夕麻ちゃんの声は、なんとも冷たい。大人っぽい妖艶な声音。口元は冷笑をうかべていた。
ブゥン。
ゲームの起動音よりも重たい音が空気を揺らす。
耳鳴りに等しい音をたてながら、それは夕麻ちゃんの手に現れた。
一本の槍のようなもの。
光ってる?光が結集しているような………。つーか、槍じゃねぇか、アレ。
ヒュッ。
風きり音。そして、すぐに鈍い音がある。
ドン!
俺の腹に何かが触れたと思ったとき、夕麻ちゃんの持っていた光の槍が俺の腹を貫いていた。
投げられたんだ……。
槍を抜こうとしたけど、ふっと槍は消えてしまう。
残ったのはポッカリ空いた俺の腹だけ。吹き出す血。血。血。頭がクラクラし、視界がボヤける。気づいたら足元が崩れて、倒れていた。
ツカツカと倒れた俺に近づく足音。
耳に届くかすかな声。夕麻ちゃんだ。
「ゴメンね。あなたが私たちにとって危険因子だったから、早めに始末させてもらったわ。恨むなら、その身に神器を宿させた神を恨んでちょうだいね」
……セイ、なんだって……?
問いただすこともできず、俺は倒れた状態だ。彼女はそのまま足音を遠ざける。
それと同時に意識も遠のいていく。腹にぽっかり空いた穴。重傷だろう。だが痛みはない。
けど、意識が急激に途絶えていきそうなのがヤバいって理解できた。
このまま眠るように意識をなくしたら気持ちいいんだろうな。だけど、そうしたら、俺は絶対に死ぬ。
マジかよ……高校二年生で死ぬのか?
まだ人生の半分にすら達してねぇよ!
こんなわけのわからない公園で彼女に刺されてこの世とオサラバなんて笑えねぇ!
くっそんなことを思っている間にも意識はどんどん薄れていく……。
もう、色々なものまで俺の中で消えていきそうで……。
ああ明日の学校、どうなるのかな。
松田は驚くだろうか?泣くのかな?まさか、あいつらに限って……。
お袋、親父……俺ろくな親孝行もしてねぇぞ………。
つーか……自室の各所に隠したエッチな本が死後に見つかるのはシャレにならねぇ………。
……てか、死ぬ前になんでこんなロクでもないこと考えてるんだ、俺……。
手はまだ動く………。
腹の辺りを手でさすり、顔の近くまで動かす。
紅い………紅い、俺の血。手のひら全体が紅い。全部、俺の血だ。
そのとき、俺は思い出していた。
今際のきわ、俺が思い浮かべていたのは一人の女の子だった。
紅い髪をしたあの美人。学校で見かけるたびにあの紅い髪が俺の目には鮮烈に映った。
………どうせ死ぬなら、あんな美少女の腕の中で死にたいなんて思ってしまう………。
夕麻ちゃんという彼女がいながら、そんなことを思ってしまう俺は浮気性なのだろうかなどと感じてしまう。ってその夕麻ちゃんに、殺されることになったんだけど……。
でもなぁ、死ぬなら夕麻ちゃんのおっぱいぐらい揉んで死にたかったなぁ………。
ははっ、死ぬ前まで俺のエロ妄想は、止まりませんでした………。
あぁ視界がボヤけてきた………。
いよいよもってラストか………。
ちくしょう、あまりに薄っぺらな人生だった………。
生まれ変われるなら、俺は………。
「あなたね、私を呼んだのは」
突然、俺の視界に誰かが映りこみ、声をかけてくる。
目がボヤけてしまっているせいか、もう誰かすらわからない。
「死にそうね傷は………へぇおもしろいことになっているじゃないの。そのあなたがねぇ………。本当、おもしろいわ」
クスクスと興味ありげな含み笑い。
何がそんなにおもしろいんだろうか………?
「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげるわ。あなたの命。私のためにいきなさい」
意識が途絶える寸前、俺の目に鮮やかな紅い髪が映りこんだ。
「カイト死ぬところみるなんていつからそんな趣味にかわたなのかしら?」
「いえいえ部長俺の趣味ではありませんこれは部長の義理の姉頼まれことですから」
「義理の姉様がねぇ何かが聞いてくれる?」
「いえなにもただイッセー監視してくれて頼まれただけですけど?」
「そうならこの子運んでちょうだい」
「わかりました」