とんだ修羅場鎮守府に着ちまったもんだ   作:まさきたま(サンキューカッス)

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前話とは別の鎮守府のお話。
時雨のキャラがほんのりおかしいかもしれません。


とんだ修羅場鎮守府に着いてしまったものだね

 ◯月◯日。

 

 今日、僕は訓練生を卒業し。人類の敵、深棲戦艦と戦う最前線、カレー泊地へと赴任することとなっていた。

 

「時雨。初めての遠征はどーだった?」

「うん。……少し、雨が降ったね」

「いや、降ってなかったが」

 

 最初の任務は、鎮守府の正面海域の哨戒。遠征とは名ばかりの散歩のような任務だ。

 

 旗艦はベテランの軽巡洋艦、天龍。滅多に敵は出てこないから安心しろ、と彼女は笑って勇気づけてくれた。

 

 ……所謂この任務は、僕のオリエンテーションと言う奴なのだろう。

 

「降っていたさ。そう、僕の心に、一抹の不安という小雨がね」

「お、おう」

 

 初めての実戦。僕の心は不安で一杯だった。

 

 訓練所の的しか撃ったことの無い僕が、いざ動く敵を前にしていつも通りに狙いを定められるだろうか。本当に敵に撃たれ負傷したとき、冷静さを失わず動くことができるだろうか。

 

「でも大丈夫。止まない雨は……無いから」

「またキャラの濃い奴が入ってきたなぁ」

 

 この不安ばかりは、自分で乗り越えるしかないのだろう。経験を積み自信をつけて、確固たる強さを手に入れるしかない。目の前の天龍さんの様に。

 

「今回の旗艦はオレだ、だから遠征完了の報告に行くのはオレの仕事」

「うん」

「だが、駆逐艦だけで遠征に行くことだってある。その時も、やはり旗艦が報告に行かなきゃいけねぇ。だから、今日はオレについてきて報告の仕方も覚えておけ」

「ありがとう、天龍さん」

 

 そんな頼りになる天龍さんについていき。僕は提督の待つ執務室に向かって歩く。

 

「ノックを忘れるな。提督は結構、礼儀作法に厳しいからな」

「うん」

 

 まだ、数回しか言葉を交わしていない提督。その印象は日本男児を絵にかいたような人で、鋭い目付きに彫りの深い顔、豪々に蓄えた髭が歴戦の将を思わせる。

 

 本音を言うと、少し怖い人だと思った。

 

「ノックは何回?」

「4回だ」

 

 トントントントン、と天龍が扉を鳴らす。僕はごくり、と緊張し生唾を飲み込む。

 

「……反応ねぇな。居ないのか?」

「でも、中から声がするよ?」

「ドアの隙間から、少し覗いてみるか」

 

 そう言うと、天龍は目を細めて扉の隙間を注視した。それにならって僕も、さりげなく中の様子を窺うと。

 

 提督が北上大井の前で土下座していた。

 

「何やってんの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、天龍じゃーん」

「時雨も、こんにちは」

 

 思わず、僕達は部屋に飛び込んだ。

 

 そこには確かに、強面の歴戦司令官が綺麗な姿勢で土下座しており。そんな彼を養豚所の豚を見るような目付きで蔑む2隻の重雷装巡洋艦がいた。

 

「いやお前ら何やってんの!? 提督は何してんの!?」

「口で説明するより見た方が早いわね。天龍、机の上をご覧なさい」

 

 大井にそう言われ、つられて僕も机の上を見ると。

 

 荘厳な執務室の机の上には、所謂雑誌が散乱していた。それも、明らかに教育に悪い肌色の本ばかりが所狭しとぶちまけられている。

 

「え? あわ、わわわわっ!? な、何でエロ本が!?」

「これ。全部提督の私物だってさー」

「ば、馬鹿か!? 提督、まさか執務室でエロ本読んでたのか!?」

「ち、違う!! 俺は断じて、職務中にそんな不埒なことはしていない!!」

 

 顔を真っ赤に染め上げて、大声で提督を詰る天龍。その様子に焦った提督は、慌てて弁明を始めた。

 

「誤解だ、誤解なんだ! これは俺の私室においてあるモノで!」

「いや、机の上に散乱してたじゃん。私達が報告に入った時」

「いつもノックしろって言ってたのは、こう言うことだったのね。……キモ」

 

 その提督は見苦しくも必死で弁明を続ける。だが、執務室の机にエッチな本を散乱させている時点で何を言っても説得力はない。

 

 僕の中で、提督が厳しそうで怖い人からただのエロ親父に変化した。

 

「違うんだ……確かに、これらは俺の物だが。本当に、そう言うのじゃないんだ」

「この状況、どういうのであっても提督の評価は変わんないと思うけどねー」

「……文月なんだ」

 

 提督は、すっかり悄気返り、小声でボソボソと、見苦しく言い訳を始めた。

 

「文月が何だって言うのさ」

「文月は、良い娘でな。忙しい俺を助けるべく、何かお手伝いできる事はないかと朝尋ねてきてな」

「それがエロ本と何の関係があるんでしょうか」

 

 じぃ、と汚物を見る目で大井が提督を睨む。確かに、その話とエロ本になんの関係が────

 

 

 

『文月はお掃除が上手なんだよ~』

『そうか。文月は良い子だなぁ』

『だからね、あたしが提督のお部屋、お掃除してあげるね~』

『そうかそうか、ありがとう────はっ!?』

『じゃあね~』

 

 

 

 

「……うわぁ」

「純粋な文月にこんなもの(エロ本)を見せる訳にはいかない。俺は慌てて、文月が掃除道具を取りに行っている間に危険物(エロ本)を鞄に詰め込んで執務室に持ってきたんだ。そこまでは良かったんだが……」

「エロ本をどこに隠そうか迷っている間に、私達が報告に来て今に至る訳ね」

「ほんと、キモいんですけど」

 

 成る程。善意の暴力とはこの事だろうか。きっと文月は幼く純粋だから、成人男性の部屋にこういったモノがある事を知らないのだろう。 

 

「お前らに不快な思いをさせたことは謝る。だが、後生だ。お願いだからこの事を黙っていてくれないか」

「……どーしよっかなぁ♪」

「提督という仕事には、ある程度威厳が必要なんだ。こんな情けない噂が飛び交えば仕事に支障を来す。それに、うちの鎮守府には多感な艦娘も多い。あまり、彼女達を混乱させたくない」

「……」

「大井の言う通りだ。俺は気持ちが悪いだろう、怖いだろう。きっと、俺の指示を嫌がり出す娘も居るはずだ。後生だ、この事はお前らの胸にしまっておいてほしい」

 

 そう言って、提督は土下座を決めた。ぷるぷると羞恥に震えつつも、真摯に僕達に頼み込んでいる。

 

 これは、どうするべきだろうか。

 

「お、男がエロ本持ってるくらい気にすんな!」

「天龍?」

 

 そう答えたのは、天龍だった。顔を真っ赤にしながらも、何とか笑顔を作って天龍は話を続ける。

 

「事情は分かった、そりゃしょうがねぇ。文月に悪気もねぇし、提督もエロ本見せつけたかった訳でもねぇ。こりゃ単なる事故だろ」

「……天龍」

「オレは気にしねぇし、誰にも言いふらすつもりはねぇ。なぁ、北上大井。お前らはどう思う?」

 

 天龍は、黙っておいてあげる心算らしい。ま、確かに男の人がこんなモノを持っているなんて、半ば常識である。提督が進んでセクハラまがいの事をした訳でもない。

 

 情状酌量の余地は十分にあるだろう。

 

「……私は、その」

「ふふ、ぶっちゃけ私はエロ本にかこつけて提督をからかいたかっただけだし。そろそろ許してあげよっか大井っち」

「え? ……き、北上さんがそう言うなら」

 

 北上、大井の二人もそれで良いようだ。なら、新入りである僕も先輩に倣うとしよう。

 

「時雨も、それで良いか?」

「安心して、提督。不幸の雨は、いつか止むさ」

「この子日本語喋ってるの?」

「また、キャラが濃いのが入ってきたね~」

「これは了承ととって良いのか?」

 

 むぅ。少し詩的な表現をしただけじゃないか。

 

「ただね? 最後に一個だけ質問させてほしいなぁ」

「何だ北上」

 

 こうして、提督エロ本事件は大団円を迎えた────かに見えたのだが。ニヤニヤと笑みを崩さぬ北上が、からかうようにエロ本の山の頂点を指差して。

 

「その、エロ本の山の頂上に置かれている……JKなんちゃら? って本の表紙の娘」

 

 提督に見せびらかすかの如く、手に持ってその本を突きつけた。

 

「大井っちにそっくりなのは何で?」

 

 見れば。その本の表紙でセクシーな怪しい服を着て笑う胸が丸見えの女性は、どことなく大井さんに似ているのであった。

 

 

 

 

 

「……」

「えっ? えっ!?」

 

 大井は顔を真っ赤にして、首をぶんぶん振っている。

 

「この質問に答えてくれたら黙っておいてあげる~」

「偶然だぞ」

「そういうのは良いから~」

「偶然だぞ」

 

 一方で提督は真顔だ。これ以上辛い状況があるか、と言いたげな苦難の顔だ。

 

 御愁傷様です。

 

「エロ本の事、言いふらしちゃおっかなぁ」

「ごめんなさい俺の趣味です」

「えっ、えっ、ええっ!!」

「罵倒プレー、かぁ。マニアックだねぇ」

「お願いだからもう勘弁してください」

 

 とうとう、提督から泣きが入った。

 

 顔を真っ赤にして、沈黙する大井。心底愉快と言った表情で、エロ本を片手に提督をからかう北上。やれやれといった態度で、事態を静観する天龍。

 

「もう、その辺にしとけ北上」

「ぷっくくく、そうだね~。ごめんごめん、からかいすぎたか」

「そのっ提督っ……、それは、それは困ります!」

「いっそ殺せ」

 

 だがその時、僕は。僕だけは、気付いてしまった。

 

 気付いてはいけない事に。気付かなければ良かったことに。誰も口に出さなければ、きっと平和だったとある事実に。

 

「……ねぇ、提督」

「時雨まで、何だっていうんだ!」

「いや。……その、大井さんのエロ本の下のさ」

「私のエロ本じゃないわよ!」

 

 そう。先ほどまで大井さんのエロ本に隠れて見えなかった下に隠されていた、もう一冊のエロ本のタイトル。

 

 僕には、その表紙が目に映ってしまったのだ。

 

「ロリロリ……天国? その本の表紙……、文月ちゃんに似てないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 提督は再び地面に正座しました。

 

「これは……ダメだろ」

「これは……ダメだねぇ」

「キモい。いいえ、キモいという次元を超えてグロい」

「また……雨が降って来たね」

 

 大井に似たエロ本くらいならギリギリ許せる。でも、文月ちゃんは駄目だろ。絶対に駄目だろ。

 

「この本の表紙の娘が、文月ちゃんに似ているのは何で?」

「俺の……趣味です」

「流石にドン引きだよ提督」

 

 言い訳しないのは男らしいけど、だからと言ってこれはない。提督は子供にすら性欲を向ける野獣だと分かってしまった今、僕は提督に嫌悪感しかない。

 

「これどうするんだ? 憲兵さんとかに通報するか?」

「本部に入電でいいんじゃない?」

「許してください……許してください……」

「此処まで下手に出てる提督は初めて見るわね」

 

 地面にめり込むんじゃないかと思うほど、提督は頭を地面に擦り付けている。でも、どれだけ土下座しようとも提督の評価が覆ることはないだろう。

 

「文月の身が心配だから、憲兵に連絡するのは確定で」

「私たち艦娘全員で結託して、この男を更迭しなければストライキを起こすと本部に迫りましょう」

「良いね。それくらい強く言えば、きっと本部も動いてくれるさ」

 

 取り敢えず、一刻も早く通報せねば。提督はロリコン。僕自身、身の危険を感じている。

 

 すると、提督は頭を下げたまま。涙声になり、ゆっくりと言葉を発した。

 

「すまなかった……。俺は万に一つでも、お前たちを傷つけたくなかったんだ」

 

 大の男が泣きじゃくり、土下座をしたまま話している。その異様な光景に動揺し、天龍さんの電話の手が止まった。

 

「美人、美少女ぞろいの鎮守府で男は俺一人だ。提督が性欲のコントロールを失敗すると、それはそれは悲惨なことになる。それで、この間一つ鎮守府が崩壊したらしい」

「……」

「認めるよ、俺は異常性癖者だろう。だが、そういうのを抜きにしてもお前らが大切なんだ。万に一つでも、傷つけることがあっちゃいけないんだ。だから、そんな本を沢山集めていた」

「提督……」

「俺を通報するのも、更迭するのも受け入れよう。……だが、怖がる娘がいたらいけない。どうか、俺が去った後も爪痕を残さないよう、俺の異常性癖については胸にしまっておいてほしい」

 

 そう言うと。ポタポタと涙を執務室の床にこぼしながら、提督は声を絞り出した。

 

「後生だ」

 

 

 

 そ、そこまでされると少し同情する気になってくる。

 

「ど、どうするよ」

「……まぁ、実際誰にも手は出してないみたいだしねえ。ちょっとドギツいエロ本くらいならまぁ」

「事前予防は大事よ北上さん。文月ちゃんに危険が及ぶ前に更迭したほうが……」

「また、風が変わったね」

「時雨、こうしてみると結構面白いなコイツ」

 

 だが、文月ちゃんに危険が及ぶのは避けたい。今は性欲を自ら律しているようだが、やがて堰を切ったかの様に暴走したら目も当てられない。

 

「あ、面白いの見つけた」

「何、北上さん」

 

 ところが、ここで北上が、また新しく何かを見付けたようだった。

 

 彼女が興味深そうに手に持っている、そのエロ本のタイトルは。

 

「『純和風おさげっ娘の大胆露出』、この表紙の娘は時雨にそっくりじゃん」

「うえ!?」

 

 どことなく、僕に雰囲気が良く似た娘が裸コートでVサインをしているエロ本だった。

 

「ねー提督、このエロ本の娘は何で時雨に似ているの??」

「今日配属されると聞いたからな。予習だ……」

「予習!?」

 

 何だそれは!? この提督は頭おかしいんじゃないか!?

 

「予習って何!? 何でわざわざ着任初日に僕に似た娘のエロ本用意しているの!!」

「あ、時雨がちょっと素出てる」

「作ってたのか、あの不思議キャラ」

「多分、今日は時雨似のエロ本を楽しむつもりだったんじゃない? 一番新しいし」

「うわああああああ!?」

 

 この野郎! ちょっと同情する気になったらこれだよ!! 何で配属したその日に僕似のエロ本が用意されてあるのさ!!

 

「これあれだな。下手したら全員分のエロ本用意してんじゃねぇか」

「つまり、天龍のもあるってことだね」

「てか見つけました。この『激チョロ眼帯オレっ娘を騙して』、これ天龍でしょ」

「誰が激チョロだコラァ!!」

 

 次に大井が持ち上げた本には、眼帯を着けた髪の短い女性が喘いでいる写真だった。天龍さんと雰囲気がそっくりである。

 

「私のはどこかな~。っと」

「どうした北上」

「……」

「え、どうしたの北上さん!?」

 

 そう呟き半笑いでエロ本の山を掻き分けていた北上。だが、突然に彼女の顔が凍り付いた。

 

「提督、男もイケるの……?」

「……ああ」

 

 そんな彼女の手に握られているのは、同性愛本。

 

 北上は、濁り切った眼で『本格的、海軍筋肉祭り』を手にもってページをめくっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、許してやるか。文月だけ狙ってる訳じゃなくて、単に全員分の似たエロ本用意してるだけっぽいしな」

 

 結論として、提督はこの鎮守府に所属する艦娘のほぼ全員分を用意していた。見つからなかったのは、北上似のエロ本くらいである。

 

「滅茶苦茶に気持ち悪いわ」

「てか私に似たエロ本だけなくない?」

 

 これには、一同苦笑いである。どんだけ性欲旺盛なんだ、この男は。

 

「文月だけに偏執的に興味を持ってる訳じゃないんだな」

「男まで対象範囲とか……」

「……エロ本に関しては黙っておいてあげるけど、僕には今後仕事以外で話しかけないでね提督」

「ああ、分かった」

 

 エロ本を収集する趣味は、正直気持ちが悪いけど。提督は実際に誰かに手を出したり、セクハラまがいの事をしている訳じゃない。

 

 今回は見逃してやろう。僕達は、話し合いの末そう決断した。

 

「提督、最後に質問。何で私のエロ本だけないのさ」

「北上は趣味じゃないからだ」

「ようし。砲雷撃戦、いくよー」

「落ち着け北上」

 

 若干1名、唯一エロ本を用意されてなかった北上の額に青筋が浮かんでいるが。

 

「それより、そろそろエロ本隠そうか」

「お、あんなところにシュレッダーがあるぞ。あそこに隠せばよくないか?」

「名案だね」

 

 シュレッダー程、このゴミを隠すのに適した場所は無いだろう。

 

「許してください。時雨のはまだ未使用なんです」

「じゃあ僕の本からだね」

「ぎゃあああああ!!!」

 

 僕は無表情で『純和風おさげっ娘大胆露出』を粉微塵に粉砕した。満面の笑みで露出とか痴女じゃないか。

 

 その後、意気消沈した提督の前で淡々とエロ本をシュレッダーにかけていき。残りは数冊、となった状況で事件が起きた。

 

 

 

「た、大変です提督!! 元帥閣下が抜き打ちで視察にいらっしゃいました!!」

「な、何だと!!」

 

 

 

 そう。

 

 不幸にも、軍規の弛みを予防するため時折行われる『元帥自らの抜き打ち視察』が今日行われたのだ。

 

「今日視察されるのは洒落になってない!!」

「おい、急げ!! 急いで残りのエロ本も隠せ!!」

「シュレッダーかけてる時間無いよ!! この量なら取り敢えずクローゼットに突っ込んでおくね!」

「それでいい!!」

 

 提督と艦娘が執務室でエロ本を囲んでいる図など、元帥にバレたら軍法会議モノである。

 

 間もなく元帥が執務室に来るらしく、一同は慌てて身嗜みを整え敬礼し待機した。

 

 

 

 

 

 

「どれ、失礼するよ」

 

 やがて。渋い声色と共に、執務室のドアがノックされる。

 

「わざわざお越しいただき光栄であります、元帥閣下! 一同、敬礼!!」

「はっ!」

 

 ギィと音を立ててドアを開き、老齢の筋骨隆々な偉丈夫が部屋に入ってきたのを見て、僕は最敬礼をとった。目の前にいるのは海軍の最高責任者である。少しでも無礼を働けば、即座に解体されてもおかしくない。

 

「突然訪ねてきてすまんね。近頃は、少々提督に任じられたものの風紀が乱れておってな? 抜き打ちで視察させてもらっているのだ」

「はい、大変嘆かわしい事です閣下」

「確かに、艦娘達は非常に美人である。若い男が食指を動かされるのも致し方ないと言うもの。だがしかし、複数の艦娘に同時に手を出して大惨事となった鎮守府も存在するのだ」

「聞き及んでおります。己の理性すら律することが出来ぬとは、我が同僚として実に恥ずべき思いです」

「それでだな。……まだ公式発表はしていないのだが、新たにケッコンカッコカリという制度を導入する事とした。これは交際相手────艦娘の了承を得たなら、疑似的な婚姻関係を結ぶことを許可するものだ。つまり、艦娘との結婚を合法化する第一段階だな」

「な、なんですと!!」

 

 元帥はニコニコと人がよさそうな笑みを浮かべて、小さな小箱を取り出した。おそらく、結婚指輪が入っているのだろう。

 

「堂々と艦娘に交際する許可が下りれば、件の鎮守府の様な不貞行為を防ぐことが出来るだろう。それに、どうしても艦娘と結婚したいと直訴する提督も多くてな」

「閣下。艦娘は兵器であり、部下であり、戦友です。恋愛感情により結ばれるのは、軍として好ましい事とは思えません」

「む。貴殿はこの制度に反対か」

「上司と部下の区切りはつけるべきでしょうな。少なくとも当鎮守府でそのような制度が生まれてしまったら、むしろ艦娘側も困るでしょう。上司から恋愛感情を向けられては、断り切れぬものもいるかもしれません」

「……ふむ。一つの意見として受け止めておこう」

 

 だが、ウチの提督はその制度を真っ向から否定した。ケッコンカッコカリ、か。素敵な制度だとは思うけれど、この提督に迫られるのは確かに怖いな。

 

「本来ならば、視察した鎮守府の提督に『ケッコンカッコカリ』用の書類一式と指輪を支給していたのだが……。君は、ケッコンカッコカリを希望しないのかね」

「無論です。艦娘に恋愛感情を抱いてはおりませんし、向けられても居ません。むしろ、怖がられている節があるくらいですな」 

「うむ、実直なり。君はあまり、女人や色事に興味がないのだな。軍人としては、貴殿の方が正しいのかもしれん」

 

 元帥閣下は朗らかに笑う。いえ、その人は隠しているだけで、女人に凄く興味津々です。しかも、守備範囲が半端なく広いです。

 

「では、私は帰るとしよう。引き続き、この鎮守府の健闘を期待するよ」

「必ず、ご期待に添いましょう」

 

 そう言って、提督は再び敬礼をした。その答えに満足そうに、提督はゆっくりと立ち上がる。よかった、もう元帥閣下は帰るみたいだ。あー緊張した。

 

「……む、いたた。すまない、クローゼットに足をぶつけてしまったか」

「……あっ」

 

 その時、立ち眩んだのかバランスを崩した提督がクローゼットに寄りかかり、中から1冊の本がはらりと落ちてきてしまった。

 

 まずい。あの中にはさっきまで僕達が処分していたエロ本の残りが入っている。これでは、提督のメンツは丸つぶれ────

 

 やがて、元帥は目の前の本に気付いて手に取り。その『夜の大元帥』と題された表紙に写る、元帥(じぶん)にそっくりなマッチョなお爺さんのヌード写真に瞠目した。

 

「これは……、一体っ!!」

「俺の趣味です」

 

 後日提督は、元帥の居る本部から滅茶苦茶離れた辺境の鎮守府に更迭された。

 

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