隊長就任とかの落ち着いた時とかでも良かったのですが、
抑えられるほど大人でもなさそうなので、このような形です。
基本的に直球なので逃がす気がまるでないです。
今、俺は卯ノ花隊長に睨まれている。
正しくは、卯ノ花『八千流』に睨まれている。
あの青年の話をした直後、機嫌が悪くなったのだ。
それも殺気を漲らせていた。
髪の毛も降ろしている。
「その青年が『剣八』に相応しいというのですね?」
その言葉に頷く。
あの霊圧自体は今の自分よりも少ない。
しかし、それは臨戦態勢ではないという事。
さらに付け加えるのであれば力を封じているという事。
際の際までを楽しむような形なのかもしれない。
だが、その奥底に潜んだものの大きさは間違いなく……
「ですがその青年がここに来ると思いますか?」
それは……
強い奴に会えると聞けばあの青年は来るだろう。
しかし、どうしたものか。
「まあ、探す必要はありません」
そう言って笑みを浮かべていた。
しかしそれは凄惨な笑み。
俺があの青年を見た時より幾倍の思いを凝縮したようなもの。
因縁でもあるのだろうか。
「出会ってしまうと疼いてしまいますので……」
羽織の上から胸元をさする。
一瞬になぞった所が僅かに沈んだ。
きっとその場所に傷があるのだろう。
「まあ、私だけではないでしょうが」
確かにあの青年の顔にも大きな傷があった。
実力伯仲なのか。
いや、苦い顔をしているという事は……
「いつの日かここに導かれるでしょうね」
髪の毛をみつあみに戻してにっこりとほほ笑む。
内心では煮えたぎる思いを抑え込んでいる。
それは無理をしているのがわかってしまう。
しかし、それを知ってむやみに連れてきてしまうと余計なお世話。
それはそれで傷つけるようなもの。
「それでは失礼します」
胸にこみ上げる想い。
それは単純な闘争心。
自分の中にこれだけの熱があったとは思えなかった。
あの青年と戦いたい。
そんな顔をしていると声をかけられる。
「どうしたねん、そんな返り血を浴びた羽織着て」
ひよ里さんだった。
まさか一日で昼に話していた相手を殺したなど聞いたら驚くだろう。
しかし隠し事は良くない。
羽織を着替えてだんご屋に居た。
「実はあのお昼の後、探しに行ったんですよ」
ほうほうと頷きながら頬張る。
しかし、目がだんごから離れてはいない。
そんな姿に噴出しそうになるが話を続ける。
「北流魂街の最下層に居ました」
ここで言う最下層とは七十番後半の地区。
治安の悪さが天下一品の場所である。
「それで?」
九番隊の上位席官が殺されてしまった事を言う。
するとどおりで拳西がどたばたしてたわけやと言ってきた。
そう言えば白もえらい着物が乱れてたなぁ。
「だってあいつ、久南さんに対して強姦まがいの事しようとしてましたよ」
そう言うと般若のような顔になる。
冷や汗をかいていた。
悪い事はしていないのに。
「久南さんに流れ弾当たらないようにしてちゃんと助けましたから」
だから穢されてはいませんよ。
そう言って、心底ほっとした顔をしていた。
しかし、軽蔑に近い眼差しを向けてくる。
心が痛む。
「白の胸とか見たんか?」
いや、そんな事は無かったです。
一大事なんで助ける事に精一杯でした。
そう言うと頷いて軽蔑の眼差しは無くなった。
「ローズとかもそんな真似せえへんけど同じで良かったわ」
これがアホの真子やったらじろじろ見てたやろな。
そう言って笑っている。
ただ、笑い事ではなかったんですけどね。
「そのお前の行いを褒める意味で飲みに行くか?」
水飲み鳥のように首を縦に振る。
それを見て笑っていた。
そして笑い顔のまま、言ってくる。
「そんなウチと飲めるのが嬉しいんか?」
何を当然なことを。
そう思った俺は顔を近づけた。
それに驚いた顔をしている。
「嬉しいに決まっているじゃないですか」
幸せな気分ですよ。
そう言って顔を離す。
いきなりの接近に面を喰らっていたがあっという間に立て直す。
凄い人だと思う。
「普通に言わんかい、普通に」
そう言われてしまう。
そっぽを向かれる。
しかし、怒っているわけではないようだ。
怒っていないのにそむける必要はあるのかな?
それがよく分からない。
「まるで紅葉のような手……」
思った事をそのまま出した、聞こえないほどの呟き。
小さな手だ。
柔らかそうな見た目。
何気なしに手を取りに行く。
「何をしようとしてるんや?」
気づかれて手を引っ込められる。
手を掴もうとしたことを正直に言う。
すると拳骨が飛んできた。
「恋人同士でもない癖にそんなことしてくんな!!」
全く……
そう言って腕を組む。
機嫌が悪くなっていた。
「恋人だったら良いんですか?」
さっきの言い分ならば、揚げ足を取ればそう言う話になる。
それを言うと口元をひくひくさせていた。
今日はやけにつっかかってきたり、体に触れようとしているからだろう。
「まあ、お互いが好き合ったならええやろ」
そうですか。
ずっと心揺さぶる思いを洗いざらい話してしまおう。
距離を詰める。
欲しいものは妥協しない。
永遠なんて存在しないから。
「ひよ里さんは俺の事は嫌いですか?」
いきなりの質問にひよ里さんは面食らう。
それに畳みかけるように俺は次の言葉を紡ぐ。
この混乱している状態なんて卑怯だけれど逃したくない。
酒に呑まれて言うよりはまだ正々堂々だ。
「俺はひよ里さんの事好きです!!」
口をパクパクさせている。
顔が真っ赤になっている。
林檎も今の顔の色には負けている。
俺も人の事を言えたものではないが。
「いつからや?」
顔をそむけたまま、聞いてくる。
いつからだと言われると……
「あの膝枕の時は朧気でした、しかしそれから話したり過ごすたびに、徐々に大きくなってきてました」
だから二十年前には気づいていた。
ただそれが『恋』なのかは分かっていなかった。
今になって恋人というから。
好き合った男女がそれなのならば。
好きという事、その人の全てを求める事。
その人を命を懸けても守りたい。
自分の世界にその人が入り込む。
その人の人生に自分が踏み込む。
それらをまとめて『恋』と呼ぶのだと、今気づいた。
「悪いけど、いきなりそんなこと言われて答えられへんわ」
それに仮に答えられてもそれは今回の質問からずれる。
きっと『好き』は『好き』でもそれは『恋』と違う。
それは友人に向ける『好き』である。
弟に向けるような『好き』である。
「うちが傍に居りたいって思わせるくらいの男になってみぃ」
強いだけとか、優しいだけとか。
そう言う男じゃあかん。
そんな簡単にウチを手に入れれると思うな。
魅力を感じさせるだけの男になってみろ。
そう言われてより一層奮起する。
「ただ、うちに女の魅力を感じるなんてなぁ……」
そう言って立ち上がる。
変な空気になってもうたやんけ。
そう言われてしまう。
面目ない。
「ちゃんと恋する相手は考えとけ」
一時の感情で見てしもてるだけや。
そんな悲しい事を言う。
こんな気持ちになるのは貴方だけなのに。
これが一時の感情なわけがない。
何故ならさっきも言ったとおり、長い期間この思いを持っていたのだから。
「とにかく今日は飲みに行くからな」
頭冷やしとけ。
そう言って十二番隊の隊舎に戻っていった。
だから冷やす必要はないんですって。
「全く分かっていない……」
魅力なんてものは自分の見えないところであるものなのに。
きっと体型とかそう言うのを見てあの人は劣等感を感じているのだろう。
それ以上に優しい人なのに。
真っ直ぐで努力をしている。
時に粗暴な所や我侭を見せてくる時もある。
でも、それは信頼の裏返しだと俺は思っている。
「何物にも代えがたい『心』や『性格』と言った内面の素晴らしさを」
成長とともに体型は変わっていく。
それにそれがあれば実力自体が全盛期ではなかったことの表れ。
それはまた喜べる証。
「絶対に貴方の傍に居てもいい男になる」
目標が定まった。
隊長になりたいとかよりも大きな夢。
あの人が自分の世界の全て。
殺し合いの中せめぎ合う人よりも大きく心を埋めてきた貴方。
「まあ、その前にやっておくことをしないと」
そう言って四番隊の隊舎に戻り、夜の前に殺し合いをして冷や汗を流す。
初めに比べたら大量の血が流れていないだけましだ。
拮抗しているように見えるがまだまだ隠されている。
速く追いつかないといけない。
か弱い男ではいけない、あの人がどういった場所に魅力を感じるのか。
それを知らない。
.
.
夜、居酒屋に集合する。
先に席に座って待っていた。
「頭は冷えたか?」
一対一かと思ったら仲間を呼んでいた。
鳳橋さんと矢胴丸さんだ。
基本的にひよ里さんに甘い二人。
さっきのような言葉を言わないように防壁を作ったつもりかな?
「いくらなんでも勢いで言ってしまうとは思わんかったわ」
くすくすと矢胴丸さんが笑っている。
外堀埋めるようにして周到に行くと思ってたけどな。
そう言われるが、対応してしまって口をついて出てしまった。
隠しようのない本音が。
「まあ、特別な感じはしていたけどね」
見る眼差しも違っていた。
それに下の名前で呼ぶ唯一の女性。
それは露骨ともいえる。
そう言われるが『特別』な人なのだから。
「お世辞なんやったら、今謝ったら許したる、なんか欲しいもんが有るんか?」
子ども扱いしてきた。
お世辞で恋心を打ち明けるほど、軽い人間だとでも?
身を乗り出し、再度顔を近づけて頭を押さえる。
「欲しいのは貴方の全て」
そんな事を言われて、またもや戸惑うひよ里さん。
助け舟を出してもらおうと矢胴丸さんの方を見る。
しかし、無情にも笑いながら肩を叩く。
「こいつが嘘じゃなく真剣なんは一番わかってるはずやで」
そう言われて唸るひよ里さん。
額に手を立てて溜息をつく。
これでは埒があかない。
諦める気がないのだと悟ったんだろう。
「後悔すんなや」
そう言って飲み干していく。
まるで今後魅力的な女性が来るというような言い草だ。
貴方以上に心を惑わせる人なんていない。
だから後悔はしない。
まだ、あなたの傍に居れなくても。
「後悔するくらいなら、恋心を打ち明けるような真似はしない」
そう言って飲み干す。
言うようになったなと呟いていた。
それはあの初めて出会った日から四十年もたったのだから。
当然の結果ですよ。
必ず貴方の心に居させてもらう。
それは誓いのように、心を新たに。
それは楔のように、自分の在り方を決めた。
恋人云々言い出したら、揚げ足取られて告白を受けるの図。
束縛強そうですが、実際は好きを伝えたいだけです。
それがあまりにも直球で苛烈なため戸惑ってしまっています。
いい加減プロフィール的なものも載せれたらとおもいます。
指摘などありましたらお願いします。