ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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今回は初期襲撃です。
次の襲撃でグリムジョーがきます。
ちょっとオリジナルの十刃を出しています。


『追い払い - Return Home - 』

俺はひよ里さんと二人きりでいる。

……しかし、俺は正座。

ひよ里さんは仁王立ち。

百年前から変わらない説教の体勢である。

 

「お前と喜助だけが気づいているとでも思ったんか?」

 

怒気を孕んだ声でひよ里さんが言ってくる。

つまりは俺の罵倒を聞いていたのだろう。

もしくは平子が伝えたのかもしれない。

 

「あいつが嘘をついているのを分かってた」

 

それに藍染の説得してたんはウチやし。

そう、ひよ里さんが呟く。

それもそうなのだ。

つまり俺と藍染の間に意思の疎通が抜けていた事。

そして藍染の後悔も知っている。

誰がやるかというよりは、あの時間の間にできる奴。

その消去法で辿り着いたのだろう。

 

「皆を巻き込んでしまって、責任感がないのに腹が立ったけどな」

 

それはそうだろう。

聞く限り、平子は何もやっていないって事だ。

やったことといえば、ひよ里さんを時間かけて口説いてたってだけの話。

全然、実を結んでないけれどね。

なんで、そんな不義理な平子に殺意を向けなかったのかな?

 

「それでも向けてくる気持ちは本物やったってだけの話や」

 

誘いに乗りはせんけどな。

それだけ、ひよ里さんが言って笑っていた。

しかし次の瞬間、ひよ里さんは真剣な顔になる。

 

「嘘をついている事を皆の前で言っても多勢に無勢やし、面倒な事になるのは分かってた」

 

実際、一人になったら喜助以外は頼れんし。

お前にあれから見つかってれば良かったんやけどな。

外套を着ていたのが無駄になってしまった。

そう言って、ひよ里さんは苦い顔をしていた。

 

「正直思った事はあったんやで」

 

何をとは聞けなかった。

ひよ里さんが頬を染めていたからだ。

きっと真っ直ぐな眼差しで言いたいはずだ。

しかし面と向かって言うには、恥ずかしい言葉なのだろう。

 

「でもそれが実現すると互いがこれより悪くなる」

 

お互いが依存しあう事になっていたらと思うとぞっとする。

ひよ里さんにそう言われると、それも良い事ではないと思える。

互いに居ないと何もできないようになる。

そうなるくらいならこの百年の苦痛は、一人でも大丈夫になる様にしてくれたのだ。

寂しさも何もかも互いに成長するための糧ならば受け入れてしまおう。

 

「そんな姿になるほど苦しめたことは詫びるしかない」

 

そう言ってひよ里さんが頭を下げようとする。

それを俺は手を前にして止める。

ひよ里さんはキョトンとした顔でこちらを見る。

 

「詫びならもう済んでいます」

 

俺はそう言って柔らかい微笑みをひよ里さんに向ける。

貴方が健やかでいてくれた。

過去と変わらない眼で俺を見ている。

笑顔も仕草もあの日の思い出から変わっていない。

 

「そう言えば、喜助に聞いたら死神が嫌いになっているようですね」

 

俺のその発言に対してひよ里さんはもじもじする。

だって、目の前にいる俺は何年にもわたって愛を囁いているのだ。

その相手に対して嫌いなど言うのは忍びない。

言われたら俺は崩れ落ちる自信すらある。

 

「それは四十六室のような奴らの場合や……例外もある」

 

だってこっちは何もしてないのに有罪判決。

何処かで拾った情報によれば、挙句の果てには討伐の処置まで取った。

そのくせ、自分たちは現場の事もあの事件の本来の流れを知らんくせに。

と、ひよ里さんは憤慨しながら理由を教えてくれた。

 

「例外は阿近や眠六號といった子供、現世に一緒に来た喜助や四楓院元隊長を含めた十一名、そして……お前や」

 

そう言ってひよ里さんは顔を逸らす。

俺はその言葉を聞いて内心、拳を突き上げていた。

信頼に揺らぎはないのだと。

 

「人間はやっぱり代わり映えせえへん体見ると怖がるし、噂になるさかい……」

 

ひよ里さんが頭を掻きながら言ってくる。

まあ、義骸に入っているから尚更ですよね。

常にあの日のままで居たら今頃、成長なりが有ってもおかしくなかったのに。

 

「そういう目が気に入らんから避けてたら交流もないし、嫌いなまま定着したんや」

 

まだ、物珍しいとか事情分かっている奴らがおればいいのに。

溜息出るで。

そう言ってひよ里さんが肩をすくめる。

だが次の瞬間、真剣な顔になる。

 

「とにかく……話は終わりや」

 

公園の方に行くで。

そう、ひよ里さんが言うからついて行く。

だが、このままでは遅くなる。

そう考えた俺は、すぐにひよ里さんの足の間に腕を差し込む。

そして横抱きの形で抱え上げた。

ひよ里さんはは一瞬驚くが、俺の方を見て睨んできた。

 

「ふざけてません、道案内をお願いします」

 

こっちの真剣な顔を見て納得したのだろう。

ひよ里さんが指をさしてその方向に向かって走っていく。

時には屋根の上に上って短くしていく。

 

「間に合ったな」

 

ひよ里さんを降ろして相手がまだ降りてきていないことは幸いだ。

英くんもすでに其処にいた。

こっちに気づくと手を振る。

 

「どうやら斥候程度の面子ではないですよ」

 

霊圧は前回来た奴と大違い。

多分、上位の相手と見て申し分ないだろう。

そういう英くんの目は爛々と輝いていた。

 

「一般の人間たちは避難させておいたようだね」

 

そう言って辺りを見まわす。

これならば存分に暴れられる。

そう考えていると、霊圧の増加を感じ取った。

一つの個体がいきなり強くなったのではない。

相手の数が増えた。

 

「ひよ里さん、分かってますか?」

 

聞くとひよ里さんは頷いてくる。

これは成功したやつだろう。

気を引き締めないとな。

 

「降りてきたのは良いが……」

 

着陸してきたやつらがそう言って立ち上がる。

しかし途中で言葉が切れるのも無理はない。

すでに俺を含んだ三名の戦士に囲まれているからだ。

 

「一人ずつ割り当てられるぜ」

 

とは言ったが次の瞬間、英くんが一人の相手に飛びかかった。

それに気づいて相手も反応をする。

その一連の流れの中で俺が細い奴を引き受ける。

そしてひよ里さんがでかい奴を引き受ける。

でかい奴も嫌な感じがするが当面はこっちの方が危ない雰囲気を醸し出している。

 

「俺達もいるぞ」

 

そう言って茶渡君と井上さんが居る。

後は黒崎君が居ればいいんだがな。

石田君に関しては彼は修行中なのだろう。

彼の霊圧が一定の場所から動いていないのが分かる。

 

じりじりと間合いが埋まっていく。

そんな中、激しい剣戟が耳に響いてきた。

 

.

.

 

「だりゃあ!!」

 

打ちつけると火花が散る。

相手も反応しているがそれより速く回り込む。

此方に対する反応が僅かに遅れている右半身。

そこから集中砲火を相手に浴びせていく腹積もりだ。

 

「ちっ!!!」

 

相手も攻撃の後の硬直を狙ってくるが、こちらが紙一重でかわす。

そのやり取りにいら立ちが募っているのだろう。

 

「随分と固い皮膚だな」

 

そんな相手を見ながら呟く。

碌に傷が入っていない。

弾かれることもないがめり込んでいく手応えが少ない。

 

「まるで鋼で出来ているようだ」

 

相手の一撃が掠るがまだまだ優勢なのはこっち。

相手はこっちの様子を見ているようだ。

しかし、そんな手探りなんてこっちはいらない。

 

「てめえ、何を笑ってやがる」

 

 

こっちを見て相手が言ってくる。

これが笑わずにいられるものか。

なんせ……

 

「殺したくて殺したくてたまらない奴が目の前にいるんだぜ!!」

 

そう言って相手の腕を斬り落としに行く。

その一撃を相手がかわすが無意味。

その回避を読んで途中で軌道を変化。

 

「ぐっ!!」

 

反応が鈍い相手の右半身。

さらにその右目をこちらが貫く。

それは完璧に入った。

……はずだった。

 

「すり抜けただと……」

 

そこに目がない。

有るのは空洞だけだ。

そう認識した時には腕を相手が振り上げていた。

 

「『剣道三倍段の枷』」

 

三分の一の速度にして難を逃れる、

そして即座に解除。

相手に必要以上の情報を与えはしない。

 

「変な感覚だったが何をした?」

 

その質問に答える気はない。

ニヤリと笑って肩を竦めて相手を見る。

その態度が気に食わなかったようだ。

 

「人間如きが、この俺を舐めるんじゃねえ!!」

 

激昂して刀を振り回す。

そのもの言いにあえて乗ってやる。

此方も薙刀の切っ先を相手に向けて睨み付ける。

 

「人間舐めるなよ、蟷螂風情が!!」

 

三分の一の速度と膂力。

更にあの死線を幾度となく潜り抜けたことで身に着いたさらなる強さ、

それが仇を相手に優勢に立ち回れるようにしてくれた。

そう思って見まわすと……。

 

「こいつ連れて帰れよ」

 

仇に向かってあるものが投げつけられていた。

それは細身で一番霊圧の高い虚。

あっという間に斑鳩さんは倒していたのだ。

 

「なるほど、あいつが一番強いのか」

 

じゃあ、標的は変えねえとな。

そう呟いて動き始める。

だがそこにさらなる追撃。

 

「三人がかりでやけどこっちも片付いとんで」

 

でかい奴も倒れ伏していた。

とは言えど重症になっている茶渡君。

それを治療している井上さん。

斑鳩さんは別の人を治療している。

とは言ってもそれほど重症じゃなさそうだけど。

 

「流石に六人も相手には出来ねえな」

 

そう言って引き返そうとする。

だがそこには別の相手が来ていた。

そしてその相手は想像をはるかに超えていた。

 

「藍染さんですか……」

 

駆けつけていた浦原さんが呟く。

次の瞬間、斬撃が煌く。

三分の一でも、圧倒的なもの。

 

「がっ…」

 

血飛沫が舞い上がる。

俺はその一撃で戦えなくなっていた。

斑鳩さんが全員の前に立つ。

そして次に衝撃的な言葉を発した。

 

「お前、藍染じゃないな」

 

化けられる相手だというのが推測できる。

でも一目見ただけで看破できるのか?

全然違う見た目ではないのに。

 

「なんで、そう思うのです?」

 

「歩幅、今の斬りつけ方といった要素は勿論だが何より……お前からは虚の臭いがするのさ」

 

そう言った瞬間、藍染の顔が崩れていく。

そして徐々に姿と形を変えていく。

 

「藍染様が要注意として言うだけの事はある」

 

そう言って現れたのは白髪の青年。

顔は引き締まっており、大きな目と高い鼻。

美男子といっても遜色はない。

身長はかなり高い方だ。

茶渡と並んでも遜色ない。

ただひょろりとした感じの肉体だ。

 

「俺は新たなる『第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)』パイアソー・ソロ」

 

「そして……」

 

黒崎の攻撃を避ける。

後ろから来ていたのを見抜いていたのか。

 

「この者を調査するように言われていた」

 

予想外の結果に終わってしまった。

これでは後手に回らざるを得ないだろう。

そう言って苦笑いを浮かべる。

 

「今の一撃を見る限りではまだ脅威になる事は無い」

 

そう報告させてもらう。

その一言で黒い穴の中へ消えていった。

俺は斑鳩さんに治療を施してもらっていた。

 

「あいつの能力はかなり危ないですよ……」

 

変化する能力。

仲間でも見抜けないと大きな隙になる。

かなりえげつないものを生み出しやがったな。

そう思いながら立ち上がって体の調子を確かめるのであった。




オリジナル十刃の名前は『道化師』と『キツネ』のスペイン語を引っ付けた形です。
彼の前任者であるアーロニーロは彼との決闘で命を落としました。
能力は千年血戦編で出てきたLの『ロイド・ロイド』と同様です。
その為、弱点もそのまま彼と同じものになります。

設定としては
解号:『騙れ』
帰刃名:『千変万化(カンビオ)
変化後が牙とキツネ耳が生えて、鋭い爪を持つ。
木の葉型の虚弾が周囲に漂う。

指摘などが有りましたらお願いします。

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