とんだ修羅場鎮守府に着ちまったもんだ   作:まさきたま(サンキューカッス)

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ドロッドロの修羅場を楽しむ短編です。
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とんだ修羅場鎮守府に着いてしまいました

「おはようございます! ヒトフタマルマル! 本時刻をもって駆逐艦・吹雪はトラック鎮守府に着任いたします!」

「ようこそ、我がトラック鎮守府へ。私は修羅道大佐だ、君の噂はかねがね聞いているよ。鎮守府一同、君の着任を歓迎するよ」

 

 20××年、新春。

 

 私の名は、駆逐艦吹雪という。この春、無事に艦娘としての訓練過程を全て修了し、晴れて一人前の軍人として鎮守府に配属されることとなったピカピカの1年生だ。

 

 私が配属された先は、前線とは言えないがそこそこの戦果を上げている中規模の鎮守府だった。まだ1年目である事を考慮され、激戦区ではない鎮守府へと配置されたらしい。

 

「第六駆逐隊を君の引越しの手伝いにつけよう。明日から君の同僚だ、仲良くやり給え。荷物をほどき終わったら、ヒトハチマルマルより、食堂にてささやかながら君の歓迎会を予定をしている」

「ほ、本当ですか! 光栄です、ありがとうございます」

 

 配属された先で私を出迎えてくださったのは、新進気鋭の若手軍人、修羅道大佐と言った。彼はまだ若いと呼べる年齢だが、卓越した戦術眼が評価されてどんどんと昇進している海軍の出世株だそうだ。

 

「歓迎会では、積極的に他の艦娘に話しかけてほしい。命を懸けて戦う軍人にとって、信頼できる仲間こそ何より大切な宝物なのだから」

「……はい!! 拝命、了解いたしました!」

 

 凄く有能だという噂だけ聞いてはいたが、実際に面と向かって話してみて良くわかる。

 

 ……この人は、有能なだけではなく、情に熱い良い提督だ。確固たる信念と、厳しくも誠実な人柄がよく伝わってくる。

 

 それに。この提督、キリとした眼に筋の通った鼻筋、とこぞの俳優だと言われても納得できる美丈夫である。自信にあふれた表情は頼り甲斐を匂わせているし、短く清潔感のある髪型とガッシリと筋肉質な肉体からは何とも言えぬ男の色香が漂う。

 

 上司であるのに、私は少々意識して赤面してしまった。

 

 イケメンで優しく誠実そうな提督……。

 

 そんな事は起こり得ないとは分かっていたけれど、それでも少しアバンチュールを期待してしまうくらいは、仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、提督への挨拶を終えた私は、早速引っ越しの作業を行うことになった。

 

「暁型姉妹の長女にして1番艦、暁よ。困ったことがあれば言いなさい! これでもお姉ちゃんなんだから!」

「2番艦、響。不死鳥の通り名があるよ」

「3番艦、雷よ! かみなりじゃないわ、間違えないでよね」

「はわわ、電です。えっと、4番艦です」

 

 イケメン提督に手を引かれ、これから君が暮らす場所だと案内されたのは、渋味を感じる木造建築の女子寮だった。

 

 私達艦娘は全員この寮で生活し、提督を含めた男性の軍人は鎮守府で寝泊まりしているそうだ。これは、艦娘とはいえ年頃の女子、男性と同じ屋根の下はよろしくないと言う倫理観の下だとか。

 

 寮の入り口には、四人揃って敬礼している少女達が目に映った。彼女達こそ、この鎮守府に所属する私と同じ駆逐級の艦娘、暁型の四姉妹らしい。

 

 彼女達が私の先輩であり、そして戦友となる少女達。 

 

「お初にお目にかかります! 私は駆逐艦、吹雪といいます! これからよろしくお願いします!!」

 

 これから始まる新生活に、胸一杯に期待を膨らませながら。私は、元気よくこの鎮守府の先輩達に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 引っ越し作業には、かなり時間がかかった。荷物を解き、並べ、ゴミを処分する。そんな単調な作業に、第六駆逐隊の先輩達は文句ひとつ言わず手伝ってくれた。

 

「困った時はお互い様よ! 何でも私に頼りなさい!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 そういって私に笑いかける、雷ちゃん。

 

 彼女達は、快活で人懐っこい。仲良くなるのに、あまり時間はかからないだろう。

 

 安心した。どうやら人間関係に困ることはなさそうだ。

 

 

 

 

 

 そして時刻は、ヒトハチマルマル。私は仲良くなった暁型の四姉妹に、歓迎会の会場である食堂へと案内される。

 

 そう。いよいよ私は、今からこの鎮守府の艦娘全員に目通りすることになる。念のため、服の皺を伸ばしたり髪の毛を整えたりと、身嗜みを取り繕っておく。そんな緊張している私を見て、クスクスと彼女達は笑っていた。

 

 あまり怖がる必要はないよ、みんな優しい艦娘達だ。そう、教えてくれた。

 

 そうだ、彼女達に先に聞いておいた方が良いかも。私と共に戦う艦娘は、どの様な方なのか。名前を間違えるなんて失礼があっては、申し訳ない。

 

「この鎮守府には、どんな艦娘がいらっしゃるのですか?」

「えっと、戦艦級が2隻、軽巡級が2隻、それと私達ね。残念ながら空母は居ないわ。提督さん、空母を回してもらえるようずっと本部に要請してるらしいんだけど、どこも艦娘不足なんだって」

 

 雷は、やれやれと小首を傾げる。

 

「敵に航空戦力が有れば凄く不利になるので、早めになんとかしてほしいのです……。ただ、戦艦級はあの有名な金剛さんと榛名さんがいるのです」

「軽巡級も、川内さんに神通さんと腕利き揃いよ。なまじっか強力な艦娘が集まっちゃったせいで、なかなか所属艦数を増やしてもらえないの」

「吹雪が来てくれて、本当に助かるわ! ……資源の持ち帰りが楽になるし」

 

 成る程。ここ以外にもたくさん鎮守府がある。戦力が均等になるように本部が振り分けた結果、残念ながら空母は配属されず、代わりに駆逐級である私が飛ばされた訳か。

 

 聞くと、この鎮守府の戦力はカツカツらしい。本音を言えば空母が欲しかったのが実情なのだろうが、駆逐艦(わたし)が1隻配属されただけでも非常にありがたいそうだ。

 

 ────つまり、仕事には事欠かないのだろう。これから忙しい日々になりそうだ。でも、誰かに必要とされて働くことができるのは、とても素敵な事だと思う。

 

「吹雪。これから私達は戦友であり、家族なんだ」

 

 やる気を新たにして拳を握りしめる私に、響は微笑んだ。

 

「まだ所属艦は少ないけど、私達の練度や連携力は全軍の中でもトップクラスだと思う。だから貴女も、これから仲良くしてほしい」

「ふふふ、困ったことがあれば何でも言いなさい! この暁が解決してあげるわ!」

「遠慮なんかしないで良いのよ。私達だけじゃなく、金剛さんや榛名さんはとっても明るくて話しやすいの。川内さんは少しお調子のりで、神通さんは訓練の時だけ怖いけど、それでもみんなみんな優しいわ」

「電で良ければ、いつでもお話を聞くのです。これから、一緒に頑張りましょう」

 

 ああ。

 

 世にはブラック鎮守府なんて呼ばれて、艦娘が奴隷の如くこきつかわれるような場所も有るらしいのに、この鎮守府はどうだ。

 

 第六駆逐隊の皆は、心から笑っている。

 

 きっと、私が配属されたこの場所は。他のどこよりも温かく優しい素晴らしい所だ。

 

 そう、確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神通ー? その手を離しなサーイ?」

「……」

 

 

 

 そして、扉を開いて入った食堂の中では。

 

 先程の話題にあった艦娘、神通と金剛が二人向き合ってメンチを切り合っていた。

 

 その間には、提督が居心地悪そうに座っている。二人に挟まれる形で、ダラダラと汗を流しながら提督は、睨み合う艦娘二人をオロオロと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、何ですか?」

「はわわ、喧嘩なのです」

 

 おかしいな。聞いていた話と違う。

 

 この鎮守府は、みんな仲が良いのでは無かったのか? 

 

 軽巡神通は無言で提督の肩を抱きながら金剛を睨み付け、戦艦金剛はワナワナと手を震わせながら神通を威嚇している。

 

 どうみても、殴り合いの一歩手前だ。

 

「え、何? 何なの、これ?」

「あちゃー……、よりによって今日か」

「響、何か知っているの!?」

 

 どうやら、場の状況が理解できないのは私だけではないらしい。雷や電、暁も目を白黒とさせて混乱している。

 

 険悪な状況の食堂へと足を踏み入れて落ち着いているのは、暁型の次女、響だけだった。

 

「説明しよう。実は、ウチの提督はモテモテだったんだ!」

「な、何だってー!」

 

 ドヤ、と口元を歪める響。思わず反応してしまったが、あの二人の様子を見ればその程度は想像がつく。

 

 つまり、修羅場なのだろう。

 

「ウチの提督は無駄にルックスが良い。頭も切れて、頼りにもなる。そうなると、艦娘の中から提督に懸想する者が現れるのも当然の帰結なんだ。私達の中でも、雷なんかは良く寝言で提督の話題が出る」

「へっ……ちょっとぉぉぉ!? な、何を言ってるのよ響はぁぁ!?」

「雷お姉ちゃん、電もよく聞くのです。『提督、もっと私に甘えて良いのよ……』みたいな寝言なのです。たまに起こされるので勘弁して欲しいのです」

「い、いやぁぁぁぁ!!」

 

 響ちゃんの解説の流れ弾で、雷ちゃんが無駄なダメージを受けていた。だが、今はそれは重要ではない。

 

「つまり。金剛さんも神通さんも、密かに提督に思いを寄せていたけれど、今まではそれを上手く隠して仲良くやっていた」

「それが、たまたま今日のこのタイミングで爆発してしまったと」

「なんてことだ」

 

 実に迷惑な話である。

 

 確かにあの提督は、整った顔立ちで大変見目麗しい。私も、グッと来る色気を感じた。ひょっとして、みたいな期待もした。

 

 だけど、そんな修羅場イベントをよりによって配属初日に起こされてはたまらない。ただでさえ目立ちにくいのに、更に影が薄くなってしまう。

 

「……せっかく私の歓迎会なのに。普段は平凡で目立たない私が、主役になれる数少ない日なのにー」

「御愁傷様」

 

 まさに、出端をくじかれた気分だ。せっかくの新天地で、やる気も十分だったのに。

 

「お、おお! 吹雪、来たか。では、席についてくれ二人とも。これより、彼女の歓迎会を始める」

 

 提督は、食堂へと現れた私達を見て破顔した。修羅場から抜け出す機会をうかがっていた様だ。私をダシに逃げないで欲しい。

 

 提督の言葉を聞いた神通と金剛は、お互いに睨みあった後するりとその場を離れ、それぞれが席についた。良かった、流石にお二人とも一応TPOは弁えているようだ。

 

 ただ、二人の顔は険しいまま、じぃ、と互いを睨み続けているけれど。

 

「……あー、諸君。喜ばしい事に本日、我々に新たに、共に命を預けることのできる仲間が増えた。すまない、吹雪、自己紹介を頼む」

「あ、はい」

 

 こんな険悪なムードの中、私に自己紹介を振る提督。少々無責任ではないだろうか、もうちょいと場を温めてから……

 

  いや、提督さんとしても何とか空気を変えようと試行錯誤しているのだろう。

 

「吹雪型一番艦、駆逐艦吹雪です。まだまだ未熟ですが、情熱は負けません。よろしくお願いいたします」

 

 とは言え、私に場を盛り上げるジョークの類は持ち合わせていない。無難に平凡に自己紹介を終えた私は、おとなしく近くの円形テーブル席へと腰を下ろした。

 

 間違っても、提督の座っている隣に用意されたお誕生日席には向かわない。多分私のために用意された席なんだろうけど、わざわざ修羅場の爆心地に向かう程バカじゃない。

 

「うむ、期待している。さて、彼女の自己紹介は終わった。では、今度は我々が彼女に名乗りを返す番だろう。第六駆逐隊は良いから、軽巡から自己紹介を頼む」

「……はい」

 

 提督も私がその席を敬遠している事を察してくれたようで、私をお誕生日席へと誘導はしなかった。駆逐艦達に用意されたであろうお菓子多めのテーブルに、第六駆逐隊のみんなと共に着席する。

 

 そして提督に自己紹介を振られ、最初に席を立った軽巡洋艦は先程まで提督に抱き付いていた神通だ。大人しそうな雰囲気とは裏腹に、先程まで熱く提督を取り合っていた艦娘である。

 

「川内型二番艦、神通と言います。貴女の指導教官も兼ねているわ、これからよろしくね吹雪さん。それと────」

 

 そんな神通さんはニコニコと笑顔を張り付け、私に手を振ってくれた。良かった、いい人そうだ。

 

 提督の件は置いておいて、私を歓迎する事を優先してくれたのもありがたい。TPOを弁えられる性格のようだ。良かった、せめてこの歓迎会の間くらいは醜い言い争いはやめてほしいものだ────

 

 

「────私は、提督とは交際関係にありますので。吹雪さんも、弁えてくださいね?」

「よくぞ吠えマシたね、こーのサノバビッチがぁ!! 良い度胸デース!!」

 

 

 

 うわーい。

 

 

 

 神通の挑発的な自己紹介を受けて、戦艦金剛は目の色を変え席を立ち上がった。そして自己紹介の最中だと言うのに我を忘れ、神通目掛けて突進し殴りかかる。

 

 無論、神通とて棒立ちではない。神通は、金剛の拳を避けてくるりと受身を取り、静かに構えをとった。完全に臨戦態勢である。

 

 血管を額に浮かべた金剛は、拳がスカって叩き割った椅子の残骸に目もくれず、ドロリと濁った目で神通を睨み付ける。

 

 ウゴゴ、さっきよりさらに雰囲気が悪くなった。

 

 

「ヘーイ、さっきからちぃぃっとばかり調子にのってマセンか、神通ゥー?」

「……そう言うことなので、金剛さんは諦めてください」

「オー? オオー? 良いデスよー、その喧嘩買いマース」

 

 

 一触即発。立ち上がってメンチを切りあい、鬼気迫る笑顔で額と額を突き合わせている金剛、神通。

 

 なるほど、笑顔とは本来攻撃的なモノだと聞いたことがあるが、今初めてそれが理解できた。あんなに恐ろしい笑顔は生まれて初めて見た。 

 

 

「落ち着いてお姉様!」

「神通、ストップ、ストォォップ!!」

 

 

 その凍り付いた空気の中、慌てて割って入ったのは彼女達の姉妹艦だ。川内は神通の肩を抱き、榛名は金剛の腰に組み付いて、両者を引き離す。

 

 

「榛名、離しなサーイ。彼処にいる淫乱ビィィッチに、正義の鉄槌を……」

「川内姉さん、大丈夫です。私は冷静です」

 

 

 そんな、姉妹の決死の仲裁によりなんとか喧嘩への発展は阻止された。だけど、場はこれ以上ないと言うほどに険悪になっている。

 

 第六駆逐隊は、みんな顔を真っ青にしてオロオロしているだけ。

 

 ……私の歓迎会なのに、私が完全に置いてけぼりじゃないか。文句を言いたくなってきたぞ。今文句を言ったら場の空気が更に悪くなりそうなのでおとなしくするけど。

 

 

「ちょっと、酷いわね神通さんに金剛さん。こんなの、吹雪がかわいそうじゃない」

「……そうね。響、いつもみたいにふざけて何とかしなさいよ。笑いとるの、私達姉妹で一番うまいでしょ」

「私は芸人じゃない。それに、今は何やっても滑る場だ」

「滑るというか、場が凍り付いちゃうのです。……よしよし、元気出すのです吹雪さん」

 

 

 それに比べて、第六駆逐隊の面々はなんと温かいことか。神通さんや金剛さんに対する評価が駄々下がりする一方で、この同僚たちへの親愛の念がどんどん高まってくる。この鎮守府に来て一番の収穫は、彼女たちとの出会いかもしれない。

 

 というか、提督さんがこの場を仲裁してくれよ。アンタが原因でしょうが。

 

 

 

「良いこと教えてあげマース、神通ゥー? 私は提督と、既に恋仲なんデスヨー? 何度も何度もベッドインしてマース」

「……っちょ、ちょっとお姉様!!? 駆逐艦がいる前で何てこと言い出すんですか!!」

「貴女は知らないでショーけど、提督の身体は、硬くて凛々シクて、それでイテあったかくて……」

「お姉様ストップ!! 教育に悪い!! それ以上は駆逐艦に聞かしちゃダメな奴ですって!!」

 

 

 

 

 お、おわぁ。

 

 

「は、はわわわわわわわわわ」

 

 おお、電ちゃんが目をクルクル回し赤面している。かくいう私もそうだ。あの提督、艦娘に手を出してるのか。

 

 いや、確かに艦娘との恋愛は禁止されてない。でもそれやっちゃうと、大概は鎮守府が修羅場になって空気崩壊するからどこの提督も敬遠しているのに。

 

 

 

「そんな嘘、ついても空しいだけですよ。だって、私こそが提督と契りを結んでいるのですから」

「神通ぅぅぅぅ!! ちょ、乗せられるなバカ、冷静になれって!!」

「黙ってて、姉さん。そんなこと言われたら流石に黙っていられない」

 

 

 お、おお?

 

 あれ。これってまさか、ひょっとして。

 

 

「ね、ねぇ、あの二人の言ってること食い違ってない?」

「……すぱしーば」

「すぱしーば、じゃないのです! はわわわわ、どっちが嘘ついているのですか!?」

「ねぇ、ベットインとか契りとかって、何の事なのよ」

「暁はそのままの君で居てくれ。うん、響が思うに金剛さんも神通さんも、どっちも嘘をついてないんじゃないかな?」

 

 どっちも嘘をついていない、ねぇ。

 

 ああ、そんな気がする。だって、提督の額から滝のように汗が流れているじゃないか。あれってつまり、そういう事だよね。

 

「ヘイ提督!! バシっと真実を告げてくだサーイ!!」

「提督。嘘を言っているのは金剛さんでしょう? ね?」

 

 その問いに、顔面を蒼白にした提督は。

 

「……zzz」

 

 寝たふりをして誤魔化そうとしていた。

 

「……提督さん?」

「どうしマシタかー?」

 

 

 睨み合っていた二人の目から、ハイライトが消えうせる。

 

 ああ。やりやがった、あの男。鎮守府で、艦娘を指揮を執るものとして一番やっちゃいけないことをやりやがった。

 

 アイツ、二股かけてやがった。

 

「起きろ」

 

 金剛、神通の二人は、信じられないくらい低い声で提督を起こす。

 

 汗をタラタラと流しながら、非常にゆっくりと顔を上げた提督は、頬を引きつらせながらニコリと笑った。

 

「何がオカシイ?」

 

 その、不器用に笑った提督の頬をパチンと叩く、戦艦金剛。

 

「質問に答えてください」

 

 逆方向から、同じ様にビンタで頬を張る軽巡神通。

 

 

「「提督の恋人は私ですよね」デスネー?」

 

 凍てつく波動を放ちながら這い寄る二人のうら若き女性を前に、両の頬を赤く腫らした提督は、手のひらを口元で隠し静かに返答した。

 

「……さ、さぁどうだったかな?」

「めっちゃ目が泳いでる!? やっぱ二股してやがるぞアイツ!!」

 

 思わず叫んでしまった私は悪くないだろう。

 

 何やってんだあの畜生。女だらけの職場で、たった一人の男が二股かけたらどうなるかくらい考えなかったのか。

 

「そ、そんな、嘘よ」

「大変なのです! 密かに提督に片想いしていた雷お姉ちゃんが大ショックを受けているのです!」

「暁、早くなぐさめるんだ。今こそ、暁のレディ(りょく)の見せ所だ」

「え、私!? ……分かったわ、レディな私に任せなさい!」

 

 そして、やはり雷ちゃんが流れ弾に被弾して重傷を負っていた。

 

 いたいけな駆逐艦をも傷つけるとは、許せん。

 

 

「……はぁ。こうなったらもう仕方がないか。吹雪はコッソリと部屋に戻って休んでいたほうがいい」

「い、いいのかな?」

「私がそう勧めたことにする。ごめんね吹雪、本当は響はこの事を知ってたんだ」

 

 響ちゃんは、そう言うとペコリと頭を下げた。

 

「知っていた?」

「うん。私は、眠れない夜は一人屋上でウォッカを嗜む癖があってね」

「未成年飲酒!?」

「艦娘は未成年とか関係ない。そもそも響という駆逐艦は、艦船時代の実働期間を考えたら余裕でお酒が飲める年齢さ」

 

 響ちゃんはそういうと、ニヒルに笑ってセーラー服の襟元から小さなウォッカの小瓶を取り出した。

 

「ちびり、ちびりと月を肴に飲むウォッカはオツなもんさ。で、女子寮の屋上で飲んでいると、コッソリ抜け出して提督の部屋に行く艦娘の姿が丸見えなんだ」

「……じゃ、じゃあ」

「金剛さん、神通さんの二人共、提督の部屋に歩いていくのを見たことがある。だから、そういうことなんだろうなと察してはいた」

「はわわ、響お姉ちゃんが何か大人びた表情をしているのです」

 

 そこまで言うと彼女は目を伏せ、ウォッカの小瓶の蓋を回して開ける。むわっと、嗅いだことのない科学的な異臭がその場に漂う。

 

「失礼、んぐんぐ、ぷはっ。喉が焼けそうだ」

「ほ、本作品は未成年への飲酒を勧めるものではないのです! 良識のある皆さんは、お酒を嗜むのは20歳からなのです!」

「私はセーフだってば。さて、話を戻すとこの修羅場はもう血が流れるまで行き着かないと解決は難しいだろう。……で、だ。この場を解決するのに、響にいい考えがある」

「ひ、響ちゃん!?」

 

 ウォッカを飲んで少し頬を赤く染めた響は、何でもないことのようにそう言った。この修羅場を、あっさり解決してみせると。

 

「ひ、響! 何をするつもりよアンタ!!」

「……言ったろう? 私は前々からこの事を知ってたのさ、対策くらい考えているに決まっているだろう」

 

 響はそう言うと、再び静かにウォッカの瓶に口をつける。そして、僅かに酒を口に含んだまま、こう続けた。

 

「じゃ、行ってくる。吹雪は、巻き込まれたくないなら部屋に帰っていて。ドロドロしたのがお好きなら、野次馬根性で見物しているといい。吹雪の歓迎会でこんな乱痴気騒ぎになってるんだ、失礼なのはこっちさ。だから、この騒ぎから逃げるなり、面白おかしく眺めるなり、吹雪の好きにしたらいいよ」

「ひ、響ちゃん」

 

 そういうと、彼女は私たちに背を向けて。 

 

 片手を上げて振り向かず、金剛と神通がにらみ合う空間のど真ん中へと、足を進めた。

 

 何をするつもりなのか。一体どんな魔法を使えば、この場を収めることが出来るのか。

 

 部屋に戻れ、と響ちゃんに言われたけれど。彼女がどんな事を仕出かすつもりなのかが気になった。響ちゃんが心配なのもあり、私はこの場に残る事にする。

 

 一体、何が始まるというのだろう。

 

「金剛さん、神通教官。二人共、聞いて欲しいことがあるんだ」

 

 そして響ちゃんは、一触即発の二人の背後から落ち着いた声で話しかけた。

 

 猛獣を刺激しないよう、恐る恐る。

 

「……響ガール、ゴメンナサーイ。今は、貴女のジョークに付き合っている余裕は……」

「私ね、榛名さんも深夜にこっそりと提督の部屋に入っていったの見たよ」

「えっ!?」

「ワッツ!?」

 

 ……響ちゃん? アンタは何を言い出しているの?

 

「そ、そのジョークはいつものキレがありマセンネー。ジョークの腕が落ちてますよ、響ガール?」

「そそそそうですよ! わ、私がお姉様に内緒でこっそりなんてそんなこと有り得ません────」

「てか、昨日見たよ。金剛さん、昨日の夜、榛名さんは部屋に居たかな?」

 

 響ちゃんは淡々と、金剛さんを見つめてのたまった。いきなり榛名さんに矛先を向けて、何が狙いなのだろう。場がさらに混沌としただけじゃないか……。

 

 それに、いくらあの提督でもそれは駄目だと分かってる筈。だから、榛名さんについてはきっと響ちゃんの嘘────

 

「提督ゥー? 勿論、榛名とはなんともないですヨネー?」

「そ、そんな気がする様な、気がしない様な?」

「この野郎、まーた目が泳いでやがる!!」

 

 また、思わず突っ込んでしまった。

 

 3股ってマジかお前。しかも、手を出した艦娘の妹が浮気相手って、マジかお前。

 

 

「……榛名ー? どういう事デース?」

「はぁー、響ちゃん。どうしてそれをバラしちゃうんですか……」

「○UCK!! この裏切り者、貴女は私と提督が恋仲であること知ってたでショー!! 何で、一体どういうことデース!?」

 

 金剛さんは目の色を変えて、一転し榛名さんの胸倉をつかみ上げた。一方で榛名さんはというと、落ち着き払った顔のまま、ふぅとため息を吐く。

 

「……謝りませんよ、お姉様。榛名は、確かにお姉様に恋人の座を譲りました。でも、私だって提督のことが好きだったんですよ? 一番はお姉様でいい、ただ、自分の心に嘘をつきたくなかっただけ」

「それは、泥棒猫の言い草デース!! 貴女も提督が好きなら、正面から告白すれば良かったデショー!!」

「正面から告白しましたよ? お姉様とのコトが終わったあと、入れ替わるように提督の部屋に夜這いに行って」

「こ、このファッキンビッチ!! は、榛名は味方だと信じてマシタのにー!!」

 

 榛名さんの様子が変わる。目が据わり、ニヤリと醜悪な笑みをこぼす彼女は、小悪魔だとかそんな次元じゃない凄みを感じた。

 

 なんだアレ。思わず恐怖で後ずさっちゃったじゃないか。

 

「びぇぇぇん!!」

「とうとう雷ちゃんが泣き崩れた!」

「ど、どどどどうしましょう? はわわ、暁お姉ちゃん何とかして欲しいのです!」

「ま、また私!? あーもう、泣き止みなさい雷!」

 

 私達のテーブルでは、口論の流れ弾がすべてクリティカルヒットしていた雷ちゃんが、遂に大声を上げて泣き崩れる。惚れていた相手が人間の屑だったショックと、失恋のショックと、豹変した榛名さんに対するショックで彼女のメンタルがキャパシティオーバーを起こしたのだろう。

 

 ……だが、響ちゃんの悪行はこれで終わらない。彼女は飄々とした表情のまま、今度はトテトテと頬をヒクつかせている川内さんの方へ歩み寄った。

 

「それだけじゃないんだ。ねぇ、さっき一瞬焦った顔をした川内教官?」

「……えっ? ね、姉さん?」

 

 そして、響は川内さんを指さして。口元を歪めて、神通さんに向き合って告げる。

 

「川内教官も、提督の部屋に行ってたよね? 一番回数は少なかったと思うけど」

「……っ!!」

 

 そう。

 

 響ちゃんは、オマケとばかりに川内さんの秘密も暴露してしまいやがったのだ。

 

 神通さんは、濁り切った眼で川内さんを睨みつけた。その目には、明確な敵意が浮かぶ。

 

 その後。妹に威圧された川内さんがとった行動は、なんとポロポロと大粒の涙を流すことだった。

 

「違うの、私、神通を裏切るつもりはなくて……。ただ、ただ提督に夜戦があるからって部屋に呼び出されて、緊急出撃かなって部屋に入ったら、それで」

 

 顔を覆って泣き出した川内さんは、震えた声で全てを語り出した。その意外な行動に、神通さんは目を丸くして硬直してしまう。

 

 そして、川内さんの自白が始まった。

 

「ね、姉さん……?」

「ごめん、私も神通と姉妹だからさ、ホントは少し提督の事気になってて。緊急出撃と思って部屋に入ったらさ、すぐ押し倒されて。神通には内緒にしろって、お前の気持ちには気づいてるから、神通に内緒で応えてやるって。それで、私、拒みきれなくて────」

「ね、姉さん!!」

 

 な。な、なんて下衆な!! 何で酷い、何て非道な!!

 

 騙して部屋に呼び出したあげく、川内さんの秘めたる想いにつけこんで肉体関係迫るって、アンタ、アンタ!!

 

「きゅぅ……」

「い、雷ーっ!?」

「はわわ、ついに雷お姉ちゃんが気を失ってしまったのです」

 

 とうとう、雷ちゃんがショックで失神した。だが今はそれどころではない。

 

 つ、作り話だよね。さ、流石の流石に提督さんも、そこま下卑た男じゃないよね……?

 

 こ、これが事実だとしたら擁護できないどころか、今すぐ火あぶりにされても文句が言えない鬼畜の所業だ。嘘だよね、嘘だと言ってくれ提督────

 

「今の話は、本当デスカー?」

「ほ、本当である可能性が、微粒子レベルで存在しないとも言い切れない様な?」

「クソ提督じゃないか!!」

 

 金剛さんに事実確認され、答える提督の目は、泳ぎに泳いでいた。

 

「クソ提督じゃないか!!」

「何で2回言ったのです?」

「え、えっと、川内さんは何で泣き出しちゃったの!? 拒みきれないって何の話なの!?」

「暁お姉ちゃんはそのままの君でいて欲しいのです! それより響お姉ちゃん、何やってるのですか!! これじゃ場を荒らしただけなのです!」

 

 提督のほぼ自白に近い返答により、場は更にヒートアップした。提督の胸倉をつかみ上げる金剛さん、流石にドン引きしている榛名さん、大粒の涙をこぼし謝る川内さんと、何とも言えぬ表情で姉を抱きしめる神通さん。

 

 地獄絵図かな?

 

「ただいま、戻ってきたよ」

 

 ひょっこりと。白髪の駆逐艦が、どや顔で私の目の前に現れる。

 

 この地獄絵図を作り上げた張本人が、やり遂げた顔で私たちのテーブルに戻ってきやがった。

 

「響ちゃん何やってるの、何でわざわざ火に油注いでるの!?」

「響お姉ちゃん!! こ、これどう収拾つけるつもりなのですか!!」

「おや、分からなかったかい」

 

 私と電ちゃんに問い詰められた響ちゃんは、キョトンと意外そうな顔をする。

 

 なんと彼女、悪気がないらしい。

 

「吹雪、貴女には申し訳ないとは思うけど。私は今日の歓迎会をぶっ潰して、爆弾を全て処理したかったのさ」

「ば、爆弾?」

「そうさ、爆弾。今日、神通さんと金剛さんの二股だけで話が終わっちゃったら、後々榛名さんや川内さんの件が明るみになった時にもう一度こういう事になる。だったら今日、全てぶちまけた方が一度の爆発で済む」

 

 そして響ちゃんは、至極真面目な顔でそう答えた。どうやら彼女は悪ふざけや悪戯で、場をかき乱したわけではないようだ。

 

「吹雪の歓迎会は、後日改めて行うように提督に言っておくよ。……今日は、この鎮守府に眠っていた巨大な時限爆弾の処理を優先させてもらった。いつかこうなる日が来て、こうする必要があったから」

「は、はわわ。響お姉ちゃんがすごく大人びた顔をしているのです」

「な、成る程。でも、今のこの場を上手く収めないと、最悪死人が出るような……」

「そうだね、だから響はもう一仕事して来るよ。爆弾はすべて起爆した。残った仕事は、死人が出ない様に場を収めるだけさ。後は仕上げをご覧じろってね」

 

 ……そう言って、くるりと響ちゃんは私達に背を向けた。親指を突き立てて再び修羅場へと向かっていく彼女は、私からはとても大人びて見えた。

 

 同じ駆逐艦のはずなのに、響ちゃんのあの落ち着きぶりはなんなのだろう。この修羅場に右往左往していた私に比べ、この大惨事を解決しようと動いている彼女のなんと頼もしいことか。

 

 そこまで言うのであれば、見せてもらおう。彼女の、頭で描いているこの修羅場の終着点を。

 

「神通、ゴメンね、私、私……」

「せ、川内姉さんは悪くないです。その、えっと」

「少々浮気っぽいのは玉に瑕ですが、私はそんな提督を許容しますよ。榛名は大丈夫です」

「ヘーイ、ドサクサにまぎれて提督にすり寄るのをやめなサーイ、ファッキン愚妹めが……。」

 

 4人の提督被害者たちは、お互いを罵り、謝り、慰め、怒鳴りあっている。当の提督本人は、必死で4人から目をそらして成り行きを見守っているだけ。

 

 そんな状況に、駆逐艦・響はたった一人で突っ込んでいった。

 

「提督のしたことは許せないと思うけど、このまま罵り合っても何も始まらないし何も終わらない。だからみんな、少し聞いてほしい。私に提案があるんだ」

 

 その言葉で、周囲から響ちゃんに注目が集まる。いよいよ、始まるようだ。

 

「まず、みんなに聞こう。気にはならないかい? 提督にとっての本命は誰だったのか」

 

 そして彼女がそう皆に問いかけて、しーんと場に静寂が訪れた。

 

「提督は浮気野郎だが、最初から浮気野郎だったわけじゃない。一番最初に付き合った艦娘とは、まぎれもなく1対1の恋人だった筈だ。だから、最初に提督と恋仲になった艦娘が一番の被害者だと思わないかい? その艦娘さんがリーダーとなって、提督の処罰を決めるのさ」

 

 響は、そんな提案をした。一瞬意味が分からなかったが、すぐに私は響ちゃんの狙いに気付いた。

 

 そうか。4人の艦娘が、4人それぞれの主張を言い合うだけだから、場が収まらないんだ。

 

 議論を円滑に進めるには、議長が必要。響ちゃんは、暫定的に場のリーダーを決めることにより、この修羅場を終焉に向かわせようとしてるんだ。

 

「そ、それは……」

「言いたいことは分かるよ、榛名さん。貴女は金剛さんの後から付き合ったことは分かり切ってる。でも、元々付き合っていた金剛さんの方が裏切られたショックが大きい筈なのもわかるよね?」

 

 成程これは、妙手かもしれない。と、言うか唯一の場を収める方法かも。

 

 議長を置くにしても部外者である響ちゃんが場を仕切るより、当事者4人の中から1人のリーダーを選び、進行させる方が良い。被害者は、まぎれもなく彼女達なのだから。

 

 ただ、誰を議長に選ぶかを決めるのが難しい。そこで、響ちゃんは絶対的な基準を設けたのだ。

 

 それが、提督の最初の恋人。

 

「そう。提督が初めて付き合った艦娘……、その人が一番の被害者だ。だから、彼女に処罰を決めてもらい、納得いかなかったら二番目の艦娘が新たな処罰を言い渡す。何にせよ、場の主導者が居ればいずれこの修羅場も収束するって話さ」

「……確かに、このままじゃらちが明かない。私が提督の初めてじゃなかったとしても、川内姉さんの事も含めてしっかり落とし前をつけてもらえるなら、その提案に乗るわ」

「……良いでショウ、確かに提督のファーストは誰なのか、気になりマース」

 

 すんなりと、響ちゃんの提案は受け入れられる。

 

 本音を言えば、彼女たちはそれぞれ提督に対し思うところがあるのだろう。だが、それではいつまでも場がまとまらない。自分達が見苦しく言い合っている自覚もあるのだろう。

 

 だから、彼女達は提案に乗ったのだ。大人として、いつまでもギャアギャア騒ぐだけでは恥ずかしいだけだから。

 

 

「じゃ、聞こうか。提督、初めて付き合った艦娘は、どの娘なんだい?」

 

 そして。この場を代表して、響が提督に質問した。

 

「……です」

「聞こえないよ、提督。もっと大きな声で言って」

 

 提督は、答えをボソリとつぶやいたせいでよく聞こえない。

 

 でも、これできっとこの事件も解決するはずだ。金剛さんか神通さんか、どちらが最初の恋人かは分からないけれど。議長が居ればそれでやっと────

 

 

 

 

 

 

 

「俺が最初に手を出したのは……、駆逐艦響です……」

「そーだよねー」

 

 

 

 

 

 

 バリン、と何かが割れる音がした。

 

 音の出どころは一目瞭然だ。響ちゃんが持っていたウォッカの小瓶が、彼女の手の中で粉々に砕け散っているからだ。

 

 今まで飄々と修羅場の仲裁をしていた響ちゃんの目から、ハイライトがすぅーと消え去っていく。

 

 

「響だよね。提督の最初の恋人は」

「え、その、ハイ」

「私ね、全部知ってたんだよ? 神通さんに夜這いされてあっさり受け入れたのも。金剛さんに迫られて関係を持っちゃったのも。だってその日、両方とも響は提督の部屋の前で立って聞いていたんだから」

「そ、そう、だったんだな。そうだったんですね」

「でもね、浮気は男の甲斐性っていうじゃない。だから私は気付いてない振りをしてあげた。ずっと待ってたんだよ? いつか関係を清算してくれるって。いつか関係を切って、私にも全部話して謝ってくれるって」

 

 あ、あわわ。ちょっと待ってえええええええ!!

 

 ば、爆弾だぁ!!! 響ちゃんがこの鎮守府最大の爆弾だったあああああああ!!! 

 

「なのに。ドンドン浮気相手が増えるってどういうこと提督?」

「……」

「提督は変態さんだけど、私はいっぱい我慢したよ? ウォッカの瓶を使いたいとか言い出した時は、痛いだけで全然気持ちよくなかったけど、私は我慢して提督の好きにさせてあげたよ?」

 

 コツ、コツ。

 

 響は無表情のまま、ゆっくりと提督へ歩を進める。金剛さんや神通さんも、響ちゃんから発せられるあまりに凄まじい威圧感に、冷や汗を垂らし後ずさりしている。

 

「提督は、響の何が不満だったのかな? ねぇ、教えてよ」

 

 そう言いながら、目の光を消して笑う響ちゃんを見て。私は生まれて初めて、恐怖による失禁と言うモノを体験した。

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふぇぇん。こ、怖かった」

「はわわ、響お姉ちゃんが、響お姉ちゃんが大人の階段を……!?」

 

 ────響ちゃんの目から光が消えた後。

 

 私はそっと気を失った雷ちゃんを背負い、暁ちゃんや電ちゃんと共に部屋の外へと脱出した。

 

 無理。これ以上、あの場に留まるのは無理。

 

「……ねぇ、暁ちゃん電ちゃん。その、聞いてもらって良いですか?」

「な、何を?」

「────私の歓迎会、もう要らないです」

 

 今日は、とんでもない一日だった。

 

 だけど、今日が終われば明日が来る。明日には、あの艦娘たちと共に敵と戦いあう日々が訪れる。

 

 まぁ、つまり。

 

「着任した日に申し訳ないのですが、異動願いを出させてもらいます」

「英断なのです」

 

 そんな日々は、願い下げである。事情を大本営に報告して、しかるべき人事異動を行ってもらおう。ここは戦場なのだ、こんな修羅場状態の鎮守府でロクな戦果が上がるもんか。

 

 こうして。

 

 私のトラック泊地での日々は、初日にして終わりを告げたのだった。事情を報告した後、人事の再編成が行われ、私は別の鎮守府に配属されることが許可された。その後、この鎮守府がどうなったかはよく知らない。

 

 風の便りでは、あのクソ提督は平等に5等分され、提督だった5つの肉塊はそれぞれの艦娘の所持品となったのだとか。

 

 真偽は分からないが、私にはどうでもいいことだ。ただ、愛すべき第六駆逐隊の四姉妹がトラウマを植え付けられていない事だけを祈ろう。

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