そして主人公の強化のフラグを用意しました。
「昨日の今日で随分足が軽いねえ」
目の前にいる相手に俺は言う。
頭を掻きながら黒崎君がこっちに近づいてくる。
「利用してやろうとか言う心づもりならやめときな」
肩を掴んで忠告をする。
勘違いしているようなら正しておかないといけない。
「お前は試される立場なんだよ」
藍染との戦いで有用な次元に到達している、もしくは到達する可能性がある。
それを認められない限りはあの人たちも力を注ぎはしない。
冷たいと俺が言えばそれは何とかなるだろう。
しかしお遊びではない。
「力がなきゃ死んでもらうだけだ」
それを考えてここを通れ。
そう言うとこっちの言い方が気に食わなかったのだろう。
裏拳を繰り出してくる。
当たる瞬間に頭と首を捻って衝撃を逃がす。
「顔じゃなくて動かない腹とかの方があの場面は正解だ」
俺が試験官だったら今の動きだけで落第にしかねないぞ。
気を付けた方が良い。
「粗相の無いようにな」
入っていった彼を見ていく形で立ち会う。
正直、潜在的な力が強いだけで発展途上。
切欠で爆発的に伸びる系統だ。
「はあ、詰まらねえなぁ」
観戦して放った俺の一言にみんなが頷いている。
単純な理由だ。
黒崎君は『虚化』をしていない。
平子は手抜き。
こんなもの見る価値があるのか?
「しゃあない」
そう言ってひよ里さんが動く。
こんなものをずっと見ているほど暇ではないのだろう。
早々と終わらせたいのだ。
「そこ空けろや、ハゲ」
履物で平子の頭を叩く。
其れで吹っ飛ぶので結界を張ると五枚ほど打ち破って俺の眼前で止まった。
「お前もいつまでちんたら虚化せえへんのや」
そう言うと黒崎君に説明し始める。
俺が言ったのとさほど変わらない。
そして仮面を出して本気の体勢となった。
「弱い奴にうちらは用が無いんやで」
卍解も無し。
始解の状態で黒崎君を押していく。
そして命の危機を中身の虚が悟ったのだろう。
暴走を始める。
その瞬間、俺は動いていた。
ひよ里さんの首に向かって手を伸ばす黒崎君。
当然看過などできるはずもない。
「調子に乗るな」
腕を蹴りで押し返す。
軌道が変わったのを見てそれを掴み、投げ飛ばす。
「ぐっ……」
背中をしたたかに打ち付けた黒崎君に馬乗りになる。
そのまま仮面に手をかけて無理やり引き剥がす。
「これでどれだけ頑張らないといけないか分かっただろう」
意識はあるようで頷く。
爆発力はある。
しかし、それを制御できなくては無駄。
後はこの人たちに任せないと意味がない。
「待たんかい」
そう思っていたら、ひよ里さんに呼び止められる。
まあ、そうなるよな。
「こいつの制御には協力してもらわなあかん」
頭数で二回入る奴が出てくるから。
そう言われたら仕方ない。
ここまで乗り掛かった舟ですから。
ちゃんと仕事させてもらいますよ。
「痛いんだけど……」
背中をさすりながら俺に言ってくる黒崎君。
仕方ないね。
あのままひよ里さんの首を絞めた日には君の首がそこに転がっていただろう。
命が有るだけでも良かったと思わないとな。
「ひよ里さん、ひよ里さん」
呼ぶと近寄ってくる。
やはり成果は出ているな。
初めに赤面も薄れている。
「あいつはもう一足飛びにしないと気が済まない奴ですよ」
多分、すでに基準は超えている。
何かしらの測定器は有るだろうがそれをずっと稼働させるぐらいはある。
もうそういう奴はすぐにでも実践的に慣らしていくのがいい。
「そう言うのは面倒やねんけどなぁ」
まあ、あいつがそう言ってきたらそれで考えようか。
そう言って去っていく。
ただ今回の進歩に去ってから気づいたのか、少し驚いた感じで振り向いていた。
「あいつらの実力の向上は丸投げかもな」
茶渡君は阿散井に。
井上さんは朽木隊士に。
既に土台は出来上がっている。
「向こうの出方としてはあの模倣できる奴がカギになる」
井上さんを直接誘拐するか。
もしくはあいつの能力で格が下がっていたとしても再現可能なのか。
「それならば崩玉の構築や計画は加速度を増す」
しかしそれが出来ていない。
その理由は前回、能力を見ていない。
もしくはその人の能力を詳細に知らないと再現不可能なのかもしれない。
「治療の力と思うのが大半だろうからな」
本来の内容を知っているのは俺や藍染、浦原と言った頭脳面に優れた手合い。
そして能力者である井上さん。
「そうなると藍染が伝えていくしかない」
再現性が上がらないとなれば確実に井上さんの誘拐に踏み出すだろう。
しかも、その猶予は思っているほどは無い。
「並の奴を用意はしない」
だから藍染自身の出動。
其れも視野に入れる必要がある。
「危険度が常に最高潮だ」
警戒心をこれほどまでに煽ってくる。
それに怯える。
もしくは物怖じをして僅かな遅れを作り出させる。
それを狙っているのかもしれない。
「なんでこんな事になるんだろうな……」
溜息を吐いて一点を睨む。
こんな事にはなってはいなかっただろう。
そう言った怒りを含めて。
平子へと殺気の眼差しを向ける。
「あの日に戻れたらこんな事にはさせはしないだろうに」
歯軋りをして呟く。
過去に戻ることはできない。
しかし、今からでも関係の再構築。
あいつが尸魂界へ償いをすることはできる。
厳しい条件や自分の首を差し出すに近い真似をしないといけないだろうが。
まずはその為にあいつとの戦いに勝つ。
「今は目の前の青年を強くするのが一番重要だ」
霊圧探知を全開にしておかしい部分は無いか。
ゆらぎが有ればその時点で即座に出られるように備える。
緊張の糸が張り詰めていく。
「気を張り詰めると良くないですよ」
そう言って眠六號が茶を差し入れてくれる。
あれからずっとこっちに着いてきている。
さっきのひよ里さんの時も俺が止められなかったら眠六號が止めていただろう。
「気を緩めるのは今の小競り合いではご法度だよ」
全てが全力勝負。
あいつが気の緩みを見せる事がない限り此方は緩められない。
「今までの相手の中でもやり合いたくはない奴だからな」
元々お互いが嫌いあったわけでもない。
すれ違いあったが故の戦い。
手練手管で百戦錬磨。
策にはまる可能性もある。
もしくは、誰かがはまって連鎖反応。
「ただ、自己嫌悪する部分もあるよ」
苦笑いを浮かべてしまう。
その顔を眠六號が覗き込む。
そして首を傾げた。
「あいつと心行くまで戦ってみたいと欲望が渦巻いている」
握り拳を作る。
しかしその瞬間、喉からこみあげてくるものがある。
席を外して、結界の外で手を口に押し当ててそのこみ上げてきたものを吐き出す。
「今までのつけが急に廻ってきたか……」
それは血だった。
鮮やかすぎる赤色が眩しい。
この原因は一つ。
この百年の無茶ですっかり『傷んでしまった霊圧』だ。
それが体に回ってきて悪さをしている。
これが酷くなれば最悪死んでしまうだろう。
治すにはたった一つの方法しかない。
「騙し騙しやってもいいが瀞霊廷を護るのが護廷十三隊」
藍染を止めないと全てが終わってしまう。
その為ならこの命も惜しくない。
それを心にこの日々を過ごしてきた。
贅沢を言うのならば死ぬ場所はあの人の腕の中がいい。
「決戦までは持ってくれないといけないぜ……」
口元を拭う。
手を振って血を飛ばす。
心配させてはならない。
顔を引き締めて、黒崎君の修行の続きを始めるのだった。
主人公が現状全盛期なのに実力的には変化なしというおかしい状態です。
その原因とそこから考えられる強化フラグを用意してみました。
今からさらに強くなったとしても五本の指に入るぐらいです。
決して最強にはなれません。
指摘などありましたらお願いします。