夜空を見上げながらわけのわからないこと言う元浜だが、ため息は大きい。
テンション下がりすぎだろう。
まあ、明日になればいつもの元浜、松田に戻っているはずだ。
「じゃあ、また明日な」
「ああ、いい夢見ろよ」
と、元浜と帰り道の途中で別れたが、奴の手を振る仕草もどことなく元気がない。
あとで激励のメールでも送るか。
元浜と別れて、数分。
帰り道を歩くイッセーだが、先ほどから体の内側から溢れてくる力の疼きが酷かった。
例の「夜になると力が溢れ出す」ってやつだ。
やっぱり、俺の体、おかしすぎだろ。
どう考えてもまともな現象じゃない。目が冴えて、五感が鋭くなる。
聴覚、視覚が尋常じゃないぐらいによく動く。周囲の家の中から会話が聞こえてくるし、暗闇の道でも夜目が利きすぎている。
街灯などの光が届いていない場所まで鮮明に見えるのはおかしいだろう!
日に日にこの現象が強くなっている気がする。
いや、これは気のせいじゃないだろう。
だってこの体中を走る悪寒は本物だから!
さっきから感じる他者の視線。そして、イッセーへ向けられる冷たいもの。
眼前、道の先から俺へ向けて得体の知れない空気が漂ってくる。
震えが凄まじい。体が小刻みに震えを発していた。
男だ。スーツを着た男がイッセーを睨んでいる。
とんでもない睨みようだ。
視線が合うだけで体の芯まで凍ってしまいそうになる。
これ、殺意とかいうやつじゃないのか?
敵意は確実に感じる。だが、それ以上に危険な感じだ。やっぱ、これ殺意だろう!
男が静かに歩み寄ってくる。俺に向かってきているし!やっぱ俺ですか!
「変質者!? 危ない人!? ヤバイのか!?か?
ヤバイよな! だってさ、さっきから震えが止まらない!
帰り道に危ない人と遭遇かよ俺!」
「これは数奇なものだ。こんな都市部でもない地方の市街で貴様のような存在に会うのだものな」
……………?
「何を言っている?
いやいや、頭のイッちゃってる人はこの手のことを口走るんだろう。
やっぱり、危ない人か!
うわ! 刃物とか出されたらどうする!
護身用の格闘技なんて俺は習っていないし、そもそもケンカなんてしたことないぞ!
そ、そうだ
夜中にパワーアップしてる俺の力! これだ! これで逃げるしかない!」
後ずさりしつつ、距離を取った。
変質者の空気全開な男性はスタスタとこちらへ向かって歩いてきている。
「逃げ腰か? 主は誰だ? こんな都市部から離れた場所を縄張りにしている輩だ、階級の低い者か、物好きのどちらかだろう。おまえの主は誰なんだ?」
イッセーが「わけわからないっつーの!」
バッ!
俺は降り向き様、一気に来た道を戻った。全速力だ。
速い。超速い。俺が言うのもなんだが、やっぱり夜の足はおかしいぐらいの速力を出している。
夜の闇を掻き分けて、俺はひたすら逃げた。
途中で道を曲がったりしながら、見知らぬ街道を走る。
息は上がってない。まだ走れる。こうなったら、絶対に尾いてこられないであろう距離を稼いでやるさ!
十五分ぐらい走ったところで、開けた場所に出た。
公園だ。
足を一旦止め、歩みに変える。
少しだけ息を整えながら、噴水の辺りまで歩を進めた。
公園の街灯下で周囲を見回す。俺は不可思議なものに囚われていた。
知っている。