ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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今回も日常回。
平子や拳西の隊長歴が不明なのですが本作では四十年から三十年ぐらいの予定です。
ひよ里のキャラ崩壊してるかもしれませんがご了承ください。


『嫉妬 - Jealousy-』

藍染と親交を深めた数日後。

俺は一番隊の隊舎へ呼ばれていた。

当然この大事な呼び出しで遅刻しないように五分前には隊舎前についていた。

そういえば最近になって五番隊の隊長がようやく引退するんだったな。

という事は今回の用事は予測できた。

扉を叩き、一拍置いて声を出す。

 

「十番隊隊長、斑鳩傑です、開けてくださいませんか」

 

その言葉を受けてから少しして扉が開く。

毎回お疲れ様です、雀部副隊長。

総隊長に頭を下げる。

 

「この度の招集は何でございましょうか?」

 

堅苦しい言い方をすると、後ろから肩を叩かれる。

くすくすと笑っていたのは卯ノ花隊長だった。

そんなに今の自分はおかしかったのだろうか?

 

「うむ、新しい隊長の任命における試験、その試験官として呼び寄せたんじゃ」

 

やはり予想通りだったか。

しかしあの試験は選定するのに三名必要だったはず。

 

「あと一人はどちらに?」

 

総隊長が髭を撫でながら難しい顔をする。

なるほど、遅刻という事か。

そんな人は一人だけだ。

 

「山じい、開けてほしいんだけど~」

 

扉も叩かず相変わらずの間延びした声。

京楽隊長が三人目のようだ。

 

「待ってください、今開けます」

 

雀部副隊長よりも扉に近いため、開けていく。

申し訳ない顔を浮かべていない。

隊首会でも基本的に矢胴丸さんが起こしているらしいからな。

あの人もしんどいだろうな。

 

「おやおや、一番新参なのに感心だねぇ」

 

俺の顔を見るなり、頬をかいて言ってくる。

本来は先達が手本を見せるのが良いんですけどね。

卯ノ花さんをお手本とか言うのは無意味。

五十年も共に仕事をしていた以上、生活の流れも似通っている。

その為、今回のような結果になるのだ。

俺の場合は遅刻や相手を待たせるのが嫌いなのもあるけれど。

 

「春水、お主が遅いんじゃ、たるんどるぞ」

 

総隊長がそう言うとバツの悪そうな顔ですごすごと引き下がった。

そして用事を聞くと微笑んでいる。

最近の流れで段々と後進の副隊長が昇格するめどが立っているのだ。

ついに年を召していた三人の現隊長達の体が限界に達した。

まあ、総隊長や卯ノ花隊長、京楽隊長の三名はそんな事は無さそうだけど。

浮竹隊長に関してはあの人の命は薄氷の上に成り立っている状態だから迷った結果、除いた。

 

「今回は何番隊の隊首試験なんでしょうか?」

 

そう言うと扉を叩く音がまたもや聞こえる。

するとまた間延びしたような緩やかな声だ。

なるほどね。

 

「五番隊の平子真子ですけど~、開けてくれませんかぁ~」

 

その言葉に今度は卯ノ花隊長が開ける。

ありがとうございますと言って入ってきた。

大先輩なんですから、頭を下げるぐらいはしてもいいと思うんですけどね。

 

「おはようさん、傑」

 

そう言ってにやついた顔でこっちを見てくる。

釘でも刺しておくか。

 

「そんな緩んだ状態のまま受けるなら帰った方がいい」

 

甘い試験じゃない。

三人全員の賛同が必要。

誰か一人がだめと言えばその時点で落選。

しかも厳しい卯ノ花隊長がいる。

 

「おお、怖い怖い」

 

飄々とした状態で羽織をはためかせる。

本当に大丈夫なのか?

 

「では、始め!!」

 

『斬・拳・走・鬼』の完成度を見る。

『斬』は『隊長格』としては確かなものを感じる。

ただ、俺の水準で見れば未熟。

つまり、卯ノ花隊長から見ても未熟に映るだろう。

しかし瀞霊廷の平和に役立つか否かを見定めて合格を与える。

その目を養う機会を与えてくださったのだと考えよう。

 

「(退屈なものだ……)」

 

誰にも聞こえないように心で呟く。

理由は単純明快。

隊長格としては十分なのだが、自分の水準に何一つ達してはいない。

まだ、自分が鍛えている奴らならいずれはと期待を抱くんだが。

 

「次は最後、卍解を見せてもらおう」

 

そう言われて困ったような顔を見せる。

かなり広範囲に効果を及ぼす系統だろう。

それとも致死効果があるものか。

 

「『卍解』!!」

 

始解の時とは違い青白い刀身が下半分、茶色の刀身が上半分となる。

穴や柄尻の輪は無くなっていた。

どうやら傍目から見ても変わらない。

つまり導き出せるのは……

 

「概念操作の能力か……」

 

その呟きに肩をぴくりと動かす。

そして口元をひくひくさせた顔をこちらに向けていた。

総隊長が厳しい目を向けてくる。

 

「斑鳩隊長、看破したいのは分かるが腰を折らず、本人から聞くように」

 

その言葉に申し訳なくなる。

頭を下げて説明を続けてもらうように努めた。

 

「この『天地(てんち)逆撫(さかなで)』はそこの隊長が言うように概念を操作します」

 

例えばと一拍置いて、平子さんが軽く踏み込むと一気に端まで移動していた。

それだけで理解できた。

 

『浅い』は『深い』になる。

『軽い』は『重い』になる。

『弱い』は『強い』になる。

『遅い』は『速い』になる。

逆さまの世界に連れ去る卍解。

 

「分かってもらえました?」

 

全員が頷く。

確かに強い卍解ではある。

『逆撫』も強力ではあったが、それ以上に強烈な力。

 

「うむ、それでは話し合いの元、結果を決めるので下がって良し」

 

そう言って、平子さんが去っていった後に総隊長がこちらに来いと手招きをする。

正直、自分の目で見るとまだまだだったが隊長になる分には問題はない。

卯ノ花隊長が甘い気がするのは気のせいだ。

もしくは自分が鍛え上げたわけではないから求める水準が低いのかもしれない。

 

「卯ノ花隊長はどう思う?」

 

卯ノ花隊長が総隊長の問いかけに顎に手を当てて考える。

そして数拍おいて口を開く。

 

「実力としては問題はありません、しかし人物的には生真面目とは言い難いかと」

 

副官補佐になっている藍染第三席に書類が行き渡っているようですし。

ただこれはすでに四楓院隊長が前例としてあるので、それだけで不合格とは言えないですが。

概ね、前隊長よりはいい隊長になるかと。

その一言で締めくくった。

 

「斑鳩隊長としてはどうじゃ?」

 

こちらへの問いかけ。

どうも何も卯ノ花隊長とあまり変わらない。

 

「実力は現在の副隊長たちよりも頭一つ抜き出ています、ですが勤務に関する真面目さは今一つなのでそこは副官との均衡が必要です」

 

実力はあくまで副隊長と比べた結果だ。

隊長格ならば新参な分を含めても下に位置するのではないか。

さらに仕事面での不安。

これは流石に共通認識としてほしい。

 

「卯ノ花隊長と同じもの言いじゃな」

 

まあ、こっちが言おうとしていた事を先に言われてるからですね。

それでもまあ、気づかいとして問題はないと後押ししておこう。

 

「まあ、締める時は締める性分の方ですので重要な所での信用は置ける人物でもあります」

 

ですから、問題は言うほど起こらないでしょう。

人望も有りますしね。

そう言って締めくくった。

 

「まあ、春水は基本的に認めるからいいかの……」

 

そう言うと京楽隊長は頷いていた。

人間的に問題があれば別だが、そこはこの人の目で分かる。

何より信頼の重さが違うのだろう。

 

「それでは明日に式典とする、伝えるのは頼むわい」

 

杖をついて立ち上がる。

すると京楽隊長も立ち上がって出ていった。

卯ノ花隊長がこちらに目配せをする。

はい、私が伝えておくんですね。

 

「確かに護廷十三隊の隊長や副隊長の霊圧は把握していますけど……」

 

『天挺空羅』を使って全員に通達を行う。

これで問題はない。

もしあるとしたら、それは浮竹隊長の体の具合ぐらいだろう。

 

「ご苦労様です」

 

そう言って卯ノ花隊長も出ていく。

それに倣い、俺も頭を下げて一番隊隊舎から出ていく。

 

「次あたりは拳西さんかな……」

 

十番隊の隊舎に戻る間に呟く。

すると前から東仙が息を切らして走ってきていた。

探していたのか、ずいぶんと手間をかけさせたな。

 

「来客なのですが……話を聞いていただけないのです」

 

激怒している人が来たのか。

何が原因なんだ?

 

「十二番隊の方なんですけど、最初は穏やかに話していたんですが、歌匡の手袋が斑鳩隊長の贈り物と聞いた途端、呼んで来いと」

 

血の気が引く。

みるみる青ざめていく。

瞬歩で追いつけない速度を出しながら、壁や塀を飛び越えて最短距離で十番隊隊舎に到着。

隊士をかわしながらすぐに土下座をする形で入室をする。

 

「お待たせして大変申し訳ございません!!」

 

顔を恐る恐る上げると仁王立ちでこちらを見下げている。

怒りで髪の毛は逆立っている。

息が詰まるような感覚だ。

霊圧ならば明らかにこっちが上だというのに。

 

「この女たらしが!!」

 

顔面を思い切り踏まれる。

これは烈火の如く怒りですね。

全くの誤解なんですけど。

 

「はなひだけでもきいてくらはい……」

 

鼻血が出てまともに喋れない。

流石にやりすぎたと思ったのか、椅子に座る。

 

「確かに手袋を綱彌代副隊長にはあげましたし、服飾に疎いので色違いの奴です」

 

弁解と言うよりは認識のすり合わせを行う。

こちらの言い分とずれてしまうとさらに怒らせてしまう。

やっぱりかという怒りに満ちた顔でこっちを見ている。

 

「しかし、他意は無くて世話になっている副隊長に手袋をあげただけです」

 

特別な包装も無し。

押し付けるような渡し方。

藍染の斬魄刀を防ぐものとして渡した。

全然、特別扱いなんてしていない。

 

「補足ですが男物で、平子さんにも同じやつ渡してます」

 

そう言うと特別な贈り物ではないというのが分かってもらえたのか。

少し怒りが収まる。

でも、じっと見て手袋を指さしている。

 

「でも見た目とかお揃いやんけ」

 

むくれたような顔で睨み付けてくるひよ里さん。

だって贈り物の服とか、女物とか分かってないですし。

店の売り子に『これに似た女物』と言って見繕ってもらったものだ。

 

「いや、お揃いにはなっていないです」

 

そういって手を見せる。

俺は手袋を隊長に就任してから止めていた。

ひよ里さんとお揃いの指輪にしていたのだ。

位置は右手親指で注目はされにくい。

とは言っても、よく会っている人に気づいてもらっていなかったのは少し悲しい。

 

「こっちの副隊長が言ってたんが正しいんか……」

 

どうやら綱彌代副隊長が手袋はしていないと説明はしていたようだ。

しかしひよ里さんは俺を庇っていると疑ったのだろう。

東仙も言ったが怒りのままに声を投げかけられて呼ばざるを得なかったと推測できる。

 

「悪かったな、叫び通して」

 

恥ずかしそうに言ってくるひよ里さん。

綱彌代副隊長もいつの間にか戻ってきていた東仙も問題ないですと手振りで示す。

そしてこっちに向きなおして顔をむくれさせる。

 

「お前が紛らわしい事するからやで!!」

 

こっちにあれだけ言ってて、別の女とお揃いのものしてたら誰でも怒るわ。

ずんずんと大股で怒りを示すように十二番隊隊舎に戻っていこうとする。

その背中を見ていると東仙に肩を叩かれる。

 

「追いかけてはどうですか?」

 

まだ仕事が残っているが大丈夫なのか。

確かに任せられる場所はそれでいいかもしれないが。

 

「隊長印も必要だろう」

 

今日が期限の分は昨日で終わっているので大丈夫です。

そう言われてはもう心に正直に進むべきだ。

 

「行ってくる、異常があればすぐに知らせてくれ」

 

俺はそう言うと隊長羽織をはためかせてひよ里さんを追いかけていく。

ひよ里さんは案外すぐに見つかった。

瞬歩を使わず苛立ちを地面にぶつけるように踏みしめていた。

何故、あんなにも苛立っているんだろうか?

 

「傑のアホ……」

 

そんな呟きが聞こえたのだ。

何がそんなに気に入らないのだろう。

俺が特別扱いしているのはひよ里さんだけなのに。

 

「何がそんなに気に入らないんですか?」

 

上から覗き込むように声をかける。

基本的に膝を曲げて同じ目線で話している。

しかし今日はこんな形で声をかけてみようと思った。

 

「わあっ!?」

 

ひよ里さんが驚いて尻餅をつきそうになる。

脇下に腕を差し込んで支える。

俺に対して恨めしげな視線を向けて見上げている。

 

「おどかすなや、全く」

 

こっちを振りほどくようにしてまた歩き始める。

俺は後ろからついて行く。

少し歩くと振り向いてきた。

 

「仕事どないしたねん?」

 

まあ、怠けてこっちに来ていると思いますよね。

しかし、そこは違うと咳払いをして伝える。

 

「今日が期限のものは昨日時点で終わっていますから、あとは消化していくだけなので」

 

それを言うと苦笑いされる。

こいつは仕事熱心だと思われているのかな。

それとも馬鹿だと思われているのかな。

 

「なんで機嫌悪いんですか、あれは労いのお礼の品だって分かってもらえたでしょう?」

 

そう言うと睨み付けるような視線を向ける。

そして胸に手を押さえながら苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「分かったけどなんかもやもやするんや!!」

 

そう言って十二番隊隊舎へと向かっていく。

しばらくすると辿り着く。

そして扉を叩かずにひよ里さんは入っていった。

 

「あらあら、どうしたんだい」

 

曳舟さんにひよ里さんが呼び止められる。

全てを察したのだろう。

肩を揉んで落ち着かせる。

二人きりでしばらく話をしていた。

そしてひよ里さんは顔を赤くしてこっちを見てきた。

 

「こんな感情に気づかせおって……」

 

そう言って副官室に戻っていった。

追いかけて行こうとすると足がもつれた。

その原因は曳舟さんが足を引っかけたからだ。

こういう時はこっちの話を聞けという信号。

 

「あのひよ里ちゃんが嫉妬するなんてねぇ」

 

『嫉妬』だって?

綱彌代副隊長に送ったのがお揃いの形だったのが、そんなに気に入らなかったのか。

 

「他意の無いお礼のつもりが思いがけずあの人を傷付けていたんですね……」

 

きっと指輪を送った時にひよ里さんは『特別』だと思っていた。

なのにそれを覆すような贈り物を知った。

だからこれ以上ないほど怒っていたのだ。

しかし、それは自分の勘違いだと知った恥ずかしさ。

解決こそしても割り切れない気持ちがもやもやとなっていた。

それを曳舟さんが諭してくれたからよかった。

 

「ひよ里ちゃんも本当はご免って言いたいんだろうけど性格上素直に言えないからさ」

 

本当は言って欲しくはない。

あの人が怒るのも無理は無い。

女性の心をよく分かっていないとは言えど傷つけてしまった。

それが今になって重くのしかかる。

 

「そっちが歩み寄って御免なさいって言ってあげなよ、ただ今日はやめておいた方がいいけどね」

 

こっちの顔があまりにひどかったのか心配そうな目で見てくる。

だって自己嫌悪もしたくなりますよ。

あの人が好きなのに嫌われるような真似したんですもん。

溜息が出そうになる。

 

「本当に恋に落ちちゃっているね」

 

とぼとぼと歩き始めた俺を見て曳舟さんが言ってくる。

そりゃあ俺の初めての恋。

あの人に見てほしくて隊長になったのも有る。

今、俺がここまで頑張れる原動力はあの人なんですから。

 

「あの人を傷つけた反省は滅茶苦茶しておきます」

 

そう言ってふらふらと彷徨うように十番隊隊舎へ帰っていった。




オリジナル斬魄刀
名前:天地逆撫
使用者:平子真子
能力:『逆撫』の能力に加えて『概念』を逆さまにする。
例で言うと浅く切りつければ深く切りつけたり、大きく飛びのいても小さい距離の為、間合いが測れないなど。
凶悪度でいうと藍染並み。
本作では著しい強化対象になった。

ひよ里にも嫉妬ややきもちという概念はあると思って今回の後半を書きました。
冷静になればわかりますが血が上りやすい性格もあると思うので、あのような感じです。

指摘などありましたらお願いします。
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