重い空気が立ち込める部屋の中で、私、四季映姫《しき えいき》はとある問題に直面していた。ドアのノックの音と共に、私の部下、小野塚小町《おのづか こまち》が入ってくる。
「小町……調査の結果は?」
私が小町に問うと、小町は申し訳なさそうに顔を上げた。
「……監視カメラに奴の姿は無し。やられました、脱獄です」
「そう……ですか」
ふと先ほどまで見ていた資料に視線を落とす。
「囚人番号451番、鬼人正邪。『最弱にして最悪の革命家』、ですか。最近やけに大人しいなと思っていましたが……」
いささか窮屈すぎる制服の下で、冷たい汗が一筋、背中を流れ落ちるのがはっきりと感じられる。
「(しかし、参りましたね……この件は我々のミス。監獄の信用に関わる)」
私は勢いよく立ち上がると、小町に指示を出す。
「小町、脱走犯『鬼人正邪』を幻想郷中で指名手配し、迅速に身柄を確保するように」
小町は、敬礼をすると、「失礼しました」と言い残し、部屋を出て言った。
それにしても、鬼人正邪の脱獄にはいくつかの疑問が残る。もし仮にやつが能力を使って外に出ようとしても、此処では能力を使った瞬間に私に伝わる仕組みになっている。だから、単独での脱獄はほぼ不可能なのだ。ましてや奴は、戦闘力は高くはない。
「(誰か手引きした者がいますね…)」
最悪な夜は、まだまだ始まったばかりであった。
《同時刻 船の上》
穏やかに揺れる船の上で、私、鬼人正邪は約半年ぶりとなる外の空気を満喫していた。
「いや〜捕まった時はどうしようかと思ったよ。お前さんの道具には本当に助かった、ありがとうにとり」
船を漕いでいた少女、河城《かわしろ》にとりは振り返り、こちらを見ると照れ臭そうに笑った。
「困った時はお互い様だろう。私としても、大切な盟友を失いたくはない。それに、こんな世の中だ、弱い者同士仲良くやろう」
そういうとにとりは、「あまり良い物とは言えないが……」と言って、懐から酒瓶を取り出した。
「正邪、君の脱獄を記念して、ここはひとつ月下の夜会と洒落込もうじゃないか」
ふと夜空を見上げると、今日は満月だった。まるで私たちを祝うかのような、綺麗な満月。
「いいな、それ」
私が賛成すると、にとりはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「それでは盟友、鬼人正邪の帰還を祝いまして……」
「「乾杯」」
最高な夜は、まだまだ終わる気配はない。
ちなみにひとつ、言い忘れていたことがある。この幻想郷には、弱者への配慮とも言えるルールである、『スペルカードルール』が、まだ存在しない。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
黒歴史確定のなんちゃってストーリーですが、ぜひお付き合いいただけると大変嬉しいです。