魔法によってモンスターの群れを駆逐したレフィーヤ達は、急ぎでキャンプへと戻っていた。
フィン曰く、
ちなみに、フィンの指の疼きは、レフィーヤの右腕と違い、ガチだ。実はフィンも中二病だったとか、そういう訳ではない。
「さっきの凄かったね、レフィーヤ! あんなの見たことないよ!」
ダンジョン内を走りながら、ティオナが感嘆の声を上げる。
さっきのとは、勿論レフィーヤの魔法の事だ。
「えへへ、ありがとうございます、ティオナさん!」
ヒュゼレイド・ファラーリカはレフィーヤが持つ殲滅魔法。それを、スキルと超長文詠唱にて大幅にブーストをかけ、これでもかというほど火力を上げた。
結果、放たれた魔法は流星群と比喩しても過言ではなかった。
紅蓮の業火が隕石のように降り注ぎ、ダンジョンを、大気を、空間を揺らしながら着弾した。
無論、それを受けたモンスターは絶命を免れない。魔石も灰も残らず、文字通り跡形もなく消えていた。
「ふっ、あれは地獄の業火。焼き尽くせぬものなど何もない。闇の炎に抱かれて消えろ」
「ちょっと過剰だったけどね」
「全くだ。こっちまで死ぬかと思ったわい」
フィンとガレスが思い思いに口を開く。
確かに過剰ではあったが、超長文詠唱を指定したのはフィンなのでそこは忘れないで欲しい。
ベートも尻尾が焦げたと愚痴を零す。その言葉に反応したレフィーヤと口喧嘩になったのは言うまでもないだろう。
「さあ、そろそろキャンプだ。お喋りはこの辺でやめておこう」
†
キャンプに辿り着いたレフィーヤ達を待っていたのは、おびただしい数の芋虫だった。
キャンプを蹂躙せんと迫る芋虫を、リヴェリアを中心として交戦しているが、状況はあまりよろしくない。あの腐食液が遠征隊の攻撃を邪魔しているのは一目瞭然だろう。
キャンプに合流したレフィーヤ達は、腐食液に対応可能なアイズを筆頭に攻撃を仕掛ける。
一匹ずつ、しかし確実に芋虫を消していく。
そして、レフィーヤも――。
「汚物にも劣るゲテモノめ。このレフィーヤ・ウィリディスが斬り捨ててくれるわ」
右眼をゆっくりと閉じ、開く。
「直死――」
紅く、妖しく光るその右眼は、視線にて目の前の芋虫を鋭く射抜く。
お前に決めたと、レフィーヤは狙いを定める。
「一刀流、六式――百花繚乱!」
居合の要領で刀を横に一閃。しかして、与えた斬撃は無数。
腐食液を浴びぬよう、剣を振ると同時に跳躍。その場から離脱する。
刀の心配も無用だ。レフィーヤの愛刀《千子村正》は
「我が一刀は一撃に非ず。ゆえに不可避」
これぞレフィーヤ第二の『スキル』、『一刀流』の真価。
一本の刀を装備している時にのみ、ステイタスが大幅に上昇。かつ、技名と共に剣を振ると追加効果を得られる。一刀にて無数の斬撃を放つ事が出来たのはそのためだ。
『魔導王』と『一刀流』。この二つのスキルにより、レフィーヤは魔導師と剣士、両方の立ち回りが可能となる。即ち、職業の
この稀有な才能に神々は敬意を評して、二つ名とは別に、レフィーヤをかつて存在した英雄の名で呼ぶことがある。
その名は――『SHOHEI OHTANI』。
魔石を残し、灰になる芋虫を背後にレフィーヤは口を開く。
「また、つまらぬモノを斬ってしまった」
†
モンスターの駆逐が終わり、レフィーヤ達は腰を下ろす。流石にあの数は疲れる。
それにしても、あの芋虫達はなんだったのだろうか。
新種だとしても、なぜこのタイミングであれほどの数が押し寄せたのか。考えれば考えるほど謎は深まるばかり。
――ドゴォォォォォン!!
突如、爆発が起こった。
どうやらまだ終わっていないらしい。今宵のダンジョンは本気で【ロキ・ファミリア】を潰しにきているのかもしれない。
爆発の発生源に目を向ける。そこにいたのは下半身は先程の芋虫、上半身が女人型という、これまた新種のモンスターだった。
胴体の左右には、翼のようなものが生えており、その翼からキラキラと鱗粉が舞う。
そして、爆ぜる。
先程の爆発の正体はこの鱗粉。
爆発の条件はわからないが、とにかく危険だ。
この爆発を見て、フィンが前にでる。
「総員、撤退するぞ! 遠征は中止だ。必要最低限の物だけ持ってキャンプを破棄する」
フィンの決断は、まさかのキャンプ破棄。即時撤退だった。
「団長。あれ、私にやらせてください」
「……理由を聞こう」
撤退の指示を聞いたレフィーヤがフィンに駆け寄る。
本来なら、アイズにやらせたいというのがフィンの考えだ。
しかし、滅多に自分からフィンには進言しないレフィーヤ。その行動から、フィンはレフィーヤに何か思惑があるのではと感じた。
「そろそろ、
その言葉に、なるほどとフィンは頷く。
本来の予定では、59階層に突入したあとに偉業の達成を行うつもりだったが、撤退するなら仕方なしと判断しフィンに頼んだのだ。
「いいだろう。頼んだよ、レフィーヤ」
「――御意」
団員達が撤退を開始する中、レフィーヤは一人戦場に立つ。
新たなる境地へと至るために。
「【集え、魔導を収めしもの達よ。汝らが王たる我が呼びかけに応じ、此処に集え】」
本日、三度目となる詠唱。しかし、その表情には歓喜がうかがえる。それほど彼女は詠唱が好きなのだ。
「【終段、顕象――】」
今発動しようとしている魔法は、攻撃性の魔法ではない。
しかし、レフィーヤは確信している。これこそ、我が最強の魔法であると。
「【ロッズ・フロム・ゴォォォォッド】」
それは、魔法の効果を把握すれば
「【世界を創世した五大元素が一つ――水よ】」
しかし、疑問に思う者もいるだろう。たとえ効果を把握したところで、詠唱文を暗記しないことには魔法を発動出来ないのではないかと。
「【汝はその豊かさで世界を創り、洪水にて世界を滅ぼす――その力をもって、我が身を大いなる魔神と化せ】」
そこで登場するのがスキル、『魔導王』だ。
魔導王の効果により、詠唱はレフィーヤの思うがまま。ゆえに詠唱文を暗記する必要はない。
神の杖の発動条件に詠唱文の把握が存在しないのは、魔導王の効果が反映された結果なのだ。
「【ネプトゥヌス】」
レフィーヤが召喚したのは水の付与魔法。
詠唱が終わると同時に、彼女の体を覆う水膜が現れる。
「行くぞ、雌型の芋虫――腐食液の貯蔵は充分か?」
剣を抜き、雌型のモンスターめがけて突貫する。
レフィーヤの存在に気づいた雌型のモンスターが、大口を開き、大量の腐食液を放出する。
しかし、レフィーヤには届かない。レフィーヤを覆う水のベールが腐食液を通さない。
ならばとモンスターは攻撃方法を変える。
翼を動かし、爆発性のある鱗粉を――放とうとして気づく。
いない。レフィーヤが何処にもいないのだ。
更に異変がもう一つ。振ろうとした翼の右側が無いのだ。
「――遅い」
その声は背後から。
ゆっくりと振り向き、確認する。
そこには刀を振り抜き、攻撃を完了したレフィーヤがいた。
圧倒的速度にて、モンスターに視認を許さなかったレフィーヤ。その速度の秘密は、レフィーヤが纏う水にある。
足を踏み出す瞬間、足の裏に水を溜め高速に回転させる事によって、自身の速度を何倍にも引き上げているのだ。
ヒュー、という甲高い音とともに空中に閃光が浮かぶ。
撤退完了の合図だ。
即ち――、
「時間稼ぎは終わりです。ここからは、殺す気でいかせてもらいます」
水がレフィーヤの持つ刀を覆い、伸びる。長く、薄く、そして鋭く。
「――
伸ばした水の刃をムチのように振り、健在だったモンスターの左翼を切り落とす。
「その鱗粉は面倒ですので、先に切らせてもらいました」
既に勝負は決した。
腐食液も効かなければ、鱗粉を出す翼も無い。完全にモンスターの詰みだ。
「ふふふ、フハハハハハハハ――! よくぞ最後まで足掻いた、化外よ。せめて奥義で葬りましょう」
そうは言うものの、レフィーヤはその場から動かず、モンスターに近寄ろうとしない。
モンスターとの距離は約30M。決して剣の届く範囲ではない。しかし、充分。レフィーヤに距離など関係ない。
剣を高く掲げ、縦に一閃。
「一刀流、奥義――神凪」
その行動が終わるとレフィーヤはモンスターに背中を見せる。
既に終わったと言わんばかりに、剣を鞘に収め、その場を立ち去るレフィーヤ。
しかし、モンスターは活動を続ける。
今なら、今ならばとモンスターは腐食液を吐き出そうと口を開く。
「――ジ・エンド」
瞬間、モンスターが縦に割れた。
時間差で訪れた斬撃が、モンスターを二つに切り分けたのだ。
「ふっ、言ったでしょう、奥義だと」
勝利の余韻に浸りながらレフィーヤは、
「うん、今のはかっこよかった」
そう思うのだった。
ちょっとレフィーヤ以外のキャラをあまり出せなかったのが心残りです。ごめんなさい。
次話からはしっかりと中二病レフィーヤとの絡みを表現していけたらなと思います。
ロッズ・フロム・ゴッドの元ネタを知る方へ。
ロッズ・フロム・ゴッドに終段を付けたのは単純な理由です。カッコいいから。それだけ。
ネプトゥヌスは私の創作魔法です。
感想・評価お待ちしております。
追記
サブタイトルとっぽぎとかいう謎の単語でしたが修正いたしましたw