打撃を一身に受けながらも、それを上回る威力を乗せた拳を叩き込んできたのだ。

 

(想像以上だ)

 

徐々に対処しきれなくなっていく打撃の嵐を前にして、キリオは仮面の下で苦笑する。

 

ハザードレベル————それは感情の高ぶりによって呼応、上昇することでライダーシステムの性能を格段にアップさせることができるネビュラガスに対する“抵抗力”。

 

エボルトの遺伝子を再び目覚めさせ、完全に使いこなしているリュウヤはこの短時間でそれをボトルに影響を及ぼす“7”までに引き上げてみせた。

 

……互いに攻撃をぶつけ合う度に、こちらのハザードレベルも急激に上昇していくのがわかる。やはり彼を相手に選んで正解だった。

 

(このまま上手く運べば……俺の狙いを完遂できるだけの材料が揃う)

 

エボルトリガーを起動させるには最低でも6以上のレベルが必要だ。今の自分のハザードレベルは……5.7といったところか。

 

この戦いに関しては勝ち負けはどうでもいい。目的を遂行できるだけの領域に達することができればこっちのものだ。

 

 

「は————」

 

 

一瞬意識が明後日の方向へ飛んでいってしまい、リュウヤの振るった拳が眼前までやってきたところで攻撃に気がつく。

 

防御が間に合うわけもなく、渾身の威力が相乗された一撃が兎の面のど真ん中を捉え、キリオは空中で何度も回転しながらなすすべなく吹き飛ばされてしまった。

 

————顔面と胸、左腕……あと右足のどこか。4箇所ほど骨が砕けたか。

 

だが大した問題にはならない。脆弱な人間と違って傷の治りは早いのだから。

 

「ははっ……」

 

自然と乾いた笑いが口からこぼれる。

 

「ハザードレベル……5.8」

 

「うおおおおおおッ!!」

 

トドメを刺そうと飛びかかってきたリュウヤの拳を両腕で受け止める。

 

彼の感情そのものが手のひらか伝わってくるようだった。

 

「5.9……!」

 

《ボトルバーン!》

 

よろめいたキリオの隙を突き、リュウヤはドライバーからナックルを引き抜いては再び白銀に煌めくドラゴンボトルを装填。

 

「キリオぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」

 

「——————」

 

視界が銀色の光で埋め尽くされ、眩しさから逃れるように目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ごめんな」

 

 

 

「え————?」

 

 

 

 

 

銀炎にまみれた拳が兎の面に到達する直前、微かな青年の声がリュウヤの耳朶に触れる。

 

《ボルケニックナックル!!》

 

同時に炸裂する広範囲の爆発。

 

エボルの装甲に身を包まれたまま、キリオは弧を描きながら遠方へと落下し、背中から着地した。

 

いつの間にか彼の手には何かが握られており、おもむろに上体を起こしながら彼はその上部にあるスイッチに指をかける。

 

「……6.0」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《オーバーザエボリューション!》

 

 

「あ……!?————ぐっ……!!」

 

 

刹那、黒い突風が吹き荒れる。

 

リュウヤはその場から吹き飛ばされないよう下半身に力を入れつつ、風の向こう側に見える人影に目を向けた。

 

ゆっくりと立ち上がるキリオの隣に————どこからともなく現れた小さな影が並ぶ。

 

「やっと……ここまできたな」

 

「……ああ」

 

数メートル離れた場所からその様子を見ていたリュウヤには、その人物が誰なのかがすぐに察知することができた。

 

「さあ、今こそ一つになる時だ……!!」

 

直後に少女の身体は眠るように横倒れになり、内部に潜んでいた生命体は隣に立っていた兎の戦士へと()()()()()

 

「待て……!」

 

リュウヤが止めようとするのも虚しく、奴は徐々にキリオの肉体を取り込もうと侵食を始める。

 

……まずい。エボルトは今ここで……完全な力を取り戻すつもりでいる。

 

エボルドライバーの連結部分に彼が手にしていた“トリガー”が挿し込まれ、周囲に吹いていた突風はさらに勢いを増した。

 

『真の力よ……!蘇れぇぇえええええ!!』

 

「やめろぉぉぉおおおおおおおッ!!」

 

黒い風を突き抜け、リュウヤは死に物狂いで手を伸ばす。

 

とても間に合うようなタイミングではない。

 

無我夢中に四肢を振るリュウヤが叫び続けるなか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————この時を待ってたよ」

 

 

 

澄み切った青年の声音が、はっきりと聞こえた。

 

「お前が葛城の身体から出て行った今…………被害は()()()()()()

 

『……んん……?』

 

キリオが自らの腰に巻かれたエボルドライバーのレバーを回すと、連動するようにエボルの装甲は崩壊を始める。

 

「キリオ……!?————っ!!」

 

場を満たしていた空気が一変したことで思わず立ち止まるリュウヤだったが、倒れていたユイの身体に気がついた彼はすぐさま駆け出し、彼女の身体を抱えると咄嗟にその場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

《オーバーオーバーザレボリューション!》

 

 

『……お前』

 

徐々に熱を帯びていくライダーシステムを見て、キリオに乗り移ろうとしていたエボルトは低い声を漏らす。

 

『まさか……自分からシステムを暴走させる気か……?』

 

「ああ。……俺達エボルトは、悲しみを振り撒くことしかできない。この世界にいちゃいけない存在なんだよ」

 

『だからこのオレを裏切ると?』

 

「いいや、2人仲良く地獄へ行こうって言ってるのさ」

 

とても落ち着いた調子でキリオはそう語った。

 

 

 

……これでいい。これが何もかもを解決させる唯一の手段だ。

 

自身を含めたエボルトという存在そのものの抹消。

 

きっと千歌達はこれを実行することには反対してくれるのだろうけど、

 

(だが俺は……あいつらの意志を裏切ったとしても————自らの手で終わらせてみせる)

 

これは償いでもあるんだ。

 

これまで奪ってきた多くの命に対する贖罪————それを自分自身の命を以て果たす。

 

 

「おい、キリオ……!?お前まさか……!!」

 

 

リュウヤがしっかりとユイの身体を抱えているのを確認した後、改めて意識をもう1人の自分へと向ける。

 

 

「終わらせるんだ。始めた時もそうだったように……俺達2人だけでな……ッ!!」

 

『——————!!』

 

 

 

 

 

 

 

「キリオッッ!!」

 

閃光と同時に広がった爆音にリュウヤの叫びがかき消される。

 

気を失ったユイを庇いながら、彼は充満した黒煙のなかで青年の無事を祈ることしかできなかった。

 

 




キリオの狙いはエボルト共々心中することでした。
一方でドラゴンフルボトルが銀色になったりと、今後の展開を想起させる場面もありましたね。
本来のユイも帰ってきたところで物語は着々とクライマックスへ。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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