ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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区切りが見つけられず、文字数が多くなりました。
評価や感想、毎度有難うございます。


『仕事 - Working-』

矢胴丸さんの意気地なし発言から数日が経った。

その相手が誰なのか皆目見当はつかない。

 

「まあ、どうでもいいけど」

 

ひよ里さんが好きなのに一歩も踏み出さない人がいるだけだ。

そんな手をこまねいても意味なんてない。

あの人には率直に気持ちを伝えないとわかってもらえない。

回りくどい言いかたなんて逆効果だ。

間違いなく『さっさと言え』と一蹴されるだろう。

 

「藍染副隊長は居るか?」

 

今日のお昼を一緒に食べる誘いをするつもりで五番隊隊舎に赴く。

隊舎に入って藍染が居るか確認。

すると席官が息を切らせて走ってくる。

 

「あの……平子隊長を知りませんか?」

 

どうやら話を聞くと職務怠慢で脱走したらしい。

その為、草の根を分けてでも探しだそうとする。

挙句の果てにしわ寄せは藍染に向かっているのだ。

 

「分かった、ここまで来たし手伝うよ」

 

そう言って執務室へと入っていく。

特技の一つとして、筆跡を真似る事が出来る。

これは四番隊時代に押し付けられて身につけたものだ。

今なら署名一覧を確認できるため、護廷十三隊の隊士全員の筆跡を真似られる。

 

「あの、こちらが平子隊長の担当です」

 

ふむ、なかなかの量だがこれならお昼前には終わらせられる。

しかし、これは厳重注意だな。

 

「有難う、じゃあ始めるよ」

 

カリカリと筆を走らせる。

瞬く間に減っていく。

数時間後には全てを終えていた。

予想通り、お昼前に終わってよかった。

そんな事を考えていると緩い声で入ってきている男がいた。

 

「平子隊長、どこに行ってたんですか?」

 

藍染が聞くとどうやら怠慢してうろついていたらしい。

油を売ればいいというものではない。

四楓院隊長にも言っておかねば。

 

「代役の方がいらっしゃったので終わりましたよ」

 

冷めた声で平子さんに言う。

結局お前と俺の二人で終えてしまったからな。

ため込んでいるのも関心しない。

 

「明日のお昼一緒にどうだ、藍染?」

 

執務室から出ると平子さんは驚いていた。

藍染は是非と言っていた、良い顔している。

あいつも無茶してないのが今の雰囲気で分かる。

もしかすると目に見えない部分もあるかもしれない、探りを入れてみるか?

まずは隊舎に戻って、残った自分の業務をしなくては。

そんな事を考えていると後ろから蹴られる。

 

「なーに、仕事ほっぽとるんや!!」

 

曳舟隊長とひよ里さんだ。

頭を掻きながら理由を一通り話す。

それを聞いてもらううちになんか可哀想な目で見られてた。

 

「貧乏くじ引きすぎやろ……」

 

肩を叩く事が出来ないので背中を叩かれる。

慰めてくれているのだろう。

少し役得だと思っている。

 

「まず、筆跡真似られるのに驚きだよ」

 

押し付けられているときに身につけました。

怠慢してるのが悪いんですが乗り掛かった舟ですからね。

 

「お昼はどうするんだい?」

 

聞かれて少し罪悪感が湧く。

まだと言えば誘ってくれるのがこの二人。

だが…

 

「自分の仕事も有りますので、申し訳ございませんが……」

 

そう言うとひよ里さんがずんずんと大股で五番隊の隊舎へ向かっていく。

それを曳舟さんが追いかける。

俺も追いかけていく。

 

「こら、シンジ、出てこんかい!!」

 

なんやなんやと言いながら出てくる平子さん。

ひよ里さんが飛び蹴りで平子さんを吹っ飛ばす。

その見事な一撃に手を叩いて賞賛していた。

 

「人に迷惑かけて仕事せんとは良い身分やのぉ!!」

 

鼻血を出して顔を押さえている。

後ろから藍染が見ている。

 

「用はそれだけや、このハゲ」

 

そう言って本当に背を向ける。

俺がそれを追いかけようとすると後ろから声が聞こえる。

 

「お前がひよ里に言うたんか……」

 

心外だな。

そんな狭量ではない。

ただ、仕事ほっぽらかしたから弁解して仕事するために昼ご飯断ったんだ。

その原因がそっちに有っただけの話。

それにほとんど進んでいない書類の貯まり具合。

あれじゃあ、藍染も苦労する。

 

「あの人が俺を可哀想だと思ってやってくださったことで告げ口したつもりはありません、

そもそもそっちが職務怠慢して副官に押し付けなければいい話ですよ」

 

こちらとしても今日に関しては言えたものではない。

綱彌代と東仙、涅の三名がてんやわんやだろう。

全くもって申し訳ない。

 

「では失礼します」

 

そう言って十番隊の隊舎に戻る。

気が重いが謝ればいいだろう。

仕事は基本速いのだがたまらないわけではないからな。

 

「今、戻った」

 

お疲れ様ですと言ってくれるのでお辞儀を返しながら執務室に向かう。

そこに東仙がいたので頭を下げる。

 

「東仙、仕事を押し付けてしまったな、申し訳ない」

 

そう言って引き受ける。

去っていく前に綱彌代にも、持ってきてもらえるように頼む。

涅が担当しているのならば、それも追加でと伝える。

 

ほどなくしてそれなりの量を持ってきた。

溜めてはいないが、お昼ご飯を食うのが中途半端な時間になるな。

小腹ぐらいに収めておかないと晩ご飯が入らない。

 

「誰か誘いに行って引き受けさせられるとか災難ですね」

 

東仙が言ってくるので頷く。

お前が隊長になったら仕事をやむを得ない事態以外で放り投げるなよ。

隊員たちにも迷惑だからな。

 

「終わったか……」

 

目頭を押さえながら揉む。

あれから夕方になる前に終わった。

自分である程度の数、渡してくることを伝える。

後は席官で五番隊から七番隊、九番隊、十一番隊、十三番隊。

この六箇所へ届けに行ってもらう。

せめて手伝ってくれた分を返さないとな。

 

「お前もいろいろと交友を深めておけよ」

 

一緒に食事をすることもある。

卍解を修練したり、俺と鍛錬で斬り合ったりとしている。

俺以外の奴と言えば、拳西さんや九番隊の隊士が多い。

最近は別の六番隊や七番隊とも交流があるようだ。

綱彌代副隊長は問題はない、元々俺よりも歴が長い。

涅と阿近はこっちが連れだしているから困っている。

あいつらとんと交友関係とかに無頓着だからなあ。

 

「大丈夫ですよ」

 

そう言って笑ってくる。

さて、終わった書類を届けてくるか。

最近は東仙達に任せきりだったからな。

 

「目を通しておいてください」

 

山本総隊長に渡す。

相変わらずの威圧感。

手招きされて、旨いお茶を振舞われる。

雀部副隊長は西洋の食事が好きらしいから、よく紅茶というものを勧めてくる。

一度は呑んで見たがどちらかと言えば日本のお茶の方が好きだ。

 

「最近は随分と堂々してきたのぉ」

 

髭を触りながら言ってくる。

まあ、結構時間が経ちましたからね。

元々長く副隊長も経験してきましたし。

 

「お主のようなものが多ければ安泰じゃな」

 

そう言われると照れ臭い。

頬をかいて去っていく。

次は二番隊だが…

 

「また逃げられましたか、夜一様!!」

 

二番隊の席官である(ソイ)(フォン)が叫ぶ。

霊圧を感知したらいいのに。

まあ、感知しても追いつけないから意味がないのだろう。

 

「この書類を副隊長に」

 

目の前に現れた男に警戒心を抱いている。

しかし、隊長と知ってその顔を引き締める。

書類を受け取っていくとようやく口を開く。

 

「四楓院隊長が隊首室から消えているのを追いかけねばなりません」

 

凄い必死だな。

気真面目過ぎたらいつか身を滅ぼすぞ。

それに四楓院隊長なら……

 

「そこの木の上でお前を見ているじゃないか」

 

視線を上に向けるとつられて上を見る。

そして見つけたが……

 

「捕まえられません、あの方は速すぎます」

 

仕方ない子だ。

手助けをしてやろう。

指を組んで息を吸い込む。

 

「縛道の八十一『断空』」

 

木に登っていく砕蜂を余裕綽々で見る四楓院隊長。

しかし逃げようとした瞬間、鬼道に囲まれる。

さっきのは断空を六度展開しておた。

それで結界を張っておいた。

 

「稀乃進はおらんはずじゃが……」

 

下を見て俺の姿を確認すると苦笑いをする。

刀だけの男と錯覚しましたか?

おれは別の木の上に立って向かい合わせになる。

 

「仕事をしなかったり脱走とかは感心しませんよ」

 

年はこちらが上だが、向こうの方が隊長歴が長い分、敬語だ。

砕蜂が捕まえたのを見て『断空』を解く。

協力ありがとうございますと感謝をお辞儀で示してくる。

 

「こうやって慕っている人も望まない捕縛をすることになるんですから」

 

そう言って去っていく。

まだまだ渡しに行かないといけない隊がある。

次は三番隊。

真面目な鳳橋さんだからこの時間は居るだろう。

 

「失礼します」

 

三番隊の隊舎に赴くと鳳橋さんが出迎えてくれた。

相変わらずの優男ぶりだ。

女性隊士が黄色い声を上げている。

 

「タケル、書類の配達かい?」

 

その言葉に頷く。

笑顔で受け取るとそのまま副官室に来るように言われる。

おしゃれな内装に驚きを感じる。

花瓶に挿した花も存在感がある。

座布団を出して座るように促してくる。

なんだかんだで鳳橋さんと矢胴丸さんにはすんなりという事を聞いている気がする。

 

「ひよ里とのことなんだけどね……」

 

前に足払いをされてたけど、何をしたんだいと聞かれる。

内緒にしてほしいと前置きをする。

こちらにとってやましい事ではなく、あの人にしたら恥ずかしい事だから。

綱彌代副隊長に手袋を渡した。

それが色違いのお揃いの装飾だった。

それを知ったら烈火の如く、怒られたのだ。

ねぎらいのつもりが意図せずあの人を傷つけた。

 

「疑うような真似をしてしまったのか」

 

頬をかいて怒るでもなく察しているような仕草。

きっとひよ里さんがどんな気持ちで居たのかは大人である鳳橋さんは気づいているのだろう。

そしてこちらに視線を向ける。

俺の付けている指輪を見つけていた。

顎に手を当てて考え込む。

 

「でも、確かひよ里もお揃いの指輪を付けている気が……」

 

流石に俺の指を見たらわかられるか。

親指だから見えにくい場所である俺は普段は気づかれない。

気づかれても人差し指だからあくまで他意はないと言えるひよ里さん。

でもお揃いのものとなればその意味は格段に違ってくる。

 

「あれは俺の思いの丈を捧げて送ったものです」

 

隊長格になってから贈った大事なもの。

愛を示すような形。

それをいずれはしかるべき場所に付けると言っていた。

それが何時になるかは分からない。

それでも待ち続ける。

言葉では愛していると言いながら。

 

「その指にはひよ里は気づかなかったんだね」

 

相当お怒りだったので…

東仙が慌てて呼びに来るくらいですからね。

あれで東仙が連れてきませんなんて言ったら斬られていたかもしれない。

 

「やっぱりひよ里の事は好きなのかい?」

 

ひよ里さんの気持ちがやきもちだったという事を言いながら聞いてくる。

それはどうでもいい相手なら抱くことの無い感情。

俺を少しでも意識してくれていると思える淡い期待。

 

「変わりません、愛の感情は」

 

殆ど即答だった。

たとえこれから先どんな人が現れても、あの人以上に心乱す事は無い。

こんなにも狂おしい熱に焼かれそうになることも。

独り占めしたいという黒い感情を抱く事さえも。

 

「女性としては嬉しいんだろうね、ひよ里はまだ恋を知らないから理解できないだろうけど」

 

でも、それでもひよ里を恨んじゃいけないよ。

そう言われて頷く。

恨むなんてことはない。

 

「話が長くなってしまったね」

 

そう言われると確かに長かったかもしれない。

次の四番隊に渡したら、次は八番隊だ。

忙しいから手伝うかもしれないな。

恩は返さないといけない、あの人の頼みには首を縦に振る。

それが己に課した絶対的な掟。

 

「失礼します」

 

そう言って立ち上がって去っていく。

敬語を使っていたから、三番隊の隊士から鳳橋さんが質問攻めされていた。

全くもって申し訳ございません。

そう思い、頭を下げながら隊舎を出ていった。

 

相変わらずの忙しさ。

隊舎の前に来ると声が聞こえる。

勝手知ったるなんとやら。

扉を開けてもらわずとも壁をよじ登れる。

何なら修繕してなければ抜け道だってあるはずだ。

 

「よっと……!?」

 

よじ登り終わって飛び降りようとした時に殺気を感じる。

その視線の先には卯ノ花隊長がいた。

怒っているのだが笑みを見せながら手招きをする。

俺はすぐに近づいて正座する。

 

「子供のような真似をするとは何事ですか?」

 

淡々と説教が始まる。

隊長になったのだからそう言った真似をしては示しがつかない。

忙しそうだから手を煩わせたくなかったと弁解をする。

『侵入者がいるだけで問題が発生してしまい結果、扉を開ける以上に煩わされる』と返される。

 

「全く、巣だったかと思えばまだまだですね」

 

そう言ってため息をつかれる。

正座を崩そうと思うが申し訳なさで崩せない。

すると警報が鳴った。

これは完全に手が回らなくなった時のもの。

何度も聞いた事があるから覚えている。

 

「どうやら新人に任せたところが徐々に詰まってきていたようですね」

 

俺は立ち上がって卯ノ花隊長に身振りでそちらに行ってもいいか確認を取る。

その俺の姿を見て微笑むと頷く。

そしてかつての様に俺に指示を出す。

 

「斑鳩隊長、新人隊士たちを助けに行きなさい」

 

承知と短く答えて駆けていく。

そして警報の発生源に行くと溜息が出た。

回しきれないというよりは慌てているのが原因である。

重傷だったりその症状で順位を付けてしないと。

まだ新人が背伸びをして、全てを平行に行っていくと機材とかが散らばるから時間の損失の方が大きい。

 

「どけ」

 

そう言って一人をぐいと押しのける。

そして指示を出す。

 

「一度散らばった機材を集めて洗浄してこい」

 

出来るだけ速くな。

その間に怪我は治していく。

もしくは出血を押さえておく。

重傷で今すぐ必要なのは十名ほど。

この程度ならすぐに終わる。

この倍ほどを常に副隊長の時はやっていた。

 

「軽い奴よりこっちにいる奴を重点的にやっていけ!!」

 

そう言って指示をてきぱきと出していく。

数分後、完全に処置を終えている患者たちがいた。

慌てても、順序がずれて能率が下がる。

それだけ忠告して去っていく。

すると別の場所で警報が鳴る。

 

「またか!!」

 

そう言って瞬歩で入っていき、治していく。

時間にすると二時間にも満たない速度で終わった。

過去ならば三時間かかる量が半分ほどの時間で終わった。

 

「山田副隊長より速いじゃないか……」

 

上位席官の呟きが聞こえる。

少し気分がいい。

卯ノ花隊長から巣立っても衰えは無し。

それどころか鍛錬の結果、あの日より速くなっているなんて。

 

「見事ですね」

 

汗一つかいていない。

息一つ切らしていない。

その姿を見て卯ノ花隊長が笑っていた。

 

「とにかく書類は受け取りました、ありがとうございます」

 

そう言って扉を開かれる。

次は八番隊か。

思ったより仕事を押し付けられているな。

副隊長の時の方が自由だった気がする。

 

「十番隊の斑鳩です、書類を届けに来ました」

 

 

 

 

「隊長自ら書類の配達なんてしなくてもいいんじゃないの?」

 

 

「だってもうあの頃の青い坊主じゃなくて今や長ですから、好きにやって仕事をろくにしないだったら皆不満を持ちますよ」

 

 

 

 

 

 

「このおっさんに爪の垢を煎じて飲ましてやりたいわ」

 

矢胴丸さんが笑いながら言ってくる。

しかし京楽隊長に向ける目は笑っていない。

きっと僅かに見える冷や汗は気のせいではないだろう。

 

「ひよ里ちゃんとはどうなの?」

 

少しいやらしい笑みを浮かべて聞いてくる。

一体その笑みが何を意図しているのかは分からない。

とりあえずそのまま答えてみるか。

 

「お揃いの指輪を渡してからは一緒に食事に行ったりして、徐々に距離を詰めてはいるんですけどね」

 

それ以上はないですよ。

こちらの気持ちには気づいているんでしょうけど。

そう言ったら首根っこを掴まれる。

 

「京楽、こいつ借りるで」

 

そう言って俺を引きずって副官室に入れられる。

矢胴丸さんが俺を引きずっていく姿を見て、隊士たちが驚いていた。

この大きさを難なくやっているわけですからね。

 

「一気に距離詰めてへんのか?」

 

だって手を繋いだり、抱きしめようとしたら蹴ってくるんですよ。

強引にしようとしたら力加減を間違えそうですし。

そうこっちが伝えると少し顎に手を当てて考える。

 

「前回のあれはあの子がやきもちやいたんやろ」

 

思い出したように言ってくる。

しかもこっちが伝えなくても全部わかるとは、凄い人だな。

ほんま、ひよ里はかわええなぁ。

そう言うと一転真剣な顔をこちらにしてきた。

 

「ここまで来てるんやったら少しの勇気振り絞り」

 

あの子の中で特別になってるのを薄々感づいているんやろ?

その問いに頷いて答える。

だって何とも思わないやつから勘違いだけで烈火のごとく怒るなんてないですし。

 

「あの子も嫌いな奴なら後日曳舟隊長とか、うちの所に相談して報復したがるわ」

 

いうて、押し倒せってわけちゃうけどな。

さっきみたいに加減間違える言うんやったら頭撫でるとかそんなでもええ。

言い方悪いけど唾付けるなりしとけ。

そう言われて背中を叩かれる。

なんでこんなにも恋路を応援してくれるのか?

疑問なので聞いてみる。

 

「だって幸せにしてくれるやろ?」

 

うちらも永遠の命ってわけじゃない。

出来れば幸せな時間が多いままこの命を終えたい。

それには連れ合いがおってもええ。

でも、そんなんうちがひよ里の為に見つけるもんちゃう。

だから心から幸せにしたがる奴が来るのが一番や。

そこまで言って一拍置くと俺を指さす。

 

「それがお前や」

 

どこぞの意気地なしとは違って燃えるほど熱く恋をしている。

だから応援するのだ。

ひよ里が満面の笑みを常に浮かべられるように。

そこまで言われて圧倒された。

 

「話は終いや」

 

そう言うと扉を開けて俺を蹴りだす。

相変わらずだな。

良い人なのは分かるが、いささか過激な物言いや行動が激しい。

 

「次行くのはきっと十二番隊やろ」

 

少し口角を上げて言ってくる。

まるで『お前の考えなんてお見通し』というように。

この人にはこういった駆け引きでは勝てない。

そう思って八番隊隊舎から出ていった。

 

「とにかく最後の隊舎だな」

 

そう言って扉を叩く。

ゆっくりと出てきたのはひよ里さんだ。

少し眠そうにしている。

しかし、副隊長の面子で引き締めた顔でこっちを見てきた。

 

「書類か、お疲れさん」

 

受け取って、曳舟隊長の元へかけていく。

十二番隊の元気印だな。

十番隊にもこれくらい快活な人がいたらなぁ。

 

「入ってきぃ」

 

くるりと振り向いて手招きしてくる。

おずおずと入っていく。

悪い事をしているわけではないが恥ずかしい。

もしかしたら一番隊隊舎に入る時以上の緊張だ。

 

「昼、一緒に食われへんかったさかい、晩はどないや?」

 

その誘いに相も変わらずの首振り。

流石に慣れてきたのか笑っている。

 

「おでんの屋台にでも行こか、曳舟さんも一緒に連れて」

 

二人きりだと思ってたのを少し自己嫌悪。

そりゃ、尊敬する人も一緒だ。

これは体に触れるのは次の機会かな。

頬をかきながら準備をするひよ里さんを見つめていた。




率先して仕事したり交友を深めようとしたら巻き込まれやすい。
鳳橋や矢胴丸の二名はひよ里を応援しています。
体に触れようとしたら怒られるから手を繋ぐのもままならない状況です。

指摘などありましたら何卒よろしくお願い申し上げます。

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