斑鳩さんはしばらく待機で英が主人公になります。
井上さんがさらわれてから二ヶ月後。
俺は帰っていかなかった斑鳩さんと浦原さんに呼ばれる。
どうやら救いに行く手筈が整ったのだろう。
「まるで夏の時と同じだ」
あの日と違うのは井上さんが居ない事。
少しばかり違う事に残念な気持ちが沸き起こる。
しかしそんな気持ちは一瞬で霧散させる。
何故ならば相手は強敵だから。
前回以上に気を引き締めないと死ぬだろう。
「あの蟷螂野郎を倒せれば良かったのに予定が一つ増えた」
薙刀を背負って背中を向ける。
俺をしばらくの間、鍛えてくれた人に。
「行ってきます」
その言葉に応えるように気配が立ち昇る。
その人は元気づけるようなトーンでこちらに返答をしてきた。
「骨は拾ってやるよ」
その人の名前は六車拳西。
『仮面の軍勢』と呼ばれる虚の力を事件によって身につけてしまった死神集団の一人。
実力も元隊長に恥じないもの。
三分の一に頼らずに戦って錬磨させてきた。
この数日の間に勝ったのは片手の指で事足りるほどだ。
「できれば藍染に一発かましてくれ」
拳西さんが無茶な注文を付けてくる。
前回は偽物とはいえ一撃で戦闘不能にまでされた。
其れよりは確実に強いであろう相手に一撃を入れられる程の余裕はない。
「やってみますよ」
其れでも多少は可能性が有るだろう。
俺はそうポジティブに考えて手を振った。
「浦原さん、居ますか?」
あれから数分ほど歩いて『浦原商店』に到着。
扉を開けると鉄斎さんが居た。
聞いてみると頷いて地下に通される。
「君も来たのか」
石田が既にそこには居た。
その近くには茶渡もいる。
後は黒崎だけだな。
どうやら夜一さんは今回は同伴しないらしい。
「むさい男どもだけかよ」
苦笑いをして頭を掻く。
確かにそれもそうだなと茶度が同意する。
石田は俺を窘めるが気持ちとしては内心思っているだろうに。
「悪い、遅くなった」
黒崎が到着。
そして役者が揃ったからか、浦原さんの説明が始まる。
前回以上に霊圧の制御で進んでいくらしい。
つまり失敗すれば足場が崩れてしまうという事。
そしてお決まりの失敗イコール死という条件付き。
もう少しまともな渡航方法は無理だったのか?
「まあ、普通にできてれば問題ないものですよ」
そうは言うが絶対にこの人は試していない。
なんとなくではあるが目を見たらわかる。
「目的はただ一つ、井上を取り戻す事だ」
黒崎が力強い言葉で目標を立てる。
お前、絶対それ以外に戦いで寄り道するだろうが。
俺も絶対にそうなると思っているし。
「無駄な戦いは控えないといけないね」
眼鏡をくいと上げて石田が言う。
なんやかんやで今回のストッパー役がこいつだからな。
「最短距離を走る場合の交戦はその限りではないと思う」
茶渡がそう言うと石田もそれは例外だと呟く。
これで方針は決まった。
とは言ってもすぐに撤回する事になるだろう。
敵を引き付けてしまうし注目を浴びやすい。
俺達はそういう星の元に生まれているような奴らだからだ。
「それじゃあ、皆さん頑張ってくださいね」
浦原さんが装置を動かして遂に道がつながる。
後は真っ直ぐに進んでいくだけ。
「行こうぜ!!」
黒崎の言葉を合図に全員で渡っていく。
途中で足場が不安定になるものの問題なく進んでいる。
徐々に虚の瘴気のようなものが濃くなっている。
「嫌な雰囲気だぜ」
じっとりとした汗が伝う。
敵の出迎えはあるのだろうか?
もしそうだとしたらきっとこの気配からして相手は並の奴ではない。
「呑まれるんじゃないぞ」
茶渡に支えられそうになる。
大丈夫だよ。
まだ始まってもいないのにリタイアするもんか。
「おい、出口だぞ!!」
黒崎の言葉に反応すると開けた空間に全員が同時に出た。
しかし理解できたのはここが全然目的地ではないという事。
砂漠のど真ん中。
夜のように暗い空。
そして石英で出来たような植物。
「面白いものもありそうだが早く終わらせようぜ」
大きい場所に入るなりすれば情報は手に入るだろう。
そう思って俺は提案した。
しかし次に聞こえてきたのは三人とは全く違う声だった。
「そう言わずもう少し休憩していきな」
この声は忘れていない。
完全に運がこいつに振りむいたのだろう。
ここで無理には戦えない。
「蟷螂野郎……」
黒崎達をジェスチャーで先に行くように促す。
それを受け取って駆けだそうとするが……
「誰が逃げていいって言ったよ!!」
相手が黒崎達に向かって攻撃をしてくる。
その刀の攻撃に反応した俺はすぐさま行動に移す。
ゆらりと動いてその攻撃の鬼道に通せんぼをする。
「誰が追いかけて良いと言ったんだ?」
俺がその一撃を掴んで睨み付ける。
前回は薙刀で受け止めていた。
其れから考えると随分な進歩だ。
突入の一戦目がまさかの仇。
寄り道が始めならもう意味が違うんじゃないのかと訝しむ。
決着のつかなかった空座町での戦い。
其れと過去の清算。
大きな戦いに身を投じるのであった。
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「彼の目的の一つに出合い頭で遭遇するとは……」
僕がそう呟くと、黒崎はよく分かっていないという顔をしていた。
多分、彼は皆には教えていなかったのだろう。
僕と同じで虚を狩る。
同じようなものだと彼に僕は言った事が有る。
それは虚が憎い事と使命感。
彼に関しては憎しみの方が多かったようだが。
それで僕は感じ取っていた。
「きっと彼も虚に大事な人を奪われている」
そしてその仇が事もあろうに目の前に現れた相手。
強大な奴だというのは肌で分かった。
そう伝えると黒崎は振り返る。
その仕草に対して茶渡君が肩を掴んでいた。
「駄目だ、一護」
茶渡君は英くんの覚悟を無駄にするなと黒崎に言う。
僕達が最終的に井上さんを助けられればいい。
其れの為にあそこで引き受けたのだから。
「彼の為にも行こう」
歩みを止める事はしない。
振り返る事もしない。
必ず彼は生きて合流するだろう。
あの時、朽木さんを救う為に僕たちを逃がしたように。
まずは最寄りの大きな建物に向かって走るのであった。
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「ふんっ!!」
俺は拳を相手の顔面に叩き込む。
鋼の質感が有れど衝撃は無効化できないだろう。
僅かに揺れはするがこちらを睨み付けてくる。
「そんなもん、俺には喰らわねえんだよ!!」
相手が風を切るほどの蹴りを放ってくるがそれを俺は回避。
そして回避した俺の動きを見た相手は回避先に視線を向ける。
逃げ道に向かって先回りをするように刀の一撃を続けて放ってくる。
「無駄だぜ!!」
しかしその攻撃にも俺は冷静でいられた。
印象としてあまりにも油断が過ぎるというか……。
当たらなければ隙ができる大振りの攻撃だな。
そう感じた俺は薙刀を使って受け止める。
「かっ!!」
そして受け止めた状態から反転させて石突で相手の顎を跳ね上げた。
相手が膝から崩れ落ちるのを確認した瞬間、俺は解放をして突き刺しにいった。
「『剣道三倍段の枷』」
脳天を突き刺されたら致命傷になるだろう。
しかし首の動かし方で避けられてしまう。
ならば動かせない場所。
「それはここだ」
相手はその殺気を感じ取って一気に体を捻る。
鞭を打った所でそれほど仰々しくは動けない。
俺の一撃は中心を狙ったもの。
僅かに逸れはしたが相手の『首』、それも喉に僅かながら刺さっていた。
「がっ……」
出血の量は少ないものの呼吸の苦しさは有るだろう。
その二つを両立させたくて放った一撃だ。
やはり皮膚はそれ相応に硬いなと思わされる。
相手は膝をついたままこちらを憎しみの眼で睨んでくる。
「こんな日を待っていたぜ、お前を見下ろす日をな」
今まで家族が苦しめられた分を返してやる。
こいつをひどい目に合わせて苦しめてやりたい。
できる事ならば残酷な結末を。
その思いで心を満たしながら薙刀を突きつけて、俺は睨み返してやるのであった。
到着と同時に開戦。
ノイトラとの勝負が無かったら更木はどこで見せ場作るのって話になります。
そこは少しばかり考えながら解決していきます。
指摘などありましたらお願いします。