次回はギンを登場させていこうと思います。
誕生日に送ってから一週間後。
俺は色々な場所を回っていた。
無論、自分の担当する仕事を早い時間で終えたからだ。
最近は皆が育ち始めているのでこちらがほぼ全てを担わなくても、いい分担ができている。
綱彌代はもとより、東仙と狛村も隊長を任せられる程だ。
ずっとついてきてくれた奴らに巣立つ機会が有るならば与えてやりたい。
「ん……?」
ふと、花の香りが漂ってきた。
十一番隊の隊舎裏から流魂街方向へと続く獣道。
しばらくすると行き止まりにたどり着いた。
それは瓦礫が壁の様に積み重なっている。
この先に一体どういったものがあるのだろう。
気になって飛び越えていく。
当然、更木に見つからないように慎重に。
「これは……美しいな」
眩く光る太陽の光を燦燦と浴びてすくすく育った花。
それは太陽と同じ色の花。
何輪、いや何百もの花が日に向かい続けて凛と伸びるその姿に感動すら覚える。
「『向日葵』の花がこんなにも咲き誇る場所なんて、尸魂界全土でも無かったはずだ」
ここだけが特別な区域というわけではない。
太陽の光が燦燦と差し込む場所は他にもある。
種が何年もの時をかけて芽を出し、手入れが無くても美しい花を咲かせる。
そんな環境が出来上がっていたのだ。
「見せてあげたいな」
いつの間にか頬は緩んでいた。
その喜色満面な顔を浮かべていたことで注意力が散漫になってしまったのだろう。
帰る際に飛び越えた時に音を出してしまった。
これだけでもう駄目なのだ。
どれだけの体重かを勘で探り当てる。
仮に霊圧感知でこちらに向かってくる場合は、道に迷う可能性が有るのでなら話は別。
だが霊圧に頼らず音が聞こえた方向に歩いて行けば……
「よお……」
出会えてしまうのだ。
逃げないとな。
刀を抜いている以上斬られてしまうだろう。
「どいてくれないか?」
笑顔で提案する。
『天挺空羅』で聞く必要もない。
戦うなと命じられているのだから。
「つれねえなあ!!」
そう言いながら刀を振ってくる。
それを避けるとすぐに二撃目が来る。
それは流石に刀を抜いて受け止める。
「やらないように言われてんだ、あの人を怒らせたくはない」
こっちの気も考えろ。
どうしてもやらないといけない時は相手してやる。
でもそれ以外は駄目なんだよ。
「ちっ、まるで飼い犬だな」
興が削がれたというように刀を収める。
そして苛立ちの表情のまま、去っていく。
なんとでも言うがいい。
あの人に逆らうなんて真似はしたくもない。
考えただけで背筋が寒くなる。
「さ……ひよ里さんの非番の日でも聞いとくか」
そう言いながら休憩時間終わりに茶菓子の一つでも買っていく。
最近は現世における『西洋』とやらの菓子も尸魂界に来た。
先日、渡した『ガーベラ』の花もそういう繋がりだ。
「これが『かすていら』か……」
箱に詰められていくのを見て呟く。
まるで黄金の四角の棒だ。
上部には茶色い層がある。
一体どんな味がするのか?
「正直、気は進まないが……」
誰かに一緒に毒見をしてもらうか?
俺が食ってもいいが、ほかの意見も欲しいし。
そして食べ物で頼りになるのは……
「すいません、六車隊長はいますか?」
それだけ伝えると隊首室に通される。
久南さんも一緒にいた。
丁度いい。
「なんだ、その袋」
西洋の菓子と伝えると渋い顔をした。
どう考えても護廷十三隊で食すのは初めてのもの。
雀部副隊長はご存知かもしれないが。
それを渡すというのがどういう意味か分かっているようだ。
「ひよ里に渡す前の毒見とは良い度胸だな、てめぇ……」
そうは言うが受け取ってくれる。
最初に見て何が入っているのを看破していくか。
黄色の理由はどうやら卵。
とりあえずは口に運ぶか。
「随分と柔らかいな」
触った感想は非常に柔らかい。
指が沈んでいきそうなほどだ。
口に運んでいくが歯ごたえはない。
まるで霞か雲か。
幾らか咀嚼をしていくがすぐにすり潰されていき、溶けていく感じだ。
そして嚥下する。
「美味しいのは美味しいな」
今までとはまるで別物。
弾力が有ったり、漉し餡などがあった。
そういったものもない。
混ぜ込んでいるのだろう。
甘さから砂糖だけでは無く蜂蜜なども考えられる。
小麦粉でつないでいるのか。
『現世』の医学書には『卵』と『蜂蜜』は赤ん坊によくないらしい。
つまりそれなりの年齢の菓子だ。
「これは良いな、気に入った」
久南さんに付き合っているとおはぎしか食べられませんからね。
すっと食べられる飴とかもいいけどこれも悪くはないですね。
「問題ないみたいなので渡してきます」
残った奴は置いていく。
頭を下げて去っていく。
地味に九番隊なので距離があるのだ。
「どうもー」
ついに名前を言わなくても入れるようになってしまった。
半分は浦原のだらしなさの伝播である。
もう半分は常連で来ているからだ。
「猿柿副隊長、居ますか?」
扉を叩く。
開けてくれないし、返答がないのでゆっくりと扉を開ける。
疲れからかうんざりした顔で見てくる。
これはまずいなと思いながら、袋を手渡す。
「これ、噂の菓子やろ?」
指を突きつけて聞いてくるので頷く。
拳西さん達に毒見させましたと聞いたらくすくす笑われた。
「いつもやったら一番に渡すのに、慎重になったんか?」
いじわるの一つでも言ってやろうと思たけどええわ。
そう言って開けると菓子の見た目に驚く。
「えらいまっ黄色やんけ」
そう言って毟って口に入れる。
もぐもぐと噛んで呑み込む。
すると驚きの顔へと変わった。
「今までにはない感じがするな」
そして一人で全てを食べきる。
夢中になるのは初めての感覚だったからだろう。
気持ちはとてもよくわかる。
「……すまん」
分けたらよかったと後悔しているのだろう。
でもそれは良い。
其れよりも大事なことを伝えよう。
「明日、非番ですよね?」
そう聞くと頷く。
ならばあの場所の花を見せたい。
貴方にしか教えない。
「見せたいものが有るんです」
それだけ言って去っていく。
疲れているだろうからゆっくり休むようにだけ伝えて。
.
.
次の日。
あの簪を付けてきてくれた。
それだけで満足してしまう。
目指すのは十一番隊のあの道。
因みに十二番隊の後ろの方にも大きな木が有った。
今度あれについても見ようと思う。
「獣道か…」
あの場所に行くまでの道のりに驚いている。
まさか護廷十三隊の隊舎からの抜け道にこんなものがあるとは思わない。
さらにはこの先には……
「瓦礫の壁かいな」
それを乗り越える。
一拍置いて感嘆の声が聞こえる。
良かった、散ってもいないようだ。
「これは凄いわ」
左右を見渡すばかりの向日葵畑。
さらに燦燦と注ぎ込まれる太陽の光。
そして予想通りよく似合う。
「見てると気持ちがええわ」
そう言って振り返ってくる。
その時に見えた笑顔。
それだけで心が満たされる。
「貴方との秘密の場所ですから」
そう言うと頬をかいている。
悪くはないなと思っているのだろう。
秘密の場所の一つや二つを持っていてもやましい事は無い。
「帰ろか」
そう言って隣に来る。
喜んでもらえましたか?
聞いてみると頷いてくれた。
其れならこちらも見つけた甲斐があった。
.
.
あれから数日後。
海燕に打診したが受けてもらえないと浮竹隊長が嘆いていた。
自分より一年早く卒業した天才。
かなりの能力であることは間違いないのだが。
「やあ」
何故嫌がるのかを聞いてほしいとのことで俺が抜擢された。
十三番隊の隊舎に行って呼んでもらった。
お茶を出してくれたので飲んで見る。
「うん、いい味だ」
番茶を出してもらった。
俺はあまり玉露を好んで飲まない。
甘い味もいいがこちらの方が心が落ち着くからだ。
「どうして十番隊の隊長が俺なんかに?」
『俺なんか』とは随分と謙虚だな。
其れともそのもの言いで煙に巻くつもりかな?
「何故副隊長になりたくないんだろうと思ってね」
君は十分な実力者だ。
卍解の習得だってその気になれば着手していくと短期間で可能。
部下からも慕われているようだが。
「若輩者である自分より相応しい人物がいると思うんですよ」
義理立てか。
それも良い事ではある。
実際、俺も四番隊の時はそれをした。
あの時は卯ノ花隊長への恩に報いたかったから。
だが彼の場合は他の隊からの誘いではない。
もし、あの時の話が四番隊の副隊長という話なら引き受けていたかもしれないと胸を張って言える。
「浮竹隊長が打診する時点で相応しい人物がいないともとれるがね」
先ほどの断る理由の穴をつく。
海燕の顔が困ったような感jになる。
これで諦めてくれると思ったのだろう。
浮竹隊長には通用するけれど俺は無意味。
「義理立てというのであれば抜擢してくださる浮竹隊長の心に応えるのも十分な義理立てだ」
そう言うと唸っている。
一日や二日で結果が出るとは思わない。
十分考えてくれ。
「それはそうと噂で聞いたか、一年で真央霊術院を卒業したやつの事」
すると海燕は首をかしげる。
まだ聞いていなかったか。
「詳しい事は浮竹隊長に聞いてくれ」
どこが取るのか、そういう話が有ってあと数週間で配属だ。
どうやら五番隊が取るようだがな。
「今、一瞬自分の副隊長も遠のくとか思ったか?」
意地悪な顔をして聞いてやる。
すると顔を引き締めて否定してきた。
なら良かった。
「まあ、用事はそれだけだ」
手間取らせたな。
それだけ言って十三番隊の隊舎から去っていくのだった。
今回は海燕を登場させました。
浦原から幾らか時間が過ぎていく間に原作の動きに入っていくといった感じです。
横文字がようやくここから少しずつ入っていく事が有るかと。
(101年前の事件の時、原作で平子が『ナイスフォロー』と言ってたので)
指摘などありましたらお願いします。