ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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織姫の誘拐を今回は詰め込みました。
虚圏の決戦は早々に切り上げて大乱戦の空座町でもいいんじゃないかと思いました。


『鮫の女王 -Shark Of Queen-』

あれからしばらくの時間が経った。

黒崎君が制御してから状況は落ち着いている。

俺は喜助の勉強部屋で自分を鍛え上げている。

居合の要領で巻き藁を斬る。

切り口を見て溜息。

少しばかりひしゃげている。

 

「これじゃあ斬ったことに気づかれる」

 

斬られた相手が斬られて数瞬してから『斬られた』と認識する。

これが一番いい形。

その次は今の状態だ。

かつてよりも力が無駄に入っている。

 

「体重の移動もできてはいる」

 

考えられるのはおおよそ浮かれてしまう事による緊張。

其れならば辻褄が合う。

百年ぶりに会ったことで無意識に心が浮き立っているのだろう。

そうなれば力の入れ具合や間の取り方も僅かに変化する。

 

「落ち着け……」

 

戦いの最中にあの人の事を考える余裕があるのか?

答えは否。

藍染の強さはきっと誰よりも知っている。

ならばこの居合は出来なくてはならない。

 

「はっ!!」

 

小気味いい音を立てて二本目の巻き藁が落ちる。

その断面は非常に滑らかなもの。

想定していた通りの出来で満足できる。

 

「喜助、そっちの様子はどうだ?」

 

相手の攻め込みがないか確認。

静かなのはいいが不気味。

其れなりに整えてくるのか?

 

「人海戦術となると面倒だからな」

 

目的達成の為だけの局所ならしんどい。

別に彼らの戦力を軽んじているわけではない。

 

「予測機に反応有りますね……」

 

そうか。

其れじゃあ向かわないと。

四番隊の杵柄で治せるように待機したらいいんだが。

 

「茶渡君と阿散井も出るように伝えておいてくれ」

 

どれだけ使ってくるか分からない。

相手が戦えない相手を狙う可能性もある。

其れならば全員こっちは出せるようにしておかないとな。

 

「まず、狙われているであろう井上さんの所だ」

 

そう言いながら向かって行く。

しかし霊圧が上からやってきた。

 

「くっ!!」

 

その正体と衝突しないように停止する。

するといつの間にか囲まれていた。

 

「お前は止めろと藍染様から聞いている」

 

目の前に居るのは褐色の肌と金色の髪を持った女。

この女が大将だろう。

その周りに居る奴らも全員女だ。

 

「わざわざここまでの人員を割くもんか?」

 

俺は頭を掻きながらその女に問う。

すると後ろから声が聞こえる。

 

「ハリベル様一人で十分だろうが、私達は従属官だから傍に居るのが普通なんだよ」

 

その声に振り向く。

囲まれた中でも小柄な女が言ってくる。

随分と強気な発言だな。

あまり強い言葉は使うべきではないけどな。

 

「つまり、今から四対一ってわけです」

 

袖で顔を隠した女が右から話しかけてくる。

じりじりと歩み寄っていた。

 

「覚悟はしてもらうよ」

 

左から筋骨隆々な女が話しかけてきた。

覚悟はもう、とうの昔にできている。

しかしここで死ぬわけにはいかない。

ひよ里さんから貰ったものを取り出すために裏地の収納に手を伸ばす。

 

「真剣なあいつほど怖いものはねえな」

 

しかも一人は隊長と同じくらいの霊圧。

そんな奴の傍に居るのならこいつらも並ではない。

副隊長が三人とかなら流石に連携ができていれば厳しい。

一対一なら負ける気はしないがこればかりはな。

 

「これはさすがに危ないな」

 

そう言って俺は裏地の収納から引っ張り出す。

それは助けてほしい時に吹けと手渡された笛。

それを咥えて勢いよく吹いた。

何事かと相手は思っているようだが気にしない。

 

「どうやらお困りのようやな」

 

既に動いていたのだろう。

空を駆ける形でひよ里さんが来てくれた。

そしてこの状況を見てなるほどと納得する。

 

「未知数な相手ですから念には念をと思って」

 

女だらけの状態。

こっちはどうやら大将格の女をじろじろと見る。

褐色の肌なので見えにくい。

ひよ里さんはジト目で見ていた。

 

「何見とるんや?」

 

抓られている。

気分を害したのだろう。

こちらとしては特徴的なものが見つからないんですけどね。

 

「階級を表す番号が見えないんですよ」

 

そう言うと首を傾げるひよ里さん。

一体何事かと思っている。

 

「前に来た奴は背中にあったんですけどあの女は見当たらないんです」

 

言い訳かと思われたのか少し力が強くなる。

こんなことで嘘つく必要ないでしょ。

鼻を下に伸ばしてたらこういう手合いには殺されますよ。

 

「なるほど、それで視線を彷徨わせていたのか」

 

霊圧を上げて刀を振り下ろして構える相手。

ひよ里さんもこれはなかなかの相手だと感じたのだろう。

 

「私は『第三十刃』にして唯一の女性の十刃だ」

 

前回に来たグリムジョーよりも上。

藍染の奴、まさか階級の上位三名を全投入しているのか>

 

「そして数字は服を脱がないと分からない所にある、つまり見えなくて当然だ」

 

そりゃ、分からないわけだ。

そして相手の言葉でこちらが嘘をついていないとわかって貰えたのだろう。

ひよ里さんは抓るのをやめていた。

 

「お前、やましい目で見てたわけやないんやな」

 

その発言に頷く。

戦いでそういうもの持ち込むほど無粋ではないので。

隙を見せたら死んでしまう。

それを恐ろしいほど細胞の単位で教え込まれているから。

 

「気を付けてくださいね」

 

そう言うと俺は大将格に対して向かって行く。

ひよ里さんは従属官の三名だ。

 

「あの女が言っていたがお前の名前を聞かせてもらおうか」

 

両手で構えて射殺すほどの視線。

殺気の奔流を浴びせながら相手に向かって行く。

問いに答える余裕はあるようで刀を構えたまま、言葉を発した。

 

「私の名前はティア・ハリベルだ」

 

その言葉を言って戦いが始まる。

こちらが先に仕掛ける。

突きを繰り出すと避けていく。

そこからの切り上げ。

 

「甘いな」

 

そう言ってティア・ハリベルが受け止める。

こんなこけおどしの一撃で分かったつもりになるのは困るな。

これも回避できないとあれば失望しかなかったぞ。

 

「そちらの心構えがな」

 

受け止めた相手の腹部に前蹴りで突き飛ばす。

当たった瞬間に後ろに下がって軽減したようだが、まだ終わらない。

俺は鬼道でティア・ハリベルの行動を制限しに行く。

 

「『六杖光牢』」

 

光が胴を中心として突き出ていく。

其れで相手の動きを止める。

しかし手応えの無さに困ってしまう。

 

「あんまり持たないな」

 

霊圧がやはりグリムジョーやあの細い男と同じで他と一線を画す。

いつもの相手なら止まるが罅が入っていくのが速い。

こいつは六連続で打つか上位を打たないと厳しいな。

 

「この程度で動きを止めようとしたのか?」

 

腕を上に伸ばしていく。

空気の感覚が僅かに変わる。

そして、ティア・ハリベルが腕を振り下ろした瞬間、俺からは血飛沫が舞っていた。

 

「これは……」

 

超高速の一撃。

認知できず、なおかつ威力が高いもの。

そこから、先ほどの空気の変質。

導き出した答えは……

 

「水を高圧で圧縮、さらに高速射出と言う芸当をしたんだな」

 

水圧の強弱で攻撃の威力は変わる。

その最高の状態を繰り出したのならば今の状況も納得だ。

 

「その通り、普通に切り結んでも埒があきそうにないと察知したのでな」

 

水の弾丸を打ち込んでくる。

それを『千手皎天汰炮』で相殺。

連射もできるが相手に合わせないと面倒。

 

「はっ!!」

 

さっきのように腕を上げなくても刀の一振りがそのまま水の斬撃となる。

これを回避するには相手があからさまに見せないと難しい。

最小限の動きならば隙もなくなる。

 

「『円閘扇』」

 

大きく振っている相手の攻撃。

防御の鬼道を六枚張ってみるが効果はほとんどない。

パリンパリンと音を立てて壊れていく。

僅かに速度が減衰したので回避はできた。

 

「こんなの冷や汗かいてしまうね」

 

殺傷力が高い。

速度も申し分がない。

そして条件として必要な水は自分から空気中の成分で生成する。

 

「実質、無限の弾数だ」

 

これは骨が折れる相手だな。

防げないなら進んでいって切り裂くしか道は無い。

死ななかったら見逃すけどな。

 

「切り裂いて絶命させられるならやってみろ」

 

そう言って駆けていく。

相手が横に振るう。

腹が斬られてしまう。

 

「あと二歩……」

 

そう言ってさらに踏み出す。

間合いまでは秒読み。

縦にティア・ハリベルは振るう。

それを防ぐも鼻すじにかけて切り裂かれた。

 

「あと一歩……」

 

笑みを浮かべて踏み込む。

相手は水の斬撃を斜めに放つ。

其れで血飛沫を浴びていく。

 

「これで追いついた」

 

その言葉と同時に斜めの斬撃を放つ。

回避するために後ろに飛びのくが無意味。

それよりも速く鋭い一撃が切り裂いていく。

 

「二撃目を振るう必要があるか?」

 

そう言って見降ろす。

崩れ落ちて荒く息を吐いている。

明らかにこちらが傷だらけなのに。

其れなのに自分が崩れ落ちているのが理解できないのだろう。

表情に驚愕の色が滲んでいる。

 

「そっちは終わりました?」

 

振り向くとまだ相手が粘っていた。

卍解もしていない。

地力の差があるのだろう。

 

「まだやで、ゆっくりしとけや」

 

余裕が見て取れるひよ里さん。

三人の連携をいなしていく。

大柄な奴を転ばせて膝蹴りを叩き込んだ。

 

「手伝いましょうか?」

 

そう言って向かおうとすると足を掴まれていた。

ティア・ハリベルが俺の足を支えに立ち上がってきた。

 

「『刀剣開放』をしないといけないとはな」

 

霊圧が上がっていく。

しかし、それを止める声が響いた。

 

「そこまではいらないよ、ハリベル」

 

その声の主は藍染だった。

首領がさらいに来ていた。

予想はしていたが、さらに付き人に上位を用意する当たり、遊び心がないな。

当然と言えば当然ではあるが。

 

後ろには井上さんを従えている。

霊圧を感知すると日番谷隊長と松本副隊長の霊圧は減衰していない。

おおよそ、井上さんに治療をさせたのだろう。

こいつ相手にあの二人がかりで勝てるわけがないよな。

 

「帰って治療するとしよう」

 

まだ彼女たちの奥の手を見せる前にね。

そう言うと『黒腔』が開いていく。

 

「猿柿元副隊長……」

 

お強くなられたこと、壮健であること。

嬉しく思います。

そう、藍染は呟く。

 

「止まられへんとは不器用な奴やな、お前も」

 

今度は説得させてもらうわ。

刀も口も使ってな。

そう、ひよ里さんが言うと藍染は微笑む。

 

「待っていますよ」

 

斑鳩元隊長とお二人でかかってきてください。

そう返して、あいつは去っていった。

 

「人質に取られたんでしょうね」

 

正直、あいつがその気になれば俺とその傍に居るひよ里さん以外は悠々と倒せるだろう。

其れならば自分が犠牲になってでも救おうとしたのだろう。

 

「並の相手じゃなかったのかもしれんな」

 

殆どが重症とかの可能性もある。

減衰している奴らが居れば向かわないといけない。

 

「とにかく向かいましょう」

 

そう言って全員の所を確認。

すると全員、特に問題は無かった。

日番谷隊長と松本副隊長だけが直接の被害。

 

「やはり、思った通り脅しでもかけられたかもしれませんね」

 

ただ、これでは井上さんが自分の意思で行ったという事になる。

情報の整理もしなくてはならない。

そこから取り組まれる本格的な戦闘準備。

其れで一度撤退命令が発令される。

眠六號も対象に入るだろう。

 

「マユリが来たらごねると危ないからな」

 

そう考えれば従うしかない。

あの子の戦闘能力は高く自己防衛は可能だ。

しかし、それでも元は非戦闘の存在に該当する存在。

だからこそ撤退対象に入っている。

 

「お前がおれば別に眠六號に無理させずに済むやろ」

 

だから心配せんと帰って貰え。

別にあの子の事やからこの事件が解決したら、またふらっとこっちに現れるわ。

そう言われたので眠六號には説明をしよう。

 

そして今後は喜助と相談する必要がある。

この『空座町』を巻き込まない設備の開発。

『虚圏』への渡航手段。

 

「やる事盛りだくさんだな」

 

そう言って袖をまくり、気持ちを盛り上げて決戦の準備に力を貸そうと決意する。

まずは『虚圏』への玄関口である『黒腔』から俺はやるとしよう。

作業のため、ひよ里さんとはここで一度別れて浦原商店へ帰っていくのであった。




ハリベルすら瞬殺。
と言うよりは藍染いわく『10人束になっても自分に満たない』くらいなんですよね。
其れと同格なので傷は負っても、一対一の戦いにおいて負けはしないでしょう。
虚圏への渡航の後は二部主人公が動くのが主になります。

指摘などありましたらお願いします。

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