ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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今回は戦いが入っています。
次回は隊長昇格を書こうかなと言った感じです。
更木の方向音痴を考えたら、瀞霊廷にいつ到着するのか……


『笑顔 -Smile-』

あの日から数日。

お互いが意識してしまう。

こちらも声をかける時に一瞬詰まる。

向こうはこちらに声をかけようとすると、押し留めて通りすぎる。

 

「いけないね」

 

それだけが一つの結論。

今までの関係が壊れてしまう。

それは分かっていた。

しかし、それで躊躇をしたくなかった。

永遠にこの時が続くわけではないから。

 

「あの人に好かれるための条件」

 

強いだけではいけない。

優しいだけではいけない。

両方兼ね備えなくてはいけない。

優しいとは何かの本質が必要だ。

甘えさせることが優しさとは言えない。

その人の過ちを叱る。

道を違えば引き戻す。

それも優しさの一つ。

 

「強さとは何なのか」

 

敵を打倒するだけではない。

心が耐えたり許せるもの。

それが心の強さ。

 

「……分からないよ」

 

この答えは見つかるのだろうか。

いや、見つけなければいけない。

あの人の傍に居たいのだから。

誰にも譲らない。

 

「何が分からないんだい?」

 

曳舟さんに聞かれていた。

少し含みのある笑みだ。

きっと、もう気づいているのだろう。

 

「ひよ里ちゃんに告白したんだろう」

 

その言葉に頷く。

その反応に溜息をついていた。

もう少し戸惑いがあるとでも思ったのか?

 

「あの子もこういうのには疎いから時間かかるし、ずいぶんと疑い深いからねえ」

 

大方、冗談だと思われただろ?

そう言われて頷いてしまう。

世辞を言ってるとまで思われて、子ども扱いされた事も言った。

 

「もう、幼子をなだめる時の常套句じゃないか」

 

ひよ里ちゃんの眼にはよほどその時のあんたが駄々っ子のように見えたんじゃないのかい。

だって、ずっと嘘だとか、頭冷やせとかいうんですもん。

こっちがどれだけの気持ち振り絞っているかも知らないで。

そりゃあ、こっちも意地になりますよ。

 

「互いに子供みたいだね」

 

でも、だからこそいいのかもしれない。

大人びた考えでもない。

欲しいものを純粋に欲する心。

回りくどい言い方なんていらない。

 

「多分照れているのもあるから、自分があの子の求める像になっていくと頼ってくれるようになるよ」

 

そうでなくても、自分の為に頑張っている人を無碍にするような子じゃないけどね。

何年かかるか分からないけど、頑張りなよ。

そう言って去っていく。

 

「斑鳩さん、一緒に流魂街を回りませんか?」

 

どうやら、ちょっと前の鬼厳城の事件から気合が入っている。

まさかの上位席官、三名の死。

それに伴って東仙も第十席に上がった。

 

「北流魂街の方だろ」

 

用意するから待ってろ。

それだけ伝えて、少ししたら出発をした。

しかし、最近の治安の悪さは凄いな。

力の有る荒くれ物が増えたのもあるが。

 

裸足の奴らが五十でも見かける。

基本あるあたりから下駄も草履もない。

最悪、女でも肌晒すのが多い服の奴が居る。

着物でもところどころ破けている。

そう言うのに我慢がならないから、時々安い月給の中から配る物資を買っている。

 

「あんたら、向こうに行く気かい?」

 

まだ声をかけてくる奴もいる。

隅々まで確認をする。

つまりは八十区まで行くという事だ。

 

「悪い事は言わない、おやめ」

 

まるで怯えている。

噂が蔓延しているのだろう。

そこに居座っているのならばまだしも、動いているようだ。

 

「悪鬼が『更木』には住んでいるんだ……」

 

なるほど。

しかし、そこまで見て治安の徘徊だからな。

東仙に後ろを任せて進んでいく。

徐々に霊圧が濃くなる。

その出所を探ると確かに『更木』から流れている。

 

「あの、斑鳩さん、これは……」

 

東仙も感じ取っている。

並外れた霊圧。

ただの一介の荒くれものが持っている次元ではない。

だが……

 

「知っている霊圧だ」

 

まさか、こうもすぐに会えるとはな。

向かっていくうちに血の臭いが濃くなる。

殺し合っているのだろうか。

 

「開けたところに来たが……」

 

そう言った直後、首筋に一閃。

獣の眼差しが俺を射る。

感じ取っていたのだろうか。

 

「手前は強い、分かるぜ」

 

『浅打』を振るいながら笑みを浮かべている。

なるほど、悪鬼と呼ぶのは間違いではない。

骸が積み重なっている。

ここから逃げる事はできない。

斬り伏せた隙に下がる以外は。

 

「俺が相手するしかないようだ」

 

治安云々の前の問題。

この男がここに居る限りは守られてはいるのだが……

迷い込んでしまえばひとたまりもない。

 

「東仙、持っててくれ」

 

羽織を脱いで軽装に変わる。

この男相手に油断は無し。

この羽織の重さが生死を分けかねない。

 

「お前の名前は?」

 

名前を聞きながら『浅打』を抜く。

始解をするにも長さや間合いで不利になりかねない。

残念なことだ。

 

「『更木』の『剣八』だ」

 

そして踏み込んでくる。

俺に名乗る隙は与える気はないのか。

 

「しっ!!」

 

踏み込んだ刃を受け止めて後転して距離を取る。

臨戦態勢で相手をする。

その空気を感じ取ったのか、相手の顔が笑みの形へ歪む。

 

「良いじゃねえか、来いよ!!」

 

その言葉を皮切りに駆けだす。

向こうが片手で相手をしている。

もう一方の腕をぶら下げているだけではいけない。

 

「しゃあ!!」

 

両手で持った刀で押し込みに行く。

膂力もかなりのもので易々とは力負けをしない。

だが、それでもこちらは手を打つ。

 

「かあ!!」

 

前蹴りで突き放す。

だが、それで終わりにしない。

距離を再度詰めて胸倉をつかみ、そのまま頭を地面へ叩きつける。

 

「立てよ、まだ本気じゃないんだろ?」

 

倒立した状態となり態勢を整えて、照り付けた太陽の様な眼差しを向けてくる。

獰猛な笑みを張り付けていた。

闘志が萎えるなんてこともなさそうだ。

 

「おらぁ!!」

 

横薙ぎに振るってくる。

それを受け止める。

しかしさっきと手応えが違う。

僅かに逸らして懐に入り込む。

 

「はっ!!」

 

笑って後ろに飛びのく。

反応速度も上昇。

どうやらほんの小手調べだったようだな。

 

「楽しいぜ……なぁ!!」

 

笑みが戦いを楽しむもの特有のものとなる。

そして接近をしてくる。

懐に入ってくるのも速い。

 

「甘いんだよ」

 

何の考えもなしに突っ込むな。

猪でもあるまい。

突きを放つが顔に刺さってなおも突き進む。

 

「ちっ!!」

 

肩口に来る斬撃をかわすために瞬時に片手へ持ち変える。

そして『黄火閃』を地面に向かって撃つ。

威力を押さえずに放ちその反動で、相手と距離を取る。

 

「恐れないでこっちに攻撃するか……」

 

恐怖がない。

ああ、そうか。

『剣八』なんだもんな。

『幾度切り殺されても絶対に倒れない』

そしてこの眼差しは鬼厳城に俺が言ったのと同じ言葉を持っている。

 

「殺すのも殺されるのも暇つぶしってわけだ」

 

其れなら仕方ない。

深呼吸を一つして、あの人と対峙している時と同じ集中力。

そして霊圧を放出する。

掛け値なしの全力だ。

 

それは木々を揺らし、相手の傍らにいた幼女が息をつく。

圧迫感が一気に変わったのだろう。

東仙もすぐさま距離を取り離れていった。

 

「楽しませてくれよ」

 

『浅打』を再度、両手で持って接近をする。

打ち付ける音。

徐々に上がっていく戦いの熱気に意識が引っ張られる。

いけないと頭によぎる。

悦ぶな。

 

「きええええ!!」

 

雄たけびとも奇声ともつかない声で斬りかかる。

再び受け止めるがその片手で防げるものか。

ぐんと力を込めてその腕を弾き飛ばす。

 

「しゃあああああ!!」

 

独楽のように反転させて追撃する。

薄皮一枚分、切り裂く。

もっと深く踏み込む。

 

「ちっ!!」

 

相手が振るってくる。

頬を切り裂くが関係ない。

徐々に視界が形を変えていく。

 

「かあっ!!」

 

俺の刀が相手の腕に当たったのが分かる。

その代わりに俺の脇腹を相手の刀は掠める。

ああ、悦びが増していく。

 

「ひゃああああ!!」

 

目の前が煌いている。

敵がご馳走に見える。

ああ、嚙り付きたい。

そのはらわたも何もかも咀嚼するように。

口元がひくひくと蠢いている。

 

「なんて楽しそうな面を浮かべてやがる」

 

そう言って俺の刀を受け止める。

それはまるで別の誰かを俺を通してみているかのように。

 

「ははは!!」

 

凄惨な笑み。

それが相手の瞳を通してみる自分の顔。

まるで戦いを愉しむ時のあの人のようだった。

そしてこの戦いは唐突に終わりを告げる。

 

「お止めなさい」

 

そこには卯ノ花隊長がいた。

霊圧の揺らぎを感知して止めに来たのだ。

無臭の眠りの香か……

そしてそのまま麻酔を直接内臓に入れられてしまう。

 

「東仙第十席、帰りますよ」

 

薄れていく意識の中、その言葉だけを聞いて、東仙に担がれるのだった。

その後、四番隊の隊舎で目覚めてから呼び出される。

 

「あの子と戦ってしまうとは何事ですか」

 

執務室で話をしている。

髪を降ろした『八千流』の状態で言ってくる。

まるで顔なじみのようだが。

 

「見回りの途中で北流魂街の八十区の『更木』に行ったら出会ったんです」

 

偶然ですし、逃げられなかった。

それに最近、その近くで九番隊の席官が亡くなっていますし隅々まで見ないといけない。

 

「東仙を一人で行かせたら死んでますよ」

 

それだけ『更木』の『剣八』は強い。

しかも、彼の潜在的なものはまだ隠されている。

前回の通りすぎた時に感じたものは全然本気の状態ではなかった。

こっちが始解をしていたら霊圧は上がっても間合いの問題で余計に苦戦を強いられただろう。

 

「彼は強い、あの状態でも隊長格です」

 

それを聞くと頷き返す。

そんな彼からすると、そんじょそこらの荒くれものなど、羽虫も同然。

きっとつまらない時間を過ごす事になる。

しかし……

 

「あの青年には俺が見えた、羽織があるという事は死神なのも分かったはずです」

 

いずれはここに来る。

それが幾年の後かは知らないが。

それでもあの青年に道は示せた。

 

「そうですね……」

 

導かれるのであれば問題ない。

彼等に出会ったのが運の尽き。

縛道の九十九をやればよかっただろうかと後悔する。

 

「それでは、今回は不問といたします」

 

しかし二度と『流魂街』で出会っても戦わないように。

すぐに引き返すのですよ。

彼が追いかけてくるのを逆に狙いなさい。

きっと霊圧の感知が非常に下手でしょうから。

 

「それはそうと……」

 

近々、隊長職に空きが出来そうな予定です。

立候補されてみては?

それだけを告げて去っていこうとするく。

 

「機会をもらえるのは嬉しい限りだ……」

 

そう呟く。

ただ、一つの懸念がある。

その為に卯ノ花隊長を呼び止めた。

 

「仮に隊長になっても今まで通り鍛錬を継続していただけますか?」

 

四番隊の羽織を脱ぐという事だからできなくなる。

あのせめぎ合いで強くならねばいけない。

守れるほど強く、心も逞しく。

その為には欠かせないもの。

 

「いつでも歓迎ですよ」

 

ぞわりと毛穴が全て開くような笑みを浮かべて去っていく。

だが、自分もあんな顔をしていたのかと思うと驚く。

机の上にある書類を見て、見回りの間に増えた仕事に取り掛かるのだった。




更木にはしっかりと会わせておいた方がいいと思いましたので書きました。
東仙は更木の危険性をきっと認識したでしょう。
鬼厳城の時に見抜いたようですがもう本作ではお亡くなりですので……
隊長職の平均は何年で付くのか謎すぎますね。
時間を次回で飛ばしても五十年前後はエリートの部類に入るのか……

指摘などありましたらお願いします。

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