龍の手をもった私は生きていく   作:チョコ明太子味

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レポート課題やなんやらで大分遅れてしまいました。
何分遅筆な私を許して……許して……。


第二話

 振り下ろされる木剣を籠手をまとった拳が弾く。

 何度も繰り返される内の一合は、さほど特異なものでもなく。

 ひいき目に見たところで秀才同士の模擬戦程度にしか見えない事だろう。

 

「いいよメイちゃん。もうちょっと本気でお願い!」

 

「拝聴しました」

 

 と同時に、やや中性的な容姿を持つその人物の動きが振り切れた。

 

 いや。振り切れたというのは正しい表現ではない。

 ヒナに合わせていたメイシ―がただそのギアを一つ上げただけだ。

 

 ヒナの強化した動体視力はメイシ―の振るう剣をしっかりと捉える、が。

 速度、力。そして技術さえも先ほどまでの比ではない。

 一度の攻撃に交えられる複数のフェイント。及びフェイントに見せかけた真撃に付き合うほどのスタミナもパワーもヒナは持ち合わせていない――――ということをメイシ―は知っている。

 

 しかし。

 

 二週間ほど前の彼女であれば少なくともこの段階で10秒持たなかったのだ。

 それが今回は体制を僅かに崩しながら捌くことができている。むろんその全てを、ではないが。

 

 二次元的にしか攻めていないとはいえ、この上達速度は並のものではない。

 

 だからこそメイシ―は内心歯噛みする。

 成長速度がいくら高くても、特に手を加えられていない彼女の体では神器込でもすぐに限界に至ってしまうだろう。それではただ早熟なだけだ。

 一刻も早く彼女の成長を促進。つまりは神器のその先にたどり着いてもらいたい。

 

――わが主。僕はあなたに強くなってほしい。そうすればあなたの考えはきっと容易に変わるだろうから――。

 

「たぁ⁉」

 

 どこか間抜けな声が早朝の住宅街に響き渡り、メイシ―ははっ、と現実に引き戻された。

 体操服を着た自分の主が頭を抑えてあおむけになっているのを見て、自分が一瞬加減を忘れたことにメイシ―は気づく。

 

「すいません!大丈夫ですか…………」

 

「うん、へーきへーき。――――やっぱ強いねメイちゃんって」

 

 その名前を言われると、途端に体がくすぐったくなる。

 なんど訂正を求めても直してもらえないその呼び名は、しかし決して不愉快なものではない。

 

「――――やっぱりこの狭い庭じゃあ限界があるよね」

 

「そうですね。個人的にはもう少し障害物のあるところが望ましいかと思います」

 

「むー、そうなると森とか?ここらへんに山はないからそうなるとまとまった時間が必要だよねー。それにメイちゃんとは真剣で戦ってみたいし」

 

 その言葉に思わずぞっとした。

 自分が主に真剣など向けることができるわけがない。

 

「主様。それは…………」

 

「危険って?んなの知ってる知ってる。でもそろそろ木剣の防ぎ方じゃなくて殺傷性のある武器の防ぎ方も知っときたいなーって」

 

「――――、いえ。もう少し反応速度を鍛えてからにしましょう。いくら私が相手だとはいえ…………」

 

「あー、そうだよね。止まると分かってるのに戦ってもそんなに経験にはならないよね。おっけーおっけー。じゃあ早くメイちゃんが真剣を使ってくれるように頑張るよ」

 

「はい」

 

「じゃあ、もうそろそろ朝ごはんにしましょうよ。のんびりしてると間に合わない時間だしね」

 

「はい。では僭越ながら私も手伝いを…………」

 

「いやいや。メイちゃんは食器を運んでくれるだけでいいよ」

 

「――――分かりました」

 

 

 

     ●

 

 教会で働いていた日々のことは未だに覚えている。

 未だ神が顕在であることを知っていた時。

 まだ自分が崇める存在に疑問を持たなかったとき。

 なぜ自分が知ってしまったのだろうという事は今でも頭の中に浮かんでくる。

 

それでも神の死を知ってしまったという事は自分の想いは神には受け止められなかったという事。

そして自分の願いを受け止めてくれる主を探すために堕天使の組織へと堕ち、その末に自分は彼女を見つけたのだ。

 

 最初こそ出会いとしては最悪の形であったが、今の自分はあの時の自分自身を殺しても足りないほどに彼女を崇拝している。

 

 でも今の主様では足りないのだ。

 もっと強く、強くなって。もっと大きな望みを持ってもらわねば自分の望みを受け止めてもらうことなどできないことを僕は知っている。

 

 だというのに。

 彼女の心配をする僕もいる。

 自分の事を考えるのならただなにも考えずに彼女に力を与え続けたらいいのに。

 その理由の事を、彼女は教えてくれるのだろうか。

 

    ●

 

 邪気のない笑みと共に『用事があるから一人でかえっといで』と送り出され、メイシ―は帰路についていた。

 といっても、メイシ―達が通う高校は二人の住む家からせいぜいあるいて10分ほどしかかからない。

 20分(・・・)ほど(・・)動かし続けた(・・・・・・)足を止める。

 わざわざこうして意味のない道を通っているのは決して無意味な事ではない。

 ソレに気づいたのは昼の授業が始まったころだ。

 

 僅かな殺気のようなものが自分に向けられていたのをメイシ―は感じたのだ。

 もちろんその曲者を排除することも考えたが、殺気が自分にしか届いていない事からそれは取り下げた。

 

 微量とはいえ、投げつけるような殺気はこちらに気づけと言わんばかりの物だった。

 つまりは自分に何か用事があるという事なのだ。

 

 そして今も無遠慮な殺気はこちらに向かって突き付けられている。

 

『かー!なんだよ。そっちからエスコートしてくれるのを期待してたのにとんだ期待外れだぜ』

 

「その声はフリードか」

 

『ビンゴ!つってもそりゃ分かるか元同僚だもんなぁ』

 

「僕を処分しにきたのか」

 

『いやいや俺っちがそんなめんどっちい命令を受けると思いますぅ?そうじゃなくて、勧誘しに来たんだよ同じはぐれ者どうしな』

 

「なに?」

 

フリード・セルゼン。メイシ―と同じく元教会の戦士――――だが、今彼の言ったはぐれ者の意味はそう言う事ではないとメイシ―は感じ取った。

 

「お前、何を企んでいる」

 

『企んでるのは俺じゃなくて偉いさん達だぜ。メイシ―。メイちゃんなんつって大分温い所で使ってたみたいだがよっ!』

 

袖に隠していた投擲用の光の短剣を殺気の方向に投げつけるが、殺気の主はその場から立ち消え、自分の後ろに移動した。

 

「早いな。その速さ、どこで手に入れた」

 

「ちょっとバルパーのおっさんにな。にしてもぬるま湯につかってても腕は落ちてねえってか」

 

未だ光の剣を出していない柄だけのそれをフリードの腹に突き付け、そのフリードは首に剣を突き付ける。

自身の首の横に突き付けられた剣にはメイシ―にも見覚えがあった。

 

「エクスカリバーか」

 

「そそ。なーんでグリゴリから逃げ出したかは知らないが、こっちもあんたの腕を信頼してるってわけ。どうよ、いまならあんたにも聖剣の因子をつけてもらえるかもしれんぜ?」

 

「……報酬として、というのは可能か?」

 

「経費でもらえると思うけどねぇ」

 

「なら受けよう」

 

「――――いいねえ」

 

「あともう一度僕をあの名前で呼んでみろ。今度は有無を言わさず殺す」

 

「へいへい。そうとう入れ込んでる女がいるみたいだな。恋か?」

 

「さあ。まだ分かってない」

 

    ●

 

「ふぇ……ふぇ……ふぇくし!」

 

 なんだか花粉がひどくなりでもしたのかな、なんて思いながらひとくしゃみ。

 そういえば、今日はいやに素直だったなメイちゃん。

 いつもなら私の傍からはほとんど離れないのに。

 

「なにかあったってことなのかな。また変な事でもしてなきゃいいんだけど」

 

「あ、あのヒナさん」

 

「ん?」

 

 ほとんど人の残っていない教室で声をかけられて思わず心臓がピクリとはねる。

 しかしその姿は見覚えがあった。

 

 というか、このまえ私にお弁当をさそった娘じゃない。

 確か名前は世良(せら)良子(よしこ)だったはず。名字と名前に同じ字があったから割と簡単に覚えれた。

 

「どうしたの?私に何か用事でもある」

 

「う、うん。ヒナさんが良かったらなんだけど明日遊びに行かないか……と思って」

 

「別にいいよ」

 

「そ、そうだったらしょうがな…………いいの⁉」

 

やったあ、なんて両手をあげる彼女は前髪をぱっつり切っているせいもあって、なんだか同級生という感じはしなかった。

 まあこの子とはこのまえ弁当を食べられなかったからその埋め合わせというところだ。

 

「で、どこに行くの?あまりこの町には遊べるようなところは少ないと思うんだけど」

 

「うん。だから隣町の駒王町に行こうと思うの。駒王町には友達もいるからその三人で遊ぼうと思って」

 

「分かった。じゃあ詳しい話は明日聞くよ」

 

「は、はい。じゃあまた明日!」

 

 そこで彼女は気持ち早足で、その場から去って行った。

顔も赤かったし緊張してたのかな…………まあ、遊んだこともない同級生を誘うんだったら緊張もするのかな?かなり初心そうだったし。

 

「あ。簡単に約束しちゃったけど、もしかしたらメイちゃんも着いてきちゃうのかな。良子さんが固まりそうだから、ぜひ遠慮したいんだけど」

 

 むむ、なんとかしてメイちゃんを連れてこないようにしないと。

 なにかいい案はないだろうか?

 

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