ザ・バトルゲームフィールド   作:魂夢

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第2話 その後と友達

 痛い…どこがどう痛いとかじゃなく、とにかく全身が痛い。そりゃそうだ、さっき走ってた時にそのまま足をかけられて鞭打ちみたいに頭を思いっきり打ってその後もいろんな人に踏まれたんだもの。

 僕が立ち上がろうと上半身に力を入れると、ズキズキッという激痛が響いた。起き上がろうにも起き上がれない。

 朦朧とする意識の中、目の前は真っ白な世界のように見える。そこに映る顔のような影。今僕は仰向けで寝ているから、多分屈む感じでこちらを見ているのだろう。

 

「大丈夫か?身体中がひどく痛むだろう、そりゃそうだ。このフィールドに不用意に入ってくるからそうなるんだ。これに懲りたなら、もうここには来るんじゃないぞ」

 

 フィールドとはなんだ、なぜ僕は殴り飛ばされたんだ、ここで何が起こっているんだ。疑問は尽きない、しかしそれを口に出すことすら今の僕はできない。

 そんな僕の疑問を知ってか知らずか、目の前の影はふふっと笑うと、そのまま影は消えた。

 

 数分が経った後、もしくは十分以上も倒れていたかもしれない。ようやく僕の視界は色を取り戻し、痛みも幾分マシになってきた。

 僕はギリギリ立ち上がることはできたが、足はふらつくし、まだまだ全快というわけじゃない。

 僕は一歩一歩を踏みしめながら歩く。そういえば前もこんなことがあった気がする。あれは確か中学最後の年、つまり中三のとある日。その時の学年主任の先生って体育の先生なんだけども、その人に呼び出されて、お前出席日数足りないから卒業できねーぞって脅され、一ヶ月毎日四十キロを完走したら許してやろうとか言われた時に、マラソンの最後の方にはなるとこんな感じに一歩一歩を踏みしめながら走らないとぶっ倒れるみたいな状況になるんだよな。

 結局一ヶ月マラソンして何日か経った後に担任の先生に聞いたところによると、出席日数は全然足りてて、学年主任の先生の勘違いという最悪なエンドを迎えたのだ。ホントにもうあんな先生クビになればいいのにね!

 

 そんなことを考えていると、僕はようやく出入り口に到着し、安堵の表情を浮かべた。しかし…

 

「きゃっ!」

「うわぁ!」

 

 同じく出入り口に向かっていたであろうさっき見た同級生の女の子の肩と肩がぶつかり合って、そんなことをまったくもって予想していなかった僕は面白いぐらい簡単にすっ転ぶ。そのまま地面にぶつかった衝撃で地面をのたうちまわった。ちらりと横を見れば女の子も似たような状況だ。

 つまるところ高校生の男女二人が自動ドアの前でゴロゴロ駄々をこねる子供みたいな動きをするとかいう…その、なんだ、ものすごくカオスな状況になってると思う。

 

 一分ぐらい経ってようやく痛みが引いて、二人ともほぼ同時に立ち上がる。

 

「あの…さっきはすいません」

「あ、いや、僕の方こそ、不注意でした。すいません」

 

 普通女の子と肩をぶつけたみたいなことになったら、『そこから、僕たちの物語が幕を開けたのだった』みたいなナレーションが入るとともに、キャッキャウフフの恋愛コメディーが始まったりするだけど。その直後に二人とも悶絶するという現実的ではないけどかといってコメディーでもないという、なんとも微妙なラインの体験をした。

 

 そしてその後の第一声がすいませんだし、どちらかといえば現実的だね。

 

「す、すいません」

 

 女の子がまたすいませんと言ってきたのだがどういう意味だろうか。まさか『お前より先に俺は行かせてもらうぜ!』という図々しいことをこの『すみません』という言葉に集約したのか⁉︎

 

 可愛い顔してえげつないな、人は見かけによらないとはこのことか。なるほどなるほど、勉強になりますな。

 と思ったら横から全然関係ない男の人が僕たちの間から外に出ようとするので僕らはまるで示し合わせたかのように肩を“ぶつからない程度に”並べて自動ドアをくぐった。

 

 

 

 

 

 朝、鳥がチュンチュン鳴いてる。いわゆる朝チュン、意味的に間違ってはいない、ただやっぱり朝チュンと聞くと隣に半裸の美女ないしは美少女を隣に寝かせたいよね。まぁ僕にはあり得ない話だけど。

 昨日色々あったせいで朝から身体中がひどく痛む。昨日言われた通りだ。そういえば、昨日は一体誰に言われたんだっけ。よく覚えていないが、意識も朦朧としてたし、視界も悪かったから、覚えてなくて当然といえば当然か。

 現在時刻七時半、学校には八時十分には着かなきゃならない。そしてこの寮から学校までは大体三十分から四十分は必要。つまり僕は遅刻した。なんかさ、遅刻した時って本能的にビビってくるよね。

 

 僕はベッドから転げ落ちるとともにパジャマとパンツを脱ぎ捨て、ベッドから起きて立ち上がったと同時に生まれた時そのままの鈴木 悠を降臨させる。そして部屋干ししてある新しいパンツと制服を入手、それを五秒で装着。それ後玄関まで行って昨日用意しておいた鞄を肩にかけ、ドアを開ける。ここまでの所要時間四十秒。

 

 走りながら靴を履いて、階段を下りる。僕の部屋は三階にあるので、二階、一階と下りていく。

 残念ながら朝ご飯を食べている時間はないので、今日ばかりはパスしよう。余談だがうちの学校では夕食は出ないことになっている。なんでも自立を促すためらしい。

 寮を出れば道は一本、ここからはもう己との勝負、体力が尽きるのが先か、それとも学校に着くのが先か。さっき言った通り毎日四十キロのマラソンをした僕は体力については自信がある。これくらいはなら全然いける。

 

 僕がえっちらおっちら走っていると、目の前に昨日の同級生の女の子がいる。おはようと声を掛けて、手を振ろうと手を上げた瞬間身体が凍りついた。いや待てよ。昨日のことを踏まえれば僕らは顔見知りぐらいの関係になっている。でも顔見知りぐらいの男が手を振りながらこっちに全力疾走してきたら怖いだろう。関係が彼氏とか親友とかならまだしも、顔知ってるぐらいの男が走ってきたらそいつは間違いなく変態だ。

 どうする真のナイスガイ、悠!「あ!久しぶり!」とか言って全然知らない女の子に手を振りながら全然疾走して警察のお世話になった親父の二の舞だけは絶対に避けなくてはいけない!

 考えろ、考えるんだ!考えろ考えろ考えろ…はっ!そうだ、逆に考えればいいんだ!逆に僕が彼女を太宰治作 走れメロスよろしく華麗に追い抜いてあっちに気付いてもらえばいいのだ!ふぅ、やっぱり僕には神が味方してくれているようだ。そうと決まれば早速実行だ!鈴木 悠!ペースを上げろ!そして今彼女を追い抜く━━━━━━━━━━

 

【キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン】

 

━━━ことはできなかった。そうだった…僕は最初に書いているはずだ。《身体が凍りついた》と…

 学校が始まって二日目にして早速僕は遅刻した。

 

 

 

 

 

 遅刻についてはとりあえずお許しをいただいたものの、数学の定期テストを八十点以上取らなきゃいけないぞって言われた。まじかよ数学苦手なのに。

 

 時刻は十二時半、今から昼食の時間だ。ある者は購買にパンやらなんやらを買いに行き、またある者は食堂にカレーやらラーメンやらを食いに行き、それ以外の者は実家暮らしなのか友達と駄弁りながら机と机をくっつけ、お弁当を出して食べ始めている。

 

 僕はどうか言うと、身体が痛くて購買や食堂に行く気力がない。机に突っ伏して寝て時間を過ごそうと思う。

 

「鈴木さん、今日遅刻しましたよね?なぜ遅刻したんですか?学校が始まって即遅刻するなんてあなたのモラルを疑います」

 

 僕は机に突っ伏したまま上を向く、オーバーニーを履いたプニッとした健康的な太ももが出迎えてくれる。学年委員長の氷川(ひかわ) (りん)だ。

 

「いや、あの、普通に寝坊したんだが…」

「何時に起きたんですか?」

 

 えーと、何時がいいんだろう。三十分かかるとして、十分の遅刻だから七時四十五分とか?

 

「ふーん。ではあなたは寝坊したのに歩いてきたのですね?」

「え?」

「寮の説明で言われましたよね?寮から学校まで三十分かかりますと。

 あれは分速八十メートル分、それを広告的にわかりやすくして三十分なんです。つまりあなたは遅刻しているにも関わらず歩いてきたと言うわけですね?」

 

 おいおい、まじかよ。こいつそんなに僕を貶めたいのか!?いいじゃん別に遅刻した事実は変わらないんだからさ!

 しかし絶対に女の子に気づいてもらおうとして遅刻したなんて口が裂けても言えない!ここはあれだ、親父直伝の壊れたおもちゃ作戦だ。「アババババ!」って言いながら時間が過ぎるのを待つと言うあれだ。あれしかない。

 

「あ、アバババババハバババババ、ブァッ!」

 

親父、ブローです、顔面にブローが飛んできました。助けてください。

 

「ふざけてますよね?こっちは真面目なんです、本気で怒りますよ?」

「いやこれで本気じゃないなら本気になったら僕どうなるんだよ!」

 

 試してみますか?と彼女は含みを持たせて笑う。なんだこいつは、なんらかの武道を心得ているのか!?こんなやつと三年間一緒だと僕はきっと死んでしまうだろう…

 

「そもそもなんでそんなに僕が遅刻した理由が知りたいんだよ」

「…根回しです。あなたの遅刻の詳細を先生方に密告する事で好感度を上げておこうという算段です。そうすれば来年で生徒会長になれると思いますので」

「ごめん、僕には氷川が僕を売ろうとしてるって聞こえたんだけど」

「売ろうとしてますよ?」

「お、お前に情はないのか!?」

「あなたに情をかけることほど不必要なものは無いと思います」

 

 こいつ…いろんな意味で怖ぇ…やっぱりこいつとこれから三年間同じ空間に居れる自信ないわ…

 氷川は一通り言いたいことは言い切ったのか、弁当箱を持って他クラスの方に歩いて行った。しめしめ、根回しについて喋ったせいで僕から遅刻について聞き出すって言う目的忘れてやんの。

 災厄が通り過ぎ、ようやく平穏が訪れた僕は、僕は再び机に突っ伏して、眠りについた。

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