ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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いい加減拮抗した戦い、書かないといけませんね。
ヒロイン成分も少なくなってしまいました。
次回こそはもっと日常ぽくしていきます。


『称号 - Degree- 』

東仙が戦いを挑むようになって、はや五年。

皆、同期が副隊長から第四席ほどになっていた。

ひよ里さんが第五席のまま、変わらない。

実力はあるが、老練な相手が多く引退待ちという感じなのだ。

あとは、平子さんが副隊長で愛染が第五席。

拳西さんが九番隊に移籍して副隊長になったぐらいか。

 

藍染とは話はするが相変わらずかわされる。

深いところまでは知られたくないとする形だ。

壁を作られている気がする。

 

この五年間でいろいろ研究もはかどった。

郊外のあばら家に今までの研究を持ち込んでいる。

誰かが不法に入ろうとすると爆発するような仕掛けまで施した。

機材も自分で作ったりしていた。

時間はあったし、自分に合ったものを買いあさるのは面倒だから。

『ぎやまん』も結構高い。

 

「しかし魂魄に関しての研究は進まないな」

 

死亡した死神隊士の魂魄と狩った虚の魂魄を合わせていた。

相反しないものを組み合わせるとどういった事になるのか。

好奇心でしかない。

融合をしていくのまでは分かった。

境界線が徐々に崩れていく様も確認できた。

 

「力を求める場合はやむなしだろう」

 

ただ、こんなものは封印するに限る。

この経過観察以外はすべて残りの魂魄を消滅させておいた。

自分の中に成果は全て残っている。

 

「生体に組み込むこともやめておくべきだ」

 

毒性が強い場合、あっという間にこれは進む。

死んだ肉体故に結果は取れてはいない。

しかしきっと感情の昂ぶりなども原因になり得る。

 

「そして……」

 

自らの血液から作り上げた生体情報。

そこから生み出すための試作段階。

本格的な始動は涅の力が不可欠。

 

「やはり魂魄は不安定な状態か」

 

糸のような存在。

遺骸は保存しておかないといけない。

研究資料、論文は涅に連携しないと。

 

「脳髄の元がないし、細胞分裂の部分についてもかなり敷居が高い」

 

先に脳から作らないといけない。

大脳が核となる考え方。

最終的に感情や記憶を司るものだ。

この計画に終わりが来る事は無い。

その理論が正しければの話だが。

そう言ってあばら家から出ていく。

.

.

 

「最近、なんかやってるんか?」

 

とある昼休みにひよ里さんから聞かれる。

研究をしている事を伝える。

魂魄はどういった構造から現状成り立つのか。

そういった形でぼかしておいた。

 

「そんな小難しい事もするんやな」

 

刀での鍛錬馬鹿と思ってた。

そう言われてしまうと返す言葉は無い。

 

「それはそうと聞いてるか?」

 

最近、鬼厳城五助という男が目撃されたらしい。

その強さは現在の十一番隊の隊長以上とのこと。

痣城の『剣八』は投獄だから特例で認められた隊長。

だから実力が劣っていても無理はない。

 

「つまりぽっと出が侵入してきて十一番隊の隊長を殺して隊長になるんや」

 

そうなる前に動かへんのか?

そう言われるが興味がない。

 

「『剣八』を名乗るとしても適切でなければ動きますよ」

 

皆にも言っていないが卯ノ花隊長の本性を知っている。

全ての流派を極めた人、『八千流』であること。

そして、初代『剣八』であること。

あの人以外が名乗る事は『同じ時代に一人』というしきたりに従って動かざるを得ない。

 

「まあ、負ける方が悪いとしか十一番隊については言えません」

 

つまりはあの人に斬り殺される可能性がある。

仕方なく動いていないだけだろうが。

仮にあの人が殺せというならそれも辞さない。

『剣八』に相応しくないと決めればの話だ。

 

「それとも俺がなれって意味ですか?」

 

そういう意味やねんけど。

そう返されても困る。

仮に『剣八』であの人がふさわしいと認めた相手が来たら……

護廷十三隊にとって戦力を失う。

それに鬼厳城を殺せたらその時点で俺もかなりの戦力だ。

 

「実力で決まるのはいいですが、突然現れてしまうものですから」

 

死と隣り合わせの隊長なんて辛すぎる。

きっと実力に覚えがあってもしたがらない。

臆しているわけではない。

己を超える実力者がいずれきっと現れる。

 

「まだ見ぬ強敵って奴か」

 

俺の眼差しが臆病から来ているわけではない。

それを分かったから冗談だと、ひよ里さんは言ってくれる。

まあ、鬼厳城が十一番隊に入る際、酷かったら斬るやろ?

そう言われて頷く。

治安を乱すのであれば無論。

 

「まあ、見てみないと強さは分からないので」

 

そう言って立ち上がって二人して店を出る。

しかし噂になるほどの強さ。

卯ノ花隊長に話を通しておくか。

 

.

.

 

「如何いたしましょうか」

 

人払いをした隊首室。

髪の毛を降ろした『八千流』の状態で話を聞く。

髪をかき上げて一言。

 

「捨ておきなさい」

 

そんな有象無象など、私からすれば意味がない。

それに質が下がっている。

まだ七代目と八代目はいい方だった。

その目は確固たる無関心があった。

 

「私がただ一人『剣八』に相応しいと認めたもの以外が名乗っても所詮はまがい物、最も刀を引き継いだ貴方には及びません」

 

つまり護廷十三隊でも自分がかなり強いものだと認められている。

しかし、この方が認めている『剣八』は俺よりも強い。

面白い事だ。

やはり見えないところで強者は存在する。

 

「しかし、品行などがあまりに悪かったりすればうっかりという事も有ります」

 

護廷十三隊の隊長としてあまりにも不適格であれば切り捨てておくに越した事は無い。

迎合をしても何の利益ももたらされないからだ。

 

「捨ておきなさいの意味が分からないのですか、『どうでもいいのです』よ」

 

それはすなわち、鬼厳城の生死すら大した問題ではない。

俺が見つけ出し、斬り殺してしまおうと。

返り討ちになるはずもない。

そう信頼している。

 

「それでは如何ほどにもさせていただきます」

 

そう言って去っていく。

興味をあそこまでなくした眼差し。

つまり『剣八』として不適格と言った確信。

 

「強さなのだろう」

 

あの人が認めた力。

それこそが不可欠。

『剣八』を受け継ぐにふさわしい者。

 

「居るであろう流魂街にでも行くか……」

 

『剣八』を穢す者になり得るのであれば粛清を。

あの人の名を穢す事に他ならない。

 

「さて、行くか」

 

羽織がよく見えるように、副官章をつけたままだ。

荷物を持っていく。

これは喧嘩を売ってきても、こちらが喧嘩をしても誰かわかるようにしている。

報復ならば俺に直接来いという意思表示だ。

 

「あっ、死神だ」

 

町の人々も俺を見て手を振る。

これは何かくれと言う形だ。

礼儀とかもそれほどない。

お菓子の袋や水瓶を道端の邪魔にならない場所や軒先に置いておく。

 

「わあっ!!」

 

目を輝かせて取りに行く。

皆に平等にわたる分の大きなものを選んで持ってきたからな。

数里ほど、向こうで嫌な雰囲気を感じ取る。

 

「これは危ないな」

 

俺の望みがかなうという予感。

しかし、それと引き換えに危うい事が別の誰かに起こっている。

瞬歩をしてすぐに駆け付ける。

 

「ぐあっ……」

 

到着寸前に酒盛りをしてると思われる場所から投げ飛ばされる人影。

その人物と羽織を見る。

何名か積まれているが絶命している。

 

「治安の為に回っていた九番隊じゃないか……」

 

席官でも一桁の人。

それが襤褸雑巾のようだ。

そんな状態を治療する。

 

「無法地帯なだけあって建物も崩れかけてる」

 

投げ飛ばされていた場所の前に立つ。

霊圧を感じ取っているのか。

近くの人は震えたりしている。

 

「やめてよ!!」

 

入り口で声が聞こえる。

聞き覚えのある声だ。

怒りの為か、張り上げた叫び声が聞こえる。

 

「何事だ!!」

 

俺はすぐさま入る。

目に映ったのは服を引き剥がされそうになっている久南さん。

これはまずいと思って即座に無詠唱の鬼道を使う。

 

「破道の三十三『蒼火墜』!!」

 

顔面に喰らって相手が手を離す。

その腕を掴んでこっち側に引き寄せる。

 

「あっ……ありがとう、たけるん」

 

久南さんがお礼を言ってくる。

俺は振り返らず、相手を睨み付けている。

絞り出すように久南さんに言う。

 

「ここから離れて、そして三名の隊員の隊葬の用意を」

 

俺の怒りを感じ取っているのか。

頷くとすぐに出ていった。

相手も俺に対して殺意を漲らせた目を向けてくる。

 

「てめぇ!!」

 

不意打ち気味に拳を喰らう。

壁を破って、隣の無人の廃墟に埋もれた。

 

「この鬼厳城様に喧嘩を売ってんのか、まあ死んだだろうがよ」

 

そんな声が聞こえたので起き上がる。

あれが鬼厳城か。

斬り捨てて問題の無い奴だな。

それに対峙したときに、恐怖心もない。

負ける気がまるでしないのだ。

 

「この程度か、かゆいんだよ」

 

壁を破った程度でいい気になりやがって。

全然痛くない。

これが『剣八』を名乗るなどおこがましい。

 

「もっとしっかり来い、下劣な豚が」

 

その言葉に顔を怒りで赤くする。

そして蹴りを繰り出す。

それを掴んで持ち上げた。

 

「なっ!?」

 

自分の巨体を持ち上げるとは予想外だったか?

見た目で判断して愚かしい奴だ。

そのまま地面に叩きつける。

 

「速く起きろ」

 

腹部に蹴りを叩き込む。

その一撃で体が浮く。

 

「げべっ!!」

 

呻き声を上げて転がる。

そんな兄貴分を見て激昂した手下が後ろから殴り掛かってくる。

その腕を掴んで一気に握りつぶした。

 

「ぎゃあああ!!」

 

斬り捨てていくか。

『浅打』を引き出して、トントンと頭に当てる。

相手にも意味が分かったのか、青ざめている。

悪いが俺は仲間を三人もやられて黙っているほど仏ではない。

それに久南さんに乱暴を働こうとしていたからな。

 

「死ね」

 

ただその一言。

脳天から綺麗に真っ二つ。

ぱっかりと左右に分かれて、どしゃっと音を立てて鮮血が噴き出ていた。

 

「手前、よくも!!」

 

起き上がった鬼厳城が怒って刀を抜く。

お前が先に俺の同期や仲間に手を上げていたんだぜ。

怒るのはこっちのはずだがな。

 

「『踏み躙れ』、『犀王(さいおう)』!!」

 

肉体が肥大化する。

そして斬魄刀は刀ではなく槌へと変貌した。

……仕方ないな。

 

「来い、見せてやる」

 

格の違いというものを。

片手で振り下ろしてくる。

別の手があまりに無防備だ。

 

「斬り落として体重を軽くしてやる」

 

居合でその一撃をかわしつつ、腕を斬り落とす。

ぼとりと音を立てていた。

血が噴き出ている腕だった箇所を見て叫んでいた。

 

「ぬがああああ!?」

 

その呆けた面を斬ってやる。

大きさとは強さ。

確かにあるが……

 

「お前程度ではたかが知れている」

 

皮膚が固くなっているなど幾らかの体の増強も有ったのだろう。

だが、そんなものも俺にとっては紙くずだ。

霊圧の差が大きすぎる。

始解もしていないのに。

 

「久南さんが始解もしていない状態だ、粋がっていいわけがない」

 

あの人が始解をしていたら、服を剥ぎ取られそうになる事は無い。

今のお前の始解を使わされていただろう。

実力はよくわかった。

並の隊長格よりは確かに上。

しかしそれでも京楽隊長や浮竹隊長にはかなわないほどと見ている。

もしくは雀部副隊長が本気になったら勝てないだろう。

 

「あの人が俺の相手になりはしないという意味が分かったよ」

 

あの人ならば隊長格が複数人でも勝ってしまう。

そんな人と殺し合う毎日。

そこで生まれた力が『まとも』なわけがない。

『化け物』と言って差し支えない世界の住人に足を踏み入れてしまっている。

 

「やってみろよ、『卍解』」

 

その一言に首をかしげる。

出来ないのかよ。

もう底は知れたってわけか。

 

「死んでもらうぞ、『刻め』」

 

刀を構える。

そして引き抜いて小太刀を出す。

霊圧も始解で上がっている。

 

「なんだよ、その玩具は」

 

俺の斬魄刀を見て笑っている。

実力差を感じ取れない程度なのか。

まあ、どうでもいい。

 

「斬り捨てて終わりにしてやる」

 

ますは、斬魄刀を真っ二つにする。

形に差があろうとも無駄だ。

実力が違いすぎているのだから。

 

「やってみろよぉ!!」

 

歯を食いしばり、怒りのままに振り下ろす。

余りにも遅い。

余りにも荒い。

あの方が冷めた眼差しをしたのも納得できた。

落胆のまま、一閃を放っていた。

 

「すまないな」

 

目標を間違えたわけではない。

斬魄刀を斬って長引かせてもつまらない。

これ以上は面倒だからだ。

初めの一撃で絶命させてやるべきだった。

いたぶるような形になったことに嘆息を禁じ得ない。

 

「斬魄刀のつもりが持っているもう一つの腕を斬ってしまった」

 

再びぼとりと落ちる。

前蹴りを放ってくるか?

そう思って構えるが体が前に倒れてきていた。

 

「おい」

 

低い声で威圧する。

まさか倒れるつもりじゃないだろうな。

 

「仮にも『剣八』を名乗ろうとしたんだろう?」

 

『幾度切り殺されようと絶対に倒れない』という意味だ。

倒れるような奴は死して良し。

やはり貴様には過ぎたもののようだな。

 

「……」

 

無言で倒れていく。

その首筋に刀を当てる。

口を開いていく。

一体何を言うつもりだ?

 

「やめてくれ……」

 

その言葉に冷たい視線を送る。

溜息すら出ない。

こんな奴はあの人が言うように捨ておくべきだった。

いずれは次の『剣八』に殺される程度の存在でしかない。

 

「戦いで殺すのも殺されるのも暇つぶしでしかないんだ」

 

その覚悟と狂った感性。

二つを無くしてはいけない。

命乞いなどもってのほか。

 

「永遠にお休み、『剣八』になれなかった誰かさん」

 

刀を振り下ろして斬り落とす。

返り血を被りながら命の灯火が消えるのを待つ。

 

「誰も彼も蜘蛛の子を散らしたように逃げていった」

 

廃墟から出る。

すると向こうから来る人影がある。

互いに通りすぎていく。

だがすれ違う時に感じた霊圧。

それは俺の細胞に訴えかけてくる。

 

「待て!!」

 

肩を掴んでその青年を止める。

くるりと振り向いた青年。

傍らには少女がいた。

 

「ねー、剣ちゃんに何の用?」

 

剣ちゃんと呼ばれて、さっきの事も繋がって邪推をしてしまう。

まさかこいつも知らずに名乗っている無礼な奴か?

しかしそれが違うと分かる。

まるでそれを名乗る事で何かを夢見るような雰囲気だ。

 

「すまない、少し霊圧に当てられただけだ」

 

そう言って足早に去っていく。

細胞の訴えはこうだった。

この男こそ『剣八』に相応しい。

速く卯ノ花隊長に伝えたい。

その思いを抱えて返り血を浴びた羽織という事も忘れて駆けて行った。




鬼厳城と取り巻きが死んだので東仙の幼馴染分の命は差し引きゼロで。
今回一方的ですが、実力だけ考えたら少なくても三十五年以上は毎日『八千流』状態と斬り合っていますので。
今の傑に勝てるのは死神の中では山本総隊長、雀部副隊長、卯ノ花隊長、京楽隊長、浮竹隊長、そして零番隊の兵主部一兵衛、二枚屋王悦。
……はい、化け物で問題ないですね。

指摘などありましたらお願いします。

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