ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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もう少しで浦原の隊長就任。
そしてマユリと阿近と眠六號離脱。
の予定です。
余計12番隊に行く口実ができそう……


『溜息 - sigh - 』

曳舟隊長とひよ里さんの思い出づくりに一役買って、はや五年。

俺の睡眠時間は削られながらも二人の楽しそうな姿を見ると気分も落ち着く。

微笑みが漏れるがそれは良い。

結局は誰も手伝ってはくれない。

一人で時折かりかりと倍の書類仕事をこなす。

これをやっている理由を察しているのは矢胴丸さんぐらいか。

 

「これ、渡しに行って」

 

東仙と綱彌代に頼む。

眠六號は今は二十席に座っている。

阿近が十七席に座った。

精鋭部隊と謳われるだけの少数。

その為、雑用でも主要な戦力を割いている。

雑用専用の隊士などいない。

ここを夢見て入る奴らが後を絶たないが、えてして九割は他隊への異動を言い渡している。

その後に結果を残している奴らの多い事。

適性を曇らせているというのが大きすぎる。

 

「俺は俺で別の隊に渡しに行くから」

 

十二番隊と八番隊。

五番隊も入っている。

十二番隊に渡す際に完了済みの代理分を持っていく。

 

「猿柿副隊長は居るかな?」

 

曳舟隊長と一緒にいるからと言って毎日それ以外何もしていないわけではない。

鍛錬や後進の育成。

自分の職務も時間を作る時以外はきちんとこなしている。

 

「今は道場ですよ」

 

卍解を練習しているらしい。

ただ、あれはすぐには生まれない。

俺が教えてもいいんだが…

 

「一目見させてもらうが、これを副官室に置いてきてくれないかな?」

 

受け取って副官室に入ってから出てくるのを見ていた。

きちんとしたのを確認するまでは安心できない。

此方に気づくと頭を下げる。

此方こそ失礼な真似をしたので頭を下げて道場へと向かう。

 

「しかしあの人も相変わらず努力家だな」

 

道場に入ると汗にまみれたひよ里さんがいた。

根を詰めているのがわかる。

具象化もしているのであと一歩だろう。

 

「屈服させようにも相手の間合いの方が長いのか」

 

蛇のようなぬらりとした眼。

薄緑色の肩口までの髪の毛。

指や手足の長さ。

すらりとした見た目。

人の形でもおおよそ五尺三寸はあろうかという背丈。

ほぼ一尺の差は大きい。

 

「はあっ!!」

 

横薙ぎ。

浅い踏み込みになっているのは疲労からと推測。

相手は最小限の動きで後ろに下がる。

そこへ跳躍して振り下ろし。

相手は逆に前へ進み一番の急所を防ぐ。

ここで一つ発展させられる。

それで一撃を喰らわせてしまえ。

 

「かあっ!!」

 

刃と刃の間の溝を活かして、相手の刀に引っ掛けて体を前後に揺する。

その勢いのままに相手の顔面を蹴る。

内心で拳を握る。

それで良い。

後ろから斬りつけるのに抵抗がなければ、そのまま跳躍で後ろに回って切り裂く。

 

「くっ……」

 

膝をついて『馘大蛇』を制する。

体力の限界か。

水溜りができるほどの汗。

さっきは良く見えていなかったが、これから察するに二時間ほどは籠っていたな。

 

「ふぅ……」

 

息を吐き出して衣服に手をかけるひよ里さん。

このままでは非常にまずい。

わざとらしく咳をする。

するとくるりとこちらに顔を向ける。

 

「いつから見てた?」

 

少し顔が赤らんでいる。

動きで血が巡っているのだろうか?

もしくは俺に見られた羞恥からなのか?

それは分からないがきちんと答えよう

 

「最後の部分だけですよ」

 

見事な身のこなしですと言いたかった。

しかし、まだ研鑽の余地がある。

その思いが顔に出たのか。

頭を掻いて唸っている。

 

「まだまだあれじゃああかんってわけか……」

 

こっちの顔で察してしまった。

ならば俺も遠慮はしない。

指摘をしていこう。

だがその前に……

 

「道場の外に出るんで着替えてください」

 

その言葉に頷く。

着替え終わったら声をかけてくる。

そして道場の床拭きの手伝い。

ちゃっかりとしている人だ。

 

「指摘する点はどんな所や?」

 

まずは横薙ぎの部分。

時間差とかの駆け引きがないのが良い所ではある。

しかしそれではやはり呼吸が読みやすい。

避けるのも最小限で済まされて疲労の蓄積が断然変わってしまう。

 

「搦め手じゃなくてもいいから相手との間をずらすだけでかなり変わります」

 

鬼道で動きを止めればいい。

『斥』で逸らしても。

 

「こちらの土俵に誘い込むと相手に読まれてしまうってわけか」

 

それが一番問題点なんですよ。

長期戦になるほど不利になってしまう。

今のままでは。

 

「戦い方を二つ用意するとかでもいいんですけどね」

 

一つを読んでいるときに二つ目をやって頭の中を混乱させる。

それで一気に持っていく。

流れに引きずり込んで相手の得意分野で仕事をさせないのも有りだ。

 

「そんなにうまくもない鬼道やで……」

 

そうは言うが副隊長の地位まで登った人。

無詠唱で九十番台を放つ事は無いが、六十番台なら難なく放てるはずだ。

それに威力を重視するのではなくあくまでつなぎ。

 

「あくまで戦略の一つでそれに重きを置いて行かなくてもいいんですよ」

 

そう言うとうんうんと唸り始める。

なかなか難しい注文だ。

元々体格に見合った速度で翻弄するのがいいが、斬魄刀が大きい分それも難しい。

鬼道の反動などを組み合わせた空中戦。

 

「ちょっと考えて次に取り入れるわ」

 

そう言いながらも礼で頭を下げられる。

俺としては貴方が強くなるのは嬉しい。

それに『卍解』を使えれば曳舟隊長の後を継げる。

 

「あとは八番隊と五番隊だな」

 

次の八番隊では……

 

「あんたが今日は運びに来たんか」

 

矢胴丸さんが顔を見るなり笑う。

春画を見ながら隊舎内を歩くのはやめてください。

隊士の皆さんも苦笑いじゃないですか。

 

「とにかくその本を副官室に戻してから真剣な顔してください」

 

そう言うと仕方なく、本当にしぶしぶといった感じで置きに行った。

京楽隊長は一体何をしているんだ。

情操教育に非常に悪いのではなかろうか。

そう思いながら待っていると、今度は別の春画を持っていた。

流石に見過ごせないので詰め寄る。

 

「その本とは言ったけど、別の本なら良いとは一言も言ってないですよね」

 

そういう意味で言ってるんじゃない。

持って出てくるなという意味だ。

しかし流石にそうは問屋が卸さない。

こっちの言葉に平然と返してきた。

 

「あの本とは言ったけど、別の本なら悪いとは一言も言ってへんやんか」

 

溜息をついて鬼道を使おうか迷う。

流石に火傷を負わせたくはない。

そんな俺の目を見て危険と思ったのか。

再度戻って春画を置いて出てきた。

 

「『廃炎』を無詠唱でやるつもりやったやろ?」

 

その言葉に頷く。

聞き分けがないのであれば強硬手段に出ざるを得ない。

言葉でやり合うにせよ一枚も二枚も上手なのだ。

勝てるわけもない。

 

「そういう堅物な所も治した方がええんちゃうか?」

 

別にまるでそれらに興味がないと言えば嘘になる。

だが、時と場合を選ばなければいけない。

昼のお日様も出ている中。

ましてや手本となるべき地位。

そんな人が春画見て仕事は流石に見逃せない。

 

「免疫がないのでまともに見るのが恥ずかしいからすごい形相になっていただけです」

 

そう言って書類だけ渡してそそくさと帰る。

これ以上話していると長引きそうだからな。

 

最後に五番隊。

藍染が迎えてくれる。

しかし平子さんの姿は見えない。

どうやらまたもや職務怠慢のようだ。

頭を抱えてしまいたくもなる。

 

「この書類を隊首室の机の上に置いててくれ」

 

きちんと『至急必要』の札で抑えた状態でだ。

とにかく探すことにして霊圧を探知する。

どうやらこの方向は……

 

「どいつもこいつも何考えていやがる」

 

できれば行きたくもない場所なのだ。

あの場所では肌を見せがちではあるが上等な着物を着た女性ばかりだ。

そしておしろいや香水で化粧をしている女性が多い。

鼻が痒くなるし眼中にない。

其れなのに腕を強引に引かれる。

流魂街の上位の地区にある色街。

そこに平子さんの霊圧があるのが分かった。

 

「すまないが見つけたから少しだけ待っていてくれ」

 

そう言って瞬歩で探知をしながら探し始める。

移動していたらそちらに行く。

留まっていたらいいがすれ違うからな。

 

「全くこんな時間に行く場所ではないだろう」

 

そう呟きながらあっさりと見つかった平子さんに近づく。

話に夢中になって気づいていない。

よく見ると腰に手を回しているではないか。

女の方が先に俺に気づく。

声を出すなと目で威嚇する。

 

「すまないがこいつ連れて行くぞ」

 

そう言って髪を掴んで引きずるように瀞霊廷へ連れていく。

石畳に羽織がこすれるがお構いなし。

顔をしかめている。

ちなみに女性は驚いて硬直したままだった。

 

「痛い、痛い!!」

 

痛くなるように引っ張っているに決まっているだろう。

何を寝ぼけたことを言っているんだ。

 

「寝言を言うには目が開きすぎだ、痛くされて当然だろ?」

 

仕事もしないで女と話している。

護廷十三隊の隊長として情けない。

溜息しか出ない。

 

「山本総隊長に言ってあんたを隊長職から外してもらう」

 

それを言うと青ざめる。

おおよそ何かに怯える様に。

 

「それはあかん!!」

 

叫んだせいで驚いてしまい、手を離す。

本当に嫌そうな顔でこっちを向く。

 

「まさかあんた、今の立場を悪用してないだろうな?」

 

『蛆虫の巣』から抜け出させたり、放逐したり、倫理に問題ある研究したり。

そういう意味では悪用ともとらえられることをしている。

しかし金銭の問題や女性に対してのだらしなさは皆無。

だが、この反応を見るにこの人はそう言った事をしているんじゃないのか?

 

「それならまじめに仕事でもしておけ」

 

しかしここは見逃さざるを得ない。

いきなり藍染に責任を増やさせるわけにもいかない。

 

「卯ノ花隊長と京楽隊長の信頼を裏切るなよ」

 

殺意を漲らせた目で睨む。

その言葉に含まれる真剣さを理解したのか頷く。

 

「分かったならさっさと隊舎に戻れ!!」

 

これはまずいと判断したのかそそくさと消えていく。

俺はそれを見ながら苛立ちから頭を掻く。

 

「藍染の方がよっぽど器として正しいんじゃないか?」

 

その答えは返ってこない。

しかし俺の心には呆れが充満していた。

もう少し真面目な振る舞いを身につけてほしい。

そんな心で帰りへの道を歩き始めた。




仕事熱心なので普段はコロコロされてる相手に物おじなし。
何回もだらしないというか、不真面目すぎる平子は若干キャラ崩壊してて申し訳ありません。

指摘などありましたらお願いします

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