ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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原作キャラがボロボロ出ています。
ただ、ここ最近ヒロインが欠場しているので、次回から出そうと思います。



『不運 - Unlucky-』

あの最上級大虚の討伐から早くも一年と八か月。

自分が初めて入った時から数えると三十五年。

あの後の藍染を追いかけてはいた。

徘徊なのは間違ってはいない。

しかしどうも解せない。

そう思って何度か声をかけていた。

何名かは思惑から逃れただろう。

こいつはよく見ておかないといけない。

警戒から遠ざけても問題しかないだろう。

 

「魂魄の塊みたいなものだったが……」

 

中には死神の素養を持っている奴もいた。

そいつらから魂魄を削り取っている。

その目的は理解できていない。

 

「斑鳩さん!!」

 

後ろから声をかけられる。

その声の正体は……

 

「東仙か、どうした?」

 

わざわざ追いかけてこなくてもいいのに。

自分が幼馴染の綱彌代副隊長を救ったと知ってからお礼を言いに来た。

それ以降、このようについてくる。

 

「今日も道場で一戦交えさせてはいただけませんか?」

 

浅打での戦いなのだがな。

切り傷も当然できてしまう。

刀を握るのを怖がっているようにも見える。

だがそれでも押し留めて毎回向かってくるのだ。

 

「分かった、道場に行くか」

 

そう言って現在、東仙が所属している九番隊の道場を借りる。

久南さんの面倒を見せられているらしい。

速く誰か来ないかと思うほどに振り回されているとのこと。

 

「反射的に半歩で避けられるように常に構えろ」

 

構えにも指摘をする。

俺のように戦いを楽しむことをしない。

ならば致命傷の危険からなるべく遠ざけよう。

それこそがこの男にはいい。

 

「俺は初めて刀を握る事が怖いと思えたよ」

 

そう言って構える。

自分を慕ってくれる男を斬り殺しかねない力。

同期の誰よりも突出しているという事実。

あの人以外、指標がないゆえに崩れていた常識。

それをまざまざと見せつけられた。

 

「自分の握る刀に怯えないものに、その刀を握る資格はありません」

 

そう言ってほほ笑む。

それがお前の持論か。

深いものを感じるな。

そしてきっとそれは正しい。

 

「じゃあ行くぞ!!」

 

刀を打ち付けあう。

本気ではやっていない。

きっとあの人もこんな気分だったのだろう。

自分の力を脈々と受け継ぐもの。

それが現れる事の、なんと甘美な事か。

吸収していき、強くなっていく者の、なんと頼もしき事か。

 

「そっちの攻撃は羽織に掠りもしないな」

 

半歩で避けていく。

受けそうなときは叩き落す。

喰らっていい気にさせるつもりはない。

 

「それでも前回よりはこちらも避けています」

 

軽やかに避けていく。

無駄がないほどだ。

 

「だが……」

 

無駄がないからこそ読める。

それが最短、最速。

分かりやすすぎるのだ。

騙し合いに向きそうにもない動き。

洗練されれば見抜いたところで無意味と言えるのだろうが。

 

「少しは緩急を交えてくれ」

 

浅打を弾き、喉元に突きつける。

鮮やかな動きでまずは一本。

言っておくがこれが実際の殺し合いなら終わっている。

 

「はいっ!!」

 

そう言うと瞬歩と軽やかな動きで惑わせにかかる。

なかなかに実行力が高い。

自分の教え方が上手いとうぬぼれる気はない。

こいつが素直だからこそなしえる事だ。

 

「だが、それでも……」

 

軸のブレが見えている。

慣れない動きだからな。

そんな隙を見せすぎたら……

 

「格好の的だぜ」

 

速く動いた瞬間に合わせて密着するように瞬歩で詰める。

そこから離れようとするが体勢が崩れる。

その瞬間、腹から喉笛を切り裂くように刀を動かす。

斬れてはいないが二本目。

 

「全力で真剣にやらせてもらってもいいか?」

 

木刀を借りて了承を得ようとする。

当然いいと東仙は頷く。

じゃあ、心おきなく……

 

「きええええええ!!!」

 

雄たけびと共に瞬歩で懐へ。

その姿に驚いて反応が遅れる。

いちいち驚いたら持たねぇぞ。

 

「しゃあっ!!」

 

刀を弾き飛ばし首筋に一閃。

寸止めをするが三本目を取る。

刀を拾い直して瞬歩をするが……

 

「どこに行く気だ?」

 

横っ面から叩きに行く。

ただの動きが瞬歩以上の速度。

埒外の存在。

そのように感じているだろう。

 

「はあはあっ……」

 

今、奴は霊圧をどう感じているのだろう。

息が詰まるぐらいなのか?

今にも意識が彼方に飛びそうな憔悴度合いだ。

周りを見渡すと倒れている俺を含めた三人以外の隊士が倒れている。

普通にしているのは久南さんぐらいだ。

とは言っても冷や汗をかいているが。

 

「倒れるにはまだ早いぞ」

 

そう言って五度目の一撃を放ちにかかる。

ゆらりと揺れる様に。

風が吹き、飛んでいく蒲公英(たんぽぽ)の綿毛のように。

東仙の体が舞い上がった。

脱力をしてしまった事により、体が飛ばされたのだ。

その瞬間に体勢を立て直して懐に入り込んできた。

 

「はあっ!!」

 

唯一の機会。

そう信じて疑わない。

だが……

 

「まだ喰らってやるわけにはいかないな」

 

速さがまだ未熟だ。

偶然ともいえる懐への入り込み。

それを逃さないようにするのはいい心がけだ。

刀を弾き飛ばして心臓に対して突きつける。

 

「やはり強いですね」

 

微笑みながら鞘に収める。

だがまだまだこちらをじろりと見ている。

きっと全力だったか調べているのだろう。

始解も使っていないのだからまだまだ底は見せてはいないけれどな。

 

「お前に一太刀でも浴びせられたなら、調子づかせかねないからな」

 

それが成長の妨げになってはいけない。

故に厳しく。

強い一撃で戦っている。

 

「一太刀ならば次は二回浴びせられるように努力するまでです」

 

汗を流しながら通る声で言ってくる。

それは嘘偽りのない真っ直ぐな一言。

その向上心はきっとお前に力を名誉をもたらすだろう。

 

「体の汗を流して任務に戻れよ」

 

そう言って四番隊の隊舎に戻る。

仕事をした上でなので卯ノ花隊長からも咎められない。

それにしても詰まらないな。

今日はひよ里さんも矢胴丸さんと食事に行くと言っていたし。

 

「仕方ないな……」

 

副官室に入ってある研究成果の論文を取り出す。

そして興味深い部分から伝がないか確かめに行く。

当然『蛆虫の巣』だ

 

「久しぶりだな、涅」

 

足に枷をつけた状体でこちらを見てくる。

こちらが前に見せた論文についてはどうだろうか。

そちらの知能の高さから見れば十分に改良の余地があるはずだが。

 

「『被造魂魄』については非常に興味深い、確かに私も夢見る題材だ」

 

しかし、段階まで事細かに書くのは凡人ゆえの不安さからだ。

確かに懸念している部分は間違っていない。

そこを埋める最善の手をその間に見つかれば十分に短くなる。

そう言われてしまうとぐうの音も出ない。

 

「で、何の用事だネ?」

 

滅却師(クインシー)の生体が欲しいのだ。

相反するものとの力の合致は思わぬ恩恵をもたらす。

研究し尽くしてはいるだろう。

しかしさすがの涅と言えどもわざわざくだらない部分までは見ないかもしれない。

 

「奴らの生体が欲しいとハ…」

 

研究済みのものなのにいまさら……

そう言いたげな顔である。

それに対してこちらも意見を言う。

 

「光の矢が奴らの霊圧ならば凝縮したら、面白いものに使えるのではないかと思ってな」

 

霊圧の制御が必要になる。

それに武器を相手に構えさせるという危険性も付いて回る。

収穫を考えても、間違いなく割に合わない研究内容。

それは予想外の内容だと顔を歪ませた。

 

「本命はそれだけじゃあないだろう?」

 

しかしそれを見せたのも一瞬の事。

先の事を見据えているのではないか?

それを言っているのだろう。

当然、興味の対象はまだある。

しかしそれは一つの事柄を終わらせてからだ。

 

「あくまで研究の為だ、まずは解明が先だよ」

 

だから次の滅却師を捕らえる機会はあるのかな。

それを聞かせてほしい。

 

「確かに護廷十三隊の中に息がかかった奴はいるガ……」

 

それだけではうまくいかない。

死んだ状態が欲しいのならばわかるが、生きたまま連れてくるのはね。

そう言われてしまった。

自力で連れてくるか。

 

「じゃあ、また研究論文について話し合おう」

 

そう言って去っていく。

また、浦原には小言を言われた。

あいつを瞬時に気絶させて鍵だけ奪う。

それだけでも面倒な内容だ。

理解を示して入れてくれたらいいのに。

 

「お前も分かっているはずだ」

 

罪を犯したわけでもない。

それにあれだけの頭脳。

適材適所を与えればどこまでも有益な結果を生んでくれる。

 

「分かっていますがそれだけの力がありませんから」

 

好きにできるほどの権限は無いからな。

でも、それならそれでこういった事をするしかない。

会うのに許可がいる奴なぞ居ない。

それはお前が閉じ込めているから必要になっているだけだ。

 

「しかし……」

 

どうやって捕まえようか。

それを考えながら歩く。

すると変な歪みが見つかった。

それが何かは分からない。

 

「これは一体?」

 

藍染を見つけた時のように、その空間を掴む。

しかし次の瞬間、それを弾いてきた。

まるでそこに何かがある様に。

 

「見つけたのはお前の『幸運』、そして入れないのはお前の『不運』」

 

そんな声が聞こえてきた。

その歪みは消えていく。

一体その向こうに何が存在するのか。

 

「山本総隊長に相談するか」

 

遮魂膜の内側に居る。

正体不明の存在。

それが何を意味するのか。

 

.

.

 

逐一の報告が必要。

そう思ってすぐに一番隊舎へと赴く。

雀部副隊長を同席させたうえでの話。

 

「一体どういう事なのでしょうか?」

 

苦い顔をしている総隊長。

顎に手を当ててしばらく考え込む。

そして口を開いてこちらに質問を返してきた。

まだ、答えてもらってはいないのだけれどな。

 

「歪みがないとそれは確認できんか?」

 

鬼道の跡ならばまだ追跡で確認可能。

しかしそれではないので偶然。

今回の場合は本当に緩んだ綻び程度。

普段から出るものではないと推測できる。

そのように伝えると頷いてこちらの言葉を汲み取る。

 

「奴らには最大限の注意を」

 

混乱を招かないように、内心にとどめよ。

それだけ伝えられる。

一体何者だったのか。

そういった情報の提示はなかった。

帰る様に言い渡されたため、仕方なく一番隊舎から出る。

 

「興味や好奇心で調べる範囲ではないという事か」

 

苦い顔をしている以上、何かしらの関係はある。

因縁なのかもしれない。

いずれにせよ、調べたり吹聴すれば総隊長から拳骨を振り下ろされかねない。

 

「随分と浮かない顔しとんなぁ」

 

平子さんに声をかけられる。

今日は非番だったか?

いや、この人の事だ。

部下に押し付けて職務を放棄しているのだろう。

 

「いや、ちょっと考え事で」

 

滅却師など知る由もないだろう。

無意味に混乱を作ってもいけない。

すると内容を勘違いしたのか。

思いっきり関係ない部分を聞いてきた。

 

「藍染の事か?」

 

あいつに対して気を配っているらしい。

しかし刀の欠片までは持ってはいない。

いずれはあいつに謀られる。

微細に砕いておいたものを仕込んだお守りでいいか。

 

「違いますけどね、まあそれも悩みの種ではあります」

 

あいつが時折見せるのは寂しい顔だ。

あいつの実力が並外れたものだと肌で感じ取れる。

そしてそれに並べるものが同世代に居ないという事。

理解されることも全くないという事。

 

「真意を量れない」

 

あいつが凶行に走らないように。

先達としてみてやるべきではないだろうか。

悩みを打ち明けるなり、腹を割って話し合いたい。

 

「あいつは危険な奴や」

 

それについても同意はできる。

だからと言って見捨てるような真似はできない。

あいつを理解したらきっと……

 

「足元すくわれるなや」

 

明らかに呆れた顔をして去っていく。

そうやって警戒して距離を取っておけばいいってわけでもない。

あの男の頭脳ならば一歩先を読んでくるだろう。

 

「そっちこそ、距離取り続けててもだめですよ」

 

こっちはこっちであいつを探る。

そしていずれ、あいつが自分から歩み寄り打算もなく打ち明けてくれたなら。

初めて仲間と、友と言える。

そうなりますようにと祈るような気持ちで心を満たしていた。




まさかのひずみを感知。
あのまま出ていくと実はユーハバッハからしたら絶体絶命。
まだ鼓動すら取り戻していないので普通にやられる危険が大きいです。

東仙が本気の霊圧に耐えていますが、まだ実は手加減しています。

今の斑鳩の実力としては普通に並の隊長格以上はあります。
最終地点はどうしたものかと悩んでいるくらいです、
そして、東仙の檜佐木への教えが斑鳩経由と言う設定です。
ただ、師としても東仙の言葉に動かされています。

何かしらの、ご指摘ありましたらお願いします。

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