もうやりたくない(やらないとは言ってない)
ルビの関係上、所々謎に改行されてます。どうやら仕様のようなのでなんとか気にしないでいただけると嬉しいです。
ダンジョン51階層。
この階層での目的は『カドモスの泉』より水を汲んできて欲しいという【ディアンケヒト・ファミリア】からの
泉から汲んで来る水の量がそれなりに多いため、二つのパーティに分けて探索が行われていた。
一班:ティオネ、ティオナ、アイズ、レフィーヤ。
二班:フィン、ガレス、ベート、ラウル。
正直不安しかない一班。
特にレフィーヤに至っては言動が謎でしかない。
実を言うと、この班分けはフィンがティオネに面倒を押し付けただけだったりする。恋する乙女を利用する悪い奴だ。楽に死ねると思うなよ。
さて、そんな問題ばかりと思われる一班だが、思いのほか戦闘はスムーズに進んでいた。
「ティオナは右! アイズ、左からティオナを援護して!」
『了解!』
というのも、恋する乙女ティオネさんが絶賛そのエネルギーを解放しているからだった。
――ティオネ、君だけが頼りだ。
ティオネの脳内にフィンの言葉が駆け巡る。やります、やってやりますと意気揚々する。
考えれば考えるほどフィンは罪人だ。今頃モンスターに食われているかもしれない。
「レフィーヤ、詠唱して!魔法で終わらせるわよ! そうね、
「――請け負った」
ニヤリと顔を歪める。
待ってましたと言わんばかり杖を掲げ、レフィーヤは詠唱を開始する。
「【怒りの日、終末の時。天地万物は灰燼と化し、タビデとシビラの予言の如くに砕け散る】」
レフィーヤが所持する『スキル』のうちの一つ、『魔導王』。
魔法威力の大幅上昇に加え、詠唱文を自分の好きなように変えられる脅威的『スキル』。
「【たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも、審判者が来たり】」
これにより、本来は長文詠唱の魔法でも「あ」と言うだけで発動が可能になる。無論、その場合は本来の威力よりも格段に落ちることになるが。
「【厳しく糾され、一つ余さず燃え去り消える】」
しかし、逆に本来の詠唱文よりも長い詠唱を行なった場合、威力の低い魔法でも、殲滅魔法に昇華される。
「【我が総軍に響き渡れ。妙なる調べ、開戦の号砲よ。皆すべからく玉座の下に集うべし】」
そして、何よりも問題なのはこのスキルが
「【彼の日、涙と罪の裁きを。卿ら、灰より蘇らん】」
彼女にとって、まさしく打って付けのスキルだった。
「【されば天主よ、その時彼らを許し給え】」
レフィーヤのもとに、突如ダンジョンの壁を突き破って生まれ落ちた、『デフォルミス・スパイダー』が急行する。
八本の足を巧みに利用し、レフィーヤを喰らわんと大口を開く。
それでも、レフィーヤは詠唱を止めない。
「【慈悲深き者よ、今永遠の死を与える――エィメン】」
デフォルミス・スパイダーはレフィーヤを喰らおうとしたその瞬間、一刀両断された。
誰が? どうやって?
決まっている。あの時、レフィーヤ以外にデフォルミス・スパイダーを斬れる者など存在しなかった。
「一刀流、一式――菊一文字」
先程までレフィーヤの手に握られていた杖は地に突き立てられており、替わりに刀が手の内にあった。
『平行詠唱』と呼ばれるその技術は、高等故に扱える者は限られてくる。しかし、レフィーヤはそれを意にも介さずやってのけたのだ。
「【
詠唱が完了し、あとは魔法を放つだけ。
狙いは無論、モンスターの群れ――のはずだった。
「あるぇー?」
おかしい。いや、可笑しい。あれほどいたモンスターが、見る影もなく消えているのだ。
どうやら先程レフィーヤが斬ったデフォルミス・スパイダーが最後の一匹だったらしい。
「このバカ!」
「あいたっ!」
ティオネから拳骨をもらう。どうやらレフィーヤが詠唱している間に倒しきってしまったようだ。
「長すぎず短すぎないヤツって言ったわよね!? 何ガッツリ長文詠唱してるのよ!」
あーもうとティオネは愚痴る。
それもそうだろう。せっかくフィンの期待に応えようと奮闘していても、部下がこれではどうしようもない。
「これが詠唱の醍醐味です!」
「だまらっしゃい!」
「ちょっとティオネ、なにも殴ることないじゃん! レフィーヤは頑張って詠唱してたんだからさー! レフィーヤイジメるならあたしが許さないよ!」
「うっさい、馬鹿ティオナ! まな板は黙ってなさい!」
「なっ!? 胸は関係ないでしょ!」
ギャーギャーと喧嘩をするヒュリテ姉妹を横に、レフィーヤは一人落ち込んでいた。
「はぁ、せっかく一日かけて考えた詠唱だったのに……」
「大、丈夫?」
「あ、大丈夫です。また同じ詠唱使えばいいんですから」
そう、また同じ詠唱を使えばいい。今度はしっかり発動出来るよう、タイミングを考えて。
などとレフィーヤは思考していたが、ふと気づいた。
――あれ? 今の声、だれ?
そう。ティオナとティオネは現在口喧嘩でレフィーヤに構っている暇などない。
――ということは?
消去法で、レフィーヤに声を掛けられる人物は一人しかいない。
確認のため、恐る恐る横を見る。
そこにいたのは――、
「あ、ああアイあアイぃ!?」
「……? アイアイ?」
「アイズぅぅぅ――!?」
キーンと耳に響くほどの声量でレフィーヤはアイズの名を口にする。それと同時に疾走かつ失踪。レフィーヤは一目散に逃げ出した。
「また、逃げちゃった」
何がいけないのだろうかと落ち込むアイズ。
――もしかして、私、怖い?
「あのバカ! そっちは泉の方でしょうが!」
ティオネの叫び声により、現実に戻る。
よくよく考えれば、レフィーヤが逃げたのは目的地である泉の方角。このままでは単独でカドモスと接敵してしまう可能性がある。
「うっそー!? いくらレフィーヤでもソロでカドモスは無理だって!」
ティオナの言う通り、レフィーヤでもソロでカドモスの相手は少々無理がある。倒せないことも無いだろうが、苦戦は免れない。
力だけなら階層主である『ウダイオス』より上。それがティオナの持論だった。
「あーもう、ほんっとうにあの子は――! アイズ、ティオナ、急いでレフィーヤを追うわよ!」
三人がレフィーヤを追ってダンジョンの奥へと進む。
カドモスと接触していないことを願って。
†
アイズに話しかけられたと理解した瞬間逃げ出したレフィーヤは、ここまで来れば追ってはこれまいと足を止める。
普段ならば、アイズに話しかけられたとしても、逃げ出すことはない。しかし、今回は訳が違った。
――私のこと、嫌い?
「ぐはっ!?」
キャンプにてアイズにかけられた言葉を思い出し、精神的ダメージを負う。
「おのれ、アイズ・ヴァレンタイン! なぜ貴様はこうも私を苦しめる! ――くっ、腕が!?なぜこういう時に限って右腕が疼く!」
腕を押さえながら片膝をつく。
もちろん腕は何ともない。彼女の妄想だ。
「ヤツの復活が近いということか……」
レフィーヤ本人、別にアイズが嫌いという訳ではない。むしろその逆。彼女はアイズと仲良くしたいと思っている。
では何故それが出来ないのかというと――長くなるので別の機会にしよう。
「そういえば、ここどこ?」
無我夢中でダンジョンを走り回ったレフィーヤは自分がどこにいるか把握出来ていない。
「泉……?」
まず目に入ったのは、ダンジョン内にあるとは思えないほど美しい泉だった。
「ってことは、『カドモスの泉』!?」
もしそうだとしたら、今すぐにこの場を離れなければマズイ。今のレフィーヤならば、カドモスが相手でも勝とうと思えば勝てる。ただ、それでもアイズやティオナ達と狩った方が明らかに効率的だ。
ここでレフィーヤは異常に気づく。カドモスがどこにも見当たらないのだ。
目を凝らし、もう少しばかり観察を続ける。
そして見つけた。モンスターの死骸を。
「え、カドモスが死んでる?」
レフィーヤは立ち上がると、ゆっくりと灰に近づく。
間違いない。ドロップアイテムの『カドモスの皮膜』が落ちていることから、この灰がカドモスのものであるとレフィーヤは断定する。
そして、不可解な事がもう一つ。ドロップアイテムはあるが魔石がない。
――ってことは、モンスター?
「みぃつけた」
「ひゃい!?」
突如背後から声をかけられ、女の子らしからぬ声を上げる。
ギギギという擬音が聞こえそうなぎこちない動きで、レフィーヤは後ろを振り向く。
そこには、鬼のような形相のティオネがいた。
「あらあら、ティオネさん。そんな顰めっ面をしていては、せっかくの可愛いお顔が台無しですことよ?」
「――ihbf殺wq」
あ、これマジのやつだと気づいた時には既に遅い。
顔面を鷲掴みにされ、軽々とレフィーヤは持ち上げられた。
ティオネの背後に立つアイズとティオナに視線で助けを求めるが、二人とも都合が悪そうに目を逸らした。
「このパーティは私が団長に頼まれてんの。つまり、トラブルなんかは全部私の責任。もし団長に嫌われたらどう落とし前つけてくれる? テメーの命一つじゃ足んねえ――ん? それカドモスの死骸?」
どうやらレフィーヤの背後にカドモスの死骸が広がっているのが目に入ったのか、レフィーヤはティオネに投げ捨てられる。
「だ、大丈夫、レフィーヤ?」
解放されると同時にティオナがレフィーヤの下に駆け寄る。
「ティオナさぁぁん! わたし死ぬがどおもっだぁ〜」
「あー、はいはい。怖かったねー。もう大丈夫だよ。レフィーヤはあたしが守ってあげるからね!」
よしよしと優しく頭を撫でるティオナ。
それを羨ましそうに眺めるアイズ。
しばらくすると、カドモスの死骸を一通り見たティオネがレフィーヤに近づいた。
「レフィーヤ」
「ひぃ!?」
一瞬でティオナの背後に隠れる。
ダメだ。目を合わせてはいけない。
――死ぬぞ。
「はぁ、全く。もう怒ってないわよ。それで、あのカドモスはレフィーヤがやったの?」
「わ、私じゃないです」
「――となるとモンスターね」
「うっそー!? この階層にカドモスより強いモンスターなんていないよー!」
ティオネの分析を、ありえないとティオナは否定する。
それもそうだろう。階層主にすら迫る強さを誇るカドモスが、モンスターに狩られるなど考えられるはずもない。
しかし、どう考えてもモンスター以外あり得なかった。
51階層まで潜れる冒険者はオラリアにもそうはいない。そして、冒険者ならドロップアイテムを回収しないのも不自然だ。
『いいイィィィやああァァァ――!!』
ダンジョンの奥から絶叫が聞こえてくる。
それは、レフィーヤ達のよく知る人物の声と同じものだった。
「ラウル?」
【ロキ・ファミリア】の団員。Lv.4の冒険者、ラウル・ノールドの声だった。
†
声が聞こえてからのレフィーヤ達の行動は早かった。
ダンジョン内を高速で駆け抜け、即座に声の源へと到着する。
そこではフィン、ガレスを筆頭とした二班の面々が、今まで見たことのないモンスター相手に、防戦を敷いていた。
ブヨブヨとした気味が悪い体を唸らせ、ギチギチと声を上げる。一言で言い表すならば、巨大な芋虫。それが新種のモンスターの正体だ。
持ち前の行動力を活かし、ティオナが先陣を切って前に出る。
巨大な両刃刀、
「ダメだ、ティオナ!」
「――え?」
時すでに遅し。ティオナは芋虫を斬り捨てる。
すると――、
「うへぇ、なにこれー!?」
切り口から大量の体液が溢れ出し、飛び散る。
気持ち的に触れたくないと思ったティオナは即座にその場から離脱する。結果、その判断は間違いではなかった。体液に触れたティオナの髪の一部、そしてウルガが溶けていたのだ。
「うそでしょー!? フィン、もっと早く言ってよー!」
愛しいウルガが消え去り、ティオナは愚痴を漏らす。
初見であったため仕方がないといえばそれまでだが、それで割り切れるほどティオナも大人ではなかった。
「ふっ、面白い。ならば私が相手だ!」
レフィーヤは大地を蹴り、天高く飛翔する。
「南斗鳳凰拳究極奥義――天翔十字鳳!!」
「何やってんだ馬鹿エルフ!」
ベートの踵落としがレフィーヤの脳天に直撃する。
「やったな!? 二度もやったな! リヴェリア様にも踵落としされたこと無いのに!」
「二度はやってねぇだろ!」
モンスターに襲われているとは思えないほど、二人は通常運転だ。
ガレスが仲裁に入るが、なかなか終わりそうにない。
「フィン、あれ、倒せる?」
喧嘩をしているベートとレフィーヤをよそに、アイズがフィンに問う。
イエスかノーで答えるならばイエス。武器一つと引き換えにという条件付きだが。
このまま静止していても埒があかないため、フィンの指示に従いながら、後退を始める。
しばらく進み、ダンジョン内に点々と存在する広間、ルームへとたどり着く。
瞬間――ダンジョンの壁が割れた。
『
それを見た途端、フィンが動く。
「レフィーヤ、詠唱を頼む。それも、とびきり長いヤツをね」
とびきり長いヤツ。その単語を聞いたレフィーヤは歓喜に打ち震える。
「――承知」
「総員、レフィーヤが詠唱する時間を稼げ――!」
ここが魅せ場。ゆえに見せよう――とっておきを。
「【天昇せよ、我が守護星――鋼の
レフィーヤの詠唱が開始される。
「【荘厳な
「【
誰よりも早く動いたのはアイズ。超短文詠唱にて、唯一の魔法を発動する。
「【火の象徴とは不死なれば、絢爛たる輝きに恐るものなど何もない】」
「【エアリアル】」
魔法の発動が完了したアイズが、新種のモンスターに突撃する。
風を付与するその魔法は、腐食液をものともせず、アイズにモンスターの命を狩り取る力を与える。
「【勝利の光で天地を焦がせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる】」
疾風の如く、アイズは次々とモンスターを打ち倒す。
一匹、一匹、また一匹。
「【絶滅せよ、破壊の巨神。赫怒の雷火に焼き尽くされろ。人より生まれた血脈が、英雄の武功と共に汝の覇道を討ち砕く】」
無論、他の面々も負けてはいない。
決定打こそ与えていないにしろ、モンスターの侵攻を阻み、先へは進ませない。
「【天霆の轟く地平に、闇はなく。蒼穹を舞え天駆翔。我が降誕の暁に創世の火を運ぶのだ】」
アイズが倒したモンスターのうちの一匹が、瞬く間に肥大化し、破裂する。どうやら、爆発性もあるようだ。
「【ゆえに邪悪なるもの、一切よ。ただ安らかに息絶えろ】」
周囲に飛散する腐食液を避けながら、なんとか戦線を維持する団員達。
「【是非も無し――さらば蝋翼、我が半身。焔の
「おい馬鹿エルフ! まだ終わんねぇのか!?」
ベートの催促がレフィーヤに届く。
レフィーヤはベートをひと睨みするが、言葉は返さない。そんな余裕はないのだ。
「【天空を統べるが如く、銀河に羽ばたけ不滅の
レフィーヤの顔に笑みが浮かぶ。
もうすぐ、もうすぐだ。
「【
さあ、幕引きだ。
害虫共、此処が貴様らの死に場所だ。
「いきます!」
レフィーヤの合図と共に、フィン達が後退する。
全員の離脱を確認し、レフィーヤは魔法を発動する。
「【
あ、別にフィンに恨みがあるとかじゃないです。怨めしいとは思ってます。
一応確認はしていますが、誤字、脱字などありましたら報告お願いします。
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