しかし、書いていくうちに仲直りのおまけになった気がしないでもない。
あの日の翌日。
朝早く、三時に起きて心を落ち着かせるために瀞霊廷を一周。
そして戻ってからは一日を自由に使えるように仕事に勤しむ。
「俺が二度寝しても、この時間であれば誰も責めはしないだろう」
ちなみに始めたのは午前五時。
こんな朝早い仕事なんて総隊長ぐらいしかやらないだろう。
あの人から訪れるのを待たずに、いち早く謝りたい。
その思いがにじみ出ていたのか、仕事が鬼気迫る勢いで減っていく。
それこそ今日の予定どころか明日の予定の書類まで無くすほど。
「今日の八時には一番隊の隊舎に集合だったな」
正直、平子さんの式典なんかどうでもいい。
それを言うと後で怒られそうだけどね。
綱彌代副隊長が起きるころには今日の分は終わっていた。
首を動かして伸びをする。
後は明日以降が期限で明日が期限のものも隊長印が必要な奴ばかりだな。
もう一頑張りしよう。
「この分は東仙とほかの隊士に言って配達してもらおう」
俺は書類を各隊の分に小分けする。
今日の仕事はそれでもう終わりかねない。
皆には余った時間で見回りしてもらったり、道場で組手をしてもらったり、鬼道の勉強をしてもらう。
時間を効率よく使いながら磨き上げていく。
「次の段階に行かせるのは業務の教育だな」
東仙にも経験を積ませるために書類の振り分けとかも教えてみるか。
盲目だから言葉を伝えて可否を判断させる。
事務的な事もこなせないと隊長職は遠い。
隊長としては後進を育てるのも重要な役目。
層は薄くても粒は大きく揃っている。
それがこの十番隊の掲げる目標だ。
「顔を洗って清潔にしておこう」
洗面台に向かい、顔を洗う。
鏡を見てどんな顔か確認しようとしたが思い留まる。
あの人の方が嫌な思いをしていただろう。
それなのに顔を確かめようなんてあさましい。
「気を取り直して支度を始めるか」
自分を戒めて身支度を整える。
糊のきいた隊長羽織を着て姿勢を正しておく。
綱彌代副隊長にも相応の格好で出席するように伝えておいた。
隊首室に書置きを残しておく。
七時には鐘が鳴るように細工を施した時計があるから問題ないだろう。
「一番乗りじゃの」
一番隊隊舎に到着したら今しがた開けたというように前では山本総隊長がいた。
副隊長がいない事が気になるようだが……
「時間には間に合いますし、隊長だけが集まっておけば最悪なんとでもなるので」
そう言うと溜息をつく。
正直に言うと俺の就任の時ですら五番隊は遅めだった。
そう考えたら殊勝な行いだと思います。
「次に来るのはきっと卯ノ花隊長か浮竹隊長じゃないですか」
浮竹隊長が元気な場合の話ですけどね。
あの人と卯ノ花隊長は時間にはきっちりしているからな。
五分前行動が当たり前。
話は脱線するが、俺もその生活の律動のおかげで規則正しい生活を五十年間送れた。
阿近や涅にも厳しくそういった事は教えている。
二人とも研究者ではあるが相手との意思の疎通も重要なので礼儀正しく有ってほしい。
「十四郎も今日は来れるみたいじゃし、十二名揃っての式典じゃな」
そんな事を言っていると既に七時を回っていたのか、扉が叩かれる。
そして一拍置いているのが分かる。
これは浮竹隊長だ。
叩く前に小さくコホンと咳の音を立てた場合は卯ノ花隊長だ。
「十三番隊隊長、浮竹十四郎です、開けていただけませんか」
総隊長が開けるように手ぶりで示す。
それに応じて扉を開くと頭を下げて入ってきた。
副官は不在のようだ。
扉を閉めようとした時に卯ノ花隊長が来ているのが見えたので開けたまま、待っておく。
副隊長は現在は山田清之介という青年。
卯ノ花隊長曰く、まだまだ青いが長く空位にするのも勿体ないらしい。
「ありがとうございます」
頭を下げて入っていく。
これで平子さんを試験した試験官のうち、二人が揃う。
京楽隊長に関しては、矢胴丸さん次第だ。
「隊長、待ってください!!」
綱彌代副隊長が来た。
時間に間に合っているのは流石だ。
閉めずに入っていくまで待ってやる。
「これからは時間で十分前行動の面子しか来ないでしょう」
扉を閉めて待つ。
次に来たのは六番隊の朽木隊長。
副隊長も朽木なので区別しないといけない。
その次は三番隊。
鳳橋さんに挨拶をする。
次が九番隊。
拳西さんに頭を下げる。
……時間的にそろそろ来るな。
機嫌が直っていたらいいんだけど。
扉が叩かれる。
「十二番隊の曳舟だけど開けてもらえないかい?」
扉を開ける。
ひよ里さんがいないか、視線を下に向けて探る。
こちらを見上げる視線があったのでほっとする。
機嫌を悪くして欠席なんて事態は無かったみたいだ。
「どけ」
足払いをされて尻餅をついてしまう。
そして怒ってはいないが不機嫌さを出して歩いていた。
きっと曳舟さんも言うように謝ろうとは思うが素直になっていないのだろう。
それに衆人環視の前でやきもちなんて恥ずかしくて言えない。
「お前、やけにあっさりとやられたな……」
拳西さんが驚いて手を差し出してくる。
それを掴んで起き上がる。
まあ、今のは来るとは思ってなかったんで。
分かっていたらひょいっと避けていましたよ。
「何か怒らせる様な真似をしたのかい?」
鳳橋さんが聞いてくるが苦笑いで返す。
この事言ったら余計怒らせてしまいますし。
「内緒にしときたい事も有んだろ」
いつの間に来ていたのか、愛川さんが後ろに立っていた。
これで残っているのは二番隊と八番隊と十一番隊。
五番隊は副隊長の昇進だからあの向こうだ。
「時間通りには間に合ったか……」
呟くように削枷隊長が来ていた。
副隊長も新しく決まって『
「俺達が最後から二番目かよ……」
大前田副隊長が何とか四楓院隊長を連れてきた。
浦原も付き添っているのは二人がかりだったのだろう。
これで八番隊だけか。
「いや~、一番最後になっちゃったねえ」
相も変わらず飄々とした感じで来る京楽隊長。
矢胴丸さんの事も考えてあげてください。
かなり苛ついていますよ。
「副官に迷惑かけるのは感心しないぞ、春水」
浮竹隊長が諫める。
こりゃ失敬というように頭を下げる。
いい加減にしないと総隊長から拳骨とびますよ。
「全員、揃ったようじゃの」
扉の向こうから声が聞こえる。
全員が扉の向こうに行って整列をする。
そこには平子さんが立っていた。
また随分とゆるい顔だな。
自分が固すぎるだけか?
「この度は聞いていると思うが五番隊での人事があり、隊首試験を同隊の副隊長である平子真子が受けた」
頭をぼりぼりとかいている。
全く、締まりがないな。
隊長としてやっていけるのか?
「三名の隊長の試験結果と推薦に基づき、本日から五番隊の新隊長とする」
それで任命式が終わった。
するとこっちに平子さんが向かってくる。
「これでワイもお前と同じやな」
階級は一緒でも年数が少し違う。
それに怠慢癖は抜けているのか?
「副隊長を誰にするか決めているんですか?」
副隊長の任命は隊長として重要な初仕事である。
良い副隊長がついてくれるのが一番。
それだけで仕事の効率や隊全体の空気などがよくなる。
曳舟隊長に対するひよ里さんで仲のいい二人も隊長と副隊長として素晴らしい。
京楽隊長に対する矢胴丸さんのようにしっかり者と緩めの人という形も素晴らしい。
「そんなん藍染しかないやろ」
即答だった。
それに対して態度を変えたのだろうか。
少しばかり期待を込めて質問を投げる。
「有能な部下だからですか?」
あいつの仕事のうまさには目を見張るものがある。
それ以外の鬼道や剣術も並外れているから傍に置いておきたい人材だ。
一度、あいつを四席に迎え入れようと誘いをかけたが、首を横に振られた。
五番隊の方が居心地がいいと言っていた。
最近は実験もせずに書類の仕事に没頭しているらしい。
ちょこちょこと訪れては茶を一杯飲んで茶菓子をつまんでいる。
そのたびに、やっぱりこいつも一人の死神なんだとつくづく思い知らされる。
……脱線してしまったな。
「いや、あいつを野放しにするのはあかん、そう言った危機感からや」
小さく溜息をつく。
つまり、見方を全く変えていないのか。
あいつからすれば体のいい隠れ蓑。
利用されてしまうだろう。
とは言ってもあいつに口が酸っぱくなるほど言ってきたから、黒い行為に現在は手を染めていない。
「『着任拒否権』が有るんで確実とは言えませんけどね」
藍染が嫌がったら別の相手を探す羽目になる。
普段から『平子隊長ならいいか』と思わせる信頼関係を気づけていれば問題なかったのに。
「なんや、それ?」
知らなかったのかよ。
まあ、基本的に使うものでもないからな。
「藍染は貴方が指名しても副隊長になるのを断れるんですよ」
そう言うと目を丸くしていた。
断わるなんて頭の中に無かったのだろう。
「態度を変えてこなかった付けですね」
それだけ言って去っていく。
頭を抱えていたけど自業自得だ。
「ひよ里さん、お話良いですか?」
去ってから瞬歩ですぐに追いついて背中から話しかける。
矢胴丸さんと久南さんもいるが関係ない。
『頼むから察してくれ』と視線を送る。
「今からうちはリサと白の三人で食事するねん」
せやから、後でにしろと手で払う仕草をする。
しかし矢胴丸さんが一言放つ。
「悪いけどひよ里、急に京楽に呼ばれたから行くわ」
するとそれに乗じるように拳西さんが後ろから久南さんを引っ張る。
察してくれたのだろう。
二人きりにしてくれた。
ひよ里さんからすればなってしまったが正しいけれど。
「あいつら……」
ひよ里さんが額で手を押さえて唸る。
そしてこっちに向き直って手振りで付いて来いとする。
「まあ、大方昨日の事やろ」
路地で小声で話してくる。
ひよ里さん自身も恥ずかしさがあるのかもしれない。
思い出すと俺も罪悪感で押しつぶされそうになる。
「はい、誤解を招き、嫌な思いをさせて誠に申し訳ございません」
ほんまやでと呟いて頷くひよ里さん。
申し訳ないと思い頭を下げようとする。
しかし頭を下げようとする俺を手で制してきた。
「頭は下げんでええ」
グイグイと俺の頭を押し返して下げさせまいとする。
細い腕とはいえ無理にやられると首が徐々に痛くなってくる。
「しかし……」
首が痛くなってきたので一度態勢を整える。
そして、再び頭を下げようとした。
「そこまでせんでええ言うてるやろ」
次は下段蹴りで脛を蹴ってくる。
言葉でダメなら肉体的に。
痛みで頭を下げる事は無くなった。
「どうしても言うんやったら、お昼おごったらそれでチャラにしたる」
其れなら……
俺はその場所へ連れて行ってもらう。
お互いのすれ違い、勘違い。
それがこんがらがってしまうとややこしい。
「ほんなら、お昼食べよか」
向かい合わせで天麩羅定食を食べる。
二人とも食べるのが好きだから、ゆっくりと味わう。
そしてしばらくして食事は終わって器は空っぽになった。
「茶菓子買って帰ろか」
だんごを買って十二番隊の隊舎へ戻る。
入る前に振り向いて口をへの字にして言葉を発してきた。
「勘違いして悪かったな」
それだけ言って入っていった。
こっちが悪いと思っているのを察知して言ってくれたのだろう。
その心遣いがありがたかった。
「仲直りできたみたいやな」
後ろから矢胴丸さんの声が聞こえる。
見られていたのか?
「おかげさまで……ありがとうございます」
先ほど気を回してくれたお礼を言う。
すると見上げるように、少しばかり流し目で所作をしてくる。
表現としては『色っぽい』というものだろうか?
「お礼なら体でせえ」
俺ももはやその意味が分からないほど若い男でもない。
顔に血が集まる。
しどろもどろになって何とか言葉を発して断る。
するとくすくすと笑われた。
「冗談や、まったく初心な奴やな」
また、揶揄われてしまった。
少しむすっとした顔をしていたら、次は手を前に出してきた。
一体何のつもりだろう?
「お駄賃、渡し」
そういう事ですか……
巾着からお金を出して渡す。
一拍置いて、笑い顔から真剣な顔に変わってこっちを見てきた。
「どこぞの意気地なしとえらい違いやな」
こっちが好きな気持ちを言っていたり、謝ったり。
そう言うのをこの人が一番知っている。
俺はあの日の言葉に感銘を受けて我慢をしていない。
それはそうと、意気地なしって誰の事だ?
そんな事を考えていると目の前からいなくなっていた。
気持ちは昨日よりも楽になった。
少し頬が緩んでしまいそうになる。
引き締めて十番隊の隊舎へと戻っていくのだった。
仲直りすると言っても自分から謝れないあまのじゃくな性格なだけで、悪い事は理解できているはず。
藍染に対しては徐々に藍染が心を開き始めているといった感じです。
綺麗な藍染ですが平子が最初の『逆撫』の反応から未だに警戒するというすれ違い。
もし、悪い事するなら格好の隠れ蓑を自分から生成していくスタイル。
指摘などありましたらお願いします。