出世頭にしてはいますが四番隊の隊長にはなれないです。
あの初めての連携任務から三年ほどの時間が経った。
皆よりも速くに席官となったので、さらに精進するように。
そう心に誓って絶え間なく練磨する日々。
席官とは言っても二十席。
まだまだ駆け出しの末席である。
「……お前の名前を聞かせてくれ」
今日も今日とて斬魄刀の会話を試みる。
練磨してきた甲斐があって、少しずつだが声が聞こえてきた。
だからこそ始解を速くに身につけたい。
俺は皆より席官になったのが速い。
ならば俺はそれに見合う努力が必要だ。
「……毎日飽きないものだ」
刀から声が聞こえる。
努力自体は決して悪い事ではない。
だが毎日話しかけて貰おうとするのをよくここまで欠かさずするものだ。
半ば呆れたような声を出してくる。
「人の世には『石の上にも三年』とある」
その努力に教えないと思っていた刀も諦めがついたのか。
はたまたすでに認めてくれていたのか。
我が名を教えようと言ってきた。
ただ決して落胆はするな。
この名に違わぬものなのだから。
「良いか、聞き漏らすでないぞ……」
そう忠告を受けてから斬魄刀の名前を聞く。
意気揚々と始解をすると今までと違う刀が目の前にはあった。
「あいつは落胆するなって言ったけれど……」
全然その忠告の意味がわからない。
へんてこな物でもなく、小太刀の形状をしている。
とは言っても大きいものではない。
他と比較しても小さいと断言できるほどの小ぶりな形だ。
確かに『浅打』に比べると小さくはなった。
しかし霊圧は上がっている。
ならば何故『落胆するな』と刀自身は言ったのか?
「分からないなぁ」
直接攻撃をするにしても大きくはないからか?
しかしそれならば戦いを優勢にするような特殊な力でもあるはずだ。
その能力の条件が厳しいのか。
はたまた些細なもので大して力になりそうにない能力なのだろうか。
いずれにせよこの刀に対しては依然として謎が深まるばかりである。
「『警報、警報』」
虚の出現。
今回は小型の虚が十近くの数。
誰が今回の仲間だ?
「よっ」
同伴するのは拳西さんだ。
どうやら席官入りを次の討伐如何で考慮すると言われたらしい。
ここは拳西さんが結果を作って席官入りできるように全力で協力しないと。
斬魄刀についてはまたあとで考えればいいや。
「頼んだぜ」
肩を叩かれて二人とも揃って腕に地獄蝶をつける。
現世での戦いでの被害は言うほど起こってはいない。
相手が小型で時折大型が来るぐらいだからだ。
「真子の奴に取られることはねえな」
あの時以来、手柄を横取りされるのを警戒している。
結局、平子さんの手柄になってしまったからな。
あの後に曳舟第七席が弁解したけれども変わらなかった。
その時、謝ってくれたがあの人が謝らないといけない事は一つもなかった。
俺と猿柿さんは二人して申し訳ない気持ちで一杯になった。
「まあ、あれはちょっとおかしいですから」
霊圧感知したら、俺達がどこに居るのかは分かるだろう。
それにあんな状態の虚だから、とどめを刺してないなんて何かしらあったと察するはず。
それをまさかろくに感知もせずに、平然と横取りするか?
そんな不思議な気持ちと苛立ちであの時は一杯だった。
「そうだよな……おっ、見つけたぜ」
群れを成している虚。
それでは心置きなくやりますか。
「オラッ!!」
拳西さんが手始めに小型の虚の首を切り落とす。
やはり体の大きな死神なだけあって猿柿さんのように切り込めないといった事がない。
中型の虚もいたが唐竹割りで仕留める。
「そっちに行ったぞ!!」
拳西さんが言ってくる。
分かりましたよ。
さて……仕留めさせて貰おうか。
「破道の三十二『
一体を仕留めた返しの刀で斬魄刀の名を呼ぶ。
試し斬りと行こうじゃないか。
「『刻め』」
解号を呟く。
霊圧の上昇を感じ取った拳西さんが振り向く。
本当は猿柿さんに一番に見せようと思っていたんですけどね。
さて……行こうぜ。
「『年輪』!!」
小太刀の状態になった一撃でも向かってきていた虚を真っ二つにできる。
拳西さんを回復しながら、取りこぼしを鬼道と斬魄刀の一撃で退治する。
瞬く間に虚の討伐は完了した。
「まさか始解を習得したとはな」
拳西さんから聞こえたのは驚きの声だった。
酒を飲む時間を会話に当てたりしてました。
趣味としては最近絵を描くようにしています。
人に見せられるだけのものになっているかはわかりませんが。
「なんか差をつけられている気がするな」
そう言って、拳西さんは『浅打』を握り締めていた。
地獄蝶をつけて現世から尸魂界へと戻っていく。
今回も成果としては最善の形となった。
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その討伐から数日後。
俺は隊長に呼び出されていた。
「六車拳西隊士を本日付けより第二十席として任命する」
ついに俺も席官か。
あいつの次に真子。
その次ぐらいってところか。
聞くとまだ真子も始解を身につけてはいない。
ひよ里に聞くと暇さえあれば、あいつは刀に話しかけていたらしい。
「呆れるぐらい努力するな……」
そりゃあ、こっちと力の差もつくわ。
こっちも先輩としてあいつに負けないように努力しないとな。
そう考えているとあいつを見かける。
書類を持って十三番隊の方へと向かっていた。
仕事もこなしているみたいだな。
「四番隊は雑用任されてるって聞くけど凄いな」
あいつは瞬歩を使いまくってすぐに届ける。
掃除もきちんとこなして評判はいい。
まあ、それはどうでもいい事。
「すぐに追いついてやるからな」
そう言って俺は十一番隊の訓練場に入っていった。
血の気の多い先輩との鍛錬に熱を上げるために。
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.
「どういった御用でしょうか?」
席官になってから始解が出来て数日。
俺は卯ノ花隊長に呼ばれていた。
すると声が聞こえる。
「入ってきなさい」
いつもの優しい声ではない。
有無を言わさぬような冷たさ。
怒りではない。
「失礼します」
体感温度が下がるほどの威圧感。
しっかりとこちらの眼を見据える。
そして卯ノ花隊長が口を開く。
「強くなりたいですか?」
当然の問いだ。
俺は頷く。
すると卯ノ花隊長が刀を抜く。
「私があなたにイロハを教えてあげましょう」
突きつけられた切っ先から漏れる威圧感。
これ、医療専門の四番隊の隊長が出す次元ではないと思うのだが……
夜に郊外の森へ来るようにと言われた。
「ここでいいのだろうか」
俺がそう言うと同時に後ろから殺気が押し寄せる。
刀を抜いて切っ先を受け流す。
そして体勢を整えて相手を見る。
「まずはこの程度の突きは避けますか」
卯ノ花隊長は髪の毛を降ろした状態でこちらを見ていた。
いつもとまるで雰囲気が違う。
そんな事を考えていると鋭い斬撃が飛んできた。
「くっ!!」
この一撃を真正面から受け止めてはいけない。
その判断からまたもや逸らす。
剣速について行くのも精一杯だ。
「始解をする暇も与えない」
始解をやってから来なかったのは、完全にこちらの失態だ。
卯ノ花隊長もそれは分かっている。
戦いで相手がこちらをおとなしく待つ道理はない。
そう呟いて斬撃を繰り出してくる。
「かあっ!!」
横っ面を叩くようにして斬撃をかわしていく。
集中力を全開にしてまたもや難を逃れる。
そのまま前転をして居合の形をとる。
「『刻め』、年輪!!」
小太刀の居合。
その速度には卯ノ花隊長でも間に合わない。
そう思っていたが……
「甘い」
俺は肩口から斬られていた。
目で追えぬ速度で既に深々と。
血が噴き出して袖まで濡らしていく。
「始解をした後の居合の速度も霊圧さえ感じれば脅威にはならない」
ゆらりとこちらの動きを見て対応していく。
長い刀でありながらこちらの小太刀と同じような動き。
こちらが刀の振る音を聞くがそれよりも速く。
考えて打ち込みに行くがそれよりも鋭い。
「くっ……」
卯ノ花隊長に斬られているのに俺の傷が治っていく。
回道を戦いの最中にやってのける。
これが卯ノ花隊長の力。
「考えるな!!」
刀の一撃を受け止めて跳躍。
振り下ろすが避けられて掌底を喰らう。
読まれているのか?
「霊圧を読むのです!!」
刀に宿る霊圧。
それは時に雄弁に場所を語る。
そう、卯ノ花隊長は伝えたいのだろう。
「感じ取り、本能のままに敵に向かう、そう言った野生のようなものがない」
卯ノ花隊長の斬撃が、こちらの刀を弾き飛ばす。
切っ先を向けたまま、語ってくる。
俺がまだ理性で戦っている、頭でっかちとでも?
「貴方は弱い」
そんな事ではいずれ、虚の戦いで死にますよ。
そう言って突きを繰り出す。
死にたくはない。
「ガアッ!!」
今まで出したこともない声で。
必死に這いつくばるようにその突きを避ける。
飛びついて『年輪』を確保して、攻撃を繰り出す。
「良いですよ、その我武者羅さ」
そう言って卯ノ花隊長はこちらの攻撃を受け止める。
だがそれがどうした。
受け止められた後に相手の刀を跳ね上げる。
「かあっ!!」
狙う場所などはない。
ただ切り裂くのみ。
その刀は卯ノ花隊長の羽織をかすめただけ。
だとしても……
「シャッ!!」
もう一度、俺は突きを繰り出す。
届かないわけがない。
だが相手の気配が目の前から消える。
「下だ!!」
跳躍をすると凄まじい速度で懐に入り込み、胴を切り裂こうとしている卯ノ花隊長が見える。
足を切り裂かれたものの、またもや治る。
「フッ!!」
俺は着地をして、その勢いのまま刀を振る。
それを振り向きざまに卯ノ花隊長に防がれる。
こちらも霊圧を読んで反撃を回避。
ほんの僅かだが徐々に動きが良くなっていく。
反応して考えていた動きが反射で応じるようになっていく。
自分の中で何かが変わっている。
「むっ……」
そんな事を思った矢先、いきなり暗くなった。
月光が隠れてしまう。
これ以上は朝焼けが出るだろう。
「今日はこれにてお終い」
卯ノ花隊長もここで止め時と思ったのか
そう言って刀を収める。
そう言われた瞬間、倒れ込みそうになる。
虚の相手なんてこれに比べればお遊び同然。
しかも隊長は幼子をあやすかのように動いていた。
つまりは全く本気ではない。
それなのに汗だくになってしまう。
死を予感させられる。
隊長格は全員これほどの実力を持っているのだろうか?
「あなたがその羽織を脱ぐその日までこの鍛錬は続くのですよ」
そう言って卯ノ花隊長は軽やかな足取りでこちらより先に出ていく。
いずれは別の隊に異動すること。
もしくは隊長職につくであろう。
その時までこの鍛錬は続く。
その先にどれだけの強い己が居るのか。
「夢に近づけるのならば如何なることも惜しまない……」
俺は立ち上がって隊舎に向かう。
願わくば目につく全ての人を護れるほどに。
そしてそれが始まりとなりますように。
自分の強さへの欲が尽きないまま過ごしたい。
刀を鞘に納めて足取りを徐々に軽くしていったのだった。
主人公が後に四番隊から別の場所へ移動するのは確定事項です。
地味に拳西の絡みが多いのは、たぶん兄貴肌で動かしやすいからですね。
ひよ里ももっと出せればと思います。
指摘などありましたらお願いします。