助けられない相手もいますがそれは原作につながる為のやむなしでも有ります。
卯ノ花隊長との鍛錬。
もとい蹂躙という名の斬り合いを始めて速くも二十年が経った。
四年に一度の周期で、席次が一つずつ上がっていった。
理由としては、仕事が元より出来ていたからというのも有った。
それ以外にあげるのであれば、回道の腕もここ二十年で飛躍的に上がった事。
治してもらえない時は自分で自分を治していたため、それが原因だ。
それは四番隊の者として一番利となる事。
「追い抜いて行かれたけどな……」
他の仲間たちが僅か二十年とはいえめきめきと頭角を現していった。
とはいっても先が遠いというのもあって苦戦しているようだが。
ちなみに平子さんが十二席。
拳西さんが十三席。
愛川さんと鳳橋さんが十四席。
女性陣では矢胴丸と久南さんが十三席。
猿柿さんが自分と同じ十五席だ。
「卯ノ花隊長が急に仕事押し付けへん為にしてくれてると思い」
俺たちは昼下がりの十二番隊の隊舎の縁側で話していた。
わざわざ雑用で来た自分を猿柿さんが労ってくれたのだ。
ここは俺は男として『元気です』と強がっても良かった。
しかし猿柿さんの優しさに甘えたくなった。
「最近なんか眠いわ……」
そう言うと欠伸をする猿柿さん。
うつらうつらと舟をこいでいる。
普通ならこんな状態を見ると『起きていろ』と言う。
しかし何故か優しくしてしまう。
それはきっとこの人だからなのかもしれない。
もしここに居るのが矢胴丸さんや久南さんなら、有無を言わさずに起こしていただろう。
「……」
徐々に猿柿さんの身体が傾き始める。
気づいて反対方向へは動かない。
やがて角度と重力に押し負けていく。
そして俺の膝元に頭を乗せていた。
「よく頑張っていますからね……」
俺はその体勢のまま、起きるその時まで待ち続ける。
ゆっくりと休んでほしい。
しかし大きな懸念がある。
それは隣が十一番隊の隊舎であること。
「起きるような音は鳴るなよ」
いつものように騒がしくするな。
むしろ今日は普段以上におとなしくしておけ。
この安らかな寝顔を壊すなよ。
壊したら出向いて、一人一人ぶん殴ってやる。
そう思いながら耳に手を当てる。
せめての気休めと思い耳栓代わりにさせる。
「あらあら、寝ちゃったのかい、昼時だってのに」
曳舟五席が来たので俺は手ぶりで静かにするように示す。
察してそっと歩いて席に着いた。
そしてこっちを見ていた。
「しかし、あんたも雑用とはいえひよ里ちゃんによく会いに来るねえ」
それに長居もしたりさ。
少し口角を上げて言ってくる。
何か言いたそうだが……
「あんたみたいな若い子にはまだよくわからないだろうからいいけどね」
そう言って曳舟五席は去っていく。
猿柿さんは寝息をすぅすぅと立て始めた。
ゆっくり休んでください。
そう思って僅かたりとも動かない。
後で卯ノ花隊長には叱られるだろう。
夜の斬り合い、もとい鍛錬がさらに厳しくなる。
「まあ、いいか」
理由さえ言えば理解はしてくれる。
聞く耳持たない、分からず屋というわけではないのだから。
「んっ……」
ぴくりと動く。
その時に僅かに髪が指に当たる。
その思わぬ接触に、耳栓代わりにしていた手で、髪を梳いたり頬に触れてみたいという思いをとどめる。
時折、このような気持ちが鎌首をもたげる。
これが何かはよくわからない。
「うぅん……」
猿柿さんが寝返りを打つ。
気持ちよさそうに寝ている。
それを見ると気持ちが静まる。
この幸せな顔を壊してはいけないと。
.
.
「よぉ、寝たわ」
そう言ってウチは目を開ける。
頭が縁側の硬い場所に無いのがわかる。
まるで柔らかい枕のようだ。
「んっ」
首を動かしてよく方向を見る。
枕にしてはやけに高さがある。
普段使っている枕ではない。
服が見えるという事は、誰かが膝で枕をしてくれているのだろう。
「おはようございます」
そう言ってきたのはイカやった。
こいつ、ウチに膝枕をずっとしとったんか。
話も聞かずに寝て、こんな事させてなんか申し訳ないな。
そんな事を考えていると、ふと気づいてしまう。
「……あれ?」
つまり昼からずっとウチの寝顔を見とったんか!?
こいつ……思ったよりもやらしいやつや。
そう思っていたが、顔を見るとそんなやましい感情がない事は分かる。
純粋な善意でずっと膝枕をしていたのだろう。
それならば、これぐらいは許したるか。
なんたって大人やからな。
「わざわざ悪いな、仕事あんのに」
起き上がって頭を下げる。
それを見てイカが立ち上がる。
そしてぽつりと一言。
「俺の膝ぐらいいつでも貸しますよ」
そう言って十二番隊の隊舎から出ていった。
頬をかいて苦笑いで見送る。
そう何回も世話になってたまるかい。
これがアホの真子やったら笑いの種にしよって延々といじるからな。
ホンマにあいつで良かったわ。
.
.
結局、この日は元々仕事が少なかったためにお咎めは無かった。
しかし、理由を告げようにも猿柿さんに迷惑がかかるので気をつけないといけない。
そう思って、気を引き締めた。
その次の日。
今日も雑用を押し付けられる。
押し付ける奴全員にちょっと痛い目を見せたい。
ちょっと席次が上、もしくはお荷物部隊だと思い込んで馬鹿にしやがって。
「今日は九番隊か」
そんな事を言っているといきなり霊圧の乱れを感じる。
あまりにも急な減衰。
これはかなり重症、もしくは死の間際の時に現れる。
俺は急いで九番隊の隊舎へと向かう。
四番隊からは遠いので一刻を争う。
息を切らしながら、九番隊の隊舎の扉を開ける事もなく飛び越える。
後で怒られるだろうが急な患者だ。
四の五の言ってられはしない。
「これはえげつないな……」
血を噴き出している高位の席官。
斬った相手の袖に光るものがある。
特殊な隊士だとすれば推測するに、『隊長格』と呼ばれる人だろう。
「なんて真似をするの!!」
それに対して抗議をする女性。
視線を上に上げると男性の顔が明らかになった。
その顔を見たら即座に分かった。
なぜならば、男性の方は有名人だからだ。
「縛道の三十九『
抗議している女性に斬りかかろうとしていた所を止める。
自分の非を認めずに斬りかかるとは大したものだ。
性根に問題がある。
「くっ!?」
刀を弾かれたのに驚いている。
『二重詠唱』で別の鬼道を発動。
「縛道の三十『
それで相手の動きを止める。
しかしまだまだやる事はある。
「縛道の七十三『
四角すいを逆さにした形で、周囲から中が見えない霊圧の結界を出現させる。
その中で血を流している方の治療に取り掛かる。
「かなり深々と斬られていたようですね」
重症なのは想定していたが危うい。
このままでは確実に出血多量で死に至る。
俺はできるだけの速度で速く傷を塞ぐ。
その過程で治療相手の血を作り出す機能を向上。
本格的な治療の前に失われた血液の不足分を埋めていく。
「出血は止まっていますが、予断を許さない状態の為、四番隊へその方を」
僅かな時間で救急の処置は完了。
相手も縛道を破ったようだ。
ここから出る時にもう一度かましてやろう。
「縛道の六十三『
出てくるのを待っていた相手に蛇のように絡みついていく。
その時に見せた顔。
まさに邪悪そのものの顔だった。
「貴様如きが邪魔をするか!!」
相手が刀を勢いよく振り下ろす。
俺はそれを避けて抜刀。
鋭く喉元に突きつける、無論殺気を込めて。
そこまでに要した時間はごく僅かなものだ。
「救命が我ら四番隊の役目ですので」
邪魔する輩を切り裂いたうえで連れていく。
何故ならば治せるから。
逆らうにもそうなれば命が我らの胸三寸、匙加減。
それを理解しない愚か者の多い事。
お荷物などではないのだ。
「この……『
お前をこのままにしていいわけがない。
悪辣さがにじみ出た眼差し。
きっとあのまま斬っていたら自分を悲劇の存在として周囲に見せただろう。
貴族に相応しくない振る舞いだな。
「無論、それが平定をもたらすのであれば」
同じ護廷十三隊で一人が同僚と自分を咎めた女性を殺害。
そのような事になれば混乱しか起こらない。
本性を隠されると厄介極まりない。
「京楽や浮竹ほど強くもないものが私に勝てるわけもない!!」
呼び捨てにするという事はすなわちそれ相応のもの。
同期卒業生なのだろう。
あのお二人が突出しているだけ。
我々もおかしな速度で昇進を続けているが、本来はこの地位が正しい。
「お前の命もここで散れ!!」
相手が横薙ぎに刀を振る。
それをこっちが刀を滑らせて受け流し、早々と懐へ入り込む。
無理に相手の攻撃を受け止める必要はない。
「なっ!?」
驚愕に染まる相手の顔に何も感じはしない。
できる事ならばあの人以上の殺気を。
できる事ならばあの人以上の速度を。
できる事ならばあの人以上の鋭さを。
「持ってきてから考えろ」
そう言って俺は刀を振り下ろす。
お前には全く足りていない。
貴族としての振る舞い。
死神としての強さも。
「始解もなしに……舐めるなよ!!」
相手が刀を受け止めて距離を取る。
そして鞘から斬魄刀を抜くと頭上に掲げる。
「『中心に廻れ、
相手が始解を発動させる。
毒々しい紫の刀身。
さらに渦を巻いた細い刃。
一体どのような能力を持っているのか?。
「かっ!!」
相手が振り下ろした刀が石畳を抉る。
元から当てる気がなかったかのようだ。
「その程度の距離でいいのか?」
相手が笑みを浮かべている。
ここからが面白い事が起きるのだというように。
邪悪さを惜しみなく出した凶悪な笑みだ。
「なっ!?」
石畳が棘のようになって迫りくる。
まさかこれが能力か!?
「斬りつけた対象は私にとって都合のいい事象を起こしてくれる」
その能力に寒気を感じる。
事象の歪曲を限定的に引き起こす。
神に等しい力を有した最高峰の斬魄刀。
こんな悪党が持っていてはいけないほどの強力な代物だ。。
「破道の七十三『双蓮蒼火墜』!!」
石畳を粉砕してそのまま接近。
斬りかかってくる。
俺の斬魄刀を無効化するつもりなのだろう。
「甘い」
持ち手を瞬時に変える。
そして隠していた無銘の刀を持って受け止める。
片手で刀を振り、その片方で何もしないと思うなど……
「戦いを真に楽しめてはないな」
防がれたせいでその半身ががら空きとなっている相手。
片手で何かをしてももう遅い。
相手は初めからこちらに対して用心していなかった。
俺がそんな輩に負けるような鍛錬を積んでいる訳がない。
「はっ!!」
肩口から大きく切り裂く。
そして相手を蹴り飛ばす。
さらには相手の斬魄刀を破道で吹き飛ばしておく。
抵抗するならもう少し重症にしてから連れていく。
あとは使い捨ての武器で斬魄刀を砕いておくか。
「どういった騒ぎなの、これぇ?」
ここは九番隊隊舎。
そこで騒いでいる。
挙句の果てに霊圧の乱れや上昇がこの短時間で確認。
そんな緊急となればこの人が出る。
隣の隊である八番隊。
その最高責任者、すなわち八番隊隊長。
「京楽隊長……」
普段の飄々とした感じがない。
ぞっとする。
卒業試験でやる気になったあの時と同じような雰囲気。
「京楽……こいつが私の同僚と妻を襲ったんだ!!」
立ち上がった相手が嘘を告げる。
自分がやっておきながら……大した精神だな、
そう言うと京楽隊長がこちらと相手をじろりと見る。
傍から見たらその言葉が通ってしまう。
片や涼しい顔で刀を振るい、片や切り裂かれた状態で荒く息をつく。
それをじろりと見ると京楽隊長は綱彌代副隊長の肩に手を置く。
「言わなくてもいい、分かっているさ」
これは……
俺は刀を握る力を強める。
俺は京楽隊長の事は信頼はしている。
しかし、同期として情に流され向けられた時はやむなし。
呼吸をして、いつでも対応ができるように動向を見る。
「君が嘘をついているってことぐらいね」
氷のように冷たい目が相手を射る。
苦い顔になってしまった相手。
そんな顔をすればすべて暴露しているようなもの。
「君の本性は見抜いていた」
『生まれついての悪』であること。
今はただ力を蓄えていたという事。
いずれは大惨事を引き起こすことも予測済みだったと。
「同期のよしみで変わってくれると思って待っていたが……」
ここまでの事になればもう無理だ。
そう言って二番隊の方を呼ぶ。
俺は治さない。
治してしまったが最後、斬ってでも逃げるという判断をするから。
「あまり良いものじゃあないね、同期を『蛆虫の巣』に入れるなんてのは」
綱彌代時難が連れていかれる姿を見て、京楽隊長が溜息をつく。
しかしこうしておかないと洒落にならない。
副隊長の乱心なんて護廷十三隊に泥を塗る。
「悲劇が起こる前で良かったよ」
そう言ってこっちを見てくる。
そして口角をあげる。
少しばかり悪戯を仕掛けてみようというように。
「それ!!」
居合の要領で二つの斬撃が煌く。
それを横に動いて、隙を作らないように回避する。
気配を感じた瞬間、掌を背後に向けて呟く。
「破道の三十三『蒼火墜』」
その一撃を京楽隊長はさらに瞬歩で回避。
その一瞬でこちらも始解を済ませて、京楽隊長のいる方向を見据える。
「本当にあの日から強くなっちゃって……」
だが既に京楽隊長は刀を鞘に納めていた。
まぐれで勝ってしまったのかとでも思ったのかな?
まあ、相手が油断していたというのももちろんあるんですけれどね。
「彼だって副隊長として申し分はないんだけどねぇ」
君は本当に恐ろしい。
そう呟いて少し嬉しそうに、八番隊の隊舎へ帰っていった。
卯ノ花隊長との斬り合いで化け物の領域へ徐々に足を踏み入れていきます。
副隊長って強いはずですが初代剣八に比べると月とスッポンほど違いますよね。
今回のオリジナル斬魄刀
名前:『独尊己天』
解号:『中心に廻れ』
能力:斬りつけた対象が所持者にとって有益な結果を残すように動く
限定的ではあるが事象を操作できる極めて稀有な斬魄刀
凶悪な能力ですが、使い捨ての武器とかで防いで腕を切り落としてしまうなど対処法はまだあります。
指摘などありましたらお願いします。