ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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平隊士のころから隊長なのは考えられないので、原作で隊長になっている方も現在は席官で出てきます。
勉強やりすぎて加速度的に強くなっている気がしますが気にしないでください。


『掌 - Tender Heart -』

給金をもらって飲んだあの日から二ヶ月ほど過ぎたある日のこと。

俺は猿柿さんに怒られていた。

理由は単純な事である。

 

「ウチはお前に娯楽を見つけろって言うたよな?」

 

腕を組んだ状態で怒りを十二分に表現している。

俺は少し冷や汗をかきながらも、正座をしている状態で頷く。

 

「やのにお前はまた回道の練習ばっかりやんけ」

 

そこそこの値が張る人型の人形を買って練習していたのを見られたのだ。

それを見ていた猿柿さんには溜息をつかれた。

そして次の瞬間には耳を掴まれてしまった。

力ずくで部屋から引きずり出されて縁側で正座をしていた。

 

「息抜きできとるんか?」

 

そう言われたので俺は頷いて話し始める。

甘味処に行ったり、店を探したりなど散歩はしているが……

そう伝えると、ふむふむと首を振る。

 

「前よりはましになっとるわ」

 

ローズに覗かせりゃええけど、一応な……

そう言って、猿柿さんは去っていこうとする。

その時に警報が鳴る。

 

「現世で虚の反応!、虚の反応!!」

 

すぐに俺は用意をする。

後方支援として猿柿さんと共に出る。

数は三。

平隊士でも十分な小型の出現。

 

「行くで!!」

 

猿柿さんが地獄蝶を手につけて走り出す。

こっちも同様に腕に付けてついて行く。

いままでの鍛錬のおかげで置いて行かれることもなく動ける。

猿柿さんと同時に出て、あたりを見回す。

 

「霊圧としてはばらついてへん」

 

確かに三体が集まって動いている。

これはできれば分断しておきたい。

それを伝えなくては、そう思って口を開く。

 

「縛道で動きを止めていくんで一体ずつ倒してください」

 

そう言うと刀に手をかけてこちらに向かって猿柿さんは一言呟く。

それは信頼を示す言葉。

 

「任せたで」

 

その一言を合図に駆けてゆく。

勉学の成果でさらなる飛躍を果たした鬼道を見せよう。

指を敵の二体へ向ける。

猿柿さんに向かわせはしない。

 

「縛道の三十『嘴突三閃(しとつさんせん)』」

 

『二重詠唱』では二種類の鬼道をするという事が出来る。

しかしそれは高等技術。

それを一時的に簡単にできる方法。

 

「それは同じ鬼道にすればいい」

 

そうすれば多少楽になる。

その目論見は上手くいき、虚の動きを止めていた。

一体だけならば猿柿さんは決して後れを取ることはない。

 

「オラァ!!」

 

猿柿さんが虚を頭から切り裂いて真っ二つにする。

さらに返す刀で動きが止まっていた虚の首を切り落とす。

最後の一体。

そんな事を考えていると霊圧を感じる。

これは虚としては別物だ。

 

巨大虚(ヒュージ・ホロウ)やな、そこそこ強い奴やで」

 

猿柿さんがそう言うと残っていた一体の虚が踏みつぶされて吸収される。

そして目をこちらに向けると……

 

「アガアアアアアアアア!!」

 

虚が咆哮をあげる。

空気がびりびりと震えていた。

そして俺には目もくれず、一直線に猿柿さんに向かっていく。

ここは防御が重要だ。

 

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!!」

 

俺が鬼道で一撃を防ぐ盾を猿柿さんの前に出す。

其れにぶつかって僅かに虚がのけぞる。

そこに間髪を入れず、さらに二重詠唱で詠唱していた最大の縛道を発動。

 

鉄砂(てっさ)の壁 僧形(そうぎょう)の塔 灼鉄熒熒(しゃくてつけいけい) 湛然(たんぜん)として終に音無し 縛道の七十五『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』!!」

 

五つの五角柱が空に現れる。

こちらが腕を振り下ろすと、相手の五体へ刺さる様に落ちて動きを封じる。

 

「お前には過ぎた代物だろう」

 

大虚(メノスグランデ)ぐらいに使うであろう七十番台の縛道。

振りほどけない状態だ。

大きく振りかぶって猿柿さんが跳びあがる。

 

「『西瓜(すいか)()り』!!」

 

巨大虚(ヒュージ・ホロウ)の頭が斬られる。

途中で食い込んだままだったので顔面を蹴って抜け出していた。

まだまだ筋力が足りていないのだろう。

まさか巨大虚(ヒュージ・ホロウ)が出るなんて予想外だからな。

 

巨大虚(ヒュージ・ホロウ)は初めてや……!?」

 

そう言っているとその巨大虚(ヒュージ・ホロウ)の後ろに、別の巨大虚(ヒュージ・ホロウ)が降り立つ。

そしてその巨大虚(ヒュージ・ホロウ)に嚙り付いて共食いをしていく。

霊圧が上がり、平隊士で太刀打ちするのが厳しい次元になっている。

 

「かかってこんかい!!」

 

刀を構えて相手を睨んでいる猿柿さん。

相手の動きに合わせこちらも縛道を使う。

腕を振るってくる。

 

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!!」

 

再度盾を出して防ぐ。

とは言っても威力が高い。

さっきは大丈夫だったのに今の相手では砕け散ってしまうのだから。

 

「くっ!!」

 

その隙を狙って刀を振るうが、切り傷程度にしかならない。

『浅打』ではまだ突き立てるのも難しいのか。

 

「それならば……」

 

こちらは援護をする。

破道と縛道の両方を『二重詠唱』をする。

そこに刀を突き立てればいい。

頭部に刺さりさえすれば何とかなる。

 

「破道の五十八『闐嵐(てんらん)』!!」

 

竜巻によって虚が舞い上がる。

翼がないのだからあとは落下するしかない。

俺はここでもう一つの縛道を使う。

だがその前に猿柿さんに声をかける。

 

「跳躍してあいつの頭に刀を突きさす準備を!!」

 

それを聞くと理解したのかぐっと力を入れて跳躍する。

そして相手を追い越した。

 

「オンナ……クラ!?」

 

無防備で相手が舞いあがるだろうというこちらの考えは狂った。

しかしこの場合においては特に何も問題はない。

相手の身動きが取れなければそれでいいのだから。

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』!!」

 

太い鎖が蛇のように巻きついて体の自由を奪っていく。

頭の部分だけは露出しているが、危険な牙などは覆われている。

そこめがけて攻撃を猿柿さんは放った。

 

「終りじゃ、ボケェ!!」

 

猿柿さんが虚の頭に刀を突きさしてそのまま重力に従って落下。

頭を一撃で叩き割る様に。

しかし相手の体が想像よりも大きい。

 

「グゲ……」

 

猿柿さんの着地の勢いで虚から血飛沫が舞い散る。

体格もあってか、頭を真っ二つにはできなかった。

ただ、それでも相手に対して致命傷を与える事は出来た。

緩やかに崩れたのを見て猿柿さんが刀を収める。

だが、まるでその瞬間を狙ったかのように虚が動いた。

 

「猿柿さん、後ろ!!」

 

その言葉に猿柿さんは振りむく。

俺は前に円閘扇(えんこうせん)を出す。

しかし相手は地を這うように飛びのく猿柿さんの足を掴んでいた。

 

「ガアッ!!」

 

狸寝入りからの一撃を虚が繰り出していた。

此方が全体を覆う様な軌道を展開できなかった。

その結果、猿柿さんの足を握り潰して骨を砕いていく。

 

「ぐっ!?」

 

着地で崩れたところに猿柿さんに噛みつきに来る。

しかし相手の動きは緩慢。

こちらが猿柿さんを抱えて距離を取る。

 

「死にぞこないが……」

 

悪態をつく猿柿さんを降ろす。

相手も速い速度で迫っては来ない。

その間に俺が回道で猿柿さんを治す。

このまま放りだして止めを刺すなんて真似は良くないだろう。

隊士の治療を行い、戦闘において万全の状態を作るのも四番隊の役目だ。

 

「そのままの体勢でいいですからね」

 

猿柿さんの足に手をかざして霊力を治癒能力に変換。

この三ヶ月で良くここまで伸びたと自分でも思う。

回道も元々鬼道ができる分、急速に伸びているのが理由だろう。

こうやって戦いの中で即時的に治せるのが今は何よりも嬉しい。

 

「なんか温かいもんやな……」

 

猿柿さんが意外そうな顔をする。

元々、俺の手の温度が高いからでしょうか?

拳西さんはそんなこと言ってなかったですけど。

 

「治ったみたいやな、やるやんけ」

 

こっちが手を退けると猿柿さんは立ち上がる。

そしてゆっくりと足を振って具合を確かめる。

うんうんと頷いて刀をもう一度取り出す。

 

「止め刺しに行くで」

 

まだきっとあの虚は這ってくるだろう。

しかしもうすでに死に体なのだ。

こっちも即座に詰め寄って首を落とせばいい。

そう考えて向かっていると、前方から声が聞こえた。

 

「お前らこないなボロボロの奴ほっといて何やってたんや?」

 

平子さんがボロボロになっていた虚の頭部を破壊していた。

いや、後方支援の身としては現世から帰る前に回復をさせておかないと。

四番隊がいて重症のまま帰らせたらそれこそ名折れだろう。

卯ノ花隊長に烈火の如く怒られてしまう。

そんな事を考えていると猿柿さんが怒りを露わに平子さんへ詰め寄る。

 

「おいしいところ取るなや、アホ!!」

 

そう言って怒っている猿柿さん。

無理もないだろう。

怪我もしたし決して楽な相手ではなかった。

それなのに最後だけ平子さんに取られる。

救援にしては遅いし、ちょっと良い気はしない。

 

「とりあえず帰りましょう、ねぎらいで何かおごらせてもらいますよ」

 

猿柿さんを宥めるようにしてそのまま地獄蝶を二人ともつける。

ゆっくりと尸魂界へと帰っていく。

報告としては小型の虚を二体討伐。

二体の大型虚に多大な損傷を与えた。

この形になるだろう。

 

「ほんま、あのボケ……イライラするわ!!」

 

手柄を横取りされて猿柿さんが怒っている。

団子を頬張りながら地団太を踏んでいた。

 

「荒れてるねぇ、ひよ里ちゃん」

 

そう言って現れたのは綺麗な大人の女性だった。

霊圧は平隊士とは格が違う。

おそらく高位の席官だろう。

 

「曳舟はん、お疲れ様です!!」

 

猿柿さんは口に付いたあんこも拭かずに頭を下げる。

そして立ったままの俺を小突いて小声で言う。

 

「うちの上司の曳舟第七席や、頭下げぇ!!」

 

そう言われて俺は急いで頭を下げる。

すると曳舟七席はけたけた笑っていた。

 

「随分、ひよ里ちゃんに頭が上がらないみたいだねえ」

 

そりゃあ、真央霊術院での先輩ですし。

なんだかんだで俺によく声をかけてくださいますから。

 

「ひよ里ちゃん、今後こんな程度の相手には飽きるほど出会うから掠め取られても大丈夫さ」

 

だから気にしないで、次に向かって奮起するんだよ。

曳舟七席はそう言って、猿柿さんの頭を撫でて去っていった。

 

「随分と姉御肌の人みたいですね」

 

内心では『猿柿さんみたいだなぁ』と思いながら言う。

すると猿柿さんが胸を張って誇らしげにしていた。

 

「せやろ、自慢の上司や」

 

うちはあの人の力になるのが夢やと言っていた。

それも清々しい笑顔で。

そんな笑顔を見ると自分もなぜか嬉しくなる。

意味はよく分かっていないけど。

 

「今度一緒に出る時は、また今日みたいに援護とか頼んだで」

 

そう言って猿柿さんは、十二番隊の隊舎へと戻っていく。

俺は団子を土産にして四番隊の隊舎へと戻った。




今回で曳舟さんを出しました。
現在は鉄斎や浦原さん、夜一さんも出せないので時間を飛び飛びやっていく予定です。
次回ぐらいに始解に目覚めさせようと思います。

指摘などありましたらお願いします。

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