エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版アフター 作:拙作製造機
場所はリツコの住む、やや手狭なワンルームマンション。今日はリツコが休みとあって、レイが学校終わりに顔を出していた。夕食を作るためである。今や若い頃からあまり家事をしていない彼女よりも、あの共同生活を切っ掛けに料理を始めたレイの方が遥かに家庭的となってしまったのだ。
「お母さん、出来たわ」
「あら、ありがとう。いい匂いね。お酢を使ってるの?」
「ええ、鶏のさっぱり煮よ。お味噌汁は豆腐とワカメ。マメとひじきの煮物はお惣菜だけど」
MAGIを造り上げた母、ナオコの娘として今のリツコはその改良型研究に取り組んでいた。今もその関連の資料を読み、思考に耽っていたのである。
そんな彼女を聴覚と嗅覚で現実へ引き戻す辺り、レイもリツコの事を分かっている。この日の献立も疲労回復を考えてのものだ。テーブルに置かれた煮物の見た目と香りにリツコは小さく笑みを浮かべる。
「構わないわ。じゃ、いただこうかしら」
「召し上がれ」
制服の上にエプロンを着けたまま、レイは優しく微笑んだ。まずは美味しそうに色付いた手羽元へ口を付けるリツコ。その酸味と甘みに旨味が加わった味に、思わず綻んでしまう。
「どう?」
「……美味しいわ。市販の素?」
「そうよ。ちなみに碇君も御用達」
「あら、じゃユイさんも?」
「多分」
レイはそう言ってエプロンを脱ぎ、リツコの向かいに座って他愛ない会話をしながら食事を楽しむ二人。やがて料理は綺麗に平らげられ、レイが再びエプロンを身に着け洗い物を始める。
リツコが休みの日は、レイもこの部屋に泊まっていく事になっている。なので特に時間を気にするでもなくリツコは資料などを読んでいたのだが、不意にその時はやってきた。
「お母さん、ちょっと教えて欲しい事があるの」
そのレイの問いかけ方は、最近リツコの悩みの種となりつつあるものだった。どこか恥ずかしそうな声と表情がそれを裏付けている。内心でどうしたものかと思案しながら、リツコはそれを顔に出さずレイへ顔を向けた。
「何?」
「その、碇君との事なんだけど……」
そこから告げられた内容にリツコは思わず目を覆った。高校生となり、一人暮らしを始めようとしているだけあり、今のレイはその行動が大人のそれに近付き始めている。だが、まだそれにレイの内面が追いついてないのだ。主に雑学と呼ばれる類だろうか。
それに、シンジと男女として一線を超えたレイではあるが、そちらの知識などはシンジやアスカなどから手に入る範囲でしかなく、当然ながらそんなものではあまりにも情報量が少ない。また、偏る可能性も高かった。これがリツコをじわじわと苦しめている悩みである。
「……アスカは何て?」
「…………知らないって」
「そう……知らない、ね」
レイに気付かれないようにリツコは顔を伏せてため息を吐く。正直彼女とて性知識を教える事に抵抗がない訳ではないし、博識と自負出来る程の知識もないと思っている。本音を言えばミサトへ丸投げしたい内容でさえあった。だけど、それをしないのは彼女がレイの養母であり、保護者だからだ。
「……レイ、これはあくまで個人的見解よ。だから正解ではなく参考意見として聞いて」
「ええ。ありがとう、お母さん」
以前の恥じらいを教えていた頃を懐かしく、そして楽だったと思いながらリツコはレイへ自身の体験からの知識を話し出す。その中で彼女は思うのだ。こういう事を下手に避けると、余計子供はその知識を知ろうとしてしまうと。
その観点で考えれば、ミサトへ任せなくて正解だった。そう己の判断を分析し、リツコはレイとの性知識関連の授業を行うのだった。
そうこうしている内に時間は過ぎ、すっかり夜の闇が街を包んだ。シャワーを浴びたレイがバスタオルで髪を拭いていると、リツコがぼんやりと写真立てを見ている事に気付いた。それは、初めてリツコの母の生家へ行った際に彼女の祖母とレイの三人で撮った物だった。
「どうしたの?」
「……お祖母ちゃん、最近体の調子がよくないみたいなの。もう歳も歳だし、一人暮らしは無理かもしれないって」
それだけでレイはリツコの考えが分かった。もっと言えばリツコの祖母の気持ちも。あの初めて訪れてから毎年夏と冬、盆と正月には顔を出している場所。少し時代に取り残された感がある田舎の暮らし。それはレイにはとても新鮮だった。不便さもあったが、都会では味わえない雰囲気や良さもあったのだ。
「お母さんはお祖母ちゃんと一緒に暮らしたいの?」
「そうね。可能なら。でも、無理だわ。お祖母ちゃんをこっちに呼ぶのは出来ないし、私が向こうで暮らすのも難しいもの」
「……どうにもならない?」
「こればかりは」
どこか悲しそうに笑ってリツコは写真立てから目を逸らした。
「それに、お祖母ちゃんに言われたのよ。私は私のしたい事をしなさいって。私の幸せがお祖母ちゃんの幸せなんだからってね」
「……お祖母ちゃん」
「レイ、また近い内に顔を出しに行きましょう。これからは以前よりも頻度を増やして少しでも寂しくさせないように。そして、可能なら私は向こうで暮らせるようにするわ。せめて、お祖母ちゃんが生きている間は」
「お母さん……」
「だからレイ、シンジ君達との同居はいいわ。貴方達は三人で暮らしなさい。私は……」
「ダメ。お母さんも一緒じゃないと」
「聞いて。何も一人で生きていくつもりじゃないのよ。実はね、ユイさんからちょっとした提案をされてるの」
その内容にレイは驚き、そして理由を聞いて納得した。そして同時に若干ゲンドウへの嫌悪と同情という相反する感情を抱きもした。今のレイにとって、ゲンドウは既にシンジの父である。そのため、かつてであれば抱かなかった感情をちゃんと抱くようになっていた。
「……それで、最初は私も断ろうと思っていたの。だけど、お祖母ちゃんがこうなったでしょ? 私も、いつかは同じ道を辿るかもしれない。ならいっそそれを見越してとね」
「それに、その方がゲンドウさんへの仕返しにもなる?」
「どうかしら? ユイさんは、私への謝罪と感謝を兼ねてると思うけど……それもあるかもしれないわね」
「そう。それは碇君が出て行った後?」
「ええ。ただ、話を受けるとしてもすぐにとはいかないわ。向こうにもこちらにも色々とあるもの」
リツコはそう言ってどこか遠い目をした。ユイからの提案とは、どうせ親戚になるのだし一緒に暮らさないかというものだ。シンジも出ていくと碇家は部屋を余らせてしまう。ならいっそとユイがリツコへ共同生活を提案したのだ。
そこには、同じ研究者として相談出来たり意見交換できる相手を欲しているというのもあるが、一番はリツコが結婚をもう考えず一人で生きていこうとしている事を苦慮したのだ。
何故リツコが結婚を考えなくなったのか。その理由を知らぬユイではない。それだけ彼女はゲンドウを想っていたと、同じ女として分かったのである。でなければ親子程の歳が離れた男と関係を持つはずはなかった。
―――ね、リツコさん。一つ相談があるんだけど……。
その話をする時、ユイは初めてリツコをリっちゃんではなくリツコさんと呼んだ。その意味がリツコには分かった。年下のような扱いはしない。一人の大人として、女性として話がしたいというユイなりの誠意だろうと。
(ゲンドウさんを諦めた私に、その傍で暮らせなんて最初は嫌味かと思ったけれど違うのよね。ユイさんなりに罪悪感を感じているんだわ。自分さえちゃんと言っておけば、傍にいてあげればと……)
レイの母となった今のリツコにとって、ゲンドウは既に過去の男である。だが、そう遠くない将来にレイは彼を義父とするのだ。そうなれば付き合いをまったく持たないというのも問題である。しかし、ユイへの配慮などでどうすればいいかと思っていたのも事実。
そこへきて、このユイからの提案である。その裏にはゲンドウ、ユイ、リツコの複雑な心情をどうにかしたいという考えもあったのだ。
「レイ、よく聞いて。分かってるとは思うけど、私もいつまでも貴方の傍にはいられない」
「お母さん……」
「だからこそ、一緒にいられる時は甘えてくれていいわ。それと、私も貴女を頼る。普通の母娘じゃないからこそ、周囲が多少驚くぐらいの触れ合いをしましょう」
「……うん、分かった。じゃ、男の人を手玉に取る方法を教えて」
「シンジ君には必要ないと思うけど?」
「必要になった時のため。アスカ、性的アピールが上手いから」
「はいはい。なら、レイは露骨じゃない方向がいいかしらね?」
母娘の時間はそれぞれの年齢が変わった事もあり、その内容も過ごし方も変わっていた。だけど、根底は変わらないのだろう。母は娘を、娘は母をそれぞれ思い、愛しているのだから。
共に笑顔を見せ合って母娘は話す。他愛のない事からそうじゃない事までを、楽しげに、嬉しそうに。最後にはリツコのベッドでレイが一緒に寝たいと言い出して、二人はやや狭く感じながらも寄り添って眠る事となった。
「おやすみ、お母さん」
「おやすみ、レイ」
最後まで笑みを絶やさず、二人は目を閉じる。そして後日、リツコはユイへこう返答した。
―――申し出、有難く受けさせてもらいます。ただ、母方の祖母が一人暮らしをしており、最近難儀しているとの事なので、そちらと生きている間は暮らしたいと考えています。まことに勝手ですが、同居の件はもうしばらく待っていただけますか?
無論、ユイが了承したのは言うまでもない。そして、ゲンドウが一人複雑な顔をしていた事も。因果応報。その言葉の意味と苦みをゲンドウはこれから噛み締めていく事になるのだった。それもまた、シンジにとってのいい教訓となると知らずに……。
さて、皆様は覚えていますでしょうか? そもそもシンジ達の運命を変えるに至った一番の要因を。そう、フル改造エヴァ初号機F型装備。最後のアダム戦前にその力は失われ、成長を遂げたシンジの言葉を受け取り彼女は元の世界へ帰還しました。これは、その後のF型初号機のお話……。
「一体どうしたんです? 急に呼び出されたんですけど……」
「ごめんねシンちゃん。その、エヴァなんだけど」
「今は封印処理されてるって聞いてますけど、何かあったんですか?」
場所は日本の某所。そこにかつてエヴァンゲリオン初号機を駆り、銀河を守った一人である碇シンジの姿があった。彼は目の前にいる葛城ミサトへ不思議そうな表情を向ける。
「実は、初号機が一度だけ吼えたのよ。意味、分かる?」
「……エヴァが勝手に起動したって事ですか」
「そ。幸いそれだけで何か問題を起こした訳じゃない。だけど、念のために調査を行った早乙女博士達曰く、エヴァはパイロットを呼んだんじゃないかってね」
「パイロットを……」
「あの戦いで私達はこの宇宙にある意思ある力を知った。もしかすると、エヴァもその影響を受けたのかもしれないって」
そこでシンジは理解した。何故自分が呼ばれたのかを。ゲッター線の第一人者である早乙女博士が言った以上、それを無視する事も出来ないし、博士はそもそも似たような事をして力を引き出させたロボットに関わっていたのだ。なら、一度試してみようと、そうなったのだろうと。
(でも、もう戦いは終わって地球とバルマーとの交流だって順調だって聞いてる。一体今更どうして?)
疑問は尽きないまま、シンジは久しぶりとなるプラグスーツへ身を包み、懐かしささえ感じるエントリープラグへと乗り込む。そこの景色、レバーの感触、L.C.Lの匂い。全てがほんの少し前まで日常だったとは思えない程、シンジにとっては久しぶりとなる事だった。
「まさかまたエヴァに乗る事になるなんて……」
昔であれば嫌悪感か拒否感しかなかった言葉に、今の彼は苦笑しつつもプラスの感情を抱いていた。あのシンジと同じく、彼もまた本来の碇シンジとは違う道を行き、成長した一人であるためだ。
そんな彼は、初めて戦うためではないシンクロをする事となる。ゆっくりと子供ではなくなりつつある彼ではあるが、未だに高いシンクロ率を叩き出して意識をエヴァと重ねていく。すると、不思議な感覚に陥ったのだ。
―――シンジ……。
(え?)
気付けば真っ白な空間に一人シンジは佇み、その目の前には優しげな表情と雰囲気の女性が立っていたのだ。
(貴方は……?)
―――私は、碇ユイ。貴方の母よ。
(……母さん?)
―――ええ、そう。こんな形で貴方と再会出来るとは思わなかった。イデに感謝しなくちゃね。
(イデ……っ! じゃ、あの時の事が原因!?)
―――かもしれないわ。それより、あまり時間がないから用件だけ伝えるわね。シンジ、貴方の願いが一つの世界を平和にしたの。もう一人の碇シンジは、この初号機のおかげで親しい人や知り合った人達を誰も失う事なく守り抜けた。ありがとう。そう伝えて欲しいと言われたのよ。
ユイの言葉にシンジは戸惑いを隠せない。言っている意味が突拍子も無さ過ぎて理解出来ないのもあったが、一つだけ分かってしまった事も理由の一つだった。それは、もう一人の自分という言葉の意味。
平行世界。あのクロスゲートを通ってやってきた異世界の来訪者達。それを知った彼は、感覚的にユイの言っている事をこう解釈していた。
(つまり、この初号機が別の世界へ行ってたって事?)
―――それで間違っていないわ。そしてその切っ掛けは、シンジがおぼろげに願った事よ。
(僕が……)
思い出すのはエヴァに二度と乗る事はないと言われた時の事。最後の別れとばかりに初号機を眺め、ぽつりと呟いた言葉。
―――もしエヴァを必要としている場所があるなら、もしかつてと同じ状況に置かれる自分がいるのなら、助けてあげたい。
全ては、そこから始まっていた。何となしに願った言葉は、無垢なる想い。イデは無垢な想いに一番反応する。期せずしてシンジは僅かに残留していた無限力を活性化させる事に成功し、あの物語を生み出す切っ掛けを作り出していたのだった。
その事をシンジが知る事はない。だが、それでいいのだ。終焉へ抗い打ち勝った者への、ほんの少し残された奇跡のようなモノなのだから。
(……僕こそありがとう、かな)
―――シンジ?
(こうして、形はどうあれ母さんに会えたから)
告げられた言葉にユイは思わず息を呑み、ゆっくりと口元を覆う様に両手を動かす。その目からは涙が溢れ出し、すぐに滝のように流れ出した。それを微笑みながら見つめ、シンジは心から母や告げる。
(ありがとう、母さん。最後にこうして会いに来てくれて)
―――いいえ、私こそありがとうを言わせて。それと、さよならを……。
(心配いらないよ。いつか僕もそっちに行くから)
―――……ええ、待っているわ。
そこでシンジの視界が元に戻った。もう、目の前にはどこか悲しげに笑うユイはいない。
「……さよなら、か。きっと、あれはそういう事なんだろうな」
最後のユイの顔。その声。それらからシンジは若干ではあるが察していた。このままでは自分が死んでも母とは違う場所へ行くのだろうと。その真実は分からないが、何故だが彼はそう確信にも近いものを感じていた。
そして、この日を最後に本当にエヴァは何の反応も示さなくなる。シンジが乗ってもシンクロ出来ず、まるで魂が失われてしまったように。
二人の碇シンジは、異なる世界と道を歩きながら、一度として交わる事も関わる事もなくその生涯を終える。ただ、その最後は多くの人々に見送られる事となるという共通点を残して……。
スパロボ世界は便利な設定が多いので、無茶苦茶な話も何とかこじつけられるのが凄い。
あと、自分としては新劇場版はテレビからの派生やパラレル扱いなので、もう誕生する可能性がないと判断してF型は永眠となりました。