ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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今回で区切りがつきました。
かなり駆け足ではあります。


『サヨウナラ - Good Bye - 』

ついにこんな日が来てしまった。

あれから数年もの間。

卍解を習得間近という場面。

それだけ嬉しい事があれば、悲しい事もある。

それをひよ里さんにまざまざと感じさせるように。

 

今、全ての隊長が一番隊隊舎に集まっている。

そしてその中には見慣れない顔ぶれが四名。

これが『霊王』を守ると言われる零番隊の猛者。

 

「十二番隊隊長、曳舟桐生の功績をたたえ『零番隊』への昇進を決めた」

 

その言葉を粛々と聞く。

当の本人も頭を下げている。

 

「これから一週間の間に全ての身辺の整理を済ませて合流するか、断るのであればこの場で聞かせてもらおう」

 

和尚のような男が言う。

霊圧も確かに大きい。

だがそれ以上に底知れぬものを感じる。

 

「私、曳舟桐生は零番隊への昇進を謹んでお受けいたします」

 

そう言ってためらいもなく頭を下げる。

やはりこうなってしまったか。

内心では憂鬱だ。

しかし出さないように努める。

 

「あい、わかった、それでは一週間後にまた会おう」

 

そう言って去っていく。

これにて緊急の集会は終了。

此方を個性的な髪の人が見ていたけれどどういう事だろうか?

まあ、知ることもないだろうから放置しておこう。

 

「どうするんですか?」

 

隊舎から出て俺は曳舟隊長に聞く。

秘匿せよとは言われている。

しかし、あの人には伝えるべきだと思っている。

何故ならば副官だからだ。

その人に何もいわないまま去っていい訳が無い。

 

「言わないとねぇ……」

 

苦笑いだ。

こういう時は決まっている。

俺が伝える役目を担った方がいいのだ。

また怒られる。

でも仕方ないよな。

 

「伝えますよ」

 

そう言って付き添う形で十二番隊の隊舎へと向かう。

すぐさま、副官室の扉を叩く。

 

「お疲れさん」

 

そう言って迎え入れてくれる。

しかし、真剣な顔を見て悟ったのか。

すぐに顔を引き締める。

あの時と同じ雰囲気が流れている事を、ひよ里さんも分かっているのだ。

 

.

.

 

「……この日が来たんか」

 

その言葉にタケルが頷く。

言わずともわかっている。

その覚悟の為に多くの思い出を作った。

駄々をこねはしない。

 

「すまんな」

 

幾年もの間背負わせた仕事。

其れからの解放を告げる。

そして、結果に対して辛さを見せたらあかん。

あかんはずやのに……

 

「ひよ里さん」

 

近づいてきて手を広げる。

それを見ると目頭にこみあげるものを止める事ができへんかった。

体を低くしてくれているその胸に顔をうずめて泣きじゃくった。

声を漏らさないように。

そして気づかうように背中を叩いてくれる。

 

「すまんな、隊長羽織を濡らして……」

 

それから何分泣いていただろう。

落ち着いたころには自分がいかに恥ずかしい真似をしたかを思い知らされる。

しかし相手は頬をかいていた。

何も思わなかったのかと言えば違う。

うずめた時、確かに腕の中に収められた。

つまり抱きしめられていたという事になる。

それ故に耳まで赤くしているのだ。

 

「強くは抱きしめへんねんな」

 

顔を自分でもわかるほど赤くしてそっぽを向いて言ってやる。

それに対してわたわたとして口ごもる。

怒っとるわけやあらへんのにな……

ここでくすくすと笑ったらあかん。

別にからかったつもりもないし。

さりげなく濡れた隊長羽織を『廃炎』の熱を調節して乾かしていた。

芸達者か。

 

「ああしないと貴方が何処かに行ってしまいそうだったから……」

 

消え入るような声で呟く。

曳舟さんを追いかけるか、もしくは引退して隠遁。

そんな事をよぎるのも無理はない。

 

曳舟さんのために頑張ってきた。

その拠り所が無くなる。

そんな一大事で正常に判断は下せない、突拍子もない動きをする。

それは少なからず可能性として見えるのだから。

 

「うちは黙って消えたりせえへんで」

 

そう言うとほっとした顔になる。

今日は表情が頻繁に変わるな。

人のこと言える立場やないけど。

 

「今日の事はうちらだけの秘密や」

 

.

.

 

赤裸々な事を秘めるように言われる

口外したらどうなるかわかってるな?

そんな言葉が眼差しを通して伝わってくる。

 

「無論、誰にも言いませんよ」

 

そう言うと太陽のような微笑みがそこにはあった。

止められなかった事を咎めようともしないその笑みに。

その眩しさに自分は救われる。

 

「次に十二番隊の隊長になるのは誰や?」

 

予想ではあるが確実に挙げられるのは……

きっとあの男だろう。

だらしないから面倒見がいい分、隊長と副隊長としては相性はいい。

京楽隊長と矢胴丸さんに近いかもな。

 

「二番隊の三席である浦原喜助だな」

 

二番隊と聞くとあまり良い顔はしない。

こそこそして殺しをやる奴らとしての認識が大きい。

そう言った根暗な真似が大嫌いなのはわかる。

 

「どんな感じの奴や?」

 

基本穏やかでへらへら笑っているような奴。

ただし、危害を加えるだったり邪魔な相手に向ける殺気。

真剣な時の締め具合は恐ろしい。

肝心な場面や危機的状況では頼りにはなる。

後は非常に頭が回るという事。

 

「ふーん、どっかのハゲとおんなじ系統やんか」

 

どう考えても浦原の方が頼れますけどね。

そう心で思ったが口には出さない。

 

「曳舟隊長の時は引っ張られてましたけど、どっちかって言うと今度はひよ里さんが引っ張る側になりますね」

 

そう言うと苦笑いされる。

負担が大きくなるからだ。

あと、懸念材料としては……

 

「浦原の出方次第ではさらに面倒な事になります」

 

涅を連れていかれる。

するとそれに連れられて阿近。

さらに眠六號の二名が動く。

 

言い方は悪いが涅は唯我独尊に近い。

その為、ひよ里さんとの相性は悪い。

阿近の憎まれ口次第ではさらに火を油を注ぐことになる。

眠六號はきちんと教育をしているから問題ない。

 

「問題児二名が来るんかいな」

 

しかもきっと今の瀞霊廷の中でも最高峰が一人。

問題起こしたりしたら呼んでください。

そう言うとにやりと笑って当然と返される。

あぁ、これはこき使われるな。

そう感じ取ると微笑みが漏れる。

 

「曳舟さんとはあと六日間、思い出作るわ」

 

そう言って話がひと段落する。

今日の所は終わり。

そういう形で副官室から出る。

出る際に曳舟隊長がにやにやとしていたのは気にしない。

悪い事をしたわけではお互いないのだから。

 

.

.

 

それから六日後。

曳舟隊長が零番隊の方とともに行こうとしているのが見えた。

悪戯心で一つ仕組んでやった。

 

「縛道の九十九『禁』」

 

零番隊全員に詠唱破棄で放つ。

それを避けはするが何が目的か。

それを問おうとこちらを見ていた。

 

「何のつもりだ、てめぇ?」

 

そう言いながら近づいてくる個性的な髪の人。

威圧に対して威圧で返す。

すると目の前から消えた。

 

「ふんっ!!」

 

裏拳を繰り出す。

次の瞬間、受け止められていた。

しかし相手は驚いている。

そんなに目で追われたのが珍しいか?

 

「『雷迅』と謳われた俺の攻撃を見切るとはな……流石は裂の一番弟子だ」

 

卯ノ花隊長を昔から知っているのか。

ならばきっとこの人の正体は……

 

「初代四番隊隊長……」

 

その答えに満足げな笑みを浮かべる。

そして距離を取ってくる。

 

「ご名答だ、俺の名は麒麟寺天示郎」

 

一体どういった理由で五人に縛道を使ったのか。

それを察していたのは他でもない曳舟隊長であった。

 

「ひよ里ちゃんに最後に言葉をかけないのかって事だろう?」

 

その通りだ。

長く副官をしたあの人が寝ている間に去るなど許さない。

せめて一言でもかけてやってほしい。

 

「昨日にきちんと伝えたさ、『また会える』って」

 

今生の別れではない。

いずれ紆余曲折が有ろうとも。

いつかは巡り合える。

 

「あの子を軽んじているわけじゃないのさ」

 

その眼差しは今までの信頼が入っていた。

これ以上は食い下がるべきではない。

分かっているが……

 

「曳舟隊長!!」

 

ひよ里さんがいた。

朝早くに起きて、居ない事が分かったのだろう。

探していた時に俺の霊圧がいきなり膨れ上がったからそれをたどったらしい。

 

「見送らせてくれてもええやろか?」

 

ただそれだけだった。

言葉ではなく行動で。

最後に旅立つ人を見送りたい。

 

「うん、おいで」

 

そんな純粋さを前に断れない。

他の四名も微笑ましい眼差しで同行を許した。

俺は良い。

そう思って去ろうとしたら……

 

「服が縫い付けられて……」

 

服が地面に食い込んでいる。

面妖な真似を。

そんな事を考えていると、和尚が目の前に来る。

 

「おんしも見送れ」

 

満面の笑みで言い放ってくる。

豪放磊落。

第一印象の強さ以上に人柄に笑いがこみ上げる。

あの縛道に殺意はない。

それを見抜かれていた。

 

「曳舟隊長が許すならば」

 

手招きされる。

許されているというわけだ。

それならばと動く。

霊圧で服に裁縫を施していたのだろう。

しかし、それでも体は動く。

筋肉と霊圧で針が体中に食い込んでいかない。

 

「こっちの針をだめにする気かえ?」

 

 

呆れた顔をこっちに向ける。

あっという間に針は抜けた。

 

「血もほとんどついていない……」

 

どういう構造なのかと苦笑いされた。

志波家に着く。

十三番隊の志波海燕の実家とはな。

 

「霊術で戻らないんですか?」

 

そう言うと色眼鏡をかけている男性が声をかけてくる。

話し方の抑揚といい、あまりこちらとは合わない気がする。

それに高揚しやすいのか動きが力強く派手になる。

西洋文化に染まったような男だ。

 

「それはできないんだよ、チャンタケ」

 

変な呼び方だ。

どういった理屈か想像できない。

どういった感性かも。

 

「今から打ち上げてもらってそれでお終いってわけサ」

 

そう言って向かう背中に俺は言葉を放つ。

これだけは聞いておきたい。

 

「今一度、零番隊の皆様の名前を教えてもらいたい」

 

そう言うときょとんとした顔をしていた。

そして一拍置いた後、麒麟寺さん以外自分たちが告げていなかったことに気づく。

息を吸い込み、和尚さんが言ってくる。

 

「儂の名前は兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべえ)

 

それに続き色眼鏡の人が言ってくる。

手を差し出してくるので握る。

すると手の皮が分厚く岩のような堅さがあった。

軽薄さとは裏腹の姿である。

 

「ちゃん僕の名前は二枚屋(にまいや)王悦(おうえつ)

 

それが終わると妖艶な笑みを浮かべながら向かってくる。

マユリから聞いていたが確かに女狐という言葉が似合う。

なんだかこっちを逆撫でする感じの存在だ。

 

「妾の名前は修多羅(しゅたら)千手丸(せんじゅまる)

 

ああ、災害や危険度の規模を表す単位の語源になった存在か。

どうやら更地になっている場所。

『蛆虫の巣』にマユリが入る前に研究しあっていた犬猿の仲の存在だ。

 

「用意は出来ましたよ、零番隊の皆様方!!」

 

張りのある声が響く。

それを聞き、向かっていく。

それに対して俺は地面に頭を付けて大きな声で叫んでいた。

 

「曳舟隊長の事……よろしくお願いします!!!」

 

それに倣ってひよ里さんは送り出す言葉をかける。

空に向かって消えていく。

どうかまた会う時は互いに健康でありますように。

そう願っているように思えた。

 

「行くか……」

 

最後まで見届けて俺は立ち上がる。

今日は新隊長就任。

その式典だ。

当然のごとくいつも通りの早起きなので遅刻になる事は無い。

 

「そうやな」

 

ひよ里さんが後ろについてくる。

この歩いている間は無言。

二人とも多くを語らない。

 

「十番隊の斑鳩です」

 

あっという間に一番隊の隊舎の前に立つ。

その一言で一番隊の隊舎の扉が開く。

その後にひよ里さんが入る。

 

「なんだ、猿柿副隊長と一緒に来たのかい?」

 

浮竹隊長が言うので偶然ですよとごまかす。

卯ノ花隊長も入ってきて相変わらずの速い面子だけが集まる。

その次には愛川さん。

拳西さんと久南さん。

鳳橋さん。

綱彌代が来る。

ある程度が揃ってきた。

 

間延びした声が聞こえてくる。

これは平子さんだ。

そこに重なる足音。

藍染も来ているな。

 

「猿柿副隊長、仕掛ける必要はない」

 

俺は釘をさす。

蹴りやすい顔だろうが良くはない。

渋々と下がる。

自分の隊の後任が気になるのだろう。

そわそわしていた。

 

「あれ、曳舟隊長は?」

 

目ざとく見つけた藍染が言ってくる。

手招きをして伝えてやる。

 

「昇進だよ」

 

その言葉を聞いた途端、ひよ里さんに向ける眼差しが優しくなった。

それがどういう事を指すのか知っているからだ。

そしてその眼差しを察したのか。

 

「気にする事は無いで」

 

手を振って応える。

意外と二人の仲は悪くない。

というより俺が橋渡しになっているからだろう。

 

「おい、総隊長が来たぜ」

 

愛川さんが言うので全員並ぶ。

今回は代理でひよ里さんが隣にいる状態。

少し心地よいそんな気持ちに水を差すように、斜めから殺気漲る視線を浴びせている。

 

「あの~……僕もしかして最後っすか?」

 

おずおずと出てくる新隊長。

それは予想に違わぬ男。

二番隊第三席、浦原喜助。

一瞬、藍染の目が値踏みをするものに変わったのを察して諫めるように視線を送る。

 

「堂々としろよ、新隊長なんだろ?」

 

そわそわしている浦原に向かって言う。

普段そう言った事を言わないからみんなが驚く。

鳳橋さんとかはしっかりしているんですが緩んだ雰囲気なんですよね。

だから檄を入れたくなる。

 

「そのとおりじゃ」

 

杖に押し出されて壇上に来る浦原。

曳舟隊長の昇進に伴って新隊長の選任。

朽木隊長と卯ノ花隊長、山本総隊長の三名での隊首試験。

その結果と人格の判断。

問題なしという事で就任を認めるという事になった。

 

「いやぁ、お久し振りッスね」

 

全員が一番隊の隊舎から出て、ひよ里さんと浦原が帰る時に声をかけてくる。

まあ、お前の担当場所から阿近と涅を引き抜いてからは疎遠だったからな。

 

「新隊長おめでとう」

 

そう言って握手を求める。

それに応じると同時にこちらを見てくる。

 

「涅さん、譲ってくれません?」

 

やはりそう来るか。

渡したくないとは言えない。

約束の元に集まったのだから。

 

「俺は別にあいつを縛り付けているわけじゃないよ、あいつが靡くような条件用意するんだな」

 

俺の所で研究するよりも遥かに有益であること。

あいつの心を上手くくすぐるしかない。

どう出るんだろうな。

 

「えっ、そういう関係だったんですか」

 

お互いの信頼関係でもあるが、実際は利害の一致も絡む。

最先端の研究施設を用意をしたり、さりげなく名誉をちらつかせるのも有りだ。

好き放題できるものだという認識も少なからずあるからな。

 

「速く行かへんのか?」

 

こっちの話を遮るようにひよ里さんが言ってくる。

隊長としての紹介が必要。

それに時間にも厳しい。

しっかり者のこの人が世話を焼くだろうな。

少しだけ……いや、かなり浦原が羨ましい。

そんな事は言わないし、顔には出さない。

二人が去るのを目で追いかけていた。

 

「強力な相手のご登場やなぁ」

 

後ろから矢胴丸さんに声をかけられる。

あいつが緩いからひよ里さんが世話を焼く。

『割れ鍋に綴じ蓋』というように相性はいいだろう。

ただ……

 

「譲るわけないでしょ」

 

幸せにするのは自分だ。

あいつがそういう対象で見るのならば負けるわけにはいかない。

絶対に。

 

「闘志燃やしとんなぁ」

 

ニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた。

楽しいおもちゃが見つかったみたいな顔、止めてください。

 

「頑張りや」

 

そう言って背中を強く叩かれる。

ジンジンと痛む背中。

それを土産に十番隊者に帰っていくのだった。




ひよ里を抱擁とか言う甘い部分を書きました。
正直、ここまで心許してる能力なんて原作でも女性陣しかいなかったのではと思います。
ここからどうなっていくのか。
そして藍染のやらかしがなぜ発生するのか。
それについても一応今まででちょこちょこ可能性になりそうなものは記述させてもらいました。

指摘などありましたらお願いします。

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