プリンツR32   作:草浪

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第4話

 

今日はヤーパンから先輩艦娘が二人、教官として来るらしい。

 いつもより早めに起こされ、会議室に集めさせられた。我がドイツ海軍の艦娘が横一列に並び彼女たちを待っていた。すごい人が来るのか。ヤーパンのスゴい船といったらヤマトやナガトだろう。もしかしたらアカギやカガかもしれない。少し浮かれていると、後ろから後頭部を小突かれた。

 

「オイゲン。お前のために言う。気を引き締めろ」

 

 振り返ると、グラーフが後ろに立っていた。その顔には少し引きつっている。珍しく緊張しているようだった。

 

「わかりました」

 

 よくわからないけど、とりあえず襟元を正し気を付けをする。しばらくその姿勢で待っていると、青い迷彩服を着た二人の女性が入ってきた。先を歩くのは栗色の髪をした女性、その後ろを歩くのは綺麗な銀髪の女性だった。その特徴的な髪の色のおかげで、二人が日本から来た艦娘だということはわかった。だが誰なのかさっぱり解らない。

 二人は私たちの前に立つと、栗色の髪をした女性が私たちに敬礼し、遅れて銀髪の女性が敬礼をした。それを受け私たちも返礼をする。

 

「日本から来ました那珂です。よろしくお願いします」

 

「同じく叢雲です。よろしくお願いします」

 

「「「ヨロシクオネガイシマス」」」

 

 先ほど、教わった日本語を大きな声ではっきりと言う。これが私たちに与えられた今日最初の任務だった。

 そして二人を観察してみる。たぶん怖いのは銀髪の人、ムラクモサンだろう。赤い目には鋭さがある。気を引き締めているのが見て取れる。ナカサンはどこか自然体に見える。それに彼女が先を歩いていたのだから、ムラクモサンはナカサンの部下になる。こういうものは二番目の人の方が厳しいものだ。私はナカサンの下で訓練を受けたい、そんなことを考えていた。

 

「名前を呼ばれた者は前に出ろ。他の者は退席」

 

 グラーフ教官がそう言い名前を呼び上げる。呼ばれたのは私と、ビスマルクことお嬢様、そしてマックスシュルツっていう知らない子だった。私たちは一歩前に出て指示を待つ。その間に集められた他の子達は敬礼して退席していった。その光景を見ていたナカサンが一瞬睨むように退席者を睨んだ気がしたけど、気のせいだろう。ムラクモサンは相変わらず気を引き締めている。

 

「グラーフ・ツェッペリン以下三名でこの後の演習を行いたいと思いますがよろしいですか?」

 

「構いません」

 

 グラーフ教官の言葉にムラクモサンが答えた。演習って何なの。グラーフ班からは私しか選ばれていない。レーベちゃんの名前はなかった。演習てことは、グラーフと私でお嬢様達の相手をするのかしらね。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、ナカサンが一つ大きなため息をついた。

 

「了解しました。こちらの編成は私、那珂を旗艦として随伴艦に叢雲をつけます。装備に関しましては追って連絡します。ウサギ、いくよ」

 

 ナカサンはどこか機嫌が悪そうに思えた。退出者に失礼があったのか、そんなはずはないと思う。みんな私よりもお行儀がいい子ばかりだし。なら私が何かしたんだろうか。でもナカサンは退出者を睨んだような気がした。

 ナカサンとムラクモサンは足早に会議室を出て行った。こちらに一礼をして扉が閉めたムラクモサンの声が漏れて聞こえたような気がした。

 

「ごめんなさい」

 

 これがいったい何の謝罪なのか今の私にはわからなかった。

 会議室に残された私たちは教官から演習の内容と作戦を聞かされた。演習というのは、私達四人で日本の教官二人に挑むというものだった。けど、数は二倍、私は経験ないけど、お嬢様の班は既に他の班と海での演習を経験している。そして全勝らしい。私が海に出たのは深夜の特別訓練のあの一回だけ。後は訓練用のプールでの航行演習と砲撃演習だけ。そしてグラーフ教官は何度も海に出ているし、実戦の経験もあるらしい。つまり、足手まといは私だ。

 

「オイゲンはお嬢様の護衛を頼む」

 

 教官にそう言われても仕方ない。グラーフ教官の艦載機で二人を追い込んで、私とお嬢様で砲撃、マックスちゃんとグラーフ教官の艦載機で撃ち漏らしを片付ける。つまり私の仕事は適当に発砲するだけでいいということだろう。当たればラッキー、相手は軽巡と駆逐艦だから当たれば勝てる。相手の射程外から一方的に撃ち込めるとわけだ。

 

「気を締めてかかるように。特にオイゲン。相手はヤーパンで選ばれて来られた二人だ。演習とはいえ、ナガト型を手玉に取り、空母をいとも簡単に沈めたらしい。怪我をするなとは言わん。必ず生きて帰ってこい」

 

 訓練用の模擬弾で沈まないことは知っている。一度グラーフ教官の爆撃を味わったことがある。訓練の合間の休憩で遊んでいたら怒られたときに。

 この時の私は、とても気楽に構えていた。

 

 

ーーーー

 

 艤装を装備して指定された海域に向かう。海風が気持ちいい。そんなことを考えながら航行しているとマックスちゃんが私の横に並んだ。

 

「レーベは元気にしている?」

 

「レーベちゃん? うん。元気にしてるよ」

 

「君に話はレーベから聞いている。いつも迷惑をかけていると言っていたけど」

 

「全然。むしろ私の方が迷惑をかけてるぐらいで」

 

「私もあなたの噂は聞いているわよ」

 

 先頭をいくお嬢様、ビスマルクが私の方を見た。怒られるのかなと思ったら、ビスマルクは笑っていた。

 

「なかなかの逸材らしいじゃない。さすがは私の家系の血が流れているだけのことはあるわ」

 

 あれ。お嬢様ってこんな高飛車な感じだったけ。以前お話したときは謙虚な方だと思ったけど。

 

「私もお嬢様のご活躍を耳にしています」

 

「ビスマルクでいいわ。海の上じゃ階級なんて関係ないわ」

 

 この場合の階級は海軍の階級ではなく、貴族的な階級だろう。あれ。私って階級は何なの? 考えたこともなかった。てことはグラーフ教官の階級は何なの。もしかして、私、海軍的にはだいぶまずいことしてたんじゃないだろうか。

 

「おしゃべりはそこまでにしておけ」

 

 海に出てからずっと黙っていたグラーフ教官が口を開いた。教官は出撃からずっと機嫌が悪い。眉間に皺をよせて何かを考えこんでいるようにも見えたけど、確実に機嫌が悪い。ここまで機嫌が悪い教官は見たことがない。どこか重たい空気が流れる。

 

「グラーフ教官。相手の装備はわかりましたか?」

 

「水を満載したドラム缶と木の棒だ」

 

「「「は?」」」

 

 さっきまでまずいことをしたんじゃないか。口のきき方には気を付けようと思った私の口が素直に反応した

 

「だから水と木の棒だ。砲も魚雷も積んじゃいない。それにこちらの無線は向こうには聞こえないが、向こうの無線はこちらが聞けるようにしてくれるそうだ」

 

「欺瞞? こちらを油断させて叩こうっていう」

 

「私もそれを考えた。だから出撃時間をギリギリまで遅らせて向こうが出てから確認もした。向こうの出撃ドックには砲も雷管も置いてあったし、整備員にも確認した。二人はそれだけ装備して出て行ったらしい。全員で止めたらしいが、何を勘違いしたのか、木の棒を置いていこうとしたらしい。何を考えているのかさっぱりわからん」

 

「……もしかしてボクトーってやつ?」

 

「ボクトーって何?」

 

 ビスマルクが私に尋ねる。昔、ヤーパンのお客さんからお土産でもらった事があるのを思い出した。そこそこ重量があって、あれで叩かれたらもの凄く痛いだろうなって思ったことがある。

 

「昔のサムライが練習で使う刀の形を模した木の棒のこと」

 

「サムライソードでどうこうなる話じゃないぞ。こっちは砲も魚雷も、艦載機もあるっていうのに」

 

「楽な演習になりそうだね」

 

 

ーーーー

 

『私、木刀なんて使ったことないんだけど」

 

『大変だったんだよ。長刀型の木刀なんてないんだから。それに、バランスもあわせないと振り回せないだろうと思って、叢雲ちゃんの長刀と同じ重さとバランスにするのにいろいろ調整してもらったんだから』

 

『いや。だったら素直に私の艤装使わせなさいよ』

 

『それはいくら何でも危ない』

 

 指定された海域に近づくと教官二人の無線が漏れて聞こえてきた。最後のナカサンの声のトーンが微妙に真面目なものに聞こえたけど、どうやら二人はリラックスしているらしい。それに対して、こちらはグラーフ教官を筆頭に口数も少なくなり、五分前からは遂に誰もしゃべらなくなった。いよいよ始まるそんな感じだ。

 

「こちらグラーフ。指定された海域の到着した」

 

 こちらの無線が向こうに聞こえない今、グラーフ教官は別途に用意した無線で向こうに連絡をいれた。

 

「了解。じゃあ始めるわよ」

 

 ムラクモサンが答える。ビスマルクが驚いた様子でグラーフを見ていた。いきなり始めるか。私はスッとビスマルクの前に立つ。グラーフも少し慌ててはいたが、そこは最年長、馴れた手つきで発艦を始めた。艦載機がけたたましいエンジン音をあげて次々と空にあがる。その時、私の電探が以上を知らせた。私が気がつくのだから、他の子が気がつかないわけがない。

 

「速い!」

 

「後退して距離を取る! 攻撃隊は随時攻撃を開始しろ! 二人は射程に捉えたら発砲して構わん! マックスはすれ違い様に雷撃を頼む! 乱戦になる、こちらの弾にも気を付けてくれ。模擬弾でも当たると痛いぞ」

 

「「「了解!」」」

 

 グラーフ教官を守るように私とビスマルクは陣形を取り、マックスちゃんは突っ込んでくる敵影二つに対して右側に回り込む航路をとった。私の頭の上をグラーフ教官の艦載機が次々と通り過ぎていく。そのけたたましいエンジン音のせいで何も聞こえない。これで私よりも射程が長いビスマルクの砲撃が始まったらと思うと……こんなことなら耳栓を持ってくればよかった。自分の砲撃に集中出来る気がしない。

 遠くの方で水柱が立った。遂に艦載機の攻撃が始まったのだろう。これで勝負がついてくれた方がありがたい。

 

『Feuer!』

 

 その攻撃にあわせてマックスちゃんも攻撃を始めた。艦載機と駆逐艦による同時攻撃。考えただけでも怖い。自分が向こう側にいたらすぐに被弾していたと思う。

 

『『速い!』』

 

 グラーフ教官とマックスちゃんの声が被る。舌打ちが聞こえたかと思うとグラーフ教官が私たちに更なる後退命令を出した。

 

『一隻は軽巡洋艦と聞いていたが……この速力はなんだ!』

 

『こちらマックス! 二隻連なって、全ての攻撃をかわしている。私にも目もくれずにそっちにむかっている!』

 

 時折見える派手な水しぶきはなんなのだろうか。爆発のそれとも違う。昔見たことがあるようなそんな気がするけど何かはわからない。けど、あれだけの攻撃をかわしているということは何度も強烈なターンを繰り返している事になる。私の電探上では二人は最短距離をまっすぐこちらに向かってきている。とすれば、後ろを走る人はどうやってそれに続いている? 艦種が違う以前に人が違う。どれだけ意思の疎通が出来ても見知らぬ海を全く同じラインで駆け抜けることなんて出来るのだろうか。プロペラがかき乱す波がある以上、絶対に後続はラインを外す。

 

『敵艦補足! Feuer!』

 

 遂にビスマルクの砲撃も始まった。そろそろ私の番も近い。私は遠くに見えた敵影をジッと見た。ボクトーを頭の上に構えたムラクモサンが見える。その後ろにナカサンがいるはず。相手の航路を予測して砲を操作する。ビスマルクが放った砲弾が見えた。初弾にして直撃コース、そう思えたけど、弾は二人の頭の上をかすめていった。

 

『確かに速いわ!』

 

『そう言ってるじゃない!』

 

 二人の横を並走するマックスちゃんが叫ぶ。マックスちゃんに余裕はなさそうだ。その瞬間、ムラクモサンがスッと消えてナカサンが現れた。二人が前後を入れ替えたのだろう。ナカサンの後ろになびく銀髪が見える。

『次は外さない! Feuer!』

 

 前後を入れ替えたことで、相手の速力が落ちた。チャンスと言わんばかりにビスマルクが砲撃する。けど、どうしてこのタイミングで入れ替わったの? その疑問が解けぬまま、ビスマルクの砲弾はナカサンに吸い込まれていく。直撃する。向こうはビスマルクの砲弾など関係ないと言わんばかりに突っ込んでくる。これがカミカゼってやつなのかしら。そんなことを考えていると、ナカサンがニッと笑った気がした。その瞬間、本能的に危ないと何かを察した。

 

「マッ……!」

 

 マックスちゃんの名前を言おうとした。けど言葉が出なかった。ナカサンが一瞬消えて、ムラクモサンと目があった。その目は私なんか見ていない。けど真っ直ぐ透き通った目だと思えた。ナカサンが再びムラクモサンの前に現れる。その手はマックスちゃんの方を差していた。一瞬の間があって、マックスちゃんが大破判定をだした。その時、私の横でビスマルクが短く悲鳴をあげた。横目でビスマルクを見ると、信じられない、そんな顔で口元を手で塞いでいた。

 

『マックス・・・・・・大丈夫?』

 

『大丈夫・・・・・・何が起きたのかわからないけど。ナカサンが一瞬消えたかと思ったら、目の前に砲弾があった』

 

『ごめんさい。私の砲撃で・・・・・・』

 

 ビスマルクの砲弾がマックスちゃんに当たった? そんなはずはない。ビスマルクの砲弾は確実にナカサンに吸い込まれた。離れていたマックスちゃんに当たるはずがない。軌道が急激に逸れたとでも言うの?

 

『大丈夫・・・・・・生きてるわ・・・・・・』

 

 マックスちゃんは息も途切れ途切れに答えた。死んじゃうほど痛かった? 私のイメージではゲンコツで思い切り殴られたぐらいの痛さだと思ったけど。もしかして初めてだったのかしら。

 

『攻撃隊から入電・・・・・・効果は認められず・・・・・・全てかわされたそうだ・・・・・・』

 

 グラーフ教官からの悔しそうな入電。あれだけの艦載機での攻撃を全て避けきったというの。なら砲で仕留めるしかない。私の射程に二人が入った。

 

「主砲・・・・・・よ~く狙って・・・・・・砲撃開始!」

 

 一番砲塔、二番砲塔のそれぞれ二門を発射。できればこれで仕留めたいけど、まぁ、当たらないだろうな。動く目標を撃つのは初めてだし、それにあんな高速で動く人間サイズの目標だ。当てられるわけがない。だから適当にあたりをつけて撃った。精度の高いビスマルクの砲撃を当てさせるために。着弾予想地点はあの二人ならわかるはず。そこを避けて通れば自ずと航路は一つしかない。ビスマルクも私の下手な砲撃は見ていただろう。そして勘も鋭い。すぐにその航路を見つけ出して狙いを定めていた。

 

『ちゃんと狙ったんじゃないの?』

 

「狙ってあそこらヘンに撃ったの! そういうことにしておいて!」

 

 ビスマルクに余裕が感じられる。あとはタイミングを計って撃つだけ。そう思っていた。けど、あの二人は当たり前のように私が砲撃した地点に突っ込んでいく。自分からあたりに行くように。一瞬自分の目を疑ったけど、目の前の光景は変わらない。

 

「まずい・・・魚雷発射!」

 

 慌てて魚雷を放つ。すっかり存在を忘れていた。だって撃ったことないんだもん。適当に二人の進路に向けてばらまく。けど彼女たちは航路を変えなかった。近くでみてわかった。最小の動きでこちらの攻撃をかわしていた。ギリギリのはずなのに、二人の表情には余裕があった。まだ詰めれる。そう言わんばかりに。二人はもうすぐ側まで来ている。ナカサンが握っていたボクトーを振りかざした。そこからは私もビスマルクも無茶苦茶に砲撃した。装填されていた砲弾を撃ちきったとき、目の前にとても楽しそうなナカサンの顔があった。

 

「チェストォッ!!」

 

 ナカサンが跳んだ。そのままビスルマクの砲塔めがけ、思いっきりボクトーを振り下ろす。バキッという木が折れる音と同時にナカサンがビスマルクの頭の上を飛び越えて行ったように見えた。

 

『何なのッ!?」

 

 私にも訳がわからなかった。けど身体が反応していた。

 後ろにはムラクモサンがいる。攻撃目標は私じゃない。ビスマルクだ。もうムラクモサンは槍みたいなボクトーを振りかざしている。ビスマルクとムラクモサンの間に立った私は、ムラクモサンの困惑した顔が見て取れた。もしかしたら、この人の方が優しいのかもしれない。そんなことを考えながら振り下ろされたボクトーを見ていた。私の顔めがけて降りてくる。思わず両手が出た。手のひらが熱い。両手に収まったボクトーが私の顔の目の前で止まった。

 

「白羽取りッ!?」

 

 昔からお父さんにやれば出来る子だと言われていたけど、まさか私にこんなことが出来るとは思わなかった。そして背中がスゴく痛い。手のひらで挟んだボクトー越しにムラクモサンの驚いた顔と空が見える。ものスゴく私の背中は反っているのだろう。必死で気がつかなかった。一瞬だったけどゆっくり時間が流れているように思えた。思わず安堵のため息が漏れてしまう。

 

「あなたねぇ。スゴいことやったことは褒めてあげるけど、まだ終わってないわよ? そのまましっかり支えてないさい」

 

 ムラクモサンの呆れたお言葉を頂いた後、私の背中に更なる負荷がかかった。

 

「ちょっと! それは無理!」

 

 ムラクモサンは私が掴んだボクトーを支点にして、そのまま私の上を跳んだ。棒高跳びみたいに。おかしい。私の知っている艦娘っていうのはこんな動きはしない。空になびく銀髪を見ながら私は背中から海に倒れ込んだ。それと同時に手のひらからボクトーの感触がなくなった。

 

『ぐぅっ!!』

 

 ビスマルクのくぐもった声が聞こえた。仰向けに倒れた私は顔をあげてその様子を見ていた。私を飛び越えたムラクモサンがそのままボクトーでビスマルクの頭をボクトーで叩いたのだ。更にその奥で、グラーフ教官がナカサンに投げ飛ばされている。当然のように二人は大破判定。残ったのは私だけだ。

 慌てて立ち上がったけど、遅かった。後ろからゴンッと頭を叩かれた。

 

「いッ・・・・・・たぁッ!」

 

 頭を抑えて振り返る。ボクトーを肩に担いだムラクモさんがこちらを見ていた。

 

「仕切り直す?」

 

 本来ならお願いしますと言うべきなのだろうけど、グラーフ教官もビスマルクも呆然と私たちを見ていた。戦意なんてもうない。

 

「いえ。大丈夫です。参りました」

 

「そう。じゃあこれでお終いね。那珂ちゃん。終わったわよ」

 

「ちゃんととどめ刺しなよ~」

 

「私には背中から斬り付ける様な趣味は持ち合わせていないわ」

 

「ブシドーセーシンってやつですか?」

 

 私の問いかけにムラクモサンは大きなため息をついた。

 

「なるほど。あなたね。重巡の問題児っていうのは」

 

 問題児? 何のこと?

 えっ、私って海の向こうでも有名になるぐらいの問題児だったの?

 

「どういう・・・・・・ことですか?」

 

「こっちの話よ。さぁ、引き上げましょう。一服つけたいわ」

 

 ムラクモサンは大きく伸びをした。優しい人っぽいことはわかったけど、これから大変なんだろうな。

 よくわからない状況を理解することを諦め、私は大きなため息をついた。


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