海燕とチャドは次回に回します。
「ぜぇ……はぁ……」
息遣いが荒くなっていく。
あれから緊張感で喉が渇いている。
其れだけでなく実力で徐々に差がつき始めている。
「どうした、もうお終いか!!」
かれこれ三十合は打ち合っている。
死に物狂いで延々やる事から来る疲弊。
集中力の糸が徐々にか細くなる。
「……こうなったら郷に入るか」
刀の一撃をあえてくらう。
勢いよく振り下ろされる斬撃。
死を恐れるな。
「ああああ!!」
理性を捨てる叫び。
肩口からめり込む。
その瞬間に捻って薙刀の一撃を加える。
前に進んだから刃ではなく棒の部分になってしまう。
「ぐっ!!」
打ち据えられた一撃。
横に相手が飛ぶ。
片手に持ち替えて刃の一撃を繰り出す。
「喰らえ!!」
切り裂くが、同時に突きを繰り出していたので、こちらも肩に喰らってしまう。
徐々に分かってくるのはこの人はまだ全然本気じゃない。
霊圧が上がっていくのが肌で分かる。
「まだまだぁ!!」
そう言って進んでいく。
決着を早く着けなくては。
しかし次の瞬間……
「がっ!?」
突如、背中に刺される痛みが走る。
そのせいで刀を受け止める事が出来なかった。
切り裂かれていく、鮮血が舞って地面に落ちる。
「『雀蜂』」
小さな女性がそこには居た。
後ろから気づかれないように刺してきたのか。
気配の消し方が絶妙だな。
二撃目を俺に放とうとした瞬間、今まで戦っていた相手が斬りかかっていた。
「てめえ、何邪魔してくれてやがる」
その一撃を避けてはいるが冷や汗をかいている。
やはりあの人の実力はえげつない差が有るんだ。
しかし、この女性も胆力が凄い。
こんな場面で堂々としているのだから。
「旅禍は即捕縛だ、効率を追求させてもらっただけだが?」
悪びれもせずに言ってのける。
きっと女性は任務だけ遂行すればいいと思っている系統だ。
頭が固いような気がするな。
体が動くなら、少しばかり反撃させてもらおうか。
「しかしおかしなものだ、紋が出ないとは……!?」
薙刀を振り下ろしていた。
どうせ相手どらないといけなかった。
それが速くなっただけだ。
「一人だろうが二人だろうが状況が最悪なのは変わらねえ!!」
振り回しながら叫んでいく。
女性の方が軽やかに避けていく。
「甘い!!」
石突で地面を砕く。
その礫に気を取らせる。
回避をしている間に花火を投げる。
「こんなもの、何の意味もない!!」
空中で花火を回避して何事も無いように着地を決めようとする。
しかし、それも織り込み済み。
最上段に構えた薙刀を振り下ろした。
「こんなもの!!」
回転して避けていく。
その直後、俺の方には突きが襲い掛かる。
体を逸らして回避するが風圧が撫でる。
「あっ……」
体を逸らした拍子に倒れ込む。
頭を打つ事は無かったが、出血が原因だ。
フラフラとする体を立ち上がらせようとする。
「流石にもう戦えそうにもねえか」
そう言って男の人は去っていった。
興味を無くしたかのように。
しかし、女性の方はこちらに向かってくる。
「こうなったら……」
ごそごそと懐から閃光弾を取り出す。
わざわざ用意してもらった代物だ。
「喰らえ!!」
相手に向かって炸裂させる。
その隙に逃げていこうとする。
「ぐっ!!」
しかし体が動かない。
無理もないだろう、市丸隊長の攻撃の怪我も癒える前に交戦。
逃げたくてもそれを許さない状況での隊長相手。
「四の五の言ってられない」
そう言って鞭を打って走る。
痛みが体に広がっていく。
脳が何時、意識を断ち切るか、そんな戦いになってしまった。
「そこか!!」
蹴りを放ってくる。
それを受けて転がっていく。
地面をじっと見て変わったところがないか観察する。
「一回目はなんにもないか」
相手が迫ってくる間に立ち上がる。
どうやらさっきの走ったせいで痛みを我慢できる状態になったのだろう。
「無様に死ね!!」
拳を放ってくるが受け止める。
蹴りの方が威力が高い。
それを引き出さないと。
「刀をなおして蹴った方が速く決着がつきますよ」
これを嘘と思うか。
其れとも純粋に受け止めるか。
受け止めないのならば挑発すればいい、乗ってくる保証はまるでないけど。
「ほざけ!!」
刀で突いてくるが意味はない。
薙刀で防いでいく。
不敵な笑みを浮かべておく。
「がら空きだな!!」
それが癇に障ったのか、あえて開けておいた脇腹に蹴りを入れてくる。
再び地面を跳ねて転がる。
そこでわずかに感じたほかの地面とは違う凹凸。
それを必死に掴んで寄っていく。
「これは……」
下水道につながる石畳だ。
これに入っていけば逃げられる。
こいつを開けて相手に向かって走っていく。
上手くはまりさえすればいいのだが……
「死にに来たか」
そう言った相手の拳を薙刀で受け止めて蹴り返す。
命の危機に瀕しているというのに、徐々に力が上がっている。
今だって相手の攻撃を見抜いたうえで動けている。
「何っ!?」
死に体の相手の反撃に面食らう。
しかしあっという間に立て直す。
「舐めるなよ!!」
さっきよりも強く鋭い蹴り。
これを喰らっておさらばといこう。
「ぐはっ!!」
転がっていく。
その瞬間、瞬間で体を徐々に丸めていく。
相手の目の前から消えるようにして落ちていった。
因みに薙刀を引っかけて石畳は戻しておいた。
.
.
「久々に入ったが分かりにくいのう……」
儂はそう言って下水道を歩く。
迷宮となっているから一番近い所に出れるかどうかはここを熟知しているものだけじゃ。
「あやつは誰かと合流したかの?」
今回のような騒動で動かぬ男ではない。
確信がそこにはある。
しかし上が騒がしい。
白打の音が聞こえる。
なるほど、懐かしの二番隊あたりか。
「むっ……」
唐突に音が止んだ。
石畳の動いた音。
そして質量が落ちてくる気配。
儂に気づいて降りてきよったか!?
……しかしそれは杞憂に終わる。
「はっ!!」
薙刀を突き立ててくるりと回って着地。
しかしその男は傷だらけであった。
儂に目もくれず一目散に駆けていく。
その後を追いかけていく。
「血が点々としておるな……」
曲がり角から覗き込んでいる。
歯を食いしばって痛みをこらえているのか。
空鶴が塞いだ傷口も開いている有様。
「夜一さんか……」
少しほっとした顔になる。
しかし次の瞬間、足元から崩れ落ちる。
「精神的にダメージが大きかったか」
なんとか足を動かそうとするが出血と疲労が大きく動けない。
消耗させられる相手は誰じゃ?
「お主、誰にやられた?」
すると口を開き始める。
そこから出た名前に懐かしさと驚きを得る。
こ奴、生き汚さというかしぶとさだけならば今回の面子で最強ではないか?
「まずはそこではない所から出て十番隊を目指す」
あの男ならば治せるはずだ。
卯ノ花隊長の一番弟子にして当時最高の隊長と呼ばれたあやつならば。
.
.
「むっ?」
懐かしい霊圧が有った。
そこに向かわねばならない。
減衰を始めている霊圧が傍に居る。
「山田君、分かっているか?」
そう言うと頷く。
こうなるとどうしようか。
「僕が行きます」
自分にも四番隊としての矜持が有る。
例え俺が黒崎さんの怪我を無くしたとあっても、頼ってばかりではいけない。
そんな意思を感じる目だ。
「頼んだ」
さ……行こうか。
その方向へと進み、一番近い場所へと出る。
塔の前に居る気配は……おいおい。
「貴方が出てきたら…こいつらを連れていく事は出来ないな」
阿散井君だけならまだわかる。
朽木隊長がついてても問題ない。
だが、よりによってこの人が相手とはな。
「卯ノ花隊長……」
その言葉に黒崎君と一緒にいる男性、岩鷲君が驚いている。
まさかこうも簡単に隊長と出会うとは思っていなかったのだろう。
「どうするんだよ……」
岩鷲君の言葉に肩を叩く。
俺が前に出て刀を振る。
その時点で全てを察した卯ノ花隊長が刀を抜いた。
「貴方が出てきたのは……俺に対する抑止力ですよね?」
反応ならばこちらが上だった。
それでも悠々と受け止めている。
笑顔が張り付いているが激怒しているのが分かる。
「まさかこんな理由で刀を交えなければいけないとは嘆かわしいばかりです、元四番隊副隊長」
ぞっとする笑みがそこにはあった。
俺は無言で『赤煙遁』を放つ。
そして場所を離れるがそれについてくる形で卯ノ花隊長はついてくる。
「ここなら誰にも知られはしない」
その言葉を合図に本気となる。
さっきの一合はあくまで『卯ノ花烈』としての剣。
今からは『卯ノ花八千流』の剣だ。
「何故、旅禍に協力を?」
悲し気な声色。
裏腹に剣は苛烈。
押し込まれないように流して距離を取る。
両者ともに未だに浅打のまま。
「異例尽くしであり四十六室には私はあの日以来疑いしか向けていない」
たかが隊士にやる内容ではない。
其れだけで不信感を抱く。
まるで意思で統一されたような動きといってもいいほど朽木隊士に悪い方向へトントン拍子だ。
「何かしらの罠、陰謀を張り巡らされているというのが理由です」
ぼんやりとしたものではある。
しかし、誰がそれをしようとしているのかはわかる。
きっと、藍染だろう。
「なるほど……」
その言葉に頷く卯ノ花隊長。
徐々に戦意が失われている。
悪巧みの破壊の可能性を示唆しているからだ。
「それ以外には少しあの阿呆の目を覚まさないといけないと思ってね」
阿呆とは朽木隊長の事だ。
それほど器用でもないくせに、心の葛藤で苦しんでいる。
一度でも自分に正直なままに動いてみろと。
「中々の物言いですね」
貴方の目も覚めるべきでは?
そう問いかけてくるが首を振る。
俺は常に正気ですよ、おかしくはない。
「悪巧みしてるやつも少しばかり問いたださないとな、と思っています」
悪巧みといえば藍染は俺に会おうとはしなくなっていた。
結果、あいつもあの日の夜から縛られてしまったのだ。
あれから悪事を重ねたのも歪んだ真面目さから来てしまうものだろう。
「ですがあいつらの悔しがる顔が見たいのが一番の理由ですよ」
四十六室の決定を強引に覆した。
其れだけであいつらは四苦八苦する。
その顔を見てみたいと思った。
「根深く有る確執ですね……」
百年間、一切色褪せずに残る憎悪。
奴らが上げた利益など無いに等しいのに。
「これだけになっても自分たちは前線に出ないんですからね」
ただでさえ大事。
既に十一番隊は壊滅に近い。
それどころか二番隊は副隊長がやられた。
七番隊の四席も連絡がつかない。
「私と総隊長さえ居れば問題なしとでも思っているのでしょう」
そこがもう終わっている思想だ。
自分たちが血を流さずに、義理を通さずに権力だけを振りかざす。
そんなものの為にくれてやる命は一つたりとてない。
あいつらは全て解体されるべきなのだ。
「そんな奴らの為に面子なんて護らないといけないんですかね?」
浅打を互いに構えながらじりじりと距離を詰める。
始解をしない理由は単純だ。
所詮これは引き離すための茶番。
本気ならばあの場所で待ってはいない。
水道で遭遇した方が秘匿できる。
「すでに丸つぶれですからね、意味はないかと」
そう言って再び刀を交差させる。
皮一枚を削ぐように。
そして次の瞬間、全開で斬りかかってくる。
「ちっ!!」
始解までしている。
一応面目は保つか。
此方も始解で応対する。
「もはや六尺の刀はただの暴力ですね」
間合いも薙ぎ払いも思いのまま。
五十年前は三尺の長さ。
それから倍の百年で六尺。
「それで勝てる保証は皆無ですがね」
刀を打ち付けあう。
高い音が奏でられる、火花が飛び交う。
それを幾度と繰り返していく。
つばぜり合いに殺気も籠り始める。
「くっ!!」
距離を取って呼吸を整える。
相手も集中している。
「その外套を剥いであげましょう」
残酷な笑みで斬りかかってくる。
受け止めて蹴りを放つ。
それを見切って後ろへ下がる。
「楽しめそうですね」
刀の鋭さが増す。
此方としては外套が命というわけじゃない。
くれてやるさ。
「かあっ!!」
力任せに弾き飛ばす。
そして鋭く早く斬りかかる。
それを捌いていく中に緩急を織り交ぜる。
「あの時よりも速く……」
貴方が変わらず鍛錬をしてくれたから。
そして常に自分の戦いの進化を望んだ。
その結果、成長して今が全盛期になっている。
「まあ、百年間のせいで問題まみれでしょうが」
そう言って探る事もなく斬撃を飛ばす。
それをかわさず前に進んで切り裂く。
「これにて遊びはお終い、『
卍解を初めて見た。
卯ノ花隊長の周りに血が滴る様に出てくる。
それが徐々に太くなっていくと幾本もの帯のように変貌する。
刀に集まっていくと莫大な霊圧の圧縮した姿なのが読み取れた。
「晒しなさい」
その一撃はこちらの予想を超えていた。
今までで最も鋭く。
今までで最も速く。
今までで最も重かった。
「がはっ!!」
始解を叩き折るほどの一撃。
外套の顔部分が吹き飛ぶ一撃。
それ以外にも深く斬られたことで血がべったりと付いている。
「これで十分でしょう」
鞘に刀をなおす。
情けをかけてくれたのだろう。
元々茶番だったからな。
殺す必要はないわけだ。
「牢屋に連れ帰りますよ」
そう言って俺の顔を見た卯ノ花隊長の表情が強張る。
流石の貴方もこの姿には驚きますか。
「あのころの面影なんて微々たるものですからね」
まさにその姿は骸骨。
筋肉は削ぎ落されている。
目が今にも飛び出しそうなほど。
頬はこけて骨にぴったりと皮膚が張り付いている。
「俺は朽木隊士の処刑を止めるのはやめませんよ」
このおかしな状態の解明と誰かを失わないためにも。
その言葉に微笑みを返していた。
回道で自分の傷を治すと、縛道でそのまま四番隊の隊舎牢へと幽閉されてしまうのだった。
一部の主人公が初の脱落者。
卍解の八千流という決して勝てない抑止力が動きました。
そして百年前より成長しているので実力は増えていますが、食事がとれてない不摂生や不眠による体調不良から当時と同じ次元のままです。
何か指摘などありましたらお願いします。