エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版アフター 作:拙作製造機
「じゃ、分かってるだろうけどルールの確認ね。男達は基本あたしやレイの部屋へは入室禁止。シンジもよ。入りたい場合や何か用がある時は必ずあたしかレイに判断を仰ぐ事」
とある夏の日。大学受験を控えている者が多い中、久しぶりにあの頃の友人達全員が揃っていた。七人で集まれたのは、実にあの結婚式ぶりである。
「分かってるよ。それにしても……」
「何だい?」
シンジがカヲルを見て少し戸惑う。何故なら彼女はTシャツにホットパンツというスタイルだったのだ。部屋着に着替えたからなのだが、それでも彼氏以外の男性がいる場所では中々刺激の強い格好である。事実、先程などカヲルの胸元へ目をやり、鼻の下を伸ばしていたトウジがヒカリによって耳を引っ張られていた。
「渚、その格好でいつも?」
「ケンスケといる時はそうだね。この方が楽だし」
「シンジ、カヲルに何言っても無駄だぞ。そいつは見られても減るものじゃないって考え方だ。恥じらいはあるが、それよりも俺の感情の方が大事なんだと」
呆れるように告げるケンスケではあるが、その顔は緩んでいる。何しろずっとカヲルにくっつかれているのだ。彼女の豊かな胸が彼の腕へ強く押し付けられる程に。
「ホント、カヲルは相田君が好きなのね」
「当然さ。だって、僕はケンスケの妻になるんだから」
「はいはい。いちゃつくのはいいけど程々に。あと、カヲルには念押ししておくけど、絶対逆夜這いはダメだからね」
「ケンスケからは?」
「相田もそこまでバカじゃないわよ!」
不思議そうに小首を傾げるカヲルに対し、アスカが正論をぶつけた。いくら親しい友人しかいないとはいえ、こんな状況で事に及ぶ程ケンスケも愚かではない。そうアスカは考えていた。それは間違っていないのだが、当の本人としては少々複雑な気持ちであった。
「あー、惣流? 一応カヲルの名誉のために言っておくけど、そいつの中じゃ夜這いってのは添い寝する事だからな?」
「…………へ?」
「違うのかな? てっきり僕はそうと思っていたんだけど……」
カヲルの無垢な瞳がアスカを捉える。その眼差しにアスカは顔を真っ赤にして固まった。若干の間が空き、アスカがゆっくりとシンジへ視線を向ける。助けてと、その目は言っていた。
「渚、その事は今度ケンスケと二人の時にでも聞いて。それと、添い寝でもダメだから。それならいいって言うと綾波がしそうだし」
「して欲しくない?」
「トウジやケンスケがいない時ならね。とにかく、僕も自分のために言い訳をさせてもらおうかな? 渚だけじゃなく、委員長やアスカ、綾波の格好も結構目がいくからさ。その、ある程度は大目に見てくれると助かるよ」
「せ、せやせや。その、どーしても目がいってまうんやって」
「俺もシンジと同意見。男はみんなスケベだしさ。これだけの美女がみんな隙が多い格好してれば……なぁ」
男三人の意見が同調し、女性達へ目こぼしを嘆願する。それを受け、アスカ達は顔を見合わせた。理解は出来るが納得出来るかと言われればそうではない。雄猿から進化している男は、本能的に複数の女を欲しがる傾向があるが、反対に女は男にそういう傾向があるからこそ独占したがるためだ。
「ヒカリ、どうする? うちのバカシンジもらしいけど」
「そうだね。その、気持ちは分かるし、仕方ないかなって思うところもあるんだけど……」
「僕は、ケンスケ君が最後に僕を見てくれるならいいかな?」
「カヲル、大人」
「い~や、それは大人じゃないわレイ。大人はね、ミサトやユイさんのように旦那の手綱をしっかり握るのよ」
「あ、アスカ……碇君達が聞いてるから」
ひそひそと話していたが、途中からテンションが上がったのか声量が大きくなったアスカをヒカリが制止する。が、シンジ達はそれに思い思いの反応を示していた。シンジは苦笑いし、トウジは呆れ、ケンスケは疲れた顔という具合に。
「あー、別にええで。ワイらも大人の男ちゅうのがどういうもんかをリョウジさんに教えてもろうたし」
「そーそー。何でもさ、大人の男ってのは、普段は惚れた女に付き添って、いざって時には逆らうんだと」
「でも、どちらも根底には相手の事を想ってなきゃいけないって。手綱を握る事で相手が安心するなら握らせてやれ。ただ、もしもの時は鞭を打たれなくても走り出せるように注意しろってね」
ミサトというじゃじゃ馬と付き合ってきたからこその言葉であった。これにはアスカも返す言葉がない。彼女も自覚しているのだ。自分はリツコとミサトなら後者の人間だと。
沈黙してしまったアスカに代わり、ならばとシンジ達へヒカリが顔を向ける。この辺りは中学時代の名残なのだろうか。委員長気質というやつである。
「で、碇君も相田もトウジと同じでカヲルの胸が見たいんだ?」
「ちょっ! そりゃないでヒカリ」
「事実でしょ? で、どうなの?」
「「いや、見たいというか見ちゃうというか」」
「凄い。揃ったわ」
「ケンスケならいつでもいいのに。あっ、シンジ君も構わないかな?」
「だぁからっ! そういう事言うんじゃないの! あと、シンジはあたしとレイの!」
「あ、アスカ……さすがにもの扱いみたいだから勘弁してよ」
外見は大人に近付いても、まだまだ中身は子供のような部分を残している七人である。いや、この顔ぶれだからかもしれない。いつか子を持ち、中年と呼ばれる年齢になっても、この七人が揃うと中学時代のあの頃へ戻るのだろう。
さて、雑談は弾みに弾み、時刻と食欲が昼時を告げる頃、率先してシンジが立ち上がった。既に昼食は素麺を茹でる事になっているのだ。故に昼は男性陣が用意し、夜は女性陣がやると話し合いが済んでいた。
「じゃ、そろそろお昼の準備するよ。トウジ、ケンスケ、アレよろしく」
「おう、分かっとる」
「じゃ、ちょっと行ってくるな」
「ちょ、ちょっと、どこ行くのよ?」
「その内分かるよ。アスカ達は気にせず話してて」
靴を履いて部屋を出ていく二人を見送る形になり、アスカ達は疑問符を浮かべて小首を傾げる。それでもならばと気を取り直して話し始める辺り、彼女達も順調に逞しくなっているようだ。女はとかく喋るのが好きな生き物である。シンジはそれをユイとミサトで嫌という程知っていた。だからこそ、少しでも空腹を紛らわせる事も含め、彼女達におしゃべりを勧めたのだ。
やがて素麺が茹で上がるぐらいで二人が部屋に帰ってきた。その手にはスーパーの袋を持って。
「今戻ったで」
「あ~、暑かったぁ」
「おかえりトウジ。相田もお疲れ様」
「二人共買い物に行ってたの? でも、何を買いに?」
「それは飯時のお楽しみや」
「ケンスケ、お茶だよ。鈴原君もどうぞ」
「悪いなカヲル」
「おう、助かるわ」
カヲルからグラスを受け取り中身を一気に飲み干していくトウジ。一方ケンスケは一気にではなく、半分程で一旦飲むのを止めていた。そしてグラスを持ったままテーブルの上へ袋を置いた。
それを待っていたかのように、シンジがテーブルに二つの器に盛り付けた素麺を置いた。氷を配して見た目の涼やかさを演出してある辺りに彼の心遣いがある。
「お帰りケンスケ。トウジもお疲れ様。みんな、もう食べられるからテーブルへ」
さすがに七人がけのテーブルではないので、座るとなるとテーブルに四人で残りはソファへとなる。だから立食形式となるが、その方が非日常感があるのでいいかもしれないとシンジは考えていた。どうやら他の者達も同意らしく、誰一人椅子に座ろうとする者はおらず、それぞれに麺ツユ用の器を手渡しながら準備を始めていた。
「で、もういいでしょ? 相田達が買ってきたのは何よ?」
「ああ、それは……」
「これや!」
二人が袋から出したもの。それは惣菜の天ぷら。素麺だけでは寂しいと考えたシンジが二人に頼んで買ってきてもらったのだ。海老天を始め、所謂定番の物が二つの大きな容器に詰められていた。
「へぇ、テンプラね。中々いいじゃない」
「あっ、大葉がある。私これ好きなんだ」
「そういえば、私エビを食べるの初めてだわ」
「おや、平気になったんだね」
「じゃ、綾波はせっかくだし海老天を食べなよ。僕は出来ればキス天が欲しいな」
「天ザルならぬ天素麺や。ちょっと豪華な感じやろ?」
「さて、俺達もいただくとしましょうかね」
それぞれ天ぷらにテンションを上げながら、それぞれ器へと入れる。そうして一旦器と箸をテーブルへ置き、両手を合わせた。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
素麺を食べながら始まるあの頃の思い出話。アスカがレイの素麺ばかり茹でた話をすれば、お返しとばかりに彼女のパスタ話を持ち出す。それを聞きながらシンジが補足したり、あるいは二人を宥めたりして話題はあの戦い以降の事へ移っていく。
「それにしても、初めての冬は未だに忘れられないよなぁ」
「そうね。私も妹やサクラちゃんにマフラー編んであげたもん」
「それよりストーブだよ。あるいはこたつかな?」
「こたつは危険。一度入ると抜け出せなくなる」
「あー、そうだったね。あの頃、綾波はこたつでみかんってものをリツコさんに教えてもらって、ずっと常備させてたっけ」
「そうそう。それで箱で買ったもんだから、腐らせる前にってあちこちへ配る事になったわ」
「せやったせやった。うちにも配りに来たもんな、綾波」
真夏に真冬の思い出を話すシンジ達。だが、それもしょうがないのだ。何せ、あの中学二年の冬は彼らにとって忘れる事の出来ない時間なのだから。
シンジ達がアダムを倒したからこそ得られた時間。そして、シンジがみんなのためにと願い掴み取った季節だったのだ。
素麺をすすりながら夏の暑さを忘れる七人。あの頃は暑いのが当たり前だった。それが、今は違う。涼しい時期や温かい時期、暑い時期に寒い時期など、四季を体感するようになってもう五年近くが経過していた。真夏や真冬という言葉に、小春日和や秋の味覚などの言葉ももう耳馴染みになりつつあるのだ。
「そうだ。な、卒業旅行ってしてみないか?」
「卒業旅行? いつ?」
「ま、一番ええのは春やろ。受験終わった辺りで行くんがええんちゃうか?」
「あるいは、前倒しで冬かな? 温泉とか」
「スキーって手もあるわよ。山梨辺りで」
「私、寒いのは苦手」
「僕も出来れば遠慮したいね」
「この美肌コンビは情けないわねぇ」
「ワイも出来れば温泉の方がええなぁ。サクラ達への土産も悩まんで済むし」
「あー、そう考えるとそうだね。さすがに雪はお土産に出来ないし」
「いっそ北海道とか行きたいよなぁ。綾波が魚介食えるなら蟹とかどうよ」
「北海道ならキャラメルとかチョコレートも有名だったね。のぞみやサクラちゃん、喜んでくれそう」
「食い倒れ?」
「レイ、それはたしか大阪だよ」
高校生最後の時間。それを噛み締めるように彼らは言葉を交わす。彼らしか知らない時間があり、彼らしか知らない記憶がある。だからこそ、この集まりは特別なのだ。愛しい相手が出来た今も、その絆は途切れやしないと確信しながら彼らは笑う。
卒業旅行の話は盛り上がり、食事を終えた後もそれを話題に彼らは語り合った。行きたい場所や見たい物。食べたい料理にやってみたい事。いくらでも話題は出てくるのだ。あの頃は考えられなかった様々な事や物が、今は普通に存在しているのだから。
だが、その話し合いもやがて落ち着き、とりあえずまた継続して話していく事でまとまった。時刻は既に午後二時を過ぎている。
すると、ラフな格好をしていた女性陣がそれぞれリビングからアスカとレイの部屋へと散っていく。着替えに行ったのだ。これから全員でスーパーへ夕食の買い出しに出かける事となっているために。それを見送り、トウジが不意に思い出したようにシンジへ尋ねた。
「な、センセ。高校出た後、進路どうするつもりや?」
「進路、かぁ……」
「俺はライターを目指すつもりだ。ミリタリー系のさ」
「あー、ケンスケは向いてると思うよ。良い意味で趣味を仕事に出来ると思う。トウジは?」
「ワイなぁ。実は……大工とか建築系に行こうと思とる」
「「建築系?」」
意外な言葉にシンジとケンスケの声が重なる。トウジも二人の気持ちは分かるのだろう。どこか照れくさそうに頬を掻いた。
「いやな。あの戦いの後、元通りの街へ戻ってくのを見て、ワイは思ったんや。壊すんは簡単やけど直す事や戻すんは難しいって。でも、喜ばれるとしたら絶対後者の方が多い」
「だから建築?」
「ま、要するに誰かの暮らしを支えられる仕事に就きたいちゅう事や。それに、建築系なら自分の暮らしにも役立てられそうやし」
「ちゃっかりしてるよ。まぁ、トウジらしいか。で、シンジは?」
「僕は……まだ決まってない。方向だけは漠然と決めてるんだけどさ」
そこで二つの部屋のドアが開く音がして、シンジ達はソファから後ろを振り返った。
「お待たせ」
外出着に着替えた女性達がそこには立っていた。それぞれの彼女の姿に一瞬ではあるが見惚れる男達。するとその視線に気付き、四人が小さく微笑んだ。それは喜びの笑み。やはり好きな男の意識を向けられるのは嬉しいものなのだろう。
「何の話をしてたの?」
「えっ? あ、ああ、進路の話だよ委員長」
「俺とトウジは具体的に決まってて、シンジはまだ漠然ってとこ」
「そうなの? てっきりあたしは鈴原こそ決まってないと思ってたわ」
「ま、言い返すつもりはないわ。ほんまに決めたんはつい最近やったし」
「相田君はどういう道へ?」
「ライター。出来ればミリタリー系の。いっそ、それ系ならライターじゃなくてもいいかな?」
「僕も初耳だな。ケンスケ、後で詳しく教えて」
「と、とにかく行こう。僕らが荷物持ちするから献立はそちらでよろしく」
こうして七人揃ってスーパーを目指す。夕暮れが近付きつつあるとはいえ、まだまだ日は高い。アスカ達は帽子を被って、シンジ達は特に陽射し対策もせず歩く。ただ、トウジだけはタオルを肩からかけてるようにしていたが。
当然、スーパーへ到着する頃にはシンジとケンスケは汗だくであった。空調の効いた店内で二人はオアシスに辿り着いた遭難者のような表情を浮かべている。それをアスカ達が苦笑して見つめていた。トウジだけ、かけてきたタオルで汗を拭いている。
「あ~、生き返るなぁ」
「相田、ハンカチかタオルは?」
「ない」
「良ければワイの貸したるぞ」
「サンキュ。いやぁ、持つべき者は気の利く親友だな」
「ありがとう鈴原君。僕がハンドタオルぐらい持っておくべきだったんだけど」
「いやいや、渚はちょうつくし過ぎやって。少しぐらいケンスケを突き放したってもええわ」
トウジの意見に同意なのか、アスカ達三人の女性も頷いている。カヲルはそんな周囲に小さく苦笑し、トウジのタオルで汗を拭くケンスケへそっと近寄った。
「いいんだ。僕は彼から一番最初に近寄ってもらえたからね。その事から考えればつくし切れないよ」
「うん、カヲル? 嬉しいけど外ではそういうの控えろって言ってるだろ? 俺が他の男から目付けられるんだよ」
これ見よがしにケンスケへくっつくカヲル。真実を知らない者からすれば、スタイル抜群の美女にいちゃつかれる少々冴えない男である。それが他の男達にどう思われるかは推して知るべしである。
「大丈夫よ。ね、シンジ?」
「何だか嫌な予感……」
「その予感はある意味当たりよ」
「……だよね」
シンジの両脇から抱き着くアスカとレイ。その光景にケンスケへ向いた嫉妬が一気にシンジへと傾いた。ならばとヒカリが小さく笑い、トウジの腕へ自分の腕を絡める。
「トウジもね」
「ま、ええわ。ワイの考え方はあの時から変わらんしな」
「えっと、それってやっぱり?」
「男なら……ちゅう、アレや」
ヒカリからの問いかけに特に照れもせず、あっさりと返してトウジは歩き出す。その後をシンジがアスカとレイを連れて追い、ケンスケとカヲルもついていく。一組だけならともかく、三組もいちゃつかれれば見ている方が疲れる。しかも、ケンスケはともかくシンジとトウジは中々ガタイも良かったため、これにより心配する状況はなくなったのだ。
「それで夜はどうするの?」
「ヒカリ、どうする?」
「カレーがいいと思う。で、問題は何をメインにするかじゃない?」
「大丈夫だろ。綾波が肉も平気になったって言ってたし」
「ええ、問題ないわ」
「なら、シーフードもええよな」
「だろうね。今日の海老天も美味しいと言っていたし」
会話しながらトウジの持つカゴへ野菜を入れていくヒカリ。と、その時カヲルがある事に気付いた。
「あれ? ヒカリ、じゃがいもってカレーに入れるのかい?」
「えっ? う、うん。ウチは入れるんだけど……」
「悪い。きっと俺が教えたにわか知識のせいだ。本場のカレーはじゃがいもないからさ。それと、俺は別に気にしないぜ」
「あー、そういう事ね。あたしも気にしない。てか、むしろ好きだから入れて」
「そ、そう? 良かったぁ。こういう違いも結構あるあるだよね」
「ちなみにじゃがいもが入らないとどうなるの?」
「えっと、結構水っぽくなるっていうか、スープカレーに近くなるかな」
「そうなんか。へぇ、それはそれで美味そうやな」
「なら二種類作ればいいんじゃないか? てか、辛さはどうするんだよ。カヲルは辛口ダメなんだ」
ひょんな事からまた互いの事を知っていくシンジ達。親しくなって長くなるが、それでもまだまだ知らない事があるのが驚きであり、嬉しくもあった。カレーを二種類作る事に決まり、片方はじゃがいもを入れずに作るシーフードカレーとなった。辛さはシーフードが中辛で、もう一つのポークカレーがやや甘口に決まる。
そして、カレーの材料だけでなく飲み物やお菓子なども購入し、それなりの重量となった袋を男性三人で持つ。ここで意外だったのは、ケンスケが一番余裕そうな表情をしていた事。理由は昔から一人でキャンプなどをしていた事による筋力作り。
「ま、望遠カメラとかを保持するのって結構疲れるんだぜ? あと、サバイバル用具を持ち運ぶのとかも。それを中学の頃からやってればこれぐらいはな」
「相田って意外と男らしいとこあるのね」
「あー、そうかも。ほら、あの偽戦自の時、相田が率先して動いてたから」
「懐かしいなぁ。目の前でトウジと委員長のキスを見せつけられたっけ」
「「っ!?」」
「そう、キスしたの」
「ヒカリもやるじゃない。そっかそっか。だからこそあの後お互いの家族へ紹介かぁ」
思わぬところから恥ずかしい事を話され、赤面するトウジとヒカリ。レイとアスカはそんなヒカリにニヤニヤし、シンジは苦笑。カヲルはしてやったり顔のケンスケへ視線を向け、楽しそうに笑って口を開く。
「ケンスケが僕にしがみついて移動した事もあったね。懐かしいな」
「ほ~、それはどういう事やろ。あん時の渚は男やったはずやな?」
「だぁ! カヲル、どうしてそういう事をここで言うんだよ!」
「ケンスケが二人をからかうからさ。ヒカリや鈴原君はあの時から既にカップルだったんだ。キスしたっていいじゃないか」
少しむくれた顔をするカヲルにケンスケは返す言葉を失う。温厚なカヲルを怒らせるポイントを掠めたと気付いたのだ。彼女が怒る事。それは自分の大切な人を傷付けたり、あるいは困らせたりする事。それは彼氏であるケンスケも例外はない。良くも悪くも平等なのが渚カヲルという人間であった。
「まぁ、僕はケンスケの気持ちもトウジ達の気持ちも分かるよ。アスカや綾波と付き合ってなかったら、絶対どこかで僻むだろうし、大好きな人が危険な目に遭うかもって思ったら、キスぐらいしたくなるだろうから」
若干空気が悪くなりそうなのを察してシンジが告げた言葉。それに内心で感謝しながらケンスケは力強く頷いた。自分は同意するとばかりに。カヲルもそんな彼に少しだけ呆れるように息を吐くと、仕方ないとばかりに苦笑いを浮かべた。
「まぁシンジ君の言う通りかもしれないね。あの頃は、ケンスケだけそういう相手がいなかったし」
「そ、そうなんだよ。だから今は幸せだぜ? カヲルがいてくれるんだからさ」
「うん、そういう事にしておく。でも、出来ればもっと早く女にして欲しかったな」
「はいそこまで! ったく、油断するとすぐにエッチな空気を出すんだからあんたは」
「し、仕方ないよアスカ。カヲルは相田から男の子の事を色々教えてもらってたって言ってたし」
「ああ、いやらしい本ね」
レイの発言にケンスケだけでなくシンジとトウジも思わず足を止めた。何を隠そう。彼らもケンスケのそういう物の世話になった事があるのだ。シンジはミサトの部屋を出てゲンドウと暮らすようになってから。トウジは言うまでもなくもっと前からである。
そして、そういう男の反応は一つで十の事を女に教えるもの。アスカ達は即座にそれぞれの彼氏の反応や表情を見て、全てを悟ったようにとてもいい笑顔を浮かべた。
「シンジぃ? どーしたの? なぁ~んか表情が強張ったみたいだけど?」
「な、何でもないよ」
「碇君、逮捕と自首では量刑の内容が変わる。それを覚えておいて」
両脇を抑えられ、シンジは最早観念するしかない。一方トウジはヒカリの冷たい眼差しに真っ向から立ち向かっていた。……表向きは。
「最低……」
「仕方ないやろ。あん時はまだヒカリとこうなるなんて想像も出来へんかったんや」
「……付き合い出した後はなかったんだ?」
「…………男には男の付き合いちゅうもんがある」
内心ではトウジも白旗を挙げていた。ケンスケとカヲルが例外なだけで、普通はこうなるのが女というものである。彼女の自分がいるのだからそれで十分でしょうと、そういう事だ。それに、今の彼らはもうそういう事さえしているのだから。
最愛の彼女に敗北するように項垂れるシンジとトウジを見て、カヲルはケンスケへ問いかけた。
「ケンスケ、どうして二人は責められているのかな?」
「あー、エロ本やらAVとかって、本来は彼女からすれば浮気みたいに思うらしいぜ。カヲルはその辺寛容だから分からないかもしれないけどさ」
「そういうものなんだね」
相田ケンスケと渚カヲル。もしかしたら、この二人こそが一番幸せな関係の男女かもしれない。
夕食も終わり、洗い物をする女性達を眺めながらシンジ達は小声である事について話していた。
「こう見ると、やっぱ渚のケツはエロいな」
「だろ? でも、惣流もいいよなぁ」
「そ、そうかな? 委員長なんかも安産型って感じでいいと思うよ?」
中学の頃は避けていた下世話な話。それをシンジも出来るようになっていたのだ。女性が服や髪の事でよく話すように、男はこういう話題でコミュニケーションを図ると彼も悟ったためである。
後は、やはり女を知ってしまったからだろうか。それにアスカとレイを褒められているとも感じるので、そういう自慢をしたい欲求もあるのかもしれない。碇シンジも今や普通の男である。
「ヒカリはなぁ、もう少し胸が欲しい言うとるわ」
「カヲルはそういうのは特にないぞ。ま、本人曰く理想の体にしたつもりと言ってたけど」
「渚はたしかに凄いよね。アスカもかなりだけど、その上をいってるし」
「な、シンジ。惣流と綾波、どっちがアレに積極的だ?」
「おっ、それは興味あるな。どっちや?」
「……どうしても聞きたいの?」
「「ん」」
同時に頷くトウジとケンスケ。その反応にシンジは一度だけアスカ達を見やり、視線を二人へ戻した。
「……アスカの方が求めてくる、かな。綾波は、そういうのが苦手な感じ」
「「おーっ」」
「そっちは?」
「ヒカリは誘う事はないわ。ワイが手ぇ出すと仕方ないって感じで応じてくれるってとこか」
「カヲルはむしろ誘ってくるぞ。何でも、身も心も繋がれるから好きなんだとさ」
完全に飲み会のテンションな三人。それを知ってか知らずかアスカ達は洗い物を終えて、その場でおしゃべりに興じていた。
「へぇ、指輪かぁ」
「そ。シンジの奴、まだ先なのにさ」
「それだけ君達を意識してるって事だよ。正直羨ましいな」
「だよね。トウジも結婚を意識してるの分かるけど、指輪とかの話なんて出てこないし」
「むしろ鈴原君の方が普通。碇君はちょっと先走りし過ぎな時もある」
「あれは加持さんのせいでしょ? ミサトでの経験値やら何やらをシンジへ教えてるみたいだし」
「それでも一緒に指輪を見るって憧れるなぁ」
「言えば鈴原君も行ってくれると思うよ。ケンスケもそうだと思う」
「そうね。婚約指輪とかもあるし、二十歳になったら誘ってみたらいい」
既に公開プロポーズを行ったシンジ達に、両家公認の付き合いなトウジ達。そしてお互いがお互いを理想としているケンスケ達と、この三組は別れる要素が今の所皆無である。余程の事がない限り、この関係性も変わらないだろう。
この後、女性達が二人一組で入浴を開始する事となり、シンジ達は悶々としながら会話を続ける事となる。ちなみに最初はアスカとカヲルという覗きたくなるようなコンビだった事もあり、レイとヒカリが見張りも兼ねて彼ら三人の会話へと混ざる事となったため、下世話な話はそこまでとなった事を記す。
そうして女性陣が入浴を終えた後は、シンジ達が一人ずつ入浴と相成った。何せ男である。長風呂などするはずもなく、体や頭を洗って汗を流して終わりという烏の行水状態。三人で三十分とかからず入浴時間は終了となったのだ。
「何か、こうしてると修学旅行みたいだよな」
最後に上がったトウジが水分補給しているのを眺め、ケンスケがぽつりとそう呟いた。その言葉にシンジ達エヴァパイロットだった三人とカヲルが微妙な顔をする。
「こんな感じだったの?」
「ん? ああ、悪い。別に過去を責めたい訳じゃないんだ。中学のもこうじゃなかったぞ。な、トウジ」
「ん。どっちかって言うと小学校のが近いなぁ」
「うん、私もそう思う。ただ、男子と同部屋はなかったけど」
既に全員寝間着へ着替えたためか、雰囲気もリラックスムード一色。誰もが後は寝るだけの態勢となっていた。
「なら、後はここに人数分の布団でも敷いてれば完璧かな?」
そんなシンジの言葉にトウジとケンスケ、ヒカリの三人が揃って頷く。アスカやレイはそれに互いの顔を見合わせた。思い出したのだ。あの共同生活最後の夜に自分達がした事を。
一方カヲルはそうなってくれた方がいいと思っているのか、どこか悩ましい眼差しをケンスケに向けていた。その艶かしさに喉を鳴らすケンスケだが、それでも心を鬼にして一度だけ首を横に振った。
「……ダメかな?」
「惣流も言っただろ。今夜は女同士で親睦深めろって」
「いいわよ? 別にここでカヲルと一緒に寝ても」
アスカのあっさりとした言葉に、ケンスケだけでなくシンジ達全員が顔を彼女へ向ける。アスカは平然とした顔でグラスに入った牛乳を飲んでいた。全員の視線が自分に向いているのを理解し、アスカはグラスを口から離すと一度だけ唇を舐める。その何気ない動きにそこはかとない色気を感じて男性三人が唾を飲んだ。
「だって、相田と変な事したらシンジと鈴原が気付くでしょ? カヲル、あんた二人に裸見られてもいいの?」
「それは……嫌だな」
それは、まさしく正論でありカヲルにとっては見過ごせない事実であった。シンジとトウジが否定しない辺りも含めて。そのため、レイとヒカリが彼らへジト目を向けていたが。
こうしてカヲルの添い寝欲求は抑制される事となる。それとは別にカヲル以外の全員が心の中でこう思っていた。そう、本当にここで致すつもりだったのかと。それを確かめるつもりもないし、すると面倒な事になると分かっているので誰も何も言わなかったが。
その後も彼らは話を続けた。高校に上がった後は、クラスもバラバラになり、恋人も出来ただけでなくクラスの友人関係も変わったため、共通の思い出が少なくなっていたのだ。
更に男は男の、女は女の話が増えたのもあってか、異性同士の思った事や感じている事を話題にした時は白熱と表現するのが相応しい程盛り上がり、あわやケンカかと思う程であった。が、それも熱が冷めれば互いの事をより知れたという結果だけが残るもの。気付けば日付も変わり、そろそろ就寝するかと誰かが提案しようとした時だった。
「一ついいかな?」
カヲルが突然全員へ話を切り出したのは。周囲が自分を見ている事を把握し、彼女は笑みを浮かべた。
「卒業旅行もいいけど、出来れば毎年一度はこのメンバーで集まって何かしたいんだ」
「毎年かぁ。たしかにそういう風に決めないと動けないかも」
シンジもカヲルの提案の意図を察していた。大学や専門学校など、今後はより一層進路がバラバラになり、時間を合わせる事も難しくなる。だけど、この集まりはなくしたくない。そして、その気持ちは全員一致しているはずだ。そう思ってシンジは周囲の顔を見ていく。
「七人いるし、毎年持ち回りで幹事みたいな事をやろう。旅行なら日帰りか泊まりかとか、レジャーなら近場か遠出かとか。そういうのの大枠をその前の集まりの時に決めて、細かな部分は幹事がって」
「ええかもしれんな。費用の計算とかもせなならんし、話し合いもその前の時にするなら話題にも困らん」
「うん、私もいいと思う」
「私もいいわ。最低一回で、可能なら夏と冬で二回が理想」
「いいわね。その場合はどうするの?」
「待て待て。今は例外を考えるより、恒例の部分をしっかり決めようぜ」
こうして書記であったレイが紙に書き取りながら行われた話し合いの結果、基本は以下の通りになった。
一つ、この行事は必ず毎年一度は行う事とする。
二つ、幹事は持ち回りであり、次回の幹事は前回の幹事が指名する。
三つ、費用計算は最終的な金額が確定してからとする。
四つ、結婚や出産などの将来的な動きによっては中止や廃止も視野に入れる。
五つ、可能なら年二回行い、その場合は幹事を継続する。
「……こんなとこかな?」
「中止はともかく廃止は……ねぇ」
「仕方ないだろ。こういう時は最悪も考慮するべきだ。俺だってない事を願うけどさ」
「せやな。始めるんは簡単やけど終わらせるんは難しいって、色んなとこで思うわ」
「僕としてはいつまでもこうやって楽しくしたいけどね」
「私もカヲルと同意見。それが一番だもんね」
「ええ、そうね。出来れば子供が出来てもやっていきたい」
レイの噛み締める言葉に誰もが小さく笑みを浮かべ、そして互いの相手を見て若干照れる。これでこの日はお開きとなり、男性と女性に別れて就寝する事となる。
この時の決め事により、卒業旅行先の箱根の旅館で、翌年の集まりについて話し合いが行われた。記念すべき最初の幹事は、公正なじゃんけんの結果、見事アスカが就任する事となる。そしてその年の夏、彼らは日帰りでの海水浴を行う事となるのだが、それはまた別の話……。
次回は……リツコ達かな。そして段々文章が長くなる病が……(汗