やっと授業が終わった。昼休みが終わってたった二時間しかないのに僕にはすごく長く感じた。
というのも、初日は自己紹介やらなんやらをやって先生とか同じクラスの生徒とは顔見知りぐらいになってるだけで今日が初授業。だからこれと言った授業をするんじゃなくて先生の自己紹介とか質問とかするすごく平和なはずなんだけど…
六時限目は英語の授業、女の先生が前に出てきて自己紹介をして、質問タイムみたいなのが始まったわけである。
順調に進んで行って、普通に終わるんだろうなぁなんて気楽に思っていたが、とある生徒が言ったのだ。
「先生に彼氏はいますか?」
まぁ高校生なんて性という名の大海原を旅する海賊がこんなことを聞いても何ら変ではない、むしろ普通なぐらいである。
ある程度予想してたのか、女の先生が答え始めた。
「今はいないかな。でも先生モテるから、作ろうと思えば作れるんですよ?」
笑いながら話す先生、それを聞いて笑う生徒。なんでもない光景、なんでもない日常。しかしそれをブチ壊す言葉を放つバk…じゃなくて勇者がいらしたのである。
「まさかとは思うけど、男子生徒まで手を出したのかな…?」
声量的にはつぶやき程度、しかしコンクリートで囲まれた教室にはなぜかよく響いた。一瞬の沈黙。それを打ち破ったのはクラスみんなの怒声だった。やれ手を出したのか、やれ先生失格だ。
びっくりしてビビりながら弁解する先生。しかし、そんなの耳に入っていない。僕は大爆笑した。だって思いっきり誤解じゃん、全部無意味なこのくだり、バカ面白かった、ツボった。けど氷川だけは全く笑ってない、てか真顔で窓を見てた。
結局のところ終わりのチャイムで強制的に終わって、生徒の怒りは鎮まることはなかった。バカ面白い。
というか最初に言ったバk…違う、勇者。そいつの名は━━━━
「ウォォォイ!鈴木ぃ!我がさっきのビックウェーブを作り上げたのだぞ!凄いダァロォ!?」
こいつだ、
今日は走って帰ろうかな、そんなことを今日もらったばかりの真新しい教材をカバンに入れながら考えていた。
「えーと、なんでいるの?」
僕の隣にいた女の子は髪の毛をふさっと揺らしながらこっちを向いた。頭上にはてなマークを浮かべたような顔をしている。
「いや、えーと。私は昨日の真相を確かめに来たんだけど、会ったのはたまたま。そう言えば今日学校で見かけたよ、同級生だったんだね」
学校で見かけた?通学路ではないよな?通学路で見られてたんなら僕の人生詰むんだけど…
僕は上を向く。キラキラと光る『プレイファクトリー』の文字。そう、昨日僕がボコボコにされた場所。僕がここに来た理由も彼女とほぼ同じだ。謎を明らかにする、これだ。ここで行われることについてと、あの鍵のようなものについて。疑問は尽きないが、それを全て明らかにする。それを果たすためにボコボコになる覚悟でここまで来た。
「えーと、君名前なんていうの?」
「
「僕は鈴木 悠。よろしく」
入り口の前でずっと喋っているのは迷惑なので、僕らは中に入った。
なんだか懐かしい気持ちがする、昨日来たばかりなのに。いいうるささ、いい明るさ、これぞ最高の空間と呼ぶべき場所だろう。太鼓の達人等々の音ゲーから出る音楽、ストⅤ等々の格ゲーから出る攻撃音。これぞゲーセンというべき場だろう。
僕らは重鈍そうなくせしてぬるぬる動く自動ドアを抜け、トラウマの地となりつつある光景を見る。黒い壁に貼ってあるレトロな映画のポスター、そして壁沿いに置いてあるレトロゲーム。その空間にいる何人かの男女、張りに張り詰めた緊張感。
昨日の夜とほとんど一緒、違うことといえば隣に同じ境遇の人がいることと、昨日の美女が僕らより先にいることだ。
僕らは適当な壁に寄っかかって、時を待つ。昨日と同じならまたスタッフが鍵的なものを置いていくはず。その時を待つのだ。
「来るなと言ったろ」
昨日の美女が通り過ぎる時に足を止めず、顔すらこちらに見ずに、横目で僕らを見ながらその言葉を口にする。
来るなと言われたっけ?あんな美人と喋ったことがまず無いんだけど…いやまてよ、昨日のあの話というか忠告をしたのは、彼女?あの時、ここで、ここに近づくなと言ったのは彼女だったのか。
だとしても、理由がわからない。僕をここに近づけない理由はなんだ。僕の身を守るため?見ず知らずの人間そこまでするのか?僕が勝手にここで行われることに介入することに、彼女にとって不都合があるというのか?
ギィ〜と音を立てて、stuffonlyの張り紙が貼られた観音開きの扉が開く。スタッフが鍵的なものを持ってきた。ゆっくりテーブルまで行き、鍵を置く。その後、踵を返し、戻る。
僕は、少し様子を見ようと思うんだ。状況を客観的に見ることって、結構大事だと思うしね。僕は土屋にそのことを伝えると、彼女はコクリと頷いた。
観音開きの扉がバタンと閉まる。その瞬間、銃声にも似た轟音が響いた。どうやらここにいる人の踏み切り音のようだ。
僕はあの美人を重点的に観察することにした。いや別に邪な考えがあるわけじゃ無いよ?もちろんパンチラがあるならそこをガン見するけど…そういうことじゃなくて、彼女は多分この場所について、よく知ってるんだと思うんだ。だからそこから何か導き出せないかと思ってね。
僕らを除いたここにいる人全員がテーブルに向かって走り出している。テーブルに一番近いのは巨体を持つ男だ。巨漢が鍵に手を伸ばす。しかしそれをドクロ服の男が巨漢の手を蹴飛ばし、腕に刺青を入れた男が巨漢を体当たりで真横にぶっ飛ばした。
そこからは刺青とドクロのタイマンになり、刺青が鍵に手を伸ばせばドクロが刺青の手を叩き落とし、ドクロが鍵に手を伸ばせば刺青がドクロの手を叩き落とすといった争奪戦を繰り広げる。
そこに巨漢を含めたそのほかの人が到着。でもあの美女の姿は見えない。どこにいる?どこを見てもいないんだが。
鍵を囲うように乱闘が発生。さっきのドクロと刺青は共闘してるけど、味方なの敵なのどっちなの?意味がわからん。
さっきぶっ飛ばされた巨漢が中央でダブルラリアットかまして、周りを全員ぶっ飛ばす。その隙に鍵を奪おうとしてるのか。
巨漢が再び鍵に手を伸ばす、しかし、上から来た何者かに押しつぶされるように地面に伏した。誰だ、誰ならこの状況で上から行けるんだ。あ、そうか、そういうことだったんだ。
上から来たのはそう、ほかの誰でも無いあの美女である。彼女はこの場の天井にいたのだ、だから巨漢のダブルラリアットは効かなかったわけだ。
「かかって来い」
寝っ転がった巨漢のお腹の上に乗った彼女がそう言うと、他の人が彼女に群がっていく。彼女はその者達の攻撃をかわし、いなし、殴り返し、相手を叩き伏せていく。その様子はまるで蝶のようだった。
やがて彼女は全てを倒し、鍵へ向かう。ゆっくりと、ゆっくりと歩く。彼女の足にすがりつく者には蹴りが炸裂した。テーブルに置いてある鍵を握り、こっちに向かってくる。こっちに出口なんてないのに、だ。
「場を客観的に見るためにここで傍観してたんだな。いい判断だ」
僕らの前まで来て、そんなことを言う彼女。口元が緩み、微笑んでいる。とても数人の男女を叩き伏せた人物だなんて到底思えない。
「まぁあれほどまでに痛めつけられておいて、また来た根性は認めるが。これ以上関わるな。もしどうしてもというならば、部室棟の313号室、遊戯部の部室をノックしろ」
彼女は言うだけ言ってどこかに行ってしまった。うちの部室棟には四五部屋の部室がある、今は使われていない部屋がほとんどで、三階部分は全て使われていないと聞かされていたが、遊戯部とは、一体なんなんだろうか…