エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版アフター 作:拙作製造機
「これでいいと思うな」
「ええ、私も」
「え~っ!? ちょっと狭すぎるわよ!」
一人暮らし用のワンルームマンション。その一室に彼らの姿はあった。彼らは、かつてエヴァンゲリオンのパイロットとして世界を守った者達。その最後の戦いから既に三年以上が経過し、思春期只中だった三人は、もう大人と呼んでもいい程の成長を遂げていた。
今日は卒業を控え、大学へ通うための新居探しの一環である部屋の見学に来ていた。とはいえ、ここに三人で住むのではない。同じフロアの三室を借りる事で表向きは一人暮らしをするつもりであった。というのは、アスカの両親がシンジとの同居を反対したためである。何も二人の仲を認めていないのではない。むしろ、認めているからこそ、時が来るまでは節度ある付き合いを続けなさいという理由であった。
それにアスカも納得し、シンジも同調したので、ならばとゲンドウが提案したのが、先述の同フロアで三部屋借りの妥協案である。この条件のため、シンジ達の新居は中々探すのが難しい案件となっていた。
「そ、そうは言うけどさ。シャワーとトイレが別になってて、キッチンも悪くないし」
「部屋自体も狭くはないわ。たしかに三人で過ごしたりはし辛いでしょうけど」
「そこよ! レイ、忘れてるかもしれないけど、ヒカリやカヲルも遊びに来るのよ? あと、歓迎するつもりはほとんどないけど鈴原や相田もね」
「トウジやケンスケは僕の部屋で最悪雑魚寝でもいいって言うよ」
「ヒカリやカヲルはそれぞれ私とアスカの部屋で寝れるわ」
「だぁぁぁぁっ! 全員で一緒にワイワイ出来ないでしょうがっ!」
その言葉にシンジとレイが苦笑する。初めて出会った頃から比べると、アスカはかなり素直になった。中学卒業の際には涙を隠す事もせず、ヒカリやカヲルなどとも抱き合っていたぐらいだ。そして高校生となった今は、何と生徒会長をやっている程のリーダーシップを発揮していた。まあ、その生徒会は副会長にシンジ、書記がレイ、会計はカヲルという様相なので、厳密に言えば突き進むアスカを周囲が支えるという感じではあったが。
「じゃ、やっぱりアスカと綾波は一緒に大き目の部屋を」
「「それはイヤ」」
「……はぁ、分かった。じゃ、別の場所を探しておくよ」
ため息を吐くシンジであったが、何故アスカとレイが同居を解消するかの理由を教えられた以上、それを無理強いする気はなくなっていた。
彼女達は、それぞれ二人きりでシンジと過ごしてみたいと、そう思うからこその同居解消である。無論、結婚した後は三人で暮らす事に異論はなく、むしろ望んでいるぐらいである。だからこそ、大学生の間ぐらいは一般的な彼氏彼女のような事をしてみたいと考えていたのだ。
「で、この後はどうするの? 僕は何もないんだけど……」
「じゃ、デートと行きますか」
「そうね。それと荷物持ちをお願いしたい」
「うん、分かった。なら行こうか」
「「ええ」」
シンジが差し出さす腕へ二人は微笑みながら腕を絡める。もうその在り方は板についていた。あの公開逆プロポーズから、三人は明確に大人の男女としての一歩を踏み出していた。何とは言わないが、シンジの初体験は、それはそれは刺激的で感動的で魅惑的なものとなったのだから。
「そういえば、レイっていつからお肉食べれるようになったのよ?」
「分からない。多分あの時、私が本当に綾波レイとなった時からだとは思う。碇君やアスカが美味しそうに食べているのを見て、いつか私も同じ物を同じ風に食べてみたいと思った事が無い訳じゃなかったから」
「そっか。綾波も渚と同じで自分を自分が望むように変えたんだね」
「きっとそうだと思う。でも、食べてみたのは碇君があーんしてくれたから」
「へぇ、どういう事かしらねシンジ?」
「……だって、僕の食べてる手作りハンバーグを物欲しそうに見つめてきたんだ。で、冗談で食べたいのって聞いたら」
返事は恥ずかしそうに口を開けるレイの姿でしたと、そういう訳である。なのでシンジは店内と言う事もあり、周囲にジロジロ見られない内に対処したのだ。そんな話を聞いて、アスカは安堵するやら羨ましいやら複雑な気分であった。
(む~、レイは甘え上手なのよね。しかもそれが狙ってないもんだから、シンジが面白いぐらい釣れる釣れる。あたしが似た事やっても、何か違うのよねぇ……)
そう考えるアスカであったが、これをレイが聞けばまた違う感想が返って来ただろう。何せ、アスカはアスカでシンジに違う形で甘えているのだ。主にベッドで、との注釈がつくが。
いちゃついているようで、どこか違う雰囲気の三人ではあるが、やはりというか当然というか、周囲の彼らを見る目はどこか普通ではない。それでも気にせずいられる理由は、本人達の気持ちと、あともう一つは世界情勢だろう。セカンドインパクトにより、世界人口は激減。サードインパクトによって環境は本来の状態へ戻ったが、それで一気に人口が増える訳もなく、公的に認められている訳ではないものの、子沢山家庭を作るのなら一夫多妻も許容する風潮はあったのだ。
「あっ、これ可愛い」
店先のショーケースに飾られたアクセサリーを見てアスカが足を止める。シンジとレイも足を止め、三人は宝飾店の店先に佇んだ。
「ね、レイは?」
「可愛いけど、私は欲しいと思わないわ」
「むぅ。シンジはどう?」
「そうだなぁ……可愛いとは思うよ。ただ、値段がね」
「まぁ、それはそうだけど……」
かつては高給取りだった彼らも、今は既にただの学生。しかもアルバイトなどをしてる訳でもないので、収入などあるはずもない。大学生活を始めたら、真っ先に三人が探すのはアルバイト先だろう事は必然と言えよう。
「丁度いいかな? 少し中を見て行こうよ」
「「え?」」
戸惑う二人を連れて宝飾店へと入っていくシンジ。中は高校生が入るには少々格調高い感じがあるものの、それに物怖じする事なくシンジは店内のショーケースを眺めていく。アスカはそんな彼に小さく笑い、レイも微かに笑みを浮かべる。かつての彼を思うと、本当に変わったと実感出来たからだ。
「アスカ、綾波、何か気になる物はある?」
「そうね、ちょっと見てくる」
「私も行くわ」
シンジから離れて店内を見て回るアスカとレイ。その姿を眺め、シンジは密かに息を吐いた。彼が兄として慕う加持から今も色々と教えてもらっているのだ。曰く、さり気無い時に相手の好みや要望を探れ。
(な、何とか怪しまれてはないみたいだ。せめてアスカと綾波の指の大きさを知っておきたいな)
この時のシンジは知らない。ここで知った号数と実際に渡す頃の号数が異なってしまう事を。ある意味でそれも彼らしいと笑い話になるのだが、それはまた別の話である。
さて、店内を見て回るアスカとレイだが、既に自他共に認める婚約者の間柄となった以上、どうしても彼女達の意識の向く物は指輪であるのは仕方ない。ネックレスやイヤリングなども見ているが、やはり視線は指輪へついつい向いていた。
(これ、いいなぁ。ルビーかぁ。ダイヤも嫌いじゃないけど、あたしはこっちのイメージよね。値段は……うっ! け、桁が二つばかり多いわね。シンジの奴なら、きっとこういう買い物はお金に糸目は着けないんだろうけど……ね)
(この指輪、サファイアという物を使っているのね。……この色、好きな色だわ。値段は……ダメ、高過ぎる。こんなお金を使うなら、その分を別の物に回すべき)
互いに見ているのは自身のイメージカラーの宝石を使った指輪。一般的にはダイヤを好むだろうが、彼女達にとってその二色は大切な色である。物言わぬ存在となったエヴァ弐号機と零号機。そのカラーリングがそれであった。今も、気付けばその色を好んで選んでいる程、彼女達にとって関わり深い色なのだ。
「アスカ、それがいいの?」
「レイはそれ?」
「ええ、ただ値段が凄いわ」
「こっちもよ。それに、実際買うのは……」
「そうね。まだ先だってお母さん達も言ってるけど……」
「絶対にミサトコースは勘弁だわ。かといって急ぎ過ぎるのも……ねぇ」
「ヒカリが一番最初にお嫁さんに行きそう」
「案外カヲルの奴かもしれないわ。相田と一線超えたらしいし」
「そうなの? じゃあ、たしかにその線は高いかも」
「ホント、相田の奴も極端よね。カヲルが少し露出増やしたらころっとだもの」
いつの間にかガールズトークが始まる二人だが、その声量は当然ながら小さなものとしていた。一方シンジは一人ダイヤの指輪を眺めて唸っていた。
店員へ婚約指輪だとどのぐらいが相場かを尋ね、その値段の指輪を見せてもらったまでは良かった。その後、ならば結婚指輪はと尋ね、値段ではなく好まれる指輪を見せられていたのだ。
(…………加持さんがよく考えろって言うはずだよ。それと、何で母さんが今も指輪を大事にしてるか分かった気がする。勿論値段じゃないだろうけど)
俗に給料の三か月分と言うが、もしそれで考えるのなら、シンジの場合はエヴァパイロットだった時の計算となる。それだと余裕で高級車が買えてしまうので、指輪の値段としては行き過ぎていた。なので、一般的なサラリーマンで考えると、今見せられているのは少々難しいが、頑張れば買えない事はない値段ではあった。
それも店員の作戦だろうとシンジは読んでいた。だが、それも当然である。私服姿のシンジ達は学生と思われるよりは社会人と思われる方が多かった。それに宝飾店へ入った時の雰囲気やその後の振る舞いも落ち着いており、とても学生とは思われなかったのである。
「……やっぱりダイヤかなぁ」
「そうですね、女性でダイヤが嫌いな方はいないと思われます」
「ですよね。その、参考までに聞きたいんですけど」
「何でしょう?」
「一番高いのはどんな指輪ですか?」
「そうですね。お持ちしますので少々お待ちください」
そう言って店員が歩いていくのを少しだけ目で追うシンジ。すると、その両隣へアスカとレイが戻ってきた。
「何してるの?」
「ダイヤの指輪、ねぇ」
「……参考までにね。遠くない内に買う事になるから」
隠す事も誤魔化す事もせず、素直に告げるシンジだが、これも加持からの教えである。曰く、女に隠し事は通用しない。下手に誤魔化すよりも素直に告げてご機嫌を取れ。それに乗っ取っての返しであった。これがアスカとレイには効果抜群。二人して嬉しそうに頬を赤め、彼の腕へそっと抱き着いたのだ。
そこを見計らったように店員が一つの指輪を持って戻ってきた。そのダイヤの大きさと装飾に三人は揃って息を呑む。見るからに高い。そう確信出来る物がそこにあった。
「こちらでございます」
にっこりと微笑みながら、シンジ達へ指輪を見せる店員。だが、既に三人の視線は指輪へと釘付けにされていた。
「……綺麗」
「そうだね……」
「凄いわ。そうとしか言えない……」
一度口を開いたきり、そこからしばらく三人は口を開かなかった。やがてシンジが店員へ礼を述べて、二人を少しだけ引っ張るように店を出る。外の空気を吸って、アスカは彼へ問いかけた。
「どうして出たの? あれが気に入らないとかじゃないんでしょ?」
「ん? うん、だってさ。僕としては、出来れば飾られるより身に着けて欲しいから」
照れくさそうに笑い、シンジは頬を掻いた。そのあの頃から変わらない振る舞いと考え方に、アスカだけでなくレイも微笑みを浮かべた。
「なら、身に着けられる範囲で良い物を期待するわ」
「ええっ!?」
「そうね。あっ、さすがにさっきのは無理だけど、余程じゃない限り身に着けて家事してあげるわよ?」
「いや、そういう事じゃなくてさ」
「予算は百万ぐらい?」
「碇君ならその倍は出せるわ」
「聞いてよちょっとっ!」
シンジを余所に楽しげに語らうアスカとレイ。その二人に慌てつつ、どこかで嬉しそうに笑うシンジ。そんな彼らのやり取りは、初夏の香り漂う皐月の空へ吸い込まれるように消えるのであった……。