今回から原作キャラの修行パートに入ります。
「流石に前回の奴らは尖兵の強さではない」
俺は喜助と話していた。
攻め込んできた相手についてどう感じたか。
実力としては副隊長を超えているかもしれない。
しかしそれよりも強さに対する違和感が大きい。
「幹部としては隠しているという事ですね?」
喜助の言葉に頷く。
その理由はあまりにも相手があっけなかったからだ。
同じように手探りをしようとしていたのか。
もしくは油断でもあったのか。
「いずれにせよ卍解に相当するものが奴らにあるのならば、尸魂界で動きがないと人材不足だろう」
俺はそう言って人数を頭で計算する。
平子や鳳橋さん達に助力を願っても上手くいくとは思えない。
そうなると、俺と黒崎君たちでも合計で一桁の人数。
まあ、受け入れられても十数人なのだが。
人海戦術を使用されるとじり貧となって敗色濃厚となる。
「私の卍解は戦闘向きじゃないですからね」
喜助が頭を振りながら言ってくる。
それは聞いた事が有る。
見せてもらった事はないけれど。
「俺の卍解は一応戦闘に使える」
俺はそう言って鞘を撫でる。
ただ、能力の使う機会がなかっただけだ。
傍から見ればただでかくなるだけのもの。
「まあ、それでどこまで行けるか次第ですね」
藍染さんが出たらもう終わりかも。
喜助が言うと俺も顔をしかめる。
あいつは規格外。
張り合えるのは俺ぐらいだと自負がある。
「後手に回るとしんどい」
藍染相手には一手遅れはそのまま負けになる。
今回の事で危惧する部分は……
「井上さんの能力がただの治療ではないという点だ」
俺がそう言うと喜助が頷く。
俺の予想と喜助の予想はおそらく一致している。
「藍染があれを見過ごすような男だと思うか?」
その問いに喜助は首を振る。
絶対、藍染に狙われる。
それに対する護衛を付けるか、実力の向上。
悩むくらいならば両方こなすのが一番いい。
「尸魂界にあの子を連れていくか、この場所で強くするしかない」
その提案に喜助は難しい顔をする、
こっちに戻す時の危険度は有る。
其れの時は最大の警戒が必要。
「あの人が居て他の相手の鍛錬は、今の気持ちなら正直無理だよ」
だって卍解を見せてもらっていない。
俺はあの人が完全に卍解を習得している事を確認しないと気がすまない。
「整理が付けば、尸魂界の隊長を輩出した指導で井上さんが強くなれると?」
本人がどこまでを願うかは知れないが。
少なくとも上位の席官とは十分に張り合えるようにはさせてもらう。
「お前が心無い言葉を使って遠ざけなくても済むようにはするよ」
喜助は俺の言葉に苦笑いを返す。
井上さんの実力が足りないと『役に立たない』とか、『足手まとい』と言って遠ざけるだろう。
上手く言って離れさせるより、悪者になって遠ざけるのも有りだ。
しかしこういう方法の弱点は反発されて意地でも付いて来ようとすることだ。
そうならないことを俺は強く望む。
「とりあえず、こちらからは偵察ができない以上体勢を立て直す事だ」
そう言って俺は立ち上がる。
それと同時に引き戸が開いた。
そこにはひよ里さんが居た。
「丁度良い所に来てくれましたね」
そう俺が言うと、ひよ里さんはにやりとする。
そしてひよ里さんが手招きして誰かを呼び寄せた。
その相手はひよ里さんの背中に居る。
とは言ってもひよ里さんより背が高いため、丸見えなのだが。
「こいつら、お前が稽古つけたれや」
それは井上さんと茶渡君だった。
俺が暇にしているだろうから、その解消のために連れてきたみたいな感じ。
「そっちが鈍ってないか確認できたらやりますよ」
そう、俺が言うとひよ里さんが口角をあげる。
生意気な事を言うとでも思ったのだろう。
ひよ里さんが喜助に目配せをした。
指差してるところを見ると、地下にそういった開けた場所が有るのだろう。
「しょうがないッスね」
喜助がそう言って俺は案内される。
しばらく下がっていくと、地下室に想像もつかないほど広い空間が広がっていた。
こいつ、現世の法とか無視してないだろうな?
俺は喜助にそんな視線を向けていた。
「バレなければいいんですよ、同じ穴の狢でしょ?」
それもそうか。
俺は納得して歩を進める。
中央近くでひよ里さんと見あう。
「様子見は無しやで……」
そう言ってひよ里さんが即座に駆けてくる。
合図も無しに始まるのが戦い。
俺はその一撃を後ろに下がってかわす。
そこからの追撃をあえてしないひよ里さん。
「解号なしで出してきたか……」
つまり卍解の習得は終えている。
其れに磨きをかけているはずだ。
ついぞ見る事の出来なかった卍解が今炸裂する。
「こちらも行くぞ!!」
俺も鞘から抜いて構える。
無論、すでに始解は済ませた状態だ。
徐々に霊圧が大きくなり、空気が張り詰めていく。
「「『卍解』!!」」
二人の刀が変容する。
俺は柿色の刀身、茶色と赤の柄。
ひよ里さんの刀は長くて大きくなっていた。
色の変化はなく黒い刀身が光を反射する。
「『巻きつけ』!!」
ひよ里さんがそう言うと刀身が分かれて迫りくる。
それらを回避しようとするが追いかけてくる。
「ふんっ!!」
埒があかないとひよ里さんは思ったのか地面に突き刺す。
そして、自分の手元ではなくその刺さっている方へ刀身を戻す。
「くっ!!」
その移動でひよ里さんは距離を詰めて後ろ回し蹴りを放つ。
それを俺は腕で受け止めるが飛ばされる。
「どうしたんや、生ぬるいで」
ひよ里さんはそう言って刀をこっちに向ける。
この自信に満ちた表情……
確実にあの日よりも強くなっている。
能力もただの形状変化だけではなさそうだ。
「卍解については全然知らなかったんで面食らったんですよ」
今度はこっちからいくぞ。
俺は高下駄の爪先で砂を捉える。
また向かってきたひよ里さんに向かって……
「それっ!!」
砂を顔面に浴びせる。
目つぶしで時間を稼ぐ。
……そのつもりだったが。
「『鎖条鎖縛』」
ひよ里さんが鬼道で足を縛り付けていた。
……昔の言葉を受け入れて戦術に組み込んでいたのか。
本当に昔の感覚で居ると危ないな。
「小細工なんて通用せんで!!」
俺は脇腹を切り裂かれる。
血飛沫が上がるが問題はない。
こっちも仕返しをしないとな。
「負けないからな」
俺は霊圧で威圧をする。
それを顔を引き締めて耐えるひよ里さん。
その次の瞬間、俺は瞬歩で距離を詰める。
目の錯覚を狙った軌道で低く屈むようにだ。
「なっ!?」
俺の巨体が沈みこむ事でひよ里さんの目線の高さから急に消える。
それによってこちらが思ったように反応が遅れるひよ里さん。
その隙に俺はひよ里さんの懐へもぐりこむ。
俺は流れるように、ひよ里さんの足を抱え込んで投げ飛ばす。
「ぬおっ!!」
軽々と宙に舞うひよ里さん。
その状態に俺は追撃をする。
こういった腕試しでも容赦なくやるのが礼儀だからな。
「縛道の九十九『禁』」
俺は動きを封じてそのまま決めようと画策する。
しかしその瞬間、ひよ里さんの顔を仮面が覆う。
そして……
「ガアアアアアアッ!!」
ひよ里さんは勇ましい咆哮と共に虚閃を放ち、相殺させていた。
着地の際には解除をしていた。
なるほど、あの状態になるとさらに強くなるのか。
「でも技後硬直は的でしかないですよ」
ひよ里さんの着地と同時に後ろに俺は回り込んでいた。
ひよ里さんが振り向くが既に遅い。
俺はひよ里さんの頭を掴んで持ち上げる。
「どりゃあ!!」
俺は力の限り、ひよ里さんを叩きつける。
こんな一撃でひよ里さんの戦意が折れるとは到底思えない。
事実、ひよ里さんはその状態から手を地面につけて馬蹴りを繰り出してきた。
「こんなんで勝てると思ったか?」
首を振って俺は回答する。
その素振りに笑みを浮かべてひよ里さんは接近する。
そこへ俺は指を下げて鬼道を放つ。
「『黒棺』」
その一撃をひよ里さんは後ろに飛びのく事で逃れる。
だがそれすらも標的だ。
こいつは喰らって貰うぜ。
「破道の九十一『千手皎天汰炮』」
それを五連続の射出。
これは目を覆うほどの質量。
腕試しでやるようなものではない。
それを分かっているからか、喜助からの殺気が俺には伝わっていた。
「しゃあないかぁ!!」
そう言ってひよ里さんが横薙ぎに刀を振るう。
その一閃が終わる瞬間、信じがたいごとが起こった。
脳が理解するのに一瞬遅れてしまった。
「あの一振りで……霧散した!?」
全然想像がつかない。
あれが隠された能力なのか!?
「流石のお前でも一回見ただけなら気づかへんみたいやなぁ!!」
刀をひよ里さんが振り下ろしてくる。
直線的な一撃だな。
そう思って迎え撃つように受け止める。
その瞬間、刀を挟んだ距離でひよ里さんの口角が上がるのが見えた。
「がっ……!?」
受け止めたはずなのに幾らかの斬撃を喰らってしまう。
血飛沫が舞う中で、俺は頭で能力の推測を立てていく。
全く時間のずれもない斬撃。
そう、『同時』に放たれてきたという事だ。
「まさか……」
想定した内容であれば回避は不可能。
防御も不可能。
自分の肉体の強度でしかどうしようもない。
これほど攻撃性能に特化した卍解は珍しい。
「『八方向同時斬撃』……」
その呟きと同時に霊圧の斬撃を飛ばす。
その一撃で確信を得る。
振り下ろした場所を中心に八方向へ伸びた斬撃。
「これは……」
跳躍をして下から振りあげて相殺。
都合、三か所の斬撃になる。
両肩を切り裂かれながらも最悪の被害は逃れた。
「流石に見える様にしたら分かったか」
ニヤニヤとしている。
随分と戦い方も変わったな。
昔なら優勢でも突撃してきて、ゆとりもなかったのに。
「そらそらそらぁ!!」
一回でやめなければその分増えていく。
八の掛け算の斬撃が襲い掛かるというわけだ。。
無論、その物量は俺にとっても初めての事。
「『断空』!!」
壁を張って一時的に逃れる。
しかしまるで薄焼き煎餅のように割られていく。
「くっ!!」
難を逃れたと思ったが甘かった。
初めに見せてきた刀身が分かれた状態で構えている。
こうして見るとまるで綾瀬川の『藤孔雀』によく似ている。
向こうは、ただ臍を曲げた始解ってだけの話だが。
「喰らえや、『
そう言ってひよ里さんは攻撃を繰り出す。
八方向に分かれた刀身、それに加え八方向同時斬撃。
一度振れば六十四の斬撃という夥しい数。
もはやこうなれば回避も大して意味がない。
斬られてもいいからと割り切る。
「はあああああ!!」
俺の突撃にひよ里さんは顔を顰める。
俺は距離を詰めながら何度も斬られていく。
しかし痛みは不思議と感じない。
「これが戦いだもんなぁ!!」
俺はひよ里さんの眼前まで迫ると歯を噛み合わせて刀を振るう。
それをひよ里さんが避けるが逃がしはしない。
俺は血煙をあげながら瞬歩で詰める。
自分でも恐ろしいほどにブレがない。
最高潮の状態で細胞が打ち震えている、力が漲ってくる。
「くっ……」
その動きにひよ里さんは苦い顔をする。
貴方にならば見せてもいい。
更木の時にしか現れない笑みを。
今回、俺が貴方の強さの向上に歓喜するが故に生まれたあの恐ろしい笑みを。
「こっからが本番なんか……」
そう言って構えた瞬間。
割り込んでくる影が二つ。
喜助がひよ里さんを、鉄斎が俺を持ち上げていた。
「お互い、腕試しの範疇は超えていますよ」
それを言われると頭が冷えていく。
真剣勝負のつもりになっていた。
ひよ里さんもそれは同様だったようで頬を掻いていた。
「強くなってたからつい本気になってしまった」
下ろされて開口一番、そんな事を俺は言う。
昔のひよ里さんと比べても雲泥の差だ、
卍解込みの攻撃力ならば同期組でも最高峰だろう。
ただ、弱点があるならば刀身が分かれた場合の斬撃は二回目を放つのに時間がかかるという点だ。
「そっちも弱くはなってないやんけ」
ブレがなかったからですよ。
藍染を止める時と同じぐらい引き出されてしまった。
あの時間の中では、攻撃を避ける方法が思い浮かばなかった。
後ろに下がっても、その時間を利用されてしまって連撃をされると無理だ。
「これであいつらの稽古つけてくれるんやろな?」
本来の目的はそれだった。
当然、引き受けさせてもらう。
俺が頷いたのを見てひよ里さんは満足げな表情だ。
「邪魔したな」
そう言ってひよ里さんは去っていく。
よくよく考えればほぼ無傷だな。
あれから血の滲む努力を重ねたのだろう。
俺も負けてはいられない。
血潮が熱くなっていく感覚が体中にしみわたっていた。
稽古のはずが真剣勝負。
ひよ里の卍解は攻撃特化にしました。
時間差で距離を詰めたり、横に大きく移動などという方法で回避は出来ます。
指摘などありましたらお願いします。
本作オリジナル卍解:
名前:『八岐大蛇斬捨御免』
所持者:猿柿ひよ里
能力:節のある刀身が八つに分かれて攻撃を繰り出す。
そして斬撃は振るった方向を中心として、同時に八方向の斬撃となってくりだされる。
刀身を完全に展開して放てば一撃で六十四回という驚異の攻撃となる。
しかし、追撃性能が分かれさせていない時に比べて格段に落ちるため、時間が必要となる。
刀は真っ黒で形状の変化は『蛇尾丸』と『藤孔雀』を足した感じです。